2007年09月09日
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# 216



私たちとの関わりが深くなるごとに、生活の場を公園の外へと移しつつある子猫たち。

困惑する私たちをさらに揺さぶるかのように、台風の雨と風はしだいに強くなって行きました。









土曜の夜から吹き始めた風は徐々に激しくなり、

日曜は朝から雨が窓を打ち付けていました。


軒を流れる雨を見ながら、
私と まる は出かける気もなく部屋で過ごしていました。

「チビちゃんたち、大丈夫かな・・・。」

時折強くなる雨の音を聞いて まる が口を開きました。

「ちゃんと濡れない場所にいるかな。」

それは私も考えていたことでした。
こんなに強い横風と激しい雨では、少々の物陰では簡単に濡れてしまうのではないかと思えました。

アパートのベランダに置かれたエアコンの室外機の陰、公園の茂みの中、駐車場の車の下。
私の想像できる場所はそれくらいしか浮かびませんでしたが、しかし そもそも毎日ねぐらにしている場所も私たちには分からないので、きっと私の知らない安全な場所で身を潜めているのだろうと思い直しました。

何も風雨に耐えているのは 子猫たち だけではなく、他の 野良猫たち も同様に、そして今まで幾度となく雨や風、寒さや暑さをしのいできている訳ですから、そう簡単に台風の雨ぐらいでどうにかなることはないんじゃないかと考えたのです。

「大丈夫じゃないかなぁ。ちゃんと濡れない場所、見つけてると思うよ。」

私は まる に答えました。

「そうだといいけど・・・。」

まる の言葉を、私はそのまま頭の中でも繰り返しました。

大丈夫だとは思うけれど、親のいない小さな 子猫たち が初めて直面する自然の猛威。
排水溝の溜まった水に流されたり、打ち付ける雨に体温を奪われたり、そんなこともあるかも知れない。
そう考え出すと気持ちはどんどん不安になりました。


はっとするほどの大きな音で 雨が窓を打つたび、私たちは窓の方に目をやり 「大丈夫かな」 と繰り返しました。

「こんなに横から降ってると、隠れてても濡れてしまうよね・・・。」

まる の考えていることは分かっていました。

「台風がどっか行くまでの間だけ、連れてきて休ませてあげたいね。」

それは私も何度となく考えていたことでした。

もしうちに連れて来られたら、 子猫たち は雨に濡れることも激しい風の音に怯えることもなく
思う存分 ごはんを食べて、ゆっくり手足を伸ばして眠ることが出来るでしょう。

しかし私はそれが現実的なことだとは思えませんでした。

「連れて来ようと思っても、 クロちゃん はすぐ捕まえさせてくれると思うけど、
しっぽ と、特に くつした なんかは逃げちゃうんじゃないかな。」


「そうだね・・・。」

「もし くつした だけ残っちゃったら きっと隠れて出て来ないだろうし、
  そうなったら雨の中に一人で余計に可哀相だね・・・。」


「うん・・・。」

「それに、一度家の中のあったかい生活を知ると、今度 外の生活が余計に辛くなるよ。
  一回連れて来たら、あとずっと面倒見るつもりじゃないと・・・。」

 「ここはペット禁止だし、 1匹 だけならどうにか隠していられるかも知れないけど
3匹 ともは絶対無理だよね。そうしたらあの中で 1匹 だけなんて選べないよ。」


私は思いつくことを全部 口にしてみました。

それらは全部、 まる も分かっていることばかりだったので
同じ気持ちを私が代弁したに過ぎませんでした。


1匹 を選ぶということは、他の 2匹 が今以上に辛い思いをするということになります。

人懐っこくて甘えん坊の クロちゃん は手放しで可愛いと言えます。
毛並みの色も美しく、最近どんどんなれてきた しっぽ も可愛い。
しかし 警戒心を持ちながらも私たちを受け入れようとする意地らしい くつした もまた同様に可愛いのです。

1匹 だけを決めることは、あってはならないことのように思えました。

それは まる も同じでした。
分かってはいるけれど、 まる は 今何も出来ないこの状況をどうにかしたいという思いが
私より強かったのです。

まる は 頑張れば 3匹 とも隠して飼うことが出来るかも知れないと可能性を見出そうとしていましたが、逆に私はそんな危うい生活は続けるのが難しいと考えていました。


何より、私はそんな面倒は困ると思っていたのです。

正直なところ、
手一杯な自分の生活を犠牲にしてまで 子猫たち の面倒を見るつもりはありませんでしたし、
それがずっと続くことへの覚悟など到底出来そうにないと思えたのです。
私は、自分が まる ほどには 子猫たち に愛情を持っていないのだと知りました。

そう自覚すると、私の中で 子猫たち への心配はすーっと遠のき、たくましい 彼ら なら
どうにかしてこの台風を耐えるだろうと、あとは積極的な まる の言葉にも曖昧な答えを返して
その場をやり過ごすだけになりました。

私は冷めた思いで窓の外の雨を見ていました。



翌朝、

雨はすっかり上がり、台風一過の高い空が
まだ地面に残る水たまりを青く光らせていました。


自転車置き場の横にあった 子猫たち の糞の跡は雨に流されなくなっていました。

それを見て、私はもはや問題など何もなくなったかのように晴れ晴れしい気持ちになりました。



台風の激しい雨は、 子猫たち への私の気持ちも洗い流してしまったかのようでした。







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Last updated  2021年02月02日 18時20分22秒
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