近代日本文学史メジャーのマイナー

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2019.12.17
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カテゴリ: 昭和~・評論家
『太宰と井伏―ふたつの戦後』加藤典洋(講談社文芸文庫)

 この筆者の評論は、少し前に確か村上春樹について書かれたものを読んだことがありますが、たぶんそれだけで、私にとってはほぼ初めて読む作家です。

 というのも、この筆者って、文芸評論というより現代思想系っぽい方ですよね。
 その方面の読書実績も知識もほぼ皆無の私としては、ちょっと避けてきたとろがあります。
 だって、基本的に頭の作りがアバウトな私は、本当に、現代思想系の本って何が書いてあるのかさっぱりわからず、いやー、困ったものです。
 いえ、別に居直っているわけではなく(はっきり言いますと、この年になった今は少し居直っていますがー)、本心には忸怩たるものがありながら、でもそんなところで躓いていたら先に進めませんからごめんなさいと、まー、生きているわけですね。

 というわけでこの筆者の作品については、わたくしほぼ初読書でありますが、そもそもそんなに長い評論でもなく(200ページほどです)、筆者も、何といいますか、ここは私の主戦場ではないという感覚が何となく感じられるようで、割と楽しく読めました。

 あれこれ書いてありましたが、中心テーマは、第二次大戦を挟んだ前後の太宰治の自己破壊の根本原因が、それぞれ別々のものであるということでしょうか。
 なるほど、言われてみれば確かにそんな気もします。太宰本人の年齢も違えば、取り巻く環境も大きく異なっているのですから。

 ではどう違うのかという事を、以下に簡単にまとめようと思ったのですが、……うーん、ちょっと不安。
 私の以下のまとめが正しいまとめになっているのか不安なんですね。ま、しかし、たぶんざっくりそんなものだろうくらいの感じで、よろしくお願いします。すみません。

 まず、戦前の太宰治の破滅的な生き方の根本にあったのは、生家への複雑な愛憎関係を含む、自分がブルジョワジーである事の後ろめたさによる自己処罰、とかなりシンプルにまとめてみます。

 そして戦後の太宰については、その時期を二つに分けます。
 第一期は、『ヴィヨンの妻』や『斜陽』などに見られる「生きていればいい」という、これは、いわば戦中期の明るい太宰作品の一種の発展形で、戦中期ほどではなくてもそこには確かな「生への肯定」があります。

 最後の第二期。ここに至って『家庭の幸福』『桜桃』『人間失格』などに見られる、「生」の否定が再び現れます。これが戦後の太宰の自己処罰衝動を描くものであり、その延長上に太宰の自殺があると分析されています。

 と、こんな感じになりましたが、大体よろしいでしょうか。
 さて、そこで筆者の独創としてあるのは、戦後の第一期と第二期の分かれ目の分析です。何が原因でそうなったのか。

 それは、戦前の太宰に即しながら別の言い方をすれば、戦後の太宰は何に対して「後ろめたさ」を持つようになったのかという事で、この筆者の分析が二段構えになっていて、本評論の一番のサビの部分です。

 まず一段目にあるものを、筆者は、この戦争で亡くなった人々への「後ろめたさ」と捉えます。(ここで実は三島由紀夫がちらりと姿を現すのですが、読んでいた私もやはり連想しました。)
 そして二段目にあるもの、これが文学上の師である井伏鱒二が絡んでくる少々複雑な所なのですが、中心の部分だけを取り上げると、最初の妻であった小山初代に対する「後ろめたさ」が、太宰を再び捉え始めたのではないかという独創で、ここが一番面白い所です。

 ここで小山初代が出てくるのは一見かなりアクロバティックな分析のように見えますが、本書をしっかり読んでいくと、それなりの説得力があります。
 ただ、別に太宰治についての伝記めいたものを読んでみると、さほど観念中心に自殺への道のりがあったとはやはり思えません。

 太宰の被害妄想的な資質は、二人目の妻の津島美知子も指摘しています。確か坂口安吾は、長期にわたる飲酒の害を指摘していたように思います。
 そんな、日常生活全体に広くそして奥深く現れる太宰の不安定な精神状態は、自殺原因としてはかなり重要な要素だと思います。

 しかし筆者が述べたかったのは、大きな戦争期を経験した太宰の文学精神が、病的な部分を含みながらも、それをどう捉えどう深めていこうとしたかの過程ではなかったかと思います。そしてそれは、読み終えてとても共感できるものとなっています。(またこれこそが、筆者加藤典洋の「主戦場」に関連する部分であったはずです。)


 このように書いた筆者には、あたかも戦中期の太宰作品に見られる太陽に向かって顔を向けているような、人懐こく明るくほほ笑む太宰の姿が、その先に見えていたのかもしれません。


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Last updated  2019.12.17 19:05:04
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analog純文 @ Re:「バイブス」「ペニー」「キャパい」「ガンダ」(08/08)  シマクマ君さん、コメントありがとうご…
シマクマ君 @ Re:「バイブス」「ペニー」「キャパい」「ガンダ」(08/08)  ボクも読みました。結構素直な作品とい…
analog純文@ Re:主人公の心情がよくわからない(06/14)  シマクマさん、コメントありがとうござ…
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