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2011.09.24
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『パノラマ島奇談』江戸川乱歩(春陽文庫)

 「テーマ・パーク」ってのは、もちろん今でも人気なんですよね。
 ただ、かなり人気が偏っているんですかね。関東平野にある大きい所が一人勝ちだというのを聞いたことがありますが、関西地方居住者としましては、大阪の方のも頑張って欲しいものです。

 ところで「遊園地」という言い方は今でもするんですかね。「遊園地」と「テーマ・パーク」は、どこが違うんでしょう。
 こだわりの方々にとっては、両者はまるで別物なんでしょうか。そしてそうだとしますと、今回報告する「パノラマ島」というのは、きっと「テーマパーク」の方でしょうね。それも、1927年(昭和2年)に発表されたという。

 先日、江戸川乱歩作品の想像力ということについて本ブログで触れまして、少しそのことが気になっていました。
 というのは、その時私は『パノラマ島奇談』に触れなかったからで、なぜ触れなかったかと言いますと、申し訳ないながら読んでいなかったからです。
 じゃあさらに、読んでいなかったのになぜ、この作品が乱歩の想像力の質に関係がありそうだと考えていたかと言いますと、たぶんお二方の先人の文章等を読んだからであります。

 一人は三島由紀夫。確か、谷崎潤一郎の作品との比較の中で、本作に触れていた文章を読んだような気がします。
 もう一人は、上記に「文章等」と書きましたが、手塚治虫の漫画に書かれていたのを私は読んだんですね。手塚治虫は、自作『鉄腕アトム』の「ロボットランドの巻」と、かなり昔ハリウッド映画にあった『ウエスト・ワールド』とを並べ、そして本作を重ねて、乱歩の先進性について述べていました。確かに、昭和2年ですものね。

 ということで、これは読まずにはおけまいと思いまして(まー、さほどでもないですけれど、この文庫本を以前買ったまま放ってあったことを思い出しましたもので)、読みました。
 やはり面白かったですね。さすが乱歩。この何とも歪な構成・内容が、いかにも乱歩ワールドでありました。

 上記に触れた「乱歩作品の想像力の質」というのは、現実にない物を描く想像力というテーマだったんですね。そして本作において乱歩は、大いに健闘していると私は思いました。
 いえ、ぱっと見は、とても安っぽいんです。まるで、場末の舞台の書き割りみたいなんです。ただ、私は二点について「さすが乱歩」と思ったんですね。

 一つはその描写のしつこさであります。粘着力。安っぽく芝居の書き割りのように見える描写であっても、次々にこれでもかこれでもかと差し出されますと、それがまるで脳内物質ドーパミンみたいな働きをして、「ランニング・ハイ」状態みたいになってくるんですねー、実にえらいもんです。
 (ついでに、乱歩の一見華麗さを欠いた無骨な文章が、まるで単調に繰り返される永久機関のように流れたゆたい、この脳内物質作用を増幅させるんですねー。)

 そしてもう一つの要素ですが、例えば乱歩はこんな描き方をしています。
 主人公の妻が初めてパノラマ島の中を案内され、驚き、感心し、見とれ、そして最後には激しい恐怖を覚えるという場面です。

そして、そのけしきそのものよりも、もっともっと彼女を震え上がらせたのは、この大グモの花火をも、彼女はいつかの経験のうちで見ていた、あれも、これも、すっかり二度めだという意識でした。

 こういう初見の景色であるはずのものを、以前にも見たように思う感覚は「既視感=デジャビュ」っていうんですよね。そしてこのデジャビュに伴う「違和感」。この使い方が、乱歩はとても上手だと私は感じました。
 本書には、表題作の他にも数作の短い小説が収録されていますが、その中にもこんな描写があります。

「アップク、チキリキ、アッパッパア……アッパッパア……」
 お下げをほこりでお化粧した女の子たちが、道のまん中に輪を作って歌っていた。アッパッパアアアア……という涙ぐましい旋律が、かすんだ春の空へのんびりと蒸発していった。


 この「アップク、チキリキ…」という旋律がまた、なんとも言えずノスタルジックですね。こういう、琴線にさっと触れるフレーズというのは、理論なしの気づいたもの勝ちという側面があって、なぜか心惹かれるという乱歩作品には、必ずこんな直感力が描写の中に宿っています。

 それにしても、パノラマ島の描写が、芝居の書き割りのようであるというのは、少し考えてみますに、それが人工物の描写であるからでしょうか。
 以前乱歩の想像力について触れたブログ記事で、並べて取り上げたのは、澁澤龍彦の描く貘の糞の描写、谷崎潤一郎の描く世にも奇妙な食べ物の味、そして太宰治描く竜宮城の風景でありました。

 これらは、まぁ一応は「人工物」らしくない物ですね(谷崎のは微妙ですが)。
 乱歩だけがなぜ人工物を描いたのでしょうか。
 もちろんそれは乱歩の嗜好によるものが大でしょうが(そもそも乱歩って玩具のような人工物嗜好ですよね)、少し穿って考えますと、乱歩の時代には自然物に対する人工物への信仰が広くあったような気がします。つまり、人類の文明に対する信頼が。

 ……だから、なんですかねー。
 何がって、現代に第二の乱歩が現れない理由であります。
 我々は既に、無邪気に文明信仰に浸るには、あまりに文明によって傷つけられています。文明に対する期待は、もはや我々は持ちようがありません。

 だとすれば乱歩のノスタルジィとはつまるところ、よき時代の人類文明への信仰の「裏返し」なのかも知れませんね。


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Last updated  2011.09.24 12:38:45
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