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2023.07.08
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カテゴリ: 読書案内
【 朝井リョウ / 何者 】

きっかけは息子の本棚をのぞいたときだ。どれもこれも私の読んだことのない小説で、何となく好奇心から感想を聞いてしまったのだ。
とくに朝井リョウの『何者』は直木賞受賞作とカバーにうたっていて、それほどの話題作となったとは今の今まで知らなかったからだ。
「俺、読んでねーし。代わりに読んで、あらすじだけ教えて」
息子の大学時代、書店で何気なく手に取り、買ったのはいいが、結局読まずじまいで今に至るとのことだった。
中をペラペラめくってみると、確かに新品のままで、読んだ形跡ナシ!
これでは直木賞受賞作が気の毒だと思い、一読してみた。

あらすじはこうだ。
御山大学の拓人と光太郎はルームシェアをしている。
控えめでどこか傍観者的な拓人に対し、光太郎は明るく社交的で人気者。

留学から帰国した瑞月は光太郎の元カノだが、いまだに光太郎のことが忘れられない。
そんな瑞月の健気な様子を見ている拓人は、実は密かに瑞月に想いを寄せている。
拓人はもともとサークルで演劇をやっていたのだが、芝居で食べていくのは難しいためあっさり辞めた。
だが、拓人のサークル仲間であったギンジは一人でも劇団を立ち上げ、脚本を書き、皆と同じような就活はしていない。
その様子をどこか冷めた目で見ている拓人。
拓人と光太郎の住むアパートに、瑞月の友人である理香がカレシの隆良とルームシェアをしていて、そこに度々皆が集まって就活の情報交換をしていた。
だが、隆良だけは皆と一線を画し、持論を繰り広げるのだった。

著者の朝井リョウは平成元年生まれの早大卒。
『桐島、部活やめるってよ』で、すばる新人賞を受賞し、文壇デビューを果たしている。
本作『何者』では直木賞を受賞し、映画化もされ、飛ぶ鳥を落とす勢いのある作家だ。

着目すべきは、登場人物らが本心とは裏腹に、いかに充実した生活を送っているかというさりげない自慢話をTwitterにあげていることだ。

そこには妬みや憎しみ、漠然とした将来への不安がうかがい知れる。
この手の小説は、昔、似たようなものがジュニア向けの小説にあったような気がする。もちろん素材は違うが、時代が変わるとこんなにも話題性のある作品になるものなのか。

「誰かがあなたの悪口を陰でコソコソ言っているのを想像してごらんなさい。あなたはどんな気持ちがしますか?」
と言うようなイジメ対策の啓蒙書にもあったけれど、この作品はそういう類とも少し違うような気がする。
若い世代の想像力の欠如を非難しているわけでもなさそうだ。

私としてはテーマうんぬんより、ざっくりと若い人向けだと言い逃れしたいところだが、この作品に青春小説のような清々しさや甘酸っぱさは一切見受けられない。
むしろ現実のエグいものを突き付けられた気分だ。
しかも女子がとくに怖い。本当に怖い。
主要キャラである瑞月と理香は、それぞれ海外留学の経験があるのだが、作者の悪意さえ感じられるほどに魅力を感じることができない。(つまり、共鳴できない)
開き直って、ホンネとタテマエの垣根を取っ払い、言って良いこと悪いこと考えなしで、誰かに向けて言葉で叩きつける。あの戦意はムチャクチャだ。
いやもしかして、自分を磨くと言うのはこう言うことなのか?
表現するとはこう言うことなのか?
アメリカナイズとはこう言うことなのか?

一体、何者に向けての表現かは分からないが、「自己実現が人間にとって一番大切だ」と言う何者かに一石を投じる作品には違いない。
(了)

『何者』朝井リョウ・著 (第148回直木賞受賞作品)



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最終更新日  2023.07.08 08:00:12
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