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2013.03.23
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カテゴリ: 読書案内
【尾崎翠/無風帯から】
20130323

◆奇異で幻想的で、独特な世界観の広がる少女小説

少女小説と言えば、明るくポップで読後は爽やかな気分をもたらすものだと思っていた。

私が中学生のころは、主に、氷室冴子、新井素子、久美沙織あたりが女子たちに愛読されていたような記憶がある。
海外小説にどっぷり浸かっていたような私でも、『赤毛のアン』とか『若草物語』に胸を躍らせていたものだ。
年を経て、大正とか昭和初期の少女小説に興味を抱き、手に取ったのが尾崎翠だった。これが少女小説なのかと思って読むと、痛い目を見る。何なんだろう、この渇いた感触は。
兄と妹と兄の友人が主な登場人物だが、その関係性に極めて淡白な感情しか見受けられない。テンションがずっと同じで、盛り上がりがない代わりに盛り下がりもなく、始終淡々と話が進んでいく。
尾崎翠の他の作品もあれこれ読んでみた。と言っても、生涯に残した作品が少ないので、数は知れているが。
どことなく感じられるのは、ドイツ文学の影響だ。さしあたりホフマンなど愛読したのではなかろうか?(幻想作家として名高いホフマンの小説は、岩波文庫から出ている。池内紀・訳)
さらに興味ついでに尾崎翠の健康状態も調べてみた。
年譜によると、若いころから頭痛持ちで、鎮静剤の飲みすぎで体調を壊している。幻覚症状も現れたりして、ちょっと精神に異常も来していたようだ。


幻覚症状に苛まれながらの執筆だったと思われるが、読む人が読めば、その鬼才ぶりに圧巻なのだろう。

『無風帯から』の話はこうだ。
光子の兄が友人Mにつらつらと書いた手紙形式になっている。
光子とは兄妹の関係でありながら、なんと異母妹であることに少なからずショックを受ける。
光子は、兄が高熱と右肩関節の激痛で身体が思うようにならない時も、甲斐甲斐しく介護してくれる優しい妹である。
そんな中、見舞いに来てくれた兄の友人Mに対して、光子はどうやら好意を持っているようだ。
兄として、不憫な光子には幸せになってもらいたいから、Mの光子に対する気持ちもあるかとは思うが、受け入れてやって欲しい、という内容になっている。

こんなふうに端折ってあらすじを書くと、何やら兄妹の固い絆を見せつけられるような想像を巡らせてしまうかもしれない。
だが全然違う。もっと夢想的で、非現実的だ。そして分からないなりに文学として惹きつけられるのだ。
この『無風帯から』は、当時「新潮」に掲載されたのだが、そのことにより在学していた日本女子大学から問題視され、結果、退学となってしまう。
尾崎翠の作品の多くに共通するのは病気の影だが、そのわりに暗いばかりにはなっていない。幻想的で、現実と非現実をゆるやかに交錯した独特の世界観が広がる。


『無風帯から』尾崎翠・著

20130124aisatsu


☆次回(読書案内No.54)は三上延の『ビブリア古書堂の事件手帖』を予定しています。


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最終更新日  2013.03.23 06:25:33
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