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2015.03.21
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カテゴリ: 昭和~・評論家

「『こころ』大人になれなかった先生」石原千秋(みすず書房)

 漱石についての本を読むのが好きです。
 そんなにたくさんは読んでいませんが、『源氏物語』について書いてある本を読むのも(ただし素人でも読める本に限りますが)、わりと好きです。へー、そんな風に読むのかーと思うようなことが結構一杯書かれてあるからです。
 そして一方で、そんな風に様々な読み方を可能にする漱石作品や『源氏物語』について、つくづく懐が深いなぁと感心します。

 今回の読書報告、冒頭本の筆者石原千秋氏でありますが、わたくし、今までに確か2.3冊くらい読ませていただきました。なかなか面白かったです。
 いえちょっと意地悪な言い方をすると「鬼面人を驚かす」ような作品の読み方が書いてあって、「うーん、そー読むかー」と驚くのが(あきれるのが?)、まぁ、面白いと言えば面白いんですね。

 実は本書にもそんな個所が結構あったりします。
 ただ、これも今回読んで知ったのですが、筆者はそういうことも承知の上で書いているらしい、と。
 前書きに「全体として、僕の読解にはややトリッキーな感じを受けるかもしれませんが、それは、僕が文学研究者は小説のテストパイロットのようなもので、小説の可能性を限界まで引き出すのが仕事の一つだと思っているからです。」とあります。

 ふーん、わかってやってるんやー、とも思いますし、きっと今までにいっぱい批判・批評されはったんやろなぁ、とも思います。
 文学研究も文芸評論もよく似たところがあって、学問的堅牢さと新しい見方の双方を常に要求されるんでしょうねぇ。

 ということで、本書の記述には少し首をひねるような部分もあったりします。
 例えば、こんな個所なんかは結構面白く、かつ少々わたくし首をひねりました。

 筆者は、『こころ』は「ほころび」の少なくない小説だと書き、三つの「ほころび」を挙げます。(ここに挙げている「ほころび」は、研究者の間では有名な「ほころび」みたいですね、私は寡聞にして初めて知りましたが。)
 その一つがこれです。

「先生から青年への手紙の数字が合わないこと。」

 そして、この「ほころび」をまずこういう風に説明しています。

青年は二十二章で、生前の先生からは二通しか手紙を貰っていないと書いています。一通は田舎に帰った青年からの手紙に対する簡単な返事で、もう一通は遺書です。ところが、この「日光へ行ったときは紅葉の葉を一枚封じ込めた郵便も貰った」という九章の記述が三通目の手紙の存在を明かしていることになって、二通しか貰わなかったという二十二章の記述と矛盾してしまうのです。

 どうですか。小説を読んでいて、こんな矛盾に出会ったら普通どう考えるでしょうね。
 私なんかはおのれが単純な頭の造りゆえ、「おっ、漱石、間違ってる」とちょっと嬉しそうに考えてしまいます。
 しかしそんな風に考えちゃ駄目だと、本書の筆者は別のところで説いています。

ただし、こういうほころびについて考えるときには、軽々しく「作者がまちがっている」と言ってしまわないことが大切です。「作者がまちがっている」と言うことは、それ以上の判断を停止することだからです。

 なるほどねぇ。
 というわけで筆者は「手紙の数字」ほころびについて、こんな風に解釈します。

この問題は長い間多くの研究者を悩ませてきましたが、この日光からの手紙を静だけからのものと考えれば、辻褄が合うのです。(略)とにかく数字の上ではこれが静だけからのものだと考えると矛盾は解消されるのです。そして、先生の生前に静が青年に手紙を出していたことは、青年と静との関係にある深さを与えます。

 繰り返しますが、どうですか。
 省略しましたが、本書には上記引用部で話題となっている九章の原文も取り上げられていますが、わたくしは申し訳ないながらそこを読んで、「……うーん、やっぱりそうは読めんやろー」と思ってしまいました。
 でも、そう読めば「面白い」ことも事実であります。上記の引用部にある「青年と静との関係にある深さを与えます」(「静」というのは「先生」の奥さんのことですね)というのは確かだと思います。

 ……えーっと、こんな「解釈」が結構一杯詰まっている本です。
 こういう「解釈」をいくつか読んでいると、よかれ悪しかれ「文学研究」とは何だろうと思ってしまいます。そしてその問は、煎じ詰めると「文学とは何か」という大きな問いかけに行き着くと思います。

 わたくしはこの度本書を読んで、遠い学生時代以来かと思い出せそうな、上記の問いかけをしばし考えました。それは、本当に久しぶりに心地よい思索時間でした。
 そんな本です。漱石作品も懐深く、石原氏の解釈も「トリッキー」で、とても面白かったです。私は一気に読んでしまいました。


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Last updated  2015.03.21 08:50:22コメント(0) | コメントを書く
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Comments

シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21) 純文さんへ  あたたかいお返事ありがとう…
analog純文 @ Re[1]:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  シマクマ君さんへ。  おや、思わぬお方…
シマクマ君 @ Re:思っていたよりも「重く」ない(02/21)  いつも読ませていただいてます。あのせ…
analog純文 @ Re[3]:無理筋仮定を考えてみる(12/28)  七詩さんへ、重ねてのコメントありがと…
七詩 @ Re[2]:無理筋仮定を考えてみる(12/28) analog純文さんへ 私もときどき読書日記を…

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