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2023.06.17
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カテゴリ: 読書案内
【川北稔/8050問題の深層「限界家族」をどう救うか】


「限界家族」という言葉を知ったのはつい最近のことだ。福祉系の仕事に就いている息子から聞いたのだ。「限界集落」という言葉は知っていたけれど「限界家族」という言葉は聞き慣れないものだった。しかもその響きは何やらリスキーで深刻さが滲んでいる。とりあえずどんなことなのか知りたいと、書店で手に取ったのがこの本だった。『8050問題の深層「限界家族」をどう救うか』という新書である。

まずは8050問題(はちまるごーまるもんだい)とは何ぞや?・・・から紐解いていかねばならない。端的に言えば、80代の高齢の親が50代の子どもの面倒をみる、という世帯の抱える問題のことだ。
※ここで言う50代の子どもというのは、無職あるいはひきこもり状態にある子どものことである。
正直なところ私はこの新書をめくっていくにつれ、震えが止まらなくなった。これは正に、私と同世代とその親世代の問題だと確信したからだ。
今でこそ付き合いが途絶えてはいるが、私の友人の一人が同じ苦悩を抱えていた。当時まだ20代だったころ、彼女(K美さん)にはひきこもり状態にある弟について、ずいぶんと神経をすり減らしていたのだ。
K美さん自身は聡明で公立大を卒業していて、就職先にも恵まれ、フツーに生活するには不自由のない暮らしをしていた。
一方、弟の方は確か、高校は中退してしまったが、どうにか飲食店に就職が決まった。だがその後すぐに辞めてしまったと聞いた覚えがある。どうやら人間関係に躓いたらしい。
K美さんは姉として出来る限りのことはしたと思う。行政の窓口にも相談に出かけ、NPOの家族会にも足を運んだと言っていた。藁にもすがる思いだっただろう。だが、結果は惨憺たるものだったと。
あれから30年近く月日が流れるが、K美さんの弟が社会復帰したかどうかは不明である。そして、もしいまだに当時の状況が継続中だとするならば、50代に突入したひきこもりの彼と、80代の両親が同じ屋根の下で暮らすという図式になるわけだ。正に、リアルタイムの8050問題ここにあり、である。


昔は「慌てずにゆっくり見守ってあげましょう」的な暗黙のルールがあった。だが最近ではだいぶ変わって来ている。というのも、ひきこもりの背景に軽度の知的障害や学習障害などが関係していることがわかり始めたからだ。
自閉症の一つでもあるアスペルガー症候群という社会的なコミュニケーションの困難などを特徴とするものは、知的発達の遅れや言葉の発達の遅れを伴わないため、この障害をスルーしてしまいがちなのだ。そのためそれに気付かず「生きづらさ」を感じたままひきこもっている人たちが、何百、何千人といるらしい。
とは言え、ひきこもりの原因がアスペルガーだったとわかったところで、50代に突入した今になってどうしろと言うのか⁈ というのが当事者のホンネに違いない。
その一方で、50代の子どもを支える80代の親世代にも何かしらの問題がありそうだ。つまり、精神医療を受けることの偏見が問題解決を遅らせる要因となっているのだ。そして最終的に老いて両親が亡くなると、一人取り残された本人の兄弟姉妹が慌てて医療機関なり行政窓口を訪れることになるというパターンが少なくないらしい。
とは言え、暴力や自殺行為などが起こっていないことを理由に問題が先延ばしになっていることはやむを得ないと言えるかもしれない。(果たしてそれが正しいかどうかは別として)
ひきこもる人への支援には長期的な関わりが必要となるため、そう易々と片手間に出来ることではないからだ。

65歳以上のお年寄りが半数を超える集落を「限界集落」と呼ぶようになって久しい。急激に進む高齢化社会の中で、共倒れ寸前の「限界家族」を内包する問題は深刻である。
昔はよく「共依存」という言葉が使われ、お互いを過剰に干渉する状態のことを言ったものだ。それが自立を妨げるからと、半ば批判的な意味合いが含まれていた。
本書によれば、最近の考え方としては、「依存先を増やす」という自立支援にシフトしているようだ。依存先が家族限定にならないよう家族以外の依存先を増やし、社会からの孤立を防ぐという方法だ。

8050問題を今日・明日にでも解決するという具体策はなく、支援にも決まった答えはない。周囲にそう言う事例はないからと、目を背けてばかりはいられない。私の場合、たまたま息子が福祉系の仕事に就いたことで、日本の社会福祉制度には諸問題が山積みとなっていることを知った。
『8050問題の深層』は、現代日本において社会的孤立が決して他人事ではないと警鐘を鳴らす。ひきこもる人とその家族に対する支援のアプローチが掲載されているので、一つの例としてそれらを読むだけでも支援制度のあり方を知ることができる。

(了)

『8050問題の深層「限界家族」をどう救うか』川北 稔・著 NHK出版新書


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最終更新日  2023.06.20 08:37:55
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