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2017.07.12
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カテゴリ: 昭和期・後半男性

『旅のラゴス』筒井康隆(新潮文庫)

 じわじわととっても人気の小説であるらしい、とどこでだったか聞きました。
 なるほど、アマゾンのレビューの数を見ますと、他の筒井作品のレビュー数より完全に頭一つ飛び抜けて多いですね。こんな数値になっています。

『旅のラゴス』→169    『パプリカ』→44
  『家族八景』→70      『ビアンカ・オーバースタディ』→67
  『時をかける少女』→72   『ロートレック荘殺人事件』→74


 筒井作品の中からレビュー数の多いのを挙げてみましたが(これ以外のレビュー数はだいたい10~20くらいです)、第2位の『ロートレック~』をダブルスコアに、さらに上回っています。すごいですね。
 レビュー数が多いということはやはり人気のある作品ということですよね。でも、なぜこんなに人気なんでしょうか。

 私も一読すぐに、とても筒井作品とは思えぬ落ち着いた涼やかな展開と文体(描写)であることに驚きました。
 この筆者はこんな作品も書けるのだと、少々失礼ながら呆れるように感じたんですね。

 だって筒井康隆といえばスラップスティックが自他共に認める(とたぶん思うのですが)売り物じゃないですか。
 筒井作品といえばこれ、とも言えるどこかキレた人物が今回は登場してきません。
 また、筒井作品に様々に見え隠れしつつ漂っている「下品さ」が感じられません。
 これは何? 筆者のキャリアの中のそんな特殊な時期なの? それとも時代の影響?

 と思いながらちょこちょこと調べてみました。まず筆者のキャリアです。
 本作は1986年に作られた作品ですが、本作の前後十年ほどは筆者絶好調の時期ではありませんか。まさに筆者を華々しく現代日本文学の最前線に一気呵成に祭り上げたような作品群が、立て続けに書かれた時期です。少し年譜を追ってみますとこんな感じ。

1975年(41歳)『大いなる助走』
1978年(44歳)『虚人たち』
1984年(50歳)『虚航船団』
1987年(53歳)『夢の木坂分岐点』
1989年(55歳)『残像に口紅を』
1992年(58歳)『朝のガスパール』


 ……うーん、どうですか。ほれぼれしてしまう名作意欲作問題作の山脈ではありませんか。
 筆者の年齢も働き盛り、筆の一番乗ってくる40~50代で、火山の噴火の如く次から次へ駈け上がる充実した仕事ぶりが見事であります。
 しかしこうして前後の作品を列挙して見比べますと、むしろ本作は、地味で目立たないちょっとインターバルめいた作品のように感じてしまいそうですよね。……ふーむ。

 (閑話ながら、このほとんど直後に筆者に大きな人生上の試練が訪れるんですよねー。1993年から3年間に及んだ「断筆宣言」、まさに「好事魔多し」の言葉通りでありました。)

 などと思いながら、もう一度本作の読後感想を丁寧に振り返ってみますと、どうもかつて同じような感覚をした「何か」に思い至りました。その「何か」とは何だったのか。
 少し考えましたが思い出しました。

 パソコンのRPGゲームです。
 そんなに「嵌った」というほどではありませんが、かつて私も、一応人並みにそんなゲームを経験しました。あれはいつ頃のことであったか……。
 ……わかりました。

1986年『ドラゴンクエスト』第一作発売
 1987年『ファイナルファンタジー』第一作発売


 ど真ん中にこの時代ではありませんか。そして確かに『旅のラゴス』の読後感は、上質のRPGゲームをクリアしたときの満足感に近いものがあると感じます。
 ……うーん、これだったのか。……。

 さて冒頭に書いた本小説の人気ですが、さらに詳しく調べますと、どうも男性に人気だといいます。なるほど、さもありなん。

 RPGゲーム感覚、ロードムービー的展開、(『フーテンの寅さん』イメージでもいいですね)そして主人公が様々な困難を経験して成長していく様は、本書をビルドゥングスロマン(教養小説)として読むことも可能にし、それはまさしく男性に人気の小説の王道であります。

 実は私はかつて、井伏鱒二の小説を読んだときに考えたことですが、日本には成人男性がしっかり読める小説がないのではないか、と。(井伏作品はそうであるという論旨ですね。)
 だから仕方なく(「仕方なく」は失礼ですが)、成人男性は時代小説を読むのだと、そんな分析したことがありました。

 というわけで本書はうわさ通り、男性読者の一番人気小説です。
 なるほど、とても面白かったです。


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Last updated  2017.07.12 15:43:49
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