《櫻井ジャーナル》

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2010.05.12
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カテゴリ: カテゴリ未分類
 トヨタ自動車の連結決算が良かったそうだ。今年3月期の売上高は前年度比7.7%減の18兆9509億円だったが、営業損益は4610億円の赤字から1475億円の黒字に転換したという。「厳しいコスト削減」で「体質改善は着実に進んでいる」と豊田章男社長は記者会見で言ったそうだが、要するに労働者や下請け企業からカネを搾り取っているというだけの話。トヨタは「死のダイエット」を実行しているのだということを認識すべきだ。

 日本の大企業に「技術力」はない。技術の開発、特に基礎技術の開発に経営陣がカネを出さないことが最大の原因だ。1970年代あたりまでは、アメリカで開発された技術を自社のエンジニアに改良させ、売っていた。決して日本のエンジニアに問題があるわけではない。エンジニアに研究させない経営者に問題があるのだ。7、8割の確率で商品化しろと言われれば、独創的な研究などできない。

 1980年代、日本の大企業は「株価操縦」を利用して資金を調達していた。つまり、株価を引き上げ、その相場水準で時価発行増資したり、転換社債を発行したりしたのだ。言わば、濡れ手で粟の錬金術である。その資金力で半導体業界は売り上げを伸ばしたが、その実態を見ると、技術力のいらない製品を薄利多売していただけの話だった。

 ここで思い出すのはソ連。この国も失敗が許されなかったようで、独創的な研究は少なかった。「成果主義」の先輩でもある。「成果主義」を導入すると、現場は高く評価される「成果」を求め、結果として表れにくい地道な活動は避けるようになる。その結果、組織は衰退していく。日本はソ連と同じ道を歩いているとしか思えない。

 これはトヨタに限った話でなく、日本の巨大メーカー共通の問題だが、このところ、現場のエンジニアや研究者が疲弊し、精神的に参って休まざるをえない人が少なくないらしい。すると、経営者は別の部署からエンジニアを出張させることで対応し、さらに現場は疲弊するという悪循環に陥っている。

 かつて、日本の製造業は優秀な「職人」によって支えられていた。本体だけでなく、下請け企業群の能力は日本を支えていたのである。ところが、現場では非正規の労働者が増えて技術の継承が困難になり、下請け企業も食いつぶされている。日本のメーカーは危機的な状況にあるのだが、経営陣に危機感は感じられない。

 メーカーの中には、インドや中国のエンジニアを採用して切り抜けようとしている会社もあるようだが、日本人の技術水準が下がれば、日本企業の生産開発能力を維持することが難しくなる。

 トヨタの体質を知るためには、1969年に起こった事故を考えるのが一番だろう。同社が開発したレーシング・カーがヤマハのテスト・コースで事故を起こし、ドライバーの福沢幸雄が死亡したのである。この事故でトヨタや警察の動きに不自然なものがあることは当時から指摘され、青木慧は『福沢幸雄事件』を、また黒井尚志は『レーサーの死』を書いている。事故の詳細に興味のある人には、これらの本を読んでもらうとして、ここではひとつだけ指摘しておきたい。事故が起こったのは「ヤマハ」のコースだった。トヨタではない。技術開発に対するトヨタの姿勢はこんなものだったのであり、その基本は今でも変化しているとは思えない。





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最終更新日  2010.05.12 16:57:33


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