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2010.11.10
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『抱擁家族』小島信夫(講談社文芸文庫)

 この筆者も、わたくし、今まであまり読んだことがありません。
 昔、芥川賞受賞作を次々と読んでいた時期があって(えらいもので、そんな全集があるんですね。割とみんな考えることは一緒なんですね。)、その時、『アメリカン・スクール』という短編小説を読みました。

 『アメリカン・スクール』が芥川賞を受賞した頃というのは、「第三の新人」といわれる作家達が本当に次々と受賞をしていた時期で、今こうして振り返ってみると、なんかあまりに「芸がない」みたいな感じを持ってしまうのは、私のわがままでしょーかー。

 と言う風に『芥川賞全集』を高校生の頃に読んで、その後長くこの筆者の本を読まなかったのですが(あ、思い出しました。何だかやたらに分厚い作家評伝みたいな本を読みましたよ、確か。)、ともあれ久しぶりに冒頭の小説を読んだんですが、はっきり言ってヒジョーにしんどかったです、私には。

 この「しんどさ」の正体は、まず文章ですね。
 なぜこんなかさかさの紙のような文体なのか、それは読み始めから、結局最後まで、私にとっては一貫してそうでした。(読み始めはそうでも、作品世界に入っていくとその文体がきっちりと当て嵌まっていくという経験は何度もしているんですがねー。)

 しかしここまで索漠たる文章が続くと言うことは、やはりそこに筆者の意図があると考えられるわけで、私の好悪はともかく、確かにこの「索漠さ」に見合う状況や展開に満ちあふれた作品でありました。

 それは、まず主人公の夫婦関係がそうです。
 時代は、昭和30年あたりでしょう。子供も二人いる中年の夫婦ですが、私はどうにもこの夫婦関係にリアリティを感じることが出来なかったんですが(もちろんいつの時代でも、夫婦関係というものは、しょせん当人達以外には分かりづらいものがあるのでしょうが)、この時代、日本のインテリゲンチャでちょっとしたブルジョワジーの夫婦間には、こんなリベラルな夫婦関係というか、ほとんど「フリーセックス」を信奉するような風潮があったんでしょうか。

 そのくせ、夫は本心ではそんな性の自由さ(特に妻の側の自由さ)などを認めるつもりはまるでなく、その結果、自己撞着したインテリゲンチャの滑稽な姿が無様に描かれるという展開になっています。
 まー、そんな内容は、「索漠たる」文章にはとてもマッチしているわけではありますね。

 結局この関係は、かつての日本家族の間に、基本的モラルとしてあった家父長権威が完璧に崩壊しつつも、新しいモラルがいまだ表れていない状況、つまり結果的に「家父長=夫」の行動が、喜劇に落ちぶれていかざるを得ない状況を描いているのでしょう。

 医者から、妻の身体の致命的な癌転移を宣告された夫が、家に帰り妻とわざとたわいない話しをした後、自分の部屋に入って嗚咽を堪えていると、目の前のテーブルに小さな水たまりがあります。一瞬、我が涙? と思うのですが、それは新築の家に雨漏りがしていたというエピソード。

 こんな苦いファルスは、現在では表現としてのパワーをかなり失っていると考えるのは、私の穿ちすぎでしょうか。
 うーん、そんな気もしないわけではありませんがねー。

 結局私はこの小説に対して残念ながら最後まで「違和感」を取り去ることができませんでした。(この小説は谷崎賞受賞作であり、筆者の代表作の一つと評価されているもので、そんなことを知ると、きっと私の理解力に問題があるんだろうなーとは思いつつ。)

 それは文体のせいばかりではなく、上記には主人公の夫婦関係に対して全く感情移入ができないからかと触れましたが、そもそも登場人物のすべてにおいて、他者との関わり方や、ものの考え方が、他人に対するシンパシー皆無の、極めてエゴイスティックなものであるせいであります。

 他人のことを考えることがここまで欠落している人間関係、これが多分私の「違和感」の中心であり、決定的に作品に感情移入が出来ない原因であるかと思います。
 しかし変な感じ方ですが、エライもので、感情移入が出来ない小説というものは、ここまで砂を噛むように「面白くない」ものなんですねー。
 (再三述べますが、これはあくまで私のごく個人的な感覚を述べたものであります。)

 読み終えて私は、タイトルの『抱擁家族』のアイロニーとは、何と禍々しいものであろうかと、少しぞっとするほどでした。これはほとんど「グロテスク」な命名ではないでしょうか。

 結局これは、戦後10年を過ぎて、未だ日本人の人間関係が未成熟であることを表しているのでしょう。
 しかし同時に、こんなテーマをも、自らの傷口に塩を擦り付けるようにしながら描かねばならない小説家の「業」のようなものに、私はとても厳しいものを感じるのでありました。


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Last updated  2010.11.10 06:51:00コメント(0) | コメントを書く
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Comments

シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21) 純文さんへ  あたたかいお返事ありがとう…
analog純文 @ Re[1]:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  シマクマ君さんへ。  おや、思わぬお方…
シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  いつも読ませていただいてます。あのせ…
analog純文 @ Re[3]:無理筋仮定を考えてみる(12/28)  七詩さんへ、重ねてのコメントありがと…
七詩 @ Re[2]:無理筋仮定を考えてみる(12/28) analog純文さんへ 私もときどき読書日記を…

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