全31件 (31件中 1-31件目)
1

ドナルド・トランプ米大統領は7月28日、停戦合意の期限を50日ではなく10日から12日後に短縮すると発表した。この要求をウラジミル・プーチン露大統領が呑まなければ、ロシアからの輸入品に100%の関税を課すとともに、ロシアとの取引を継続する国や企業に対して二次的な制裁を課すという脅しだが、この脅しに効果があるとは思えない。 期限を短縮した理由はウクライナ情勢の急速な悪化にあると考える人は少なくない。ロシア軍は自軍の犠牲者を極力少なくするような作戦を展開、じっくり余裕をもって攻めてきたが、要衝を次々と陥落させ、進撃のスピードは速まっている。できるだけ早い段階に何らかのアクションをアメリカ政府は起こしたいのかもしれないが、ロシア軍には関係のない話だ。 そうした中、ロシアの対外情報局SVRは、キエフ政権のキリロ・ブダノフ国防情報局長、アンドリー・イェルマーク大統領府長官、バレリー・ザルジニー駐英大使がアルプス山脈で秘密会合を開き、ウォロディミル・ゼレンスキーの後任をザルジニーにするかどうかについて協議したと発表した。キエフ政権側はこの主張を否定しているが、イギリスなど西側にゼレンスキーを支持する勢力が存在することは間違いない。 ザルジニーは2023年末、エコノミスト誌のインタビューでキエフ側の反撃は失敗したと認めてゼレンスキーと対立、24年2月8日には最高司令官の職を解かれ、ロンドンへ追放されている。西側に押し付けられた作戦は失敗したと考える彼はジョー・バイデン米政権の意向に背き、兵士の犠牲を少なくする作戦を採用しようとしていた。 エコノミスト誌はイギリスの金融界と関係が深く、2023年末の段階でゼレンスキーからザルジニーへ交代させようと考える勢力が西側には存在していたと言える。2022年7月にゼレンスキーの妻、オレーナ・ゼレンシカをアメリカのファッション誌VOGUEが取り上げているが、今月、VOGUEウクライナはザルジニーを取り上げたことにも意味はあるだろう。 ミンスク合意で煮湯を飲まされたロシア政府が停戦に応じないため、欧米の私的権力が目論んだウクライナでの利権が減少している。トランプの焦りはそのあたりから出ているのだろうが、敗北が目前に迫っているということになると、戦争の継続が難しくなる。兵器も兵士も不足している現状ではNATOにうつ手はないのだが、ウクライナを利用して少しでもロシアを疲弊させたいと願う人たちもいる。ナチスが始めたバルバロッサ作戦でソ連は疲弊、結局、消滅するまで立ち直れなかった。同じようにロシアを疲弊させたいのかもしれないが、実現しそうにない。 それでもそうした幻想に浸っている人はいるようで、アメリカの情報機関の内部からロシア軍が疲弊しているという話が出てくる。ジャーナリストのシーモア・ハーシュによると、ロシア軍の死傷者数は2022年2月から200万人だとアメリカの軍や情報機関は主張しているようだが、これは現実からかけ離れた数字だと元CIA分析官のラリー・ジョンソンは分析している。 訓練された正規軍の兵士は農民に取って代わられ、優秀な中級将校と下士官は皆戦死、最新式の装甲車両と戦闘車両はすべてガラクタだというのだが、ロシア軍が余裕を持って戦っていることは戦況を見れば明白で、欧米の兵器はロシア軍の兵器に圧倒されている。欧米の生産力がロシアより劣っていることは西側でも認められている。 ラリー・ジョンソンの分析によると、現在戦闘に参加しているロシア軍の兵力は113万5000人から132万人。2022年2月から徴兵されたり契約を結んだ兵士は、退役、契約満了、死傷などがなかったと仮定するならば242万0500人。足りない人数は128万人から110万人ということになるが、実態は半分程度だろう。いずれにしろ、200万人ということはありえない。死亡者と負傷者の比率は1対4とされているので、戦死者数は最大で22万人から25万人、実態は12万人強だとみられている。この戦死者数に基づくと負傷者数は48万人、合計すると60万人だ。祖国防衛戦争を戦うロシア側の士気は高い。 ウクライナでは徴兵担当者が街中で男性を拉致、そうした様子を撮影した少なからぬ映像が世界に発信、最近では家から引き摺り出される様子も撮影されている。拉致された人は十分な訓練を受けないまま前線に送られ、数週間で戦死すると報告されている。 ウクライナの兵士不足は2023年の段階ですでに深刻で、この年の8月31日までイギリスの国防大臣を務めていたベン・ウォレスは同年10月1日、テレグラフ紙に寄稿した論稿の中でウクライナ兵の平均年齢はすでに40歳を超えていると指摘している。その後、状況はさらに悪化している。**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.31
欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は7月27日にスコットランドでアメリカのドナルド・トランプ大統領と会談、アメリカに輸入される大半の欧州製品に15%の関税を課し、EU内で販売されるアメリカ製品に報復関税は課されないことで合意した。トランプによると、EUはアメリカへの総投資額を6000億ドル増加させ、軍事装備品を大量に発注し、さらに約7500億ドル相当のアメリカ産エネルギーを購入することも約束したという。 この合意に関し、トランプは「双方にとって素晴らしいものになる」と発言、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相も歓迎しているものの、関税ゼロを望んでいたEU内部の人びとからは屈辱的だとの声も上がっている。フランソワ・バイルー仏首相は7月27日を「暗黒の日」と呼んだ。ハンガリーのオルバーン・ビクトル首相はこの合意について、「誰の名において結ばれたのか?」と問いかけている。またロシアのセルゲイ・ラブロフ外相はこの合意について、ヨーロッパのさらなる産業空洞化と資本逃避につながると評価した。 ヨーロッパや日本では付加価値税(消費税)という仕組みを利用し、還付金という名目で大手輸出企業へ事実上の補助金を渡していることに対するアメリカ側の回答だという指摘もある。日本の場合、還付金(補助金)の原資は下請け企業の払った付加価値税(消費税)。この仕組みで利益を得るのは大手の輸出業者、例えば自動車会社で、税率が上がるほど還付金は大きくなる。そうした仕組みのないアメリカが報復しているというわけだ。こうした問題は元静岡大学教授の湖東京至や参議院議員の安藤裕らが取り上げ、広く知られるようになってきた。 アメリカ政府はロシアや中国に対しても高率の関税を課そうとしているが、これまでの経緯を見ると、効果はない。この2カ国が本気になれば、アメリカが崩壊してしまう。そうした経済構造が生み出された原因は、西側で推進された1970年代からの政策にある。この頃から製造業から金融へシフト、実態経済が衰えていった。 金融のベースは通貨で、それは数字で表現される。その数字が大きくなると裕福になったように見えるが、それだけでは意味がない。それでも人びとはその数字を崇める。そこで、カール・マルクスは『資本論』において通貨を呪物に準えた。資本主義は通貨という呪物を崇めるカルトだというわけだ。 西側の「先進国」は呪物を集めてきたが、生活に必要な物がない状況になっている。食糧やエネルギーの生産能力、生活に必要な様々なものを作る能力、教育する力などが西側諸国は衰えてきた。 そこでネオコンはソ連が消滅した直後の1992年2月、アメリカ国防総省のDPG(国防計画指針)草案という形で世界制覇計画を作成した。作成の中心は国防次官を務めていたポール・ウォルフォウィッツだったことから、このDPG草案は「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」とも呼ばれている。 その段階で彼らはロシアを属国化したと確信、世界制覇に乗り出したのだ。第1のターゲットは潜在的ライバルの中国だが、西ヨーロッパやエネルギー資源のある西南アジア、穀倉地帯が広がり、資源も豊かな旧ソ連圏を支配しようとする。 こうした計画は簡単に達成できるとネオコンは考えていたようだが、ロシアは再独立に成功、しかもそのロシアは中国との関係を強化、影響力を「南」へ拡大させている。ネオコン、そしてネオコンに従属していたフォン・デア・ライエンのような人びともは窮地に陥った。 ウクライナをクーデターで制圧した段階でロシアを壊滅させるのは時間の問題だと信じたのかもしれないが、それによってロシア産の安い天然ガスが入手できずにヨーロッパの経済は崩壊、人びとの生活は厳しい状況だ。崩壊するはずだったロシアは経済力を向上させて中国という新たなマーケットを手に入れ、中国はロシアの安いエネルギーを入手できるようになった。 欧米諸国はウクライナでの戦争でロシアに敗北、中東では「無敵」のはずだったイスラエルがイランのミサイル攻撃で重要施設が破壊され、危機的な状況だ。現在、アゼルバイジャンをロシアやイランを攻撃する拠点にし、さらに中央アジアを制圧しよとしているが、ロシア、中国、イランなどが何もしないということはない。 ロシアを簡単に倒せると思い込み、戦争を始めたヨーロッパの好戦派はヨーロッパ全体を破壊しつつある。**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.30

タイとカンボジアは7月24日から軍事衝突、26日にはアメリカのドナルド・トランプ大統領が両国の首脳に即時停戦を求めた。両国は28日からマレーシアで停戦交渉を始めたものの、戦闘は続いている。 両国の国境をめぐる争いは数十年前から始まっていると言われているが、今回の場合、中国が進めている全長6000キロメートル以上という東南アジアの鉄道網が関係しているのではないかと推測する人もいる。 この鉄道網は中国の昆明から東側はベトナム、中央はラオス、タイ、マレーシア、西側はミャンマー、カンボジアからタイを経由してマレーシアを結ぶ計画だが、今後、ベトナムとカンボジア、ミャンマーとタイも繋げ、タイからマレーシアへつなげようということになるかもしれない。ミャンマーとインド洋を繋ぐCMEC(中国・ミャンマー経済回廊)もある。 このネットワークが完成したなら、東南アジアがひとつの経済圏として結びつきを強める一方、中国はアメリカが支配している南シナ海やマラッカ海峡を迂回して物資を運ぶことができ、アフリカとの関係も強化される。 中国をライバルとして危険視しているアメリカにとって好ましい出来事も引き起こされている。中国の習近平国家主席は2020年1月17日から18日にかけてアウンサンスーチー体制のミャンマーを公式訪問、両国の関係を強化しつつあった。その体制を軍がクーデターで倒したのは翌年の2月である。そして今回のタイとカンボジアの衝突。 東側ルート、中央ルート、西側ルートの3ルートがタイのバンコックで合流しているため、タイとカンボジアとの戦闘が長引いた場合、両国だけでなく、ネットワーク全体がダメージを受けることが予想できる。 バングラデシュでもアメリカにとって好都合な出来事があった。昨年6月から8月にかけて、バングラデシュでは学生が主導する反政府運動により、インドや中国と友好的な関係あったシェイク・ハシナ政権が倒され、ムハマド・ユヌスを首席顧問とする暫定政府へ移行したのだ。デモは雇用配分制度に対する不満が原因だとされているが、その背後にはパキスタンやアメリカが存在していたと言われている。 アメリカはベンガル湾の北東部にあるセント・マーチン島に注目してきた。この島に軍事基地を設置し、ミャンマーの港湾を利用している中国に対抗できるからだ。ハシナはクーデターの背景にこの島があると示唆していた。ベンガル湾をアメリカに支配させていたら、彼女は権力を維持できたかもしれないとしている。ハシナは昨年5月、外国の軍事基地許可を拒否していたのだ。 バングラデシュはアメリカ海軍にとって重要な物流拠点になる可能性があり、同国の海軍基地は中国とインド洋をつなげるCMECを監視できるとアメリカは指摘、マラッカ海峡のコントロールにも役立つとも考えているようだ。 欧米の帝国主義諸国は中国との戦争を東南アジアで始めようとしているのかもしれない。**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.29

台湾で国民党議員へのリコールに失敗 台湾で7月26日に国民党議員(立法委員)へのリコール(解職請求)の賛否を問う住民投票が実施された。対象になったのは全113議員のうち24議員だが、そのすべての請求が不成立、このリコールを推進していた民主進歩党の頼清徳総統にとって厳しい結果になった。 頼清徳は2024年1月の選挙で勝利して総督に就任したが、同じ日に実施された立法委員選挙で彼の民進党が獲得した議席は51にとどまり、国民党の52議席を下回った。そこで頼総督はリコールで逆転を狙ったのだが、失敗した。「独立」を掲げ、中国から離れようとしている民進党の背後にはアメリカがついているが、議会で過半数の議席を獲得できていないため、反中国政策を推進することが難しくなっている。空母としての台湾 民進党がいう「台湾の独立」とは、アメリカにしてみると、台湾を対中国戦争のための「不沈空母」にすることにほかならない。2019年9月から21年1月まで国家安全保障補佐官を務めたロバート・オブライエンは20年10月、台湾を要塞化するべきだと語り、アメリカ空軍航空機動軍団のマイク・ミニハン司令官は23年1月、アメリカと中国が25年に軍事衝突する可能性があるとする見通しを記したメモを将校へ送っている。 ミニハンがアメリカと中国が軍事衝突する可能性があるとした今年の5月15日、エグザビエル・ブランソン在韓米軍司令官は、対朝鮮だけでなく中国を牽制するためにも在韓米軍の役割を拡大する必要があると主張、韓国は「日本と中国本土の間に浮かぶ島、または固定された空母」だと表現している。 アメリカにとって韓国も台湾も「不沈空母」、つまり大陸を制圧するための重要な拠点なのだが、日本も同じだ。 1982年11月から総理大臣を務めた中曽根康弘は翌年の1月にアメリカを訪問、ワシントン・ポスト紙の編集者や記者たちと朝食をともにしたが、その際、彼はソ連のバックファイア爆撃機の侵入を防ぐため、日本は「不沈空母」になるべきだと語ったと報道された。 中曽根は発言を否定しようとしたものの、インタビューが録音されていたことを知ると、「不沈空母」ではなくロシア機を阻止する「大きな空母」だと表現したのだと主張したのだが、このふたつの表現に本質的な差はない。日本列島はアメリカ軍がロシア軍を攻撃するための軍事拠点だと中曽根は認めたのである。 中曽根は首脳会談で日本周辺の「4海峡を完全にコントロールし、有事にソ連の潜水艦を日本海に閉じ込める」、また「ソ連のバックファイアー(爆撃機)の日本列島浸透を許さない」と発言。また「シーレーン確保」も口にしたが、要するに制海権の確保だ。 アメリカは第2次世界大戦後、日本列島から琉球諸島を経て台湾に至る弧状列島はアメリカにとってユーラシア大陸の東岸を侵略する拠点である。その仕組みを固定するため、新旧日米安全保障条約は結ばれた。ネオコンの世界制覇戦略 この日米軍事同盟が次のステージに進んだのは1992年2月のことだ。前年の12月にソ連が消滅すると、ネオコンを含む西側の好戦派はアメリカが唯一の超大国になり、好き勝手なことができる時代になったと考えたようで、92年2月に亜名rかの国防総省のDPG(国防計画指針)草案という形で世界制覇計画を作成。作成の中心は国防次官を務めていたポール・ウォルフォウィッツだったことから、このDPG草案は「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」とも呼ばれている。 そのドクトリンには、ドイツと日本をアメリカ主導の集団安全保障体制に統合し、民主的な「平和地帯」を創設すると書かれているが、つまりドイツと日本をアメリカの戦争マシーンに組み込み、アメリカの支配地域を作り出すということにほかならない。 ウォルフォウィッツたちが目指した第一の目的は、旧ソ連の領土内であろうとなかろうと、かつてソ連がもたらした脅威と同程度の脅威をもたらす新たなライバルが再び出現するのを防ぐこと。西ヨーロッパ、東アジア、西南アジアが成長することを許さないということだが、東アジアには中国だけでなく日本も含まれている。1990年代以降の日本を見れば、その意味がわかる。 1993年8月に成立した細川護煕政権は国連中心主義を打ち出して抵抗するが、94年4月に崩壊。1994年6月から自民党、社会党、さきがけの連立政権で戦ったが、押し切られている。 そうした動きをネオコンのマイケル・グリーンとパトリック・クローニンはカート・キャンベル国防次官補(当時)に報告、1995年2月にジョセイフ・ナイは「東アジア戦略報告(ナイ・レポート)」を発表してアメリカの政策に従うように命令。そこには10万人規模の駐留アメリカ軍を維持し、在日米軍基地の機能を強化、その使用制限は緩和/撤廃されることが謳われていた。沖縄ではこの報告に対する人びとの怒りのエネルギーが高まるが、そうした中、3人のアメリカ兵による少女レイプ事件が引き起こされ、怒りは爆発する。日米政府はこの怒りを鎮めようと必死になったようだ。 こうした中、1994年6月に長野県松本市で神経ガスのサリンがまかれ(松本サリン事件)、95年3月には帝都高速度交通営団(後に東京メトロへ改名)の車両内でサリンが散布された(地下鉄サリン事件)。松本サリン事件の翌月に警察庁長官は城内康光から國松孝次に交代、その國松は地下鉄サリン事件の直後に狙撃された。1995年8月にはアメリカ軍の準機関紙と言われているスターズ・アンド・ストライプ紙に85年8月12日に墜落した日本航空123便に関する記事が掲載された。この旅客機が墜ちる前、大島上空を飛行していたアメリカ軍の輸送機C130の乗組員だったマイケル・アントヌッチの証言に基づく記事で、自衛隊の責任を示唆している。この1995年に日本はウォルフォウィッツ・ドクトリンに書かれている通り、アメリカの戦争マシーンに組み込まれていく。 この時に想定された戦争は弱小国を相手にした侵略戦争のはず。ネオコンたちはソ連消滅でライバルがなくなり、植民地化したロシアは弱体化、1980年頃から新自由主義化が進んだ中国はコントロールできるとふんでいたようだ。対中国工作 リチャード・ニクソンは大統領として1972年2月に中国を訪問、北京政府を唯一の正当な政府と認め、台湾の独立を支持しないと表明して米中は国交を回復させた。経済を餌にして中国を抱き込んでソ連との対立を煽ろうとしたと見られている。 1980年には新自由主義の教祖的な存在だったミルトン・フリードマンが北京を訪問、新自由主義の推進役だった趙紫陽は1984年1月にアメリカを訪問、ホワイトハウスでロナルド・レーガン大統領と会談して両国の関係は緊密化していく。 新自由主義は社会的な強者に富を集中させる仕組みであり、中国でも貧富の差が拡大、1980年代の半ばになると労働者の不満が高まる。社会は不安定化して胡耀邦や趙紫陽は窮地に陥り、胡耀邦は1987年1月に総書記を辞任せざるをえなくなった。学生は新自由主義に「民主化」というタグをつけて支持していたが、新自由主義に反対する労働者も抗議活動を始めて社会は不安定化した。 そうした中、1988年にミルトン・フリードマンは8年ぶりに中国を訪問、趙紫陽や江沢民と会談したが、中国政府はその年に「経済改革」を実施している。労働者などからの不満に答えるかたちで軌道修正したと言えるだろう。趙紫陽は2005年1月に、また江沢民は22年11月にそれぞれ死亡している。天安門事件 そして「天安門事件」が引き起こされる。西側の政府や有力メディアは1989年6月4日に軍隊が学生らに発砲して数百名を殺したと主張していたが、これを示す証拠はない。 例えば、当日に天安門広場での抗議活動を取材していたワシントン・ポスト紙のジェイ・マシューズは問題になった日に広場で誰も死んでいないとしている。広場に派遣された治安部隊は学生が平和的に引き上げることを許していたという。(Jay Mathews, “The Myth of Tiananmen And the Price of a Passive Press,” Columbia Journalism Reviews, June 4, 2010) 学生の指導グループに属していた吾爾開希は学生200名が殺されたと主張しているが、マシューズによると、虐殺があったとされる数時間前に吾爾開希らは広場を離れていたことが確認されている。北京ホテルから広場の真ん中で兵士が学生を撃つのを見たと主張するBBCの記者もいたが、記者がいた場所から広場の中心部は見えないことも判明している。(Jay Mathews, “The Myth of Tiananmen And the Price of a Passive Press,” Columbia Journalism Reviews, June 4, 2010) 西側の有力メディアは2017年12月、天安門広場で装甲兵員輸送車の銃撃によって1万人以上の市民が殺されたという話を伝えた。北京駐在のイギリス大使だったアラン・ドナルドが1989年6月5日にロンドンへ送った電信を見たというAFPの話を流したのだ。 しかし、これはドナルド大使自身が目撃したのではなく、「信頼できる情報源」の話の引用。その情報源が誰かは明らかにされていないが、そのほかの虐殺話は学生のリーダーから出ていた。当時、イギリスやアメリカは学生指導者と緊密な関係にあった。ドナルド大使の話も学生指導者から出たことが推測できる。 また、内部告発を支援しているウィキリークスが公表した北京のアメリカ大使館が出した1989年7月12日付けの通信文によると、広場へ入った兵士が手にしていたのは棍棒だけで群集への一斉射撃はなかったとチリの2等書記官だったカルロス・ギャロは話している。銃撃があったのは広場から少し離れた場所だったという。(WikiLeaks, “LATIN AMERICAN DIPLOMAT EYEWITNESS ACCOUNT O JUNE 3-4 EVENTS ON TIANANMEN SQUARE”) イギリスのデイリー・テレグラム紙が2011年6月4日に伝えた記事によると、BBCの北京特派員だったジェームズ・マイルズは2009年に天安門広場で虐殺はなかったと認めている。軍隊が広場へ入ったときに抗議活動の参加者はまだいたが、治安部隊と学生側が話し合った後、広場から立ち去ることが許されたという。マイルズも天安門広場で虐殺はなかったと話している。(The Daily Telegraph, 4 June 2011) しかし、治安部隊とデモ隊が激しく衝突、双方に死傷者が出るという出来事はあった。ただ、それは天安門広場ではなく、広場から8キロメートル近く離れている木樨地站で、黒焦げになった複数の兵士の死体が撮影されている。このデモ隊は反自由主義を主張していた労働者だったと言われている。路上での衝突と広場の状況を重ねて語る人もいるが、全く違うのだ。 広場から引き上げる戦車をクローズアップした写真を使い、「広場へ入ろうとする戦車を止める英雄」が作り上げられているが、この写真が撮影されたのは事件があったとされる日の翌日、6月5日のことだ。 吾爾開希をはじめとする反政府活動の学生指導者たちはイエローバード作戦(黄雀行動)と呼ばれる逃走ルートを使い、香港とフランスを経由してアメリカへ逃れた。このルートを運営していたのは米英の情報機関、つまりCIAとMI6だ。吾爾開希はハーバード大学で学んだ後、台湾へ渡って独立運動に参加、つまり台湾で軍事的な緊張を高める仕事を始めた。ブッシュ政権の秘密工作 1989年1月、アメリカ大統領はロナルド・レーガンからジョージ・H・W・ブッシュへ交代、その直後に新大統領はイギリスのマーガレット・サッチャー首相と会談、ソ連を崩壊させることで合意している。その当時、すでにソ連のミハイル・ゴルバチョフはCIAのネットワークに取り囲まれていた。ブッシュはその年の5月、ジェームズ・リリーを中国駐在アメリカ大使に据えた。 ブッシュはジェラルド・フォード政権時代の1976年1月から77年1月にかけてCIA長官を務めているが、彼はエール大学時代、CIAからリクルートされたと言われている。同大学でCIAのリクルート担当はボート部のコーチを務めていたアレン・ウォルツだと言われているが、そのウォルツとブッシュは親しかったのだ。 しかも、ブッシュの父親であるプレスコットは銀行家から上院議員へ転身した人物で、ウォール街の弁護士だったアレン・ダレスと親しかった。言うまでもなく、ダレスはOSSからCIAまで秘密工作を指揮していた人物だ。ブッシュは大学を卒業した後にカリブ海で活動、1974年から75年まで中国駐在特命全権公使(連絡事務所長)を務めている。 ジェームズ・リリーはジョージ・H・W・ブッシュとエール大学時代から親しく、ふたりとも大学でCIAにリクルートされた。リリーは中国山東省の青島生まれで中国語は堪能で、1951年にCIA入りしたと言われている。 このエール大学コンビは中国を揺さぶりにかかる。中国のアカデミーはビジネス界と同じように米英支配層の影響下にあり、揺さぶる実働部隊は主要大学の学生。現場で学生を指揮していたのはジーン・シャープで、彼の背後にはジョージ・ソロスもいたとされている。学生たちと結びついていた趙紫陽の後ろ盾は鄧小平だ。**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.28
ロシア軍に所属する3機のSu-35戦闘機がシリア南部のアル・タンフにあるアメリカ軍の基地を攻撃したと伝えられている。この基地はバグダッドとダマスカスを結ぶ幹線上にあり、アメリカ軍のほかイギリスの特殊部隊も駐留、アル・カイダ系の戦闘員を訓練する場所でもあった。攻撃の24時間前にロシアはアメリカに攻撃を通告したというが、軍事的な緊張を高めたことは間違いないだろう。 1980年代からイラク、シリア、イランを制圧しようと目論んでいたネオコンは2003年3月、ジョージ・W・ブッシュ政権を操り、アメリカ主導軍を使ってイラクを先制攻撃してサダム・フセイン体制を倒したのだが、親イスラエル体制を築くことには失敗した。 アメリカ大統領おは2009年1月にバラク・オバマへ交代、翌年の8月にオバマ大統領はPSD-11を承認し、ムスリム同胞団を使った体制転覆作戦を始動させる。そして始まるのが「アラブの春」だ。その流れの中でリビアやシリアも攻撃するが、その際、ムスリム同胞団だけでなくサラフィ主義者(ワッハーブ派、タクフィール主義者)も参加している。 イギリスの外相を1997年5月から2001年6月まで務めたロビン・クックは2005年7月、「アル・カイダ」はCIAの訓練を受けた「ムジャヒディン」の登録リストを意味すると書いているが、その通り。そのムジャヒディンの供給源はムスリム同胞団やサラフィ主義者である。このシステムを作り上げたのはオバマの師にあたるズビグネフ・ブレジンスキーにほかならない。 リビアのムアンマル・アル・カダフィ体制は2011年10月、アル・カイダ系武装集団のLIFG(リビア・イスラム戦闘団)とNATO軍によって倒されたが、シリア軍は倒れない。そこで戦闘員や兵器をリビアからシリアへ移動させると同時に、オバマ大統領はシリアのアル・カイダ系武装集団への軍事支援を強化した。 しかし、アメリカ軍の情報機関DIAはそうしたオバマ政権の政策を危険だと判断、警告する報告書を2012年8月に提出している。オバマ政権は「穏健派」を支援していると主張していたが、そうした武装集団は存在しなかった。 DIAの報告書によると、外部勢力が編成した反シリア政府軍の主力はAQI(イラクのアル・カイダ)であり、その集団の中心はサラフィ主義者やムスリム同胞団だと指摘、オバマ政権の政策はシリアの東部(ハサカやデリゾール)にサラフィ主義者の支配地域を作ることになると警告している。その時にDIAを率いていた軍人がマイケル・フリン中将にほかならない。 この警告通り2014年には新たな武装集団ダーイッシュ(IS、ISIS、ISIL、イスラム国などとも表記)が登場する。この武装集団はこの年の1月にイラクのファルージャで「イスラム首長国」の建国を宣言、6月にはモスルを制圧。その際にトヨタ製の真新しい小型トラック、ハイラックスを連ねてパレードし、その後、首を切り落とすなど残虐さをアピールし、NATO軍の介入を誘った。 その一方、オバマ大統領は政府の陣容を好戦派へ入れ替える。例えば2015年2月に国防長官をチャック・ヘーゲルからアシュトン・カーターへ、同年9月には統合参謀本部議長をマーチン・デンプシーからジョセフ・ダンフォードへ交代させ、アメリカ軍をシリアで侵攻させた。そして作り上げた20以上の基地のひとつがアル・タンフである。 アメリカ政府はシリアへの軍事侵攻を正当化するため、ダーイッシュを殲滅するためだと宣伝していたが、その後、ダーイッシュは勢力を拡大、それを口実にしてリビアのようにNATO軍を本格的に介入させる腹積りだったのだろうが、デンプシー議長が退任した直後、シリア政府の要請でロシア軍が9月末に介入、ダーイッシュを敗走させてしまう。それ以降、アメリカはクルドを手先として使い始めた。 その後、ロシア軍はシリア国内でも賞賛されるが、それがシリア政府軍との亀裂を産むことになり、その政府軍は欧米諸国の経済戦争で疲弊していき、昨年12月、バシャール・アル・アサド政権はハヤト・タハリール・アル・シャム(HTS)を中心とする武装勢力に倒された。 HTSはアル・カイダ系のアル・ヌスラ戦線を改名した組織で、その前身はAQI。現在はトルコを後ろ盾にしているが、名称を変更する前はアメリカの影響下にあった。 HTSを率い、暫定大統領を務めているアフマド・アル-シャラア(アブ・モハメド・アル-ジュラニ)はダーイッシュの元司令官。アル・アサド体制を倒そうとしてきた欧米諸国は彼を穏健派だとしているが、それは彼らのイメージ戦略にほかならない。 アル-シャラアの暫定政権はアラウィー派やキリスト教徒を殺害、現在はそのアラウィー派のほか、南部のドゥルーズ派や北部のクルドとも対立、戦闘が始まっている。クルドはアメリカやイスラエル、ドゥルーズ派はイスラエルが支援、ここにきてロシアがアラウィー派の戦力を増強させているという。アル・アサド政権時代のシリアは欧米などの経済戦争で疲弊していたが、HTS時代になって生活はさらに悪化、外国の勢力も含め、内戦が激しくなる可能性がある。 イランは7月22日、ロシアと中国の代表団を招き、核問題と西側諸国による制裁解除について協議した。イランはアメリカとイスラエルに空爆され、報復攻撃でその戦闘能力の高さを示している。その際、中東にあるアメリカ軍の基地を攻撃しなかったが、今後もないとは言い切れない。NATOはウクライナで事実上ロシアに敗れ、イランに対する攻撃でアメリカとイスラエルの弱さが露呈。アメリカは中国を狙っていると言われているが、勝てる見込みはゼロに近い。この3カ所の出来事は互いに関連しているとも言える。**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.27

厚生労働省は7月25日、5月分の「人口動態統計速報」を発表した。死亡者数は12万4572人。COVID-19(2019年-コロナウイルス感染症)騒動が始まる前年の2019年の同じ月に比べて1万2314名増えている。 この騒動は「COVID-19」なる悪霊に人びとを恐怖させるところから始まった。COVIDをヘブライ語やアラビア語のようにアルファベットを右から並べるとDIVOC。それをヘブライ語の文字に変換すると「死者の霊」という意味になる。そのヘブライ語を語源とする英単語は「悪霊」を意味するdybbuk(あるいはdibbuk)である。恐怖で思考力を低下させた人びとを操ることは容易い。 COVID-19の原因とされたSARS-CoV-2(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2)の危険性は当初からインフルエンザ程度だとされていたのだが、恐怖を利用してWHO(世界保健機関)やCDC(疾病予防管理センター)は2020年3月にパンデミックを宣言、その翌月には、死亡した患者の症状がCOVID-19によるものだと考えて矛盾しなければ、死因をCOVID-19として処理して良いとする通達を出している。つまり患者を水増しするように指示しているわけだ。利益誘導も図られた。 アメリカ上院のスコット・ジャンセン議員は2020年4月8日、その通達についてFOXニュースの番組で話している。病院は死人が出ると検査をしないまま死亡診断書にCOVID-19と書き込んでいると話しているのだ。アメリカの場合、COVID-19に感染している患者を治療すると病院が受け取れる金額が多くなり、人工呼吸器をつけるとその額は3倍に膨らんだともいう。 その一方、危険性が指摘されたのは「COVID-19ワクチン」と名付けられた遺伝子操作薬だ。そうした新薬を開発したファイザー社の関連文書をFDA(食品医薬品局)は75年間、封印しようとした。WHOや各国の保健当局が怪しげな動きをしていることもあり、アメリカでは一部の専門家は情報の開示を求める訴訟を起こし、迅速な公開が命令され、そうした文書を分析したサーシャ・ラティポワはCOVID-19騒動を軍事作戦だということを明らかにした。2022年初頭のことだ。 こうした軍事作戦を実行しているのはアメリカの国防総省だが、人びとの目を中国へ向けさせようとしている人も少なくない。SARS-CoV-2は人工的に作られた可能性が高いのだが、このウイルスに感染した動物は中国でなく、北アメリカで見つかっている。 北アメリカの自然界ではシカ、ノネズミ、コウモリを含む5種類の動物が感染していることが判明、それらの種はモンタナ州にあるロッキー・マウンテン研究所で実験動物として使用されていたことが突き止められた。(Jim Haslam, “COVID-19 Mystery Solved,” Truth Seeking Press, 2024) ラティポワによると、2020年2月4日に保健福祉長官はCBRN(化学、生物、核、放射線)緊急事態に関するふたつの宣言をしている。そのひとつがEUA(緊急使用許可)で、大量破壊兵器が関与する重大な緊急事態を想定、CBRN物質に対する対抗手段を安全性と有効性を確保するため、規制監督なしに使用する許可だ。 この遺伝子操作薬は人間の細胞へLNP(脂質ナノ粒子)に包まれたmRNAを送り込み、ウイルスのスパイク・タンパクを作らせるという仕組みで、人間の免疫システムはスパイク・タンパクを病原体だと判断、攻撃するため、自己免疫疾患を引き起こす。 そこで、この新薬には免疫を下げる仕掛けがあるのだが、それだけでなく、人体も免疫抑制能力があるIgG4抗体を誘導する。つまりAIDS状態になるわけだ。その結果、通常なら問題のない微生物でも病気になり、癌も増える。しかもLNPは人体に有害であり、DNAやグラフェン誘導体の混入も深刻な影響を及ぼす可能性が高い。 デビッド・マーティンは「COVID-19ワクチン」について、人間の細胞に病原体を製造させているのであり、それは人体を「生物兵器工場」にすることだとしている。この工場は現在も稼働、さらに工場を増やそうとする動きもある。オーストラリアの酪農家は事業継続のため、スパイク・タンパク質を含む遺伝子操作薬を牛に接種せざるを得なくなっているという。**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.26
次回の「櫻井ジャーナルトーク」は8月19日(火)午後7時から駒込の「東京琉球館」で開催します。テーマは「第2次世界大戦が終わって80年 - なぜナチスは負けなかったのか」を予定しています。予約受付は8月1日午前9時からですので、興味のある方は東京琉球館までEメールで連絡してください。東京琉球館https://dotouch.cocolog-nifty.com住所:東京都豊島区駒込2-17-8Eメール:makato@luna.zaq.jp ウクライナを舞台とした戦争でロシアがNATO諸国に勝利するのは決定的です。形式上、ロシアが戦い、犠牲を強いられているのはウクライナですが、兵士を訓練し、兵器を供与し、衛星からの情報を提供しているのはNATOであり、NATOが敗北しつつあるということにほかなりません。 NATO諸国は自国の兵士や情報機関員を派遣していますが、傭兵も送り込んできました。特に重要な役割を果たしてきたのは、キエフのクーデター政権に食い込み、操ってきたネオ・ナチです。ネオ・ナチはなぜ消えないのでしょうか? 第2次世界大戦中からアメリカやイギリスの情報機関はナチスと連携していた勢力と連携していました。そうした勢力は大戦後の1946年4月に反ボルシェビキ戦線はABN(反ボルシェビキ国家連合)を形成、東アジアで創設されたAPACL(アジア人民反共連盟、後にアジア太平洋反共連盟に改名)とWACL(世界反共連盟。1991年にWLFD/世界自由民主主義連盟へ名称変更)の母体になります。 ウクライナからもこの組織に参加したグループが存在しました。その母体になったのはステパン・バンデラを中心とするOUN(ウクライナ民族主義者機構)-Bで、このグループを大戦中からイギリスの対外情報機関MI6のフィンランド支局長を務めていたハリー・カーが雇いますが、その一方でナチスとも手を組んでいました。 ドイツの敗北が決定的になっていた1943年春、OUN-BはUPA(ウクライナ反乱軍)として活動し始め、その年の11月には「反ボルシェビキ戦線」を設立しました。そのメンバーの半数近くがウクライナの地方警察やナチスの親衛隊、あるいはドイツを後ろ盾とする機関に雇われていたと考えられています。(Grzegorz Rossolinski-Liebe, “Stepan Bandera,” ibidem-Verlag, 2014) バンデラの主要な側近だったミコラ・レベジとヤロスラフ・ステツコのうち、レベジはクラクフにあったゲシュタポ(国家秘密警察)の訓練学校へ入って破壊活動を実行、ステツコは大戦後、ABNを率いることになり、この組織はAPACLと合体してWACLになったわけです。 その後、ステツコはMI6を後ろ盾とするKUN(ウクライナ・ナショナリスト会議)を指揮、1986年に彼が死亡すると妻のスラバ・ステツコが引き継ぎ、2003年に死ぬまで率いました。彼女がミュンヘンからウクライナへ戻ったのは1991年12月にソ連が消滅した後です。 KUNの指導者グループに所属していたひとりにワシル・イワニシンなるドロボビチ教育大学の教授がいましたが、その教え子のひとりがウクライナでネオ・ナチを率いてきたドミトロ・ヤロシュにほかなりません。イワニシンが2007年に死亡するとヤロシュが後継者になりました。このタイミングでヤロシュはNATOの秘密部隊ネットワークに参加したと言われています。 アメリカの情報機関は大戦の終盤、フランクリン・ルーズベルト大統領に無断でナチス人脈と接触、前後策を練しました。サンライズ作戦です。この工作はルーズベルトの政策と矛盾していましたが、1945年4月に大統領が急死したことで解消されます。 CIAを含むアメリカの政府機関は大戦後、ナチスの残党や協力者を逃亡させ、保護し、雇うことになります。ラットラインとも呼ばれる逃走ルートの運営はローマ教皇庁も支援、国務省は1948年頃、ナチスの残党やソ連の勢力下に入った地域から亡命してきた反コミュニスト勢力を助け、雇い始めました。ブラッドストーン作戦です。 また、1945年から59年にかけてアメリカ政府はドイツの科学者や技術者1600名以上をアメリカへ運び、軍事研究に従事させました。ペーパー・クリップ作戦ですが、その中にはマインド・コントロールに関する研究者も含まれていました。ナチスの幹部だったハインリッヒ・ヒムラーの占星術師だったウィリヘルム・ウルフによると、死を顧みずに突撃する日本への心理をコピーする研究もドイツでは行われていたと言います。(Daniel Estulin, “Tavistock Institute,” Trine Day, 2015) このようにアメリカやイギリスの情報機関はナチスやその後継者と連携してきたのですが、そもそもナチスの台頭を米英の金融機関が支援していたとも言われています。スイスを拠点とするBIS(国際決済銀行)やイングランド銀行のほか、アメリカのブラウン・ブラザーズ・ハリマンやユニオン・バンキングを経由して資金が西側からナチスへ投げていたとされています。米英金融資本がナチスを使っていたからこそ、大戦後にアメリカ政府はナチスを助け、利用してきたわけで、ソ連消滅後にネオ・ナチと呼ばれる人びとが旧ソ連圏へ「帰還」したのは必然なのでしょう。 第2次世界大戦が終わって80年目に当たる今年、そうしたことについて考えてみたいと思います。櫻井 春彦
2025.07.25
ウォロディミル・ゼレンスキーの周辺が慌ただしくなっている。ミンスク合意で煮湯を飲まされたロシア政府は停戦に応じず、ロシア軍の進撃を止めてウクライナ側の戦力を増強することが困難で、このまま進めば西側の私的権力は利権を失う。イギリス、フランス、ドイツなどはアメリカを前面に引き摺り出そうとしているようだが、今のところアメリカ政府はロシアとの全面戦争を望んでいない。 そうした中、ゼレンスキーを排除する動きが出てきたのだ。ロシア政府と和解するチャンスがまだあるうちに戦争を終結させるべきだと考える人が少なくないようで、西側の有力メディアがゼレンスキーの周辺を批判する記事を掲載し始めたのもそうした空気を反映してのことだろう。 それに対し、ゼレンスキーは閣内の粛清を進める一方、NABU(国家汚職対策局)とSAPO(専門汚職対策検察庁)を大統領が任命する検事総長に従属させる権限縮小法案を可決させた。これは7月22日午前に急遽招集された委員会で発表され、午後に法案は署名のために大統領へ送られている。とりあえず、この法案によって、NABUとSAPOがゼレンスキー自身や彼の側近に対する汚職捜査は阻止される。 NABUは主に政府高官の汚職事件を捜査、SAPOは裁判にかける事件をまとめ、ウクライナ高等汚職裁判所がこれらの事件について判決を下すという仕組みで、この2機関は政府から独立しているとされていたのだが、実際はキエフのアメリカ大使館が管理していた。つまり今回、ゼレンスキーはアメリカ政府と対決する道を選んだと言える。 本ブログでも繰り返し書いてきたことだが、アメリカ海兵隊の元情報将校でUNSCOM(国連大量破壊兵器廃棄特別委員会)の主任査察官を務めたスコット・リッターのドキュメンタリーによると、ゼレンスキーはjイギリスの対外情報機関であるMI6のエージェントであり、そのハンドラー(エージェントを管理する担当オフィサー)はリチャード・ムーアMI6長官だと推測されている。そのムーアが今年10月1日に退任し、ブレーズ・メトレベリへ引き継がれる。こうしたMI6長官の交代がゼレンスキーの運命を変えるかもしれない。 この交代劇はイギリスとナチスとの関係を人びとに思い出させるかもしれない。メトレベリの父方の祖父にあたるコンスタンチン・ドブロボルスキーは、ナチス占領下のウクライナでナチス親衛隊の戦車部隊に所属した後、憲兵隊に入っている。その際、反ナチスの抵抗運動に参加していた数百人のウクライナ人を処刑したと自慢、「虐殺者」と呼ばれていたと伝えられているのだ。 ゼレンスキーを排除した後、西側はバレリ・ザルジヌイ元軍最高司令官を据えるのではないかと言われている。ザルジヌイは兵士の犠牲を少なくする作戦を進めようとしていたが、ゼレンスキーや西側のパトロンたちは御伽話を作りやすい派手な作戦を望み、昨年2月に解任されていた。当時のアメリカ大統領、ジョー・バイデンはウクライナに対して「玉砕攻撃」を命令、ザルジヌイと対立していたのだ。ペトロ・ポロシェンコ元ウクライナ大統領も反ゼレンスキーで暗躍しているようだ。**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.24
7月20日は参議院議員選挙の投票日だった。投票の結果、与党の自民党と公明党が議席を減らす一方、2020年4月に結党したばかりの参政党が躍進した。その原因をさまざまな人が「分析」しているが、COVID-19(2019年-コロナウイルス感染症)騒動は重要なファクターだ。 この騒動は2019年12月、中国の湖北省武漢の病院でSARS(重症急性呼吸器症候群)と似た重症の肺炎患者が発見されたところから始まる。病気の原因はSARS-CoV-2(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2)だとされたが、そのウイルスが実際に存在するのかどうか、当初は不明確だった。 ある種の人々は中国政府がSARS-CoV-2を作ったと主張してきたが、その可能性は小さい。このウイルスに感染した動物が中国の自然界で発見されていないのだ。ところが北アメリカに生息するシカ、ノネズミ、コウモリを含む5種類の動物が感染していることが判明、それらの種はモンタナ州にあるロッキー・マウンテン研究所で実験動物として使用されていたことが突き止められた。 しかし、中国で伝染病対策の責任者を務めている疾病預防控制中心の高福主任は2020年1月22日、国務院新聞弁公室で開かれた記者会見の席上、武漢市内の海鮮市場で売られていた野生動物から人にウイルスが感染したとする見方を示した。この仮説を有力メディアは世界へ拡げる。 高福は1991年にオックスフォード大学へ留学して94年に博士号を取得、99年から2001年までハーバード大学で研究、その後04年までオックスフォード大学で教えている。また、NIAID(国立アレルギー感染症研究所)の所長を務めてきたアンソニー・ファウチの弟子とも言われている。 そうした中、2020年3月11日にWHO(世界保健機関)はパンデミックを宣言したが、その直前、NIAID(国立アレルギー感染症研究所)のアンソニー・ファウチ所長もCOVID-19はインフルエンザ並みとする論文の執筆者に名を連ねている。その主張をファウチはすぐに撤回した。 医薬品業界で研究開発に携わってきたサーシャ・ラティポワは公開された関連文書の分析から、COVID-19騒動を軍事作戦だと2022年初頭の段階で主張していた。彼女によると、2020年2月4日に保健福祉長官はCBRN(化学、生物、核、放射線)緊急事態に関するふたつの宣言をしている。WHO(世界保健機関)がパンデミックを宣言したのは3月11日のことだ。 そのひとつがEUA(緊急使用許可)で、大量破壊兵器が関与する重大な緊急事態を想定、CBRN物質に対する対抗手段を安全性と有効性を確保するため、規制監督なしに使用する許可だ。 そしてPREP法の宣言。EUAに基づいて使用する対抗手段によって生じる可能性がある付随的損害について、誰も法的責任を負わないことを保証している。要するに免責。2029年12月31日まで有効だ。 2020年2月4日、保健福祉長官だったアレックス・アザーは大量破壊兵器が関与する重大な緊急事態が発生したと判断、EUAを宣言したということになるのだが、世界的に見ても「新型コロナウイルス感染症」の確認症例は少なく、国家安全保障に脅威を与えるような事態ではなかった。 言うまでもなく、WHOのパンデミック宣言には問題があった。死亡者数が多くなかったのだ。この問題をWHOがクリアできたのは、10年ほど前にパンデミックの定義が変更になっていたからだ。 2009年1月から10年8月にかけて「新型インフルエンザ(豚インフルエンザ)」が流行していると騒ぎになり、この時もWHOはパンデミックを宣言したが、その直前にパンデミックの定義が変更されていた。この変更で「病気の重大さ」、つまり死者数が多いという条件が削られたのだ。この豚インフルエンザは通常のインフルエンザより穏やかで、パンデミックを宣言するような状態ではなかった。 パンデミック宣言の翌月、2020年4月にWHOやCDC(疾病予防管理センター)は死亡した患者の症状がCOVID-19によるものだと考えて矛盾しないなら死因をCOVID-19として処理して良いとする通達を出している。つまり患者を水増しするように指示しているわけだ。 アメリカ上院のスコット・ジャンセン議員は2020年4月8日、その通達についてFOXニュースの番組で話している。病院は死人が出ると検査をしないまま死亡診断書にCOVID-19と書き込んでいると話しているのだ。アメリカの場合、COVID-19に感染している患者を治療すると病院が受け取れる金額が多くなり、人工呼吸器をつけるとその額は3倍に膨らんだともいう。医療関係者を買収したと言われても仕方がない。 パンデミック宣言を正当化するため、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査も利用された。これは特定の遺伝子型を試験管の中で増幅する分析のための技術だが、増幅できる遺伝子の長さはウイルス全体の数百分の1程度にすぎず、ウイルス自体を見つけることはできない。 増幅の回数(Ct値)を増やしていけば医学的に意味のないほど微量の遺伝子が存在しても陽性になり、偽陽性も増える。偽陽性を排除するためにはCt値を17以下にしなければならず、35を超すと偽陽性の比率は97%になるとも報告されている。ちなみに、2020年3月19日に国立感染症研究所が出した「病原体検出マニュアル」のCt値は40だった。 アメリカの保健福祉長官が緊急事態に関する宣言をした翌月、3月9日の段階でもドナルド・トランプ大統領は通常の手段で対処できると考えていたと言われているが、11日に態度を変えた。12日にはヨーロッパ、イギリス、オーストラリアからの渡航をすべて停止、13日に保健福祉省はパンデミック政策の権限をCDCから国家安全保障会議へ、最終的には国土安全保障省へ移管する機密文書を発行した。ジェフリー・タッカーは10日に何かがあったと推測する。 彼の仮説は、3月10日にトランプが信頼する情報源がトランプに「極秘情報」を伝えた。教科書には載っていない恐ろしいウイルスが武漢の研究所から漏洩したと脅し、mRNAプラットフォームに関する20年間の研究の成果で、ワクチンを数か月で展開できるので、選挙の前にワクチンを配布できると保証したのではないかという推測だ。そうなれば再選は確実で、歴史に名を残すこともできると言われたかもしれない。 その結果、トランプはロックダウンを決断、経済を破壊。そして「ワクチン」というタグのつけられた遺伝子操作薬を数十億人が接種されることになった。WHOがパンデミックを宣言したかった理由は、この遺伝子操作薬を接種させることにあった可能性が高い。 この「COVID-19ワクチン」は人間の細胞へLNP(脂質ナノ粒子)に包まれたmRNAを送り込み、ウイルスのスパイク・タンパクを作らせるという仕組みだが、人間の免疫システムはスパイク・タンパクを病原体だと判断、攻撃するため、自己免疫疾患を引き起こす。 そこで「COVID-19ワクチン」には免疫を下げる仕掛けがあるのだが、それだけでなく人体も免疫抑制能力があるIgG4抗体を誘導する。つまりAIDS状態になり、通常なら問題のない微生物でも病気になり、癌も増える。またLNPは人体に有害であり、DNAやグラフェン誘導体の混入も報告されている。こうした危険な「COVID-19ワクチン」を世界規模で接種したが、日本以外の国は危険性を知り、2022年に接種を事実上やめている。 日本でも免疫に詳しい「名誉教授」たち、つまり大学を退職して「権力システム」から直接的な不利益を被る可能性の小さくなった人びとが科学的に「COVID-19ワクチン」の危険性を訴え、その声が広がっていく。一般の人びとも副作用の実態を知るようになった。 ところが、少なからぬ政治家、官僚、有力メディア、医薬品会社、医者、学者はCOVID-19騒動を推進し続け、信頼を失っていく。そうした中、参政党は「COVID-19ワクチン」の危険性を訴え、信頼されていったのだろう。そうした主張の裏で軍事、政治、経済などで「右翼的」ではあるが、支離滅裂なことを言っている。そうしたことが知られるようになったのは比較的最近のことだ。**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.23

トゥルシ・ギャバード国家情報長官は7月20日、FOXニュースのインタビューでバラク・オバマ前米大統領とその政権幹部が2016年大統領選挙について発言した。ドナルド・トランプ勝利の正当性を覆すため、オバマたちは「反逆的な陰謀」を企てたと非難したのだ。 彼女は18日、オバマ政権がアメリカをロシアとの核戦争へと向かわせようと意図的に行っていることを示す100ページ以上に及ぶ未編集の電子メール、メモ、高官級の通信を公表した。ロシアには2016年の選挙に干渉する「意図も能力も」なかったという結論を下した情報を覆すため、組織的に動いたことをそれらの文書は明らかにしている。 7月2日に開示された「2016年ロシア選挙介入に関するインテリジェンス・コミュニティ評価(ICA)のトレードクラフト・レビュー」は、2016年の大統領選挙でロシアがドナルド・トランプを当選させるために介入したとする情報機関の調査に疑問を投げかけていた。 オバマのほか、国家情報長官を務めていたジェームズ・クラッパー、CIA長官だったジョン・ブレナン、FBI長官だったジェームズ・コミー、国家安全保障問題担当大統領補佐官を務めていたスーザン・ライスたちが行ったことは「物語の構築」にすぎず、ロシアの関与を否定する情報分析をすべて破棄し、捏造された主張に置き換えたことを示唆しているとされている。 その「物語」のベースになったのは、イギリスの対外情報機関MI6の「元オフィサー」だというクリストファー・スティールが作成した報告書。そのスティールを雇ったのはフュージョンGPSなる会社で、その会社を雇ったマーク・エリアスなる人物はヒラリー・クリントン陣営や民主党全国委員会の顧問弁護士だ。 このスキャンダルはロバート・マラー特別検察官が調査、2019年に捜査を終結させ、疑惑は事実無根だったとする報告書をウィリアム・バー司法長官へ提出している。 ギャバードの調査はその結論を強化するものだが、その調査で追い詰められているグループはジェフリー・エプスタインのファイルでトランプ大統領を追い詰めようとするだろうが、そのファイルが実際に公開される可能性は小さい。世界の少なからぬ要人が失脚することになりかねないからだ。ファイルを握っているグループ(おそらくイスラエルやアメリカの情報機関)にしても、脅迫の材料が公開されてしまうと、脅迫に使えなくなってしまうので、封印したいだろう。**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.22

海上自衛隊の「あぶくま」型護衛艦(駆逐艦)をフィリッピン海軍へ売却する話が進んでいるようだ。8月にはフィリピンから専門家チームが日本へ派遣されるという。東アジアにおける日本の軍事的な存在感が高まっている。 5月15日にエグザビエル・ブランソン在韓米軍司令官は、対朝鮮だけでなく中国を牽制するためにも在韓米軍の役割を拡大する必要があると主張、韓国は「日本と中国本土の間に浮かぶ島、または固定された空母」だと表現している。中国やロシアとの関係を修復しようとしている韓国政府に対する圧力も強めるつもりなのだろう。 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は5月22日にドナルド・トランプ政権が韓国から約4500人のアメリカ軍を撤退させ、グアムを含むインド太平洋地域の他の地域に移転させる可能性を検討していると伝えているが、5月23日には国防総省のショーン・パーネル報道官は、アメリカが在韓米軍の削減を検討しているという報道を「事実無根」と否定していた。アメリカにとって台湾も「不沈空母」だ。 中曽根康弘は1983年1月にアメリカを訪問、その際にワシントン・ポスト紙の編集者や記者たちと朝食をとっている。その席上、彼はソ連のバックファイア爆撃機の侵入を防ぐため、日本は「不沈空母」になるべきだと語ったと報道されている。 中曽根は発言を否定しようとしたものの、インタビューが録音されていたことを知ると、「不沈空母」ではなくロシア機を阻止する「大きな空母」だと語ったのだと主張したのだが、このふたつの表現に本質的な差はない。日本列島はアメリカ軍がロシア軍を攻撃するための軍事拠点だと中曽根は認めたのである。 中曽根は首脳会談で日本周辺の「4海峡を完全にコントロールし、有事にソ連の潜水艦を日本海に閉じ込める」、また「ソ連のバックファイアー(爆撃機)の日本列島浸透を許さない」と発言。また「シーレーン確保」も口にしたが、要するに制海権の確保だ。 アメリカは第2次世界大戦後、日本列島から琉球諸島を経て台湾に至る弧状列島はアメリカにとってユーラシア大陸の東岸を侵略する拠点である。 アメリカのSAC(戦略空軍総司令部)は1956年に核攻撃計画を作成したが、それによると、ソ連、中国、そして東ヨーロッパの最重要目標に対しては水爆が使われ、ソ連圏の大都市、つまり人口密集地帯に原爆を投下することになっていた。 攻撃目標とされた大都市にはモスクワ、レニングラード(現在のサンクトペテルブルク)、タリン(現在はエストニア)、キエフ(現在のウクライナ)といったソ連の都市だけでなく、ポーランドのワルシャワ、東ドイツの東ベルリン、チェコスロバキアのプラハ、ルーマニアのブカレスト、ブルガリアのソフィア、中国の北京が含まれている。 そうした攻撃を実行する出撃拠点のひとつが沖縄。その沖縄では1950年代に「銃剣とブルドーザー」で土地が強制接収され、軍事基地化が推し進められた。1953年4月に公布/施行された布令109号「土地収用令」に基づいて武装米兵が暴力的に土地を接収、55年の段階で沖縄本島の面積の約13%が軍用地になっている。沖縄の軍事基地化はアメリカの先制核攻撃計画と結びつていた。 アメリカ国防総省系のシンクタンク「RANDコーポレーション」が発表した報告書によると、GBIRM(地上配備中距離弾道ミサイル)で中国を包囲する計画を彼らは持っている。 専守防衛の建前と憲法第9条の制約がある日本の場合、ASCM(地上配備の対艦巡航ミサイル)の開発や配備で日本に協力することにし、ASCMを南西諸島に建設しつつある自衛隊の施設に配備する計画が作成されたとされていた。自衛隊は2016年に与那国島でミサイル発射施設を建設、19年には奄美大島と宮古島、そして23年には石垣島でも施設を完成させている。その間、韓国へTHAADを持ち込んだ。 南西諸島にミサイル発射基地が建設されつつあった2017年11月、アメリカはオーストラリア、インド、日本とクワドの復活を協議、18年5月にはアメリカ太平洋軍をインド太平洋軍へ名称変更した。 ソ連が消滅した1991年12月、ネオコンを含む西側の好戦派はアメリカが唯一の超大国になり、好き勝手なことができる時代になったと考えたようで、92年2月には国防総省のDPG(国防計画指針)草案という形で世界制覇計画が作成された。作成の中心は国防次官を務めていたポール・ウォルフォウィッツだったことから、このDPG草案は「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」とも呼ばれている。 そのドクトリンには、ドイツと日本をアメリカ主導の集団安全保障体制に統合し、民主的な「平和地帯」を創設すると書かれている。ドイツと日本をアメリカの戦争マシーンに組み込み、アメリカの支配地域を作り出すということだ。 また、彼らが目指す第一の目的は、旧ソ連の領土内であろうとなかろうと、かつてソ連がもたらした脅威と同程度の脅威をもたらす新たなライバルが再び出現するのを防ぐことだとしている。西ヨーロッパ、東アジア、西南アジアが成長することを許さないということだが、東アジアには中国だけでなく日本も含まれている。1990年代以降の日本を見れば、その意味がわかる。**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.21
西側諸国は「形勢を逆転さえる高性能兵器」をウクライナへ送り込んできたが、全てロシア軍の兵器に破壊されている。その一例がアメリカのM1A1エイブラムス戦車だ。 2023年末から供与され、24年2月から戦闘に使われ始めた31両のうち、27両が破壊されたりロシア軍に奪い取られていると伝えられている。ウクライナ軍はエイブラムス戦車のうち87%を失ったわけだ。ドイツのレオパルト2A6戦車やイギリスのチャレンジャー2も同じように破壊されている。 現代の戦闘では航空兵力の支援がない戦車はひとたまりもない。ウクライナ軍、つまりNATO側の防空システムも脆弱で、しかも航空系力はロシア軍が圧倒しているわけで、こうした結果になるのは必然だった。「無敵のアメリカ軍」とか「旧式のロシア兵器」といった御伽話の中で生きてた西側の人びとの中には、今でも現実を受け入れられない人がいるようだ。 ウクライナの場合、兵士を訓練する時間的な余裕がなかったとも言われている。アメリカからM1エイブラムズ戦車を購入したイラクやサウジアラビアなどの場合、訓練期間は5年から7年だというが、ウクライナでそれだけの時間をかけて訓練したとは思えない。NATO側はソ連時代のT-72と現在ロシア軍が使っているT-72は別物だということを理解していなかった可能性もある。現在のT-72には爆発反応装甲がついているだけでなく、暗視装置、熱線暗視装置、射撃統制システムなどが装備されている。勿論、T-90は格段に性能が向上している。 M1A1エイブラムズやレオパルト2は砲弾の装填を乗員が行うが、現在のT-72やT-90には自動装填装置があるため、乗員の人数はエイブラムズやレオパルトが4人であるのに対し、T-72やT-90は3名。訓練しなければならない兵士の数が違うとも言える。別の国の戦車を統制することも難しい。 死傷者を比較してもウクライナ軍の劣勢は明確。戦死者の遺体交換を見ると、今年5月はウクライナ兵909名に対し、ロシア兵は34名、約27対1だが、これは戦死者数の比率が反映されていると考えられている。 戦場において発射した砲弾の数は死傷者数に反比例すると言われている。発射した砲弾の数は6対1から10対1でロシア軍が上回るので、ロシア軍の死傷者数はウクライナ軍の6対1から10対1だと推測できるが、ロシア軍は自軍の兵士の死傷者をできるだけ少なくする作戦を立てていることから、さらに少ないと言われている。 ウクライナの兵士不足は街頭での様子でも推測できる。歩いている男性を徴兵担当者が拉致する様子を撮影した少なからぬ映像が世界に発信されている。最近では家から引き摺り出している映像もある。拉致された人は十分な訓練を受けないまま前線に送られ、数週間で殺されているともいう。 こうした兵士不足は2023年の段階ですでに深刻だった。この年の8月31日までイギリスの国防大臣を務めていたベン・ウォレスは同年10月1日、テレグラフ紙に寄稿した論稿の中でウクライナ兵の平均年齢はすでに40歳を超えていると指摘している。 今後、戦況が劇的に変化するというようなことはないだろう。ウクライナ軍、つまりNATO軍の敗北は決定的なのである。そこで西側は停戦に持ち込み、「勝利」を演出しつつ戦力を増強、ロシアを攻撃するチャンスを待とうとしているが、「ミンスク合意」で懲りているロシア政府は応じない。大統領の任期が切れているウォロディミル・ゼレンスキーをロシア政府は正当な交渉相手とも見ていない。ウクライナや西側ではゼレンスキーを排除しようという動くが出ている。**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.20

アゼルバイジャンのイリハム・アリエフ大統領は6月27日、イランの新任特命全権大使の信任状を受け取ったと伝えられている。アゼルバイジャンはNATOやイスラエルが攻撃の拠点として使っている国だが、こうした話を否定する動きだ。6月1日に実行されたウクライナのSBUによるロシアの戦略核基地に対する攻撃、あるいは6月13日からイスラエルが始めたイランに対する攻撃でも使われたと言われていた。 これに対し、イスラエル軍はイラク北部やシリア北東部にあるクルド人の支配地域からイランの西アゼルバイジャン州、東アゼルバイジャン州、さらにアルダビール州を経てカスピ海へ出て、そこから南下してテヘランなどを奇襲攻撃したという見方がある。アゼルバイジャンの方角からテヘランへミサイルやドローンは向かったのだが、アゼルバイジャンで発射されたわけではないというのだ。 イラクのクルドはバルザニ家が率いていたが、その家に所属するムスタファ・バルザニは1960年代の後半からイスラエルの情報機関モサドのオフィサーだったと言われ、その息子であるマスード・バルザニもイスラエルの影響下にあるという。イスラエルがこの地域からミサイルやドローンを発射しても不思議ではない。 イランとの関係が悪化していないようなアゼルバイジャンだが、ロシアと関係は悪化しているように見える。アゼルバイジャンではロシア人ジャーナリストが弾圧され、その一方でロシアではアゼルバイジャン系犯罪組織の摘発が強化されているのだ。 ソ連消滅後、ボリス・エリツィン時代のロシアでは国民の資産が不正な手段で国外の強大な私的権力に奪われ、その手先として活動していた一部のロシア人も巨万の富を築いた。「オリガルヒ」と呼ばれる人びとだが、そのオリガルヒが犯罪組織と連携した。 ウラジミル・プーチン政権はオリガルヒの力を弱め、政府に従属することを求めたが、少なからぬ富豪はロンドンやイスラエルへ逃げた。ロンドンに富豪が逃げ込めば、シティへ大量の資金が流れ込む。そこでロンドンは「ロンドングラード」と呼ばれるようになった。 西側諸国が反プーチンの象徴に仕立てたアレクセイ・ナワリヌイもそうした流れと無関係ではない。彼の妻の父親、ボリス・アブロシモフは元KGBで、ロンドンではロシア人の財産を管理する銀行家だったのである。 犯罪組織のネットワークも世界へ広がったはずだが、CIAは工作の手先として、犯罪組織やカルトをしばしば使う。イスラエルの場合、ウイリアム・ケイシー元CIA長官の友人であるブルース・ラッパポートはロバート・マクスウェルを介し、ロシア暗黒街におけるボスの中のボスと言われたセミオン・モギレビッチと結びついていた。この話はイスラエル軍の情報機関AMANの局長を務めた後に参謀総長に就任、1999年7月から2001年5月まで首相を務めたエフード・バラクの話だ。(Whitney Webb, “One Nation Under Blackmail Vol. 1,” Trine Day, 2022) アゼルバイジャン系の犯罪組織もアゼルバイジャン系の実業家と結びつき、その背後に西側の情報機関が存在している可能性がある。ソ連消滅後に出現した「実業家」は犯罪組織と関係があり、その犯罪組織は内外の情報機関と結びついている可能性がある。ロシアの内務省やFSB(連邦保安局)が犯罪組織を国家安全保障上の問題だと認識しても不思議ではない。この問題はイランにとっても深刻だ。**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.19

イスラエル空軍は7月16日、シリアの首都ダマスカスにある同国軍の司令部と大統領官邸付近のほか、ISNAテレビ局を攻撃した。バシャール・アル・アサド政権が倒されてからシリアではアラウィー派だけでなくシーア派やキリスト教徒を含む少数派が殺戮の対象になっていたが、ここにきてドゥルーズ派の武装勢力とアフマド・アル-シャラア(アブ・モハメド・アル-ジュラニ)暫定政権の部隊が軍事衝突している。 アル-シャラアはダーイッシュ(ISIS、IS、イスラム国などとも表記)の指導者だった人物で、アサド政権を倒した当時はHTS(ハヤト・タハリール・アル・シャム)を率いていた。このHTSはアル・カイダ系のアル・ヌスラ戦線を改名した組織で、その前身はAQI(イラクのアル・カイダ)だ。HTS時代、彼はカタールから資金を、トルコから軍事的な支援を、アメリカからは情報機関の支援を、そしてイスラエルからはプロパガンダの支援を受けていた。そのイスラエルがアル-シャラア政権を攻撃し始めたのだ。 2001年9月11日にニューヨークの世界貿易センターとバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃された直後、ジョージ・W・ブッシュ大統領は「アル・カイダが実行した」と主張、そのアル・カイダとイラクのサダム・フセイン政権を結びつけることどえイラクへの先制攻撃を正当化した。 フセイン政権がアル・カイダ系武装集団を暴力的に弾圧していたことは有名で、アメリカ政府が主張していた「大量破壊兵器」のはなしも嘘だということも明確だったが、西側の有力メディアはブッシュ・ジュニア政権の「御伽話」を世界に振り撒き、それを信じた人もいたようだ。 そもそも、「アル・カイダ」なる組織は存在しない。イギリスの外相を1997年5月から2001年6月まで務めたロビン・クックが05年7月に書いているように、「アル・カイダ」とはCIAの訓練を受けた「ムジャヒディン」の登録リストを意味し、プロジェクトが決まると、そのリストから戦闘員を選ぶだけだ。 アル-シャラア政権はトルコとの関係が強く、イスラエル政府はドゥルーズ派を利用してトルコの影響力を弱めようとしていると見られている。イスラエルはゴラン高原を不法占拠してきたが、隣接するシリア南西部に軍事侵攻、支配地域を広げようとしている。アル-シャラアはこれまでイスラエルを攻撃せず、パレスチナでの住民虐殺も容認してきたが、ここにきて自分たちもイスラエル/欧米帝国主義国に攻撃されるようになった。 ウラジーミル・ジャボチンスキーがはじめた「修正主義シオニスト世界連合」はユーフラテス川とナイル川に挟まれた地域をシオニストが支配するという「大イスラエル主義」を掲げてきたが、アメリカ時代のジャボチンスキーが秘書にしていたベンシオン・ネタニヤフの息子で現イスラエル首相のベンヤミン・ネタニヤフもこの構想(妄想)を抱いている。 第1次世界大戦当時、イギリスやフランスはオスマン帝国を解体して中東全域を支配しようと目論み、1916年にはイギリスの外交官だったマーク・サイクスとフランスの外交官だったジョルジュ・ピコが秘密協定を結んでいる。いわゆる「サイクス-ピコ協定」だ。 おそらくイギリスが支配の拠点として作り上げることになるのがイスラエルであり、そのためのバルフォア宣言。フサイン-マクマホン協定はオスマン帝国を解体するための出まかせのように思える。 そして現在、アメリカ、イギリス、フランスはトルコを抑え込み、イスラエルを利用して中東全域を支配するつもりなのかもしれない。イランの現体制が存続することも彼らは容認できないはずだ。**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.18
国連人権理事会が2021年に設置を決めた「パレスチナ占領地に関する独立国際調査委員会」の委員3名、クリス・シドティ、ナビ・ピレイ、ミルーン・コタリが辞表を提出した。7月9日には国連のパレスチナ問題担当特別報告者であるフランチェスカ・アルバネーゼに対し、ドナルド・トランプ大統領は「制裁」を課しているいるが、委員会のメンバーはアメリカからの「制裁」を恐れたのではないかとも言われている。 今回辞任した3名やアルバネーゼはイスラエルのパレスチナにおける虐殺に批判的で、イスラエルを支援しているアメリカやヨーロッパ諸国から非難されていた。イスラエルは欧米が中東地域を支配するための拠点であり、欧米の帝国主義国に代わって「汚い仕事」をしてきたとも言われている。欧米諸国とイスラエルはイスラエルによるパレスチナ人虐殺を批判する人に「反ユダヤ主義者」というタグをつけて攻撃、虐殺を含む弾圧を正当化してきた。 パレスチナ人虐殺の背景にあるのは「ユダヤ主義」ではなく、「シオニズム」である。シオニズムとは「シオンの地」へ帰るという考え方。キリスト教で「旧約聖書」と呼ばれている書物を歴史書であるかのように扱うシオニストがシオンをパレスチナだとしているだけのことだ。 一般的に「近代シオニズムの創設者」とされている人物は1896年に『ユダヤ人国家』という本を出版したセオドール・ヘルツルだが、その前からシオニズムという考え方は存在した。海賊行為で富を蓄積していたエリザベス1世の時代(1593年から1603年)、イングランドに出現した「ブリティッシュ・イスラエル主義」が始まりだと考えられている。 その当時、イングランドの支配層の間で、アングロ-サクソン-ケルトは「イスラエルの失われた十支族」であり、自分たちこそがダビデ王の末裔だとする信じ、人類が死滅する最後の数日間にすべてを包括する大英帝国が世界を支配すると予言されているという妄想が広まっていた。 イギリスや西側世界にシオニズムを広めた人物としてブリティッシュ外国聖書協会の第3代会長を務めた反カトリック派のアントニー・アシュリー-クーパー(シャフツバリー伯爵)が知られているが、17世紀初頭にイギリス王として君臨したジェームズ1世も自分を「イスラエルの王」だと信じていたという。 その息子であるチャールズ1世はピューリタン革命で処刑されたが、その革命で中心的な役割を果たしたオリヴァー・クロムウェルをはじめとするピューリタンも「イスラエルの失われた十支族」話を信じていたとされている。クルムウェルはユダヤ人をイングランドへ入れることを許可したが、稼ぎ方を海賊行為から商取引へ切り替えるためだった灯されている。ユダヤ人は商取引や金貸しに長けていた。 エリザベス1世が統治していた時代、イングランドはアイルランドを軍事侵略、先住民を追放し、イングランドやスコットランドから入植者をアイルランドのアルスター地方へ移住させた。 ピューリタン革命の時代にもアイルランドで先住民を虐殺している。クロムウェルは革命で仲間だったはずの水平派を弾圧した後にアイルランドへ軍事侵攻して住民を虐殺したのだ。 侵攻前の1641年には147万人だったアイルランドの人口は侵攻後の52年に62万人へ減少。50万人以上が殺され、残りは「年季奉公」や「召使い」、事実上の奴隷としてアメリカなどに売られたと言われている。 ダブリン出身でプリマス・ブレザレンを創設したジョン・ネルソン・ダービー牧師は1830年代から宗教活動を始めたが、彼はキリストの千年王国がすべての文明を一掃し、救われるのは選ばれた少数のグループだけだと考えていた。 世界の邪悪な力はエゼキエル書で特定されている「ゴグ」であり、そのゴグはロシアを指すと主張、ユダヤ人がイスラエルに戻って神殿を再建したときに終末を迎えるとしている。つまりキリストが再臨するということ。シオニストにとって対ロシア戦争とパレスチナ制圧は一体のことである。 19世紀のイギリス政界では反ロシアで有名なヘンリー・ジョン・テンプル(別名パーマストン子爵)が大きな影響力を持っていた。彼は戦時大臣、外務大臣、内務大臣を歴任した後、1855年2月から58年2月まで、そして59年6月から65年10月まで首相を務めている。ビクトリア女王にアヘン戦争を指示したのもパーマストン卿だ。 このように始まったシオニズムは19世紀に帝国主義と一体化し、パレスチナ侵略が具体化してくる。イギリス政府は1838年、エルサレムに領事館を建設し、その翌年にはスコットランド教会がパレスチナにおけるユダヤ教徒の状況を調査、イギリスの首相を務めていたベンジャミン・ディズレーリは1875年にスエズ運河運河を買収。そして1917年11月、アーサー・バルフォアがウォルター・ロスチャイルドへ書簡を出してイスラエル建国への道を切り開く。いわゆる「バルフォア宣言」だ。 ディズレーリが書いた小説『コニングスビー』の中に、次のようなことが書いてある。「(ジョン・)ハムデン(オリバー・クロムウェルの従兄弟)による最初の運動から1688年の最後の最も成功した運動(名誉革命)に至るまで、イングランドにおけるホイッグ党指導者たちの最大の目的はベネツィア共和国をモデルとした高貴な貴族制の共和国をイングランドに樹立することであり、当時のあらゆる思索的な政治家がそれを研究し称賛することだった。」 今でもイギリスはイスラエルの背後にいるのだが、中でもサー・トレバー・チン卿が最も重要な人物だとされている。すでに実業の世界から引退しているが、イギリスの政界で最も影響力のある人物のひとりだ。 2005年には「イスラエル・英国ビジネス協議会」の共同議長としてイスラエルを訪れ、アリエル・シャロン首相の輸出国際協力会議に参加。2018年にはトニー・ブレア元首相をはじめとする英国政界の有力者数名が出席したハイム・ヘルツォグ元イスラエル大統領の盛大な祝賀会を共同主催している。 チン卿は1980年代以降、イギリスの二大政党である保守党と労働党の圧力団体である労働党イスラエル友好協会(LFI)と保守党イスラエル友好協会(CFI)の両方に資金を提供、イスラエルのパレスチナ人虐殺に批判的だったジェレミー・コービンを攻撃する一方、キア・スターマーが首相になるのと助けた。昨年10月にチン卿はイギリスの外務省と密かに会談し、イスラエルへの武器輸出について助言を行ったともいう。 スターマーは2020年にチン卿から5万ポンドを受け取って以来、「無条件でシオニズムを支持する」と公言、親イスラエル色を強めている。その前、彼は労働党のパレスチナ中東友好協会に所属していた。 トニー・ブレアもチンをスポンサーにしていた政治家のひとり。イギリスの労働党は1982年9月にレバノンのパレスチナ難民キャンプ、サブラとシャティーラで虐殺事件が引き起こされた後、親イスラエルから親パレスチナへ変化していたが、それを親イスラエルへ引き戻したのがブレアにほかならない。 ブレアは労働党を親イスラエルへ引き戻しただけでなく、社会民主主義を放棄して大企業に接近していく。チン卿はそのブレアの大口献金者だったが、富豪のマイケル・レビーも有力スポンサー。 ブレアとイスラエルとの関係は遅くとも1994年1月に始まっている。このときにブレアは妻のチェリー・ブースと一緒にイスラエル政府の招待で同国を訪問、帰国して2カ月後にロンドンのイスラエル大使館で富豪のマイケル・レビーを紹介されたのだ。 その2カ月後、つまり19944年5月に労働党の党首だったジョン・スミスが心臓発作で急死、その1カ月後に行われた新党首を決める投票でブレアが勝利している。レビーやLFIのようなイスラエル・ロビーを資金源にしていたブレアは労働組合の影響を受けなかった。 アメリカにおけるイスラエル・ロビーの強大さは有名だが、イギリスのイスラエル・ロビーも強力だ。こうしたネットワークがパレスチナでの住民虐殺を支援している。**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.17
ドナルド・トランプ米大統領は思い通りに事が進まないため、苛立っている。ウクライナにしろ、イランにしろ、アメリカ政府の情勢分析が間違っていたからだが、その不満をロシアのウラジミル・プーチン大統領にもぶつけた。トランプは7月14日、ロシア政府が自分の要求を50日以内に呑まなければ、ロシアに100%の関税をさらに課すほか、ウクライナに防空ミサイルを供与するとしている。 大統領選挙の最中からトランプはウクライナでの戦闘はすぐに終わらせると大見得を切っていたが、ロシア政府はウクライナの非軍事化と非ナチ化、そして西側諸国は凍結したロシアの資産を返還し、ウクライナに対しては中立の立場の維持と領土の「現実」を認めるように要求している。それが受け入れられなければ、軍事的に解決するという姿勢だ。「ミンスク合意」の轍を踏むことはないだろう。 しかし、トランプの関税政策は世界経済を混乱させるだけで、ロシア経済には打撃になっていない。プロレス興行におけるパフォーマンスと同じ程度の演出でロシアと戦っているようなイメージを振りまこうとしているのかもしれない。 それに対し、ロシア軍は14日から15日にかけて、ウクライナの防空システムは軍事飛行場をドローンやミサイルで攻撃した。ウクライナの公式発表でも23機以上のドローンが防空網を突破、7か所の重要インフラに打撃を与えた。 報道によると、ロシア軍はウクライナ全土の飛行場を標的にし、ムィコラーイウのマルティニフカ飛行場はドローンの攻撃で大規模な火災が発生、ザポリージャ空港では航空機格納庫と管理棟が破壊され、チェルニーヒウ郊外の飛行場も攻撃され、ジトーミルの軍用飛行場付近でも爆発が報告されている。オデッサの戦略電子情報センターには短距離弾道ミサイルのイスカンデルMが命中した。ロシア軍はアメリカ製防空システムのパトリオットだけでなく、ドイツ製のIRIS-T発射装置やP-18レーダー基地も破壊している。 オデッサは戦略的に重要な港湾都市で、西側の中にはここを拠点にして黒海を支配しようと目論んでいる国もある。2014年5月2日、キエフのクーデター政権はネオ・ナチの一団をオデッサへ送り込み、反クーデター派の住民を虐殺、その地域を制圧したが、西側にとってそれだけ重要な場所だということでもある。そのオデッサにフランス軍が入ったという話も伝えられているが、ロシア軍は容赦なく攻撃するだろう。**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.16

ドナルド・トランプは大統領選挙の当時からウクライナでの戦闘を止めると主張していたが、風向きが変わった。トランプは7月7日、アメリカはウクライナへの武器供給を継続すると述べている。決別するはずのネオコンに取り込まれたようだ。 アメリカのネットワーク局NBCニュースは7月2日、ピート・ヘグゼス国防長官がウクライナへのミサイルと弾薬の輸送を一時停止するよう命じたと伝えた。同省の政策責任者であるエルブリッジ・コルビーが主導した見直しでアメリカ軍の備蓄兵器が枯渇していることを確認、それを懸念してのことだった。国防長官の発言を大統領が否定したわけだ。 NATOに加盟しているヨーロッパ諸国はアメリカよりも厳しい状況にあり、ウクライナのクーデター体制を支援してきた西側諸国はウクライナでロシアと戦争を継続することが難しくなっている。 こうしたことは2022年のうちに西側でも指摘されていたのだが、ロシアは経済的にも軍事的にも弱いと信じる西側の支配層は「簡単に勝てる」という思い込みのため、窮地に陥った。その窮地から抜け出そうと西側は有力メディアを使ったイメージ戦争を仕掛けているが、成功していない。 トランプの言うことを変えさせるため、ネオコンは故ジェフリー・エプスタインの問題を利用しているとも言われている。 1970年代にイスラエル軍の情報機関ERD(対外関係局)に所属、87年から89年にかけてイツァク・シャミール首相の特別情報顧問を務めたアリ・ベンメナシェによると、エプスタイン、ギレイン・マクスウェル、彼女の父親でミラー・グループを率いていたロバート・マクスウェルはいずれもイスラエル軍の情報機関、つまりアマンのために働いていた。ロバートは1960年代から、エプスタインとギレインは1980年代の後半からその情報機関に所属してたとベンメナシェは語っている。(Zev Shalev, “Blackmailing America,” Narativ, Septemner 26, 2019) トランプとエプスタインは親友だと言われているが、このふたりが知り合ったのは1987年。ほぼ同じ時期にギレインとエプスタインも知り合っている。この当時、ベンメナシェはイランやニカラグアの反革命ゲリラに対する秘密工作、いわゆる「イラン・コントラ事件」に加わっていた。 しかし、スキャンダルで有力者を脅迫し、操るという仕組みを作り出したのはエプスタインが最初ではない。第2次世界大戦の後に限っても、例えば1953年から54年にかけてジョセフ・マッカーシー上院議員の法律顧問として「赤狩り」に参加、後にドナルド・トランプの顧問弁護士になるロイ・コーンも同じことをしていた。 ちなみに、マッカーシーの情報源はJ・エドガー・フーバー。1935年6月から72年5月までFBI長官を務めた人物だ。これだけ長い間、長官を務められたのは、有力者の弱みを握っていたからだと言われている。 コーンは弁護士だが、彼のボスだったルイス・ローゼンスティールは禁酒法時代に大儲けしたひとり。ローゼンスティールの妻だったスーザン・カウフマンによると、元夫はCIAの秘密工作にも協力していたユダヤ系ギャングの大物であるメイヤー・ランスキーと親しかった。 こうした脅迫人脈はネオコンと重なるが、そのネオコンはソ連が消滅した直後の1992年2月、国防総省のDPG(国防計画指針)草案という形で世界制覇計画を作成した。その時の大統領はジョージ・H・W・ブッシュ、国防長官はディック・チェイニー、国防次官はポール・ウォルフォウィッツで、ウォルフォウィッツが中心になってDPG草案は書き上げられた。そこで、このDPG草案は「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」とも呼ばれている。 このドクトリンの目的は新たなライバルの出現を防ぐことにあり、その対象には旧ソ連圏だけでなく、西ヨーロッパ、東アジア、西南アジアも含まれる。ドイツと日本の場合、アメリカ主導の集団安全保障体制に組み入れて「民主的な平和地域」を創設する、つまり日本とドイツを自国の戦争マシーンに組み込むと宣言したのだ。 2014年2月にウクライナのビクトル・ヤヌコビッチ政権を倒したのもネオコン。NATOの訓練を受けたネオ・ナチの集団を利用したのだが、このネオ・ナチ体制への反発が強く、内戦になる。この戦闘は当初、反クーデター派が優勢だったため、ドイツやフランスが仲介する形で停戦が決まる。2014年の「ミンスク1」と15年の「ミンスク2」だ。 この停戦はクーデター政権の戦力を増強する時間稼ぎが目的だったことを、のちにアンゲラ・メルケル元独首相やフランソワ・オランド元仏大統領が認めている。この経験があるため、ロシア政府はウクライナ/NATOとの停戦に慎重だ。**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.15

シリアのアフマド・アル-シャラア(アブ・モハメド・アル-ジュラニ)暫定大統領が7月12日にアゼルバイジャンを訪問したが、それと並行してシリアとイスラエルの政府高官がバクーで会談したと報道されている。ゴラン高原やシリアにおけるイスラエル軍の駐留などが話し合われたようで、対イラン政策のほか、ヒズボラやパレスチナ武装勢力の武器なども問題にしているようだ。 アゼルバイジャンはイスラエルと緊密な関係にある国で、NATOやイスラエルが攻撃の拠点として使っている。6月1日に実行されたウクライナのSBUによるロシアの戦略核基地に対する攻撃、あるいは6月13日からイスラエルが始めたイランに対する攻撃でも使われたと言われ、イスラエルにとってアゼルバイジャンは兵站や情報収集の拠点でもある。 イランのIRIBテレビはアゼルバイジャンとの国境近くにあるイランの村の住民を取材、複数の住民がアゼルバイジャンからイランに向かって飛行するイスラエルのドローンを見たと語っている。中にはイスラエル軍の戦闘機も見たとしている。 アル-シャラアが率いていたHTS(ハヤト・タハリール・アル・シャム)はアル・カイダ系のアル・ヌスラ戦線を改名した組織で、その前身はAQI(イラクのアル・カイダ)。2001年9月11日にニューヨークの世界貿易センターやバージニア州アーリントンの国防総省本部庁舎(ペンタゴン)が攻撃された後、アメリカのジョージ・W・ブッシュ政権が「テロリストの象徴」に祭り上げ、世界侵略の口実に使った武装集団だ。 しかし、「アル・カイダ」という組織が存在しているわけではない。イギリスの外相を1997年5月から2001年6月まで務めたロビン・クックが05年7月に書いているように、「アル・カイダ」はCIAの訓練を受けた「ムジャヒディン」の登録リストを意味する。プロジェクトが決まると、そのリストから戦闘員を選ぶだけだ。 2011年2月にリビアを攻撃した際にはLIFG(リビア・イスラム戦闘団)というアル・カイダ系の武装勢力を編成、NATO軍と連携させてムアンマル・アル・カダフィ体制を同年10月に倒し、カダフィを虐殺している。 2011年3月にはシリアに対する攻撃を開始するが、そこでもアル・カイダ系武装勢力が使われた。リビアで目的を達成した後、アメリカをはじめとする侵略戦争の黒幕国は戦闘員や兵器をリビアからシリアへ移動させ、さらに軍事支援を強化するのだが、それを危険だと警告するアメリカの機関が存在した。アメリカ軍の情報機関DIA(国防情報局)である。 DIAが2012年8月にホワイトハウスへ提出した報告書によると、外部勢力が編成した反シリア政府軍の主力はAQIであり、その集団の中心はサラフィ主義者やムスリム同胞団だと指摘、さらにオバマ政権の政策はシリアの東部(ハサカやデリゾール)にサラフィ主義者の支配地域を作ることになると警告している。その時にDIAを率いていた軍人がマイケル・フリン中将にほかならない。 この警告通り2014年には新たな武装集団ダーイッシュが登場する。この武装集団はこの年の1月にイラクのファルージャで「イスラム首長国」の建国を宣言、6月にはモスルを制圧。その際にトヨタ製の真新しい小型トラック、ハイラックスを連ねてパレードし、その後、首を切り落とすなど残虐さをアピールし、NATO軍の介入を誘った。 その一方、オバマ大統領は政府の陣容を好戦派へ入れ替える。例えば2015年2月に国防長官をチャック・ヘーゲルからアシュトン・カーターへ、同年9月には統合参謀本部議長をマーチン・デンプシーからジョセフ・ダンフォードへ交代させた。 ところが、デンプシーが統合参謀本部議長の座を降りてから5日後の9月30日、ロシア軍がシリア政府の要請で介入し、ジハード傭兵を攻撃して占領地域を急速に縮小させていく。そこでアメリカはクルドを新たな傭兵として使い始めるが、クルドを敵視するトルコは侵略同盟から離脱。理由は不明だが、ロシア軍はイドリブへ逃げ込んだアル・カイダ系武装勢力にとどめを刺さなかった。その後、アサド政権は経済戦争で疲弊、昨年11月27日にHTSがシリア軍を奇襲攻撃すると、呆気なくアサド政権は倒れてしまう。 そして作られたアル-シャラアを中心とする暫定政権は欧米やイスラエルと緊密な関係にあるのだが、シーア派やキリスト教徒を虐殺している。欧米諸国が支援しているキエフのクーデター体制もキリスト教の一派である正教会を弾圧しているのと似ている。 その政権を率いるアル-シャラアの側近として注目されているのがラザン・サフォーというイギリス系シリア人。この女性はムスリム同胞団の家庭に育った反アサド体制の活動家だが、バシャール・アル・アサド政権が倒れるまでシリアを訪れていない。 サフォーはロンドンで生まれ育ち、SOAS(東洋アフリカ研究学院)で学んだ人物。シリアで戦争は始まった直後、シリアの反体制派として名前を売っている。彼女の父親であるワリド・サフォーがムスリム同胞団の指導的な活動家だったことも影響したのだろう。ここでもムスリム同胞団がアメリカやイギリスの手先として動いている。**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.14
ロシア軍は7月4日にキエフを激しく攻撃して以来、ウクライナに対する攻撃を激化させている。7月4日には一晩に数百機のドローンとミサイルが投入されたという。その目標はウクライナ軍の基地だけでなく、NATO軍の施設も含まれ、NATO加盟国の軍人が死亡したとも伝えられている。ロシアにとってこの戦争の真の相手はNATOにほかならない。 この戦争は2022年2月24日に始まったとされている。実際は2014年2月にアメリカのバラク・オバマ政権がキエフでクーデターを成功させたところから始まった。 2月24日にロシア軍がウクライナの軍事基地や生物化学兵器の研究開発施設などをミサイルで攻撃しはじめるが、その直後からイスラエルやトルコを仲介役とする停戦交渉が始まり、実現しそうだった。仲介役のひとりだったイスラエルの首相だったナフタリ・ベネットは交渉の内容を長時間のインタビューで詳しく話している。 ベネットは2022年3月5日にモスクワへ飛んでウラジミル・プーチン露大統領と数時間にわたって話し合い、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領を殺害しないという約束をとりつけることに成功、その足でベネットはドイツへ向かってオラフ・ショルツ首相と会っている。 その3月5日、SBU(ウクライナ保安庁)のメンバーがキエフの路上でゼレンスキー政権の交渉チームで中心的な役割を果たしていたデニス・キリーエフを射殺した。クーデター後、SBUはCIAの配下で活動している治安機関だ。 停戦交渉はトルコ政府の仲介でも行われ、やはり停戦でほぼ合意に達している。その際に仮調印されているのだが、その文書をプーチン大統領はアフリカ各国のリーダーで構成される代表団がロシアのサンクトペテルブルクを訪問した際に示している。 2023年6月17日に会談した際、プーチン大統領は「ウクライナの永世中立性と安全保障に関する条約」と題する草案を示しているのだ。その文書にはウクライナ代表団の署名があった。つまりウクライナ政府も停戦に合意していたのだ。 それに対し、2022年4月9日、イギリスの首相だったボリス・ジョンソンがキエフへ乗り込み、ロシアとの停戦交渉を止めるように命令(ココやココ)、その後も姿勢を変えることはなかった。 4月30日にはナンシー・ペロシ米下院議長が下院議員団を率いてウクライナを訪問、ゼレンスキー大統領に対してウクライナへの「支援継続」を誓い、戦争の継続を求めた。こうした動きを見てロシア政府は話し合いで問題を解決できないと腹を括ったようで、2022年9月に部分的動員を発表した。 アメリカ/NATOは2014年から22年にかけてキエフのクーデター体制の戦力を増強、反クーデター軍が支配する東部のドンバス(ドネツクとルガンスク)に対する大規模な攻撃を計画していたが、その直前にロシア軍が動いたのだ。 当初、ウクライナ軍の戦力はロシア軍の数倍あったと言われているものの、戦況はロシア軍が有利。アメリカが兵器を供給するものの、兵力が減少していき、イギリスの国防相を務めていたベン・ウォレスは2023年10月1日にテレグラフ紙へ寄稿した論稿の中で、ウクライナ兵の平均年齢はすでに40歳を超えていると指摘していた。現在の状況は当時よりはるかに状況は悪化、徴兵担当者が街中で男性の通行人を拉致する様子が撮影され、世界に発信されている。 そうしたこともあるのか、最近はウクライナで活動するNATO加盟国の軍人が増えているようで、ロシア軍はそうした軍人も攻撃の対象にしている。停戦が実現すれば、その間にウクライナ側へ兵器を供給するだけでなく、NATO各国の軍人を入れようとしていたが、ミンスク合意で煮湯を飲まされたロシア政府はその手に乗らない。アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなどの政府がイライラしているのは、そのためだろう。 テロ攻撃で対抗するしかなくなっているNATO側は今年6月1日、SBUを使い、ロシア領内のレニャ(ムルマンスク)、ベラヤ(イルクーツク)、イバノボ(イバノボ)、ディアギレフ(リャザン)、ウクラインカ(アムール)の戦略核基地をドローンやミサイルで攻撃した。 ドローンやミサイルは大半がロシア領内から発射されたと見られているが、この攻撃には地上の工作員だけでなく、協力者のネットワークや衛星を利用した情報収集や誘導が必要。アメリカやイギリスの情報機関、つまりCIAやMI6が支援した可能性が高い。 アメリカやイギリスをはじめとする西側諸国は、1991年12月にソ連が消滅した段階で「勝った」と信じ、ロシアを含む旧ソ連圏を食い物にする一方、世界を制覇するプロジェクトをスタートさせた。それを本格化させたのが2001年9月11日の出来事にほかならない。 ところが、その直後からそうした目論見が崩れ始める。ウラジミル・プーチンを中心にして、ロシアが再独立を実現してしまったのだ。ロシアを屈服させたという前提で始まった世界制覇プロジェクトは揺らぎ始めるのだが、プロジェクトを始めたネオコンたちはロシアを再植民地化しようとしはじめ、ロシアは防衛戦争を始めたわけだ。 ロシアを制覇しようとする計画がイギリスに現れるのは、遅くとも19世紀のこと。ブリティッシュ・イスラエル主義と帝国主義が一体化、イギリス政府は1838年にエルサレムで領事館を建設、その翌年にはスコットランド教会がパレスチナにおけるユダヤ教徒の状況を調査、イギリスの首相を務めていたベンジャミン・ディズレーリは1875年にスエズ運河運河を買収した。 そのディズレーリが書いた小説『コニングスビー』の中に、次のようなことが書いてある。「(ジョン・)ハムデン(オリバー・クロムウェルの従兄弟)による最初の運動から1688年の最後の最も成功した運動(名誉革命)に至るまで、イングランドにおけるホイッグ党指導者たちの最大の目的はベネツィア共和国をモデルとした高貴な貴族制の共和国をイングランドに樹立することであり、当時のあらゆる思索的な政治家がそれを研究し称賛することだった。」 名誉革命以降、イギリスは寡占体制になり、それは西ヨーロッパ全域に広がった。アメリカもEUもそうした体制だ。ドナルド・トランプには「大統領」というタグがつけられているが、そうした体制の中で彼は権力者として振る舞うことはできない。 体制を動かしているネットワークはロシアや中国を制圧、世界を支配するという長期戦略を持っている。これを放棄することはない。そうした勢力とロシアはウクライナで戦っているのであり、どちらかが滅びない限り、戦争が今年で終わることはない。ロシア政府はそう認識しているはずで、長期戦の構えだ。西側諸国もわかっているだろうが、問題はロシアに押されている現状。日本に対しても、ロシアや中国と敵対しろと圧力をかけてくるだろうが、それに従うと日本は滅ぶ。**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.13
アメリカのドナルド・トランプ政権は7月9日、国連のパレスチナ問題担当特別報告者であるフランチェスカ・アルバネーゼに「制裁」を課した。パレスチナにおける大量殺戮に加担している人びとの責任を問おうとしたきた彼女が6月30日に発表した報告書への報復だ。 アルバネーゼが6月30日に発表した報告書には、国際法に違反したパレスチナの占領と大量殺戮によって数十億ドルもの利益を得た企業として、パランティア・テクノロジーズ、ロッキード・マーティン、アルファベット(グーグル)、アマゾン、IBM(インターナショナル・ビジネス・マシン・コーポレーション)、キャタピラー、マイクロソフト、MIT(マサチューセッツ工科大学)などの企業/機関、ブラックロックをはじめとする金融機関、保険会社、不動産会社、慈善団体など60社以上がリストアップされ、「イスラエルの占領経済をジェノサイド経済へ転換」させたと指摘している。 マイクロソフトの場合、イスラエル国内のオフィスで1000人以上の元イスラエル軍兵士と情報機関員を雇用、シアトルの本社、そしてマイアミ、サンフランシスコ、ボストン、ニューヨークの各オフィスにも数十人の元イスラエル軍兵士を雇い入れている。そのうち300人以上はイスラエルの「元」情報機関員だという。 また、マイクロソフトは2000年以降、イスラエルのテクノロジー企業17社を買収したが、そうした企業はすべてイスラエル軍の情報部隊に所属していた元情報部員によって設立された企業。イスラエルの電子情報機関である8200部隊はアメリカのNSAやイギリスのGCHQと緊密な関係にあり、各国政府や国際機関の要人も電子的に監視、弱みを握り、操る道具にもしている。 携帯電話の情報、例えば通話、電子メール、写真、GPSデータ、アプリ関係の情報などを盗み出せる「ペガサス」というソフトウェアを開発したNSOグループはイスラエルを拠点とする企業。その創設者も8200部隊の「出身」だ。8200部隊の「出身者」が設立した企業は少なくないが、いずれも情報活動の「フロント企業」だと見られている。そうした企業を買収しているグーグルもイスラエル、アメリカ、イギリスの情報機関と緊密な関係にあるわけだが、この3カ国の情報機関はパレスチナにおける大量殺戮の共犯者だとも言える。勿論、共犯者にはこの3カ国を含む欧米諸国の政府も含まれる。 今年1月9日、医学雑誌「ランセット」は2023年10月7日から24年6月30日までの間にガザで外傷によって死亡した人数の推計値が6万4260人に達し、そのうち女性、18歳未満、65歳以上が59.1%だとする論文を発表した。ガザの保健省は同じ時期において戦争で死亡した人の数を3万7877人と報告、これでも衝撃的な数字だったのだが、それを大きく上回る。 「ハーバード大学学長およびフェロー」のウェブサイト「データバース」に掲載されたヤコブ・ガルブの報告書はさらに凄まじい。2023年10月7日にイスラエル軍とハマスの戦闘が始まる前には約222万7000人だったガザの人口が、ガルブによると、現在の推定人口は185万人。つまり37万7000人が行方不明だ。ガザは事実上の強制収容所であり、住民が逃走した可能性は小さい。つまり殺された可能性が高いと言える。 こうした大量虐殺の共犯者たちは大量虐殺を批判し、止めようとする人びとを「反ユダヤ主義者」だと攻撃、「過激派」や「テロリスト」といったタグをつけて排除しようとする。そうした弾圧を進めるため、彼らにとって都合の良い思考を教育、メディア、芸術などで広め、警察や司法を利用して強制しはじめた。「ガザでパレスチナ人を虐殺しているシオニストは米英支配層と根が同じ」(櫻井ジャーナル、2024年5月10日) ガザでイスラエル軍が行っている軍事作戦(民族浄化作戦)はアメリカ、イギリス、ドイツ、インドなどの支援がなければ不可能である。そうしたガザにおける破壊と虐殺に抗議する活動をアメリカやイギリスの学生がキャンパスで始めた。政府や大学当局は「反セム主義」だと批判、警官隊を導入して弾圧に乗り出したものの、抗議の声は収まっていない。 半年後に大統領選挙を控えているジョー・バイデン政権は「虐殺者」というイメージを払拭しようとしているようだ。ロイド・オースチン国防長官がイスラエルへの高積載弾薬納入を一時停止したと述べたのもそうした理由からだろうが、アメリカ政界における強力なロービー団体のAIPACはそうした話を非難している。 少なからぬ人が指摘しているように、イスラエル軍の攻撃能力はアメリカなどからの支援がなければ急速に低下する。これまでイスラエル軍の攻撃が続いてきたのはアメリカなどからの支援が続いてきたからである。そうした支援の結果、3万数千人以上の人が殺され、そのうち約4割が子どもであり、女性を含めると約7割に達した。食糧支援活動に従事している人びと、医療関係者、ジャーナリストも狙われてきた。 イスラエル軍は5月6日、100万人とも150万人とも言われるパレスチナ人が避難しているラファに対する空爆、それに続く地上部隊の軍事侵攻を始めたが、オースチン長官の発言はそうした中でのこと。その後、イスラエル軍のダニエル・ハガリは、どのような意見の相違も解決できると語っている。アメリカの作戦支援はイスラエルにとって安全保障支援よりも重要だという。ラファへの軍事作戦が「限定的」であり、「制御不能」にならない限り、バイデン大統領は容認するとしているとも伝えられている。アメリカ政府は特定の兵器供給を停止する一方、他の兵器を裏で渡している可能性もある。イギリス、ドイツ、インドなどが供給量を増やしていることも考えられる。 アメリカ政府の承認なしにイスラエル軍が軍事作戦を始めることはないと言われている。イランに対する大規模な攻撃を実施しないという条件でアメリカ政府はイスラエル政府に対してラファ攻撃を認めたとエジプトの高官が語ったと伝えられていた。 イスラエルの「建国」をシオニストが宣言したのは1948年5月14日のこと。シオニストとはエルサレムの南東にあるシオンの丘へ戻ろうという「シオニズム運動」の信奉者で、ユーフラテス川とナイル川で挟まれている地域はユダヤ人の所有物だと考えていた。 シオニズムという用語を1893年に初めて使用したのはウィーン生まれのナータン・ビルンバウムで、近代シオニズムの創設者とされている人物は1896年に『ユダヤ人国家』という本を出版したセオドール・ヘルツルだが、その背後にはイギリスの強大な私的権力が存在していた。 イギリス政府は1838年、エルサレムに領事館を建設し、その翌年にはスコットランド教会がパレスチナにおけるユダヤ教徒の状況を調査している。 1868年2月から12月、74年2月から80年4月までの期間、イギリスの首相を務めたベンジャミン・ディズレーリは1875年にスエズ運河運河を買収したが、その際に資金を提供したのは友人のライオネル・ド・ロスチャイルドだ。(Laurent Guyenot, “From Yahweh To Zion,” Sifting and Winnowing, 2018)ディズレーリは1881年4月に死亡、その直後からフランス系のエドモンド・ジェームズ・ド・ロスチャイルドがテル・アビブを中心にパレスチナの土地を買い上げ、ユダヤ人入植者へ資金を提供しはじめる。 イギリスは第1次世界大戦(1914年7月から18年11月)の最中にフランスと「サイクス・ピコ協定」を結んでいる。オスマン帝国を解体し、両国で分割することを決めていたのだ。これは秘密協定だったが、ロシアの十月革命で成立したボルシェビキ政権によって明るみに出されたのである。 協定が結ばれた翌月の1916年6月にイギリス外務省アラブ局はアラブ人を扇動して反乱を起こさせた。その部署にはトーマス・ローレンス、いわゆる「アラビアのロレンス」も所属していた。その当時、イギリスはエージェントを後のサウジアラビア国王でワッハーブ派のイブン・サウドに接触させている。 パレスチナに「ユダヤ人の国」を建設する第一歩と言われる書簡をアーサー・バルフォアがウォルター・ロスチャイルドへ出したのは1917年11月のこと。これがいわゆる「バルフォア宣言」だ。 イギリスは1920年から1948年の間パレスチナを委任統治、ユダヤ人の入植を進めたが、1920年代に入るとパレスチナのアラブ系住民は入植の動きに対する反発を強める。 そうした動きを抑え込むため、デイビッド・ロイド・ジョージ政権で植民地大臣に就任したウィンストン・チャーチルはパレスチナへ送り込む警官隊の創設するという案に賛成、アイルランドの独立戦争で投入された「ブラック・アンド・タンズ」のメンバーを採用した。この組織はIRA(アイルランド共和国軍)を制圧するために設立され、殺人、放火、略奪など残虐さで有名だった。そして1936年から39年にかけてパレスチナ人は蜂起。アラブ大反乱だ。 1938年以降、イギリス政府は10万人以上の軍隊をパレスチナに派遣する一方、植民地のインドで警察組織を率いていたチャールズ・テガートをパレスチナへ派遣、収容所を建設する一方、残忍な取り調べ方法を訓練した。イギリス軍はパトロールの際、民間のパレスチナ人を強制的に同行させていたともいう。 委任政府は外出禁止令を出し、文書を検閲、建物を占拠、弁護人を受ける権利を停止する一方、裁判なしで個人を逮捕、投獄、国外追放している。この政策はイスラエル政府の政策につながる。 反乱が終わるまでにアラブ系住民のうち成人男性の10パーセントがイギリス軍によって殺害、負傷、投獄、または追放された。植民地長官だったマルコム・マクドナルドは1939年5月、パレスチナには13の収容所があり、4816人が収容されていると議会で語っている。その結果、パレスチナ社会は荒廃、1948年当時、イスラエルの「建国」を宣言したシオニストの武装組織に対して無防備な状態となっていた。 イギリスが中東支配を始めた理由には軍事的、あるいは経済的な側面があるが、それだけでなく宗教的な理由もあった。 16世紀になると、イギリスでは自分たちを古代イスラエルの「失われた十支族」の後継者だと信じる人が現れた。そのひとりがスチュワート朝のジェームズ6世で、自分はイスラエルの王だと信じていたという。そのジェームズ6世の息子、チャールズ1世は「ピューリタン革命(17世紀半ば)」で処刑されたが、その「革命」で重要な役割を果たした人物がオリヴァー・クロムウェル。その私設秘書だったジョン・サドラーも同じように考えていた。 旧約聖書の記述によると、イスラエル民族の始祖はヤコブだとされている。彼には12人の息子があり、それぞれ支族を形成、そのうちユダ族とベニヤミン族の後裔とされる人びとが「ユダヤ人」と呼ばれているのだ。残りは行方不明で、旧約聖書を信じる人びとから「失われた十支族」と呼ばれているのだが、その話は神話であり、史実に基づいているのかどうかは不明である。 旧約聖書が主張したかったのはユダヤ族とベニヤミン族が「ユダヤ人」だということだが、後の時代にある種の人びとは自分たちの妄想を「失われた十支族」という話の中に投影させたということだろう。 ところで、クロムウェルはキリストの再臨を信じ、「道徳的純粋さ」を達成しようと考えたようだ。そのためにユダヤ人は離散した後にパレスチナに再集結し、ソロモン神殿を再建すると考えていたというが、彼の一派は打倒され、国教会の君主制が復活、ユダヤ人のための国家創設提案(シオニズム)は放棄された。 それが復活するのは18世紀、アメリカにおいてだ。18世紀以降、数秘術などオカルト的な要素が加わり、優生学を結びつくことになる。アメリカを支配していると言われているWASPは白人、アングロ・サクソン、そしてプロテスタントを意味していると言われているが、アメリカの友人によると、「P」はプロテスタントではなくピューリタンのイニシャルであり、WASPはクロムウェルの後継者だともいう。 19世紀の後半、イギリスではビクトリア女王にアドバイスしていたネイサン・ロスチャイルド、ウィリアム・ステッド、レジナルド・ブレット、そしてセシル・ローズらが大きな権力を握っていた。 イギリスはボーア戦争(南アフリカ戦争/1899年~1902年)で金やダイヤモンドを産出する南アフリカを奪い取ることに成功、ローズはその戦争で大儲けしたひとりだ。その侵略でウィンストン・チャーチルも台頭してくる。 1871年にNMロスチャイルド&サンの融資を受けて南部アフリカでダイヤモンド取引に乗り出して大儲けしたセシル・ローズはアングロ・サクソンを最も高貴な人種だと考えていた。優生思想だ。 ローズは1877年6月にフリーメーソンへ入会、『信仰告白』を書いている。その中で彼はアングロ・サクソンが最も優秀な人種だと主張、その優秀の人種が住む地域が増えれば増えるほど人類にとってより良く、大英帝国の繁栄につながるとしている。秘密結社はそのために必要だというわけだ。 1890年にローズはロンドンでナサニエル・ド・ロスチャイルドのほか、ステッド、ブレット、ミルナー、サリスバリー卿(ロバート・ガスコン-セシル)、ローズベリー卿(アーチボルド・プリムローズ)たちへ自分のアイデアを説明、そのうちローズ、ロスチャイルド、ブレット、ステッドの4人が協会の指導者になったとされている。(Gerry Docherty & Jim Macgregor, “Hidden History,” Mainstream Publishing, 2013) ステッドによると、ローズはチャールズ・ダーウィンの信奉者で、トーマス・マルサスの『人口論』から影響を受けたとされている。ダーウィンの従兄弟にあたるフランシス・ゴールトンは優生学の創始者だが、その優生学は人口論と結びつく。人口の爆発的増加を防ぐために「劣等」な人間を削減の対象にしようというわけだ。ハーバート・スペンサーもダーウィンの仮説を社会へ持ち込んだ人物である。ローズも優生学を信奉していた。 貧困問題の原因を社会構造でなく先天的な知能の問題に求め、産児制限を提唱、フェミニストの運動を支持していたマーガレット・サンガーもマルサスの人口論やゴールトンの優生学を信奉していた。彼女は劣等な人間は生まれつきだと考え、そうした人間が生まれないようにしようということになるからだ。 キャロル・クィグリーによると、1901年まで「選民秘密協会」を支配していたのはローズ。彼以降はアルフレッド・ミルナーを中心に活動した。ミルナーはシンクタンクのRIIA(王立国際問題研究所)を創設した人物としても有名で、「ミルナー幼稚園」や「円卓グループ」も彼を中心に組織されたという。アメリカのCFR(外交問題評議会)はRIIAの姉妹組織だ。 こうした歴史を考えると、シオニストはクロムウェルの後継者だと考えるべきで、イギリス、アメリカ、イスラエルは同じ国だということになる。イギリスとアメリカを支配している金融資本がナチスを資金面から支えていたことは明確になっているが、その私的権力と根が同じシオニストがナチズムと親和性が高いことも必然だ。**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.12
アメリカのピート・ヘグゼス国防長官はウクライナへのミサイルと弾薬の輸送を一時停止するよう命じたとアメリカの有力メディアは7月2日に伝えた。国防総省の政策責任者エルブリッジ・コルビーが主導した見直しでアメリカ軍の備蓄兵器が枯渇していることを確認しての命令だったのだが、この命令をドナルド・トランプ大統領は取り消し、ウクライナへ155mm砲弾と精密誘導式GMLRSロケットを含む武器の輸送を再開したと10日には報じられている。 アメリカだけでなく、NATO加盟国はいずれも備蓄兵器が枯渇、機器的な状態になっているのだが、それでもウクライナやイスラエルへ兵器を供給するというパフォーマンスをするという主張が通ったのだろう。 ロシアとの戦争は「簡単に勝てる」という前提で2014年2月に戦争を始めたネオコンやその追随者はロシアに負けているという印象が広まることを恐れている。これまでメディアを使ったプロパガンダで誤魔化してきたものの、現実とのギャップが大きくなり、収拾がつかなくなってきた。 その現実を知らせるため、ロシア軍は7月9日から短距離弾道ミサイルのイスカンデルのほか、長距離精密誘導兵器や攻撃型ドローンをキエフの軍事施設や産業施設などに向けて発射した。その様子はスマートフォンなどで撮影され、世界に向かい、発信されている。キエフは燃えている。 この攻撃でロシア軍はキエフにあるアルチョム航空宇宙工場やクズニャ・ナ・ルィバルスコム造船所(旧レーニン・フォージ)などの製造施設、電子戦基地、アメリカ製AN/TPQ-50対空レーダー基地、そしてバシルキフ軍用飛行場などを高精度長距離兵器と無人機で攻撃し、ロシア国防省は目的を達成したとしている。 ウクライナでの戦争は軍事的にロシア軍が圧倒している。アメリカ/NATOは敗れ、アメリカ、イギリス、ウクライナの情報機関は破壊工作(テロ攻撃)でロシアを攻撃するしかなくなっている。こうした攻撃には軍事衛星からの情報、誘導が必要で、アメリカやイギリスの情報機関が関与しなければ不可能だ。アメリカ中央軍のマイケル・E・クリラ司令官が関係している可能性もある。 ウクライナの治安機関SBUは6月1日、約120機のドローンでロシアのオレニャ(ムルマンスク)、ベラヤ(イルクーツク)、イバノボ(イバノボ)、ディアギレフ(リャザン)、ウクラインカ(アムール)の戦略核基地を攻撃した。「スパイダーズ・ウェブ作戦」だ。大半のドローンはロシア領内から発射したようだが、一部はアゼルバイジャンから飛び立った可能性がある。 アゼルバイジャンはロシアでのテロ攻撃だけでなく、イスラエルがイランを攻撃する際の拠点。イランのIRIBテレビはアゼルバイジャンとの国境近くにあるイランの村の住民を取材、複数の住民がアゼルバイジャンからイランに向かって飛行するイスラエルのドローンを見たと語っている。中にはイスラエル軍の戦闘機も見たとしている。 テロ攻撃にはエージェントを匿ったり工作に協力するネットワークが必要だが、そのネットワークにアゼルバイジャン系犯罪組織が組み込まれている疑いがある。ロシアの治安当局はアゼルバイジャン系犯罪組織の取り締まりを強化し、モスクワを拠点にしていた犯罪組織のボスからロシア国籍を剥奪、国外へ追放した。 アゼルバイジャンはイスラム世界において、イスラエル製兵器の最大の顧客であり、イスラエルが輸入している石油の40%を供給している。アゼルバイジャンのシャー・デニス・ガス田を管理しているのはイギリスを拠点とする巨大石油会社BPであり、輸送ルートにはトルコも含まれている。 アゼルバイジャン政府は戦略核基地への攻撃でロシアのウラジミル・プーチン政権を揺るがせ、イランへの奇襲攻撃で少なからぬ軍の幹部や核科学者を殺害し、屈服させられると計算したのかもしれないが、そうした展開にはならなかった。おそらく、報復に怯えているだろう。**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.11
ロシアの検事局はアメリカのエール大学を「望ましくない組織」に指定したと報じられている。アイビー・リーグと呼ばれているアメリカの有力大学は支配システムの一部であり、さまざまな国からエリートを集め、アメリカの支配層が望む人間を作り上げてきた。帝国主義の幹部候補を育ててきたとも言える。アメリカの外から見れば、いずれの大学とも「望ましくない組織」であり、アメリカの大学に留学し、出世する人物は怪しい。エール大学は特に情報機関や金融機関との関係が強いと言われている。 ジャクソン国際問題大学院のモーリス・R・グリーンバーグ・ワールド・フェロー・プログラムが各国の反体制指導者を育成しているということのようだが、この大学にあるスカル・アンド・ボーンズなる学生の結社とCIAとの関係も知られている。 この結社はアヘン戦争と深い繋がりがある。経済的に行き詰まっていたイギリスは中国を食い物にするため、東インド会社を介し、インド産のアヘンを清(中国)へ売りつけようとする。そして始めたのがアヘン戦争(1840年から42年)と第2次アヘン戦争(1856年)だ。 アヘン取引で儲けていたのはイギリス人だけでなく、アメリカ人も含まれていた。そのひとりであるウィリアム・ハンチントン・ラッセルは1833年にスカル・アンド・ボーンズを創設したことでも知られている。ラッセル家はイギリスの東インド会社とも繋がっていた。(James Bradley, “The China Mirage,” Little, Brown and Company, 2015) ラッセル家はアヘン取引の前、奴隷の売買で儲けていたのだが、麻薬の売買を始めてからは奴隷制度反対を言い始め、嘲笑の対象になっていたという。(George Canning, “The bones in Bush’s closet,” EIR, January 22-28, 1980) プレスコット・ブッシュ、ジョージ・H・W・ブッシュ、ジョージ・W・ブッシュはいずれもスカル・アンド・ボーンズのメンバー。プレスコットの友人で富豪のW・アベレル・ハリマンもこの結社に所属、大学を卒業した後、ふたりとも銀行家になる。 ウォール街には弁護士として働いていたアレン・ダレスがいて、プレスコットは親しくなる。息子のジョージ・H・W・ブッシュはエール大学でボート部のコーチ、アレン・ウォルツと親しくしていたが、この人物はCIAのリクルート担当者だったと言われている。1976年から77年までCIA長官を務めているが、これは必然だった。 プレスコットは1924年に義理の父親が社長を務める投資銀行A・ハリマンの副社長に就任、同じ年に創設されたユニオン・バンキングの共同経営者になる。1931年にプレスコットはブラウン・ブラザース・ハリマンの共同経営者にもなった。ユニオン・バンキングはナチスへの資金パイプだ。 タイム誌が掲載したニキータ・フルシチョフの回想録を英訳したストローブ・タルボットもエール大学の出身。当時、オックスフォード大学に留学していた。回想録のロシア語版を手に入れたのはオックスフォード大学でルームメートだったビル・クリントンだと言われている。クリントンは1969年にモスクワを訪問していた。CIAの幹部だったコード・メイヤーは友人のジャック・ウィーラーに対し、CIAがクリントンをリクルートしたのは彼がオックスフォードで学び始めた最初の週だと語ったという。クリントンがモスクワを訪問した目的はフルシチョフの回想録を入手することあったのだろう。(Jeremy Kuzmorov, “There is Absolutely No Reason in the World to Believe That Bill Clinton Is a CIA Asset,” CovertAction Magazine, January 3, 2022) クリントンは帰国後にエール大学のロースクールへ入り、そこでヒラリーと出会い、ふたりは1975年10月に結婚。その間、1972年にビル・クリントンはジョージ・マクガバンの選挙キャンペーンに参加、テキサス州における責任者に選ばれる。戦争に反対していたマクガバンの陣営をスパイすることが目的だったのかもしれない。その時から彼は権力の階段を登り始め、1993年、アメリカ大統領に就任。マデリーン・オルブライトやビクトリア・ヌランドと親しいヒラリーはビルを戦争へと導いたと言われている。クリントン政権でストローブ・タルボットは国務次官補を務めているが、その首席補佐官を務めたのがヌランドにほかならない。**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.10
ニューヨーク南部地区連邦検事のジェフリー・バーマンはニューヨークで記者会見を開き、故ジェフリー・エプスタインを性的人身売買と共謀の罪で起訴すると発表した。彼の恋人であるギレイン・マクスウェルは児童の性的人身売買および関連犯罪で20年の刑に服している。エプスタインは2019年8月10日にニューヨークのメトロポリタン矯正センターの独房で死亡している。 エプスタインは2019年8月9日午後10時40分頃に独房へ入れられたのだが、同房者はほかへ移され、その後に首を吊ったとされている。独房へ入れられてから意識不明の状態で発見された翌日午前6時30分頃まで撮影された独房の映像を詳しく調べたとされているが、2023年に発表された司法省とOIG(情報監視委員会)の報告書によると、エプスタインの収容ユニットで録画していたカメラは2台のみ。それらには多数の死角があり、少なくともほかに3人の受刑者がいたエプスタインの独房棟のカメラは録画していなかった。エプスタインが死亡する前日、収容所の職員はカメラの故障を認識していたことも明らかにされている。しかも問題の時間帯にスタッフは居眠りしていた。 裁判所の文書によると、エプスタインは数十人の未成年少女を性的に搾取/虐待することを可能にするネットワークを構築、維持したとされている。FBIはエプスタインが1000人以上の被害者に危害を加えたことを確認したとしているが、司法省とFBIは、これ以上の情報開示は適切ではなく、また正当化されないと判断したという。 FBIによる発表の前日、エプスタインに関する調査結果を詳述したメモをAxiosは入手したという。そのメモによると、犯罪を示す「顧客リスト」は発見されず、エプスタインが著名人を脅迫したという信頼できる証拠も見つからず、起訴されていない第三者に対する捜査の根拠となる証拠は発見されなかったとアメリカ司法省とFBIは判断している。 しかし、パム・ボンディ司法長官は2月、FOXニュースのスティーブ・ドゥーシーに対し、顧客リストは自分の机の上に置いてあり、精査中だと語っている。トラック一杯の証拠が彼女の事務所に届いたともしていた。 その顧客リストを何者かが紛失したとしても、数十人の未成年少女を性的に搾取し、虐待したこと証拠があるということは、延べ数十人の顧客を特定しているということであり、エプスタインたちが作成しいたリストがなくても、FBIは「顧客リスト」を作成しているのだろう。 エプスタインは2008年6月にも同様の容疑で起訴され、懲役18カ月の判決を受けているが、このときは刑務所に収監されていない。検察の姿勢が異様に甘いと批判されたが、その時に地方検事として事件を担当したのは2017年4月から19年7月まで労働長官を務めたアレキサンダー・アコスタ。エプスタインの事件が発覚し、辞任を余儀なくされたということだ。アコスタによると、上司からエプスタインは「情報機関に所属している」ので放っておけと言われたとしている。 この発言を裏付ける証言もある。エプスタインがイスラエル軍に所属する情報機関のメンバー、または協力者として世界の要人を脅迫していたというのだ。 1970年代にイスラエル軍の情報機関ERD(対外関係局)に所属、87年から89年にかけてイツァク・シャミール首相の特別情報顧問を務めたアリ・ベンメナシェによると、エプスタイン、ギレイン・マクスウェル、彼女の父親でミラー・グループを率いていたロバート・マクスウェルはいずれもイスラエル軍の情報機関、つまりアマンのために働いていた。ロバートは1960年代から、エプスタインとギレインは1980年代の後半からその情報機関に所属してたとベンメナシェは語っている。(Zev Shalev, “Blackmailing America,” Narativ, Septemner 26, 2019) この人脈はアメリカの支配階級に深く浸透している。例えば、1953年から54年にかけてジョセフ・マッカーシー上院議員の法律顧問として「赤狩り」に参加、後にドナルド・トランプの顧問弁護士になるロイ・コーンもエプスタインと関係があり、コーン自身もスキャンダルを利用して有力者を脅していたと言われている。 コーンのボスだったルイス・ローゼンスティールは禁酒法時代に大儲けしたひとり。ローゼンスティールの妻だったスーザン・カウフマンによると、元夫はCIAの秘密工作にも協力していたユダヤ系ギャングの大物であるメイヤー・ランスキーと親しかった。 エプスタインの事件を明るみに出す上で重要な役割を果たしたひとりは被害者のバージニア・ジュフリーだが、時速110キロで走行していたバスと自分の自動車が衝突、腎不全に陥ったと3月31日にインスタグラムへ投稿した。 彼女の家族によると、警察に通報したものの、現場に駆けつける人がいないと言われたという。その後、容態が悪化したため病院に搬送されたとされている。彼女は退院した後、4月25日に西オーストラリア州の自宅で死亡した。「自殺」とされているが、父親は自殺説を否定している。 ジェフリーはフランスのモデル・スカウト、ジャン-リュック・ブルネルがエプスタインの人身売買に協力していたと告発している。1998年から2005年にかけての時期、ブルネルはエプスタインのプライベート・ジェットに25回搭乗した記録が残っている。ジェフリーは2015年の宣誓供述書の中で、エプスタインが「ブルネルの少女1000人以上と寝た」と自慢していたとも主張している。また、ブルネルは2008年にエプスタインが逮捕された際、拘置施設でエプスタインと70回以上面会した記録が残っている。そのブルネルは2020年12月、未成年者へのセクハラと性的犯罪の罪で起訴されたが、22年2月に独房内で「自殺」した。 消滅する直前のソ連には西側の権力階級と怪しげなビジネスを始める人がいた。そのひとりがミハイル・ホドルコフスキー。ジャーナリストのマイケル・グロスによると、ソ連時代に彼はコムソモール(全ソ連邦レーニン共産主義青年同盟)の指導者だったが、そのときにロシアの若い女性を西側の金持ちに売り飛ばしていた疑いがあるという。 ソ連時代の1989に彼はリチャード・ヒューズなる人物とロシアの若い女性を「モデル」としてニューヨークへ送るビジネスを始めたのだが、ソ連当局は怪しみ、出国ビザを出し渋る。そのときにホドルコフスキーのKGB人脈に助けられたとヒューズは語っている。(Michael Gross “From Russia with Sex”, New York, August 10, 19989 この年にホドルコフスキーは銀行設立のライセンスを取得、メナテプ銀行を設立した。違法送金やマネー-ロンダリングが目的だったとみられ、1995年にCIAはこの銀行を「世界で最も腐敗した銀行のひとつ」と表現しているが、この年、彼はユーコスを買収した。(The Village Voice, September 7, 1998) ユーコスは西側の銀行から数億ドルの融資を受けていたが、それ以外に強大な投資会社カーライル・グループからも資金を得ていたことが知られている。この投資会社にはジェームズ・ベイカー元米国務長官をはじめ、フランク・カールッチ元米国防長官、ジョン・メジャー元英首相、ジョージ・H・W・ブッシュ元米大統領などが幹部として名を連ねてきた。 イスラエルがイランを奇襲攻撃する10日前、6月3日に行われたクネセト(イスラエル議会)の特別合同委員会で数人の女性が、未成年時代に宗教儀式の一環として受けた性的虐待について証言した。虐待被害者のひとりであるヤエル・アリエルは5歳から15年近くまで儀式的な虐待を受け、他の子どもたちに危害を加えることを強要されたと語っている。彼女によると、警察に告訴状を提出したが、数カ月後に却下されてしまったという。彼女はまた、医師、教育者、警察官、そして現職および元クネセト議員が虐待の隠蔽に関与していたと主張する他の女性たちの証言も聞いたとも述べている。 6月上旬、未成年者に対する性犯罪をめぐる出来事が相次いだ。偶然だろうか?**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.09
タッカー・カールソンはイランのマスウード・ペゼシュキアン大統領にインタビュー、その映像を7月7日に公開した。その中でカールソンはIAEA(国際原子力機関)がイランをスパイし、イスラエルへ情報を提供したとする報道について質問され、情報がイスラエルへ渡っていると考えていると答えた。イラン議会は大統領より強硬で、6月下旬、IAEAとのあらゆる協力を停止する決議を採択している。 イスラエルによる今回の攻撃で殺されたイランの核科学者は14名以上だと言われている。イランの政府機関には相当数のスパイをイスラエルの情報機関は潜り込ませていると言われているが、科学者の氏名や住所を知りうるのはIAEAだと考える人が少なくない。そうした報道をイランの大統領も認めたわけだ。 ジョージ・W・ブッシュ政権がアメリカ主導軍にイラクを先制攻撃させた際、「大量破壊兵器」という作り話を広め、それを口実にしたが、当時のIAEA事務局長モハメド・エルバラダイはアメリカ政府の言いなりにならなかった。そこで2009年12月に選ばれた人物が天野之弥だが、在任中の19年7月に死亡、同年12月からラファエル・グロッシ。グロッシは天野と同じように、アメリカに従順だと言われている。 アメリカ主導軍がイラクを攻撃する1年前の2002年3月28日、イギリスのトニー・ブレア首相はアメリカのコリン・パウエル国務長官に対してアメリカの軍事行動に加わると書き送っている。攻撃が翌年になったのは、アメリカの統合参謀本部内でイラク攻撃に反対する意見が多かったからだと言われている。 そうした逆風のためか、ブレア政権は2002年9月に「イラク大量破壊兵器、イギリス政府の評価」というタイトルの報告書を作成している。いわゆる「9月文書」だ。これはメディアにリークされ、サン紙は「破滅から45分のイギリス人」というセンセーショナルなタイトルの記事を掲載、人びとの恐怖を煽った。この報告書をパウエル国務長官は絶賛したが、大学院生の論文を無断引用した代物で、しかもイギリス政府はその文書をイラクの脅威を強調するため改竄している。 今回、イギリス政府の役割をIAEAが果たしたとも言えるが、イスラエルが攻撃する直前、イランの当局者はイスラエルの機密文書を押収したと発表している。その中にはイスラエル占領下のプロジェクトと核施設に関する数千点の文書が含まれ、グロッシ事務局長とイスラエルとの連携を示す情報が存在することも判明したという。 IAEAのイランに関する報告書はパランティア・テクノロジーズなる会社のAI(人工知能)によって作成されたが、この会社は2003年、つまりアメリカ主導軍がイラクを攻撃した年にCIAのベンチャー・キャピタル部門であるIn-Q-Telからの資金で創設されている。 この会社はイスラエルの情報機関とも関係が深く、共同創設者のひとりで現在会長を務めているピーター・ティールはドナルド・トランプ大統領を支持、J・D・バンス副大統領は彼の弟子的な存在だ。 IAEAの内部にアメリカやイギリスの情報機関員が潜入していると以前から疑われていたが、そうしたことを裏付ける機密文書が出てきた。インターネットメディアのグレイゾーンが入手した文書によると、潜入していたのはイギリスの対外情報機関MI6のニコラス・ラングマンだ。 国際機関はアメリカ支配層の影響下にあると言われてきたが、IAEAはその具体例になった。すでにWHOへの信頼は失われているが、さらにIAEAも同じ道を進んでいる。NPT(核拡散防止条約)の崩壊を懸念する人もいる。**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.08

韓国では6月4日から大統領を務めている李在明はロシアや朝鮮との関係改善を図りつつあり、韓国のメディアによると、アメリカ、欧州諸国、日本、中国、インド太平洋地域に加え、ロシアへの特使派遣を検討している。前任者の尹錫悦はアメリカの意向に従い、中国やロシアを「仮想敵」とするアメリカ、日本、韓国の「三国同盟」を推進していたことを考えると、大転換だ。 尹錫悦は検事時代の2016年、大統領だった朴槿恵を巻き込む崔順実スキャンダルの捜査を指揮、これは朴大統領弾劾につながった。中国との関係を重要視、弾道ミサイル迎撃システムのTHAAD(終末高高度防衛)を配備することに難色を示していた朴槿恵をアメリカのバラク・オバマ政権は嫌っていた。 アメリカ大統領がバラク・オバマからドナルド・トランプへ交代になった2017年4月、THAADは強引に韓国へ持ち込まれた。当時、尹錫悦によって朴槿恵政権は麻痺していた。そして尹は2017年5月から19年7月までソウル中央地方検察庁検事長を務めることになる。 ソウル中央地検の検事正になった尹錫悦は李明博元大統領や梁承泰元最高裁長官を含む保守派の主要人物を逮捕、文大統領の信頼を得て検事総長に就任するのだが、彼はアメリカから嫌われていた文在寅政権を攻撃し、文大統領に近く次期大統領候補と目されていた曺国法務部長官を起訴、曺を辞任に追い込んだ。この過程で「正義の人」というイメージができた尹錫悦は2022年5月に大統領となり、彼の指揮で検察は民主党の李在明党首を収賄容疑で捜査しはじめる。 一方、日本はアメリカ国防総省の戦略に従い、2010年代に対中国戦争の準備を進めている。その一環として自衛隊は2016年に与那国島でミサイル発射施設を建設、19年には奄美大島と宮古島、そして23年には石垣島でも施設を完成させている。その間、韓国へTHAADを持ち込んだわけだ。 南西諸島にミサイル発射基地が建設されつつあった2017年11月、アメリカはオーストラリア、インド、日本とクワドの復活を協議、18年5月にはアメリカ太平洋軍をインド太平洋軍へ名称変更した。 尹錫悦はネオコンの意向に従って中国やロシアとの関係を悪化させていくのだが、必然的に韓国経済は悪化してしまう。その結果、国民の支持率は下落、20%を切る頃には10万人の市民が街頭で抗議活動を展開して尹大統領の辞任を要求、妻の金建希が引き起こしたスキャンダルでも大統領は苦しむことになる。 追い詰められた尹錫悦大統領は2024年12月3日にソウルの大統領室庁舎で緊急談話を発表、朝鮮に追従する「従北勢力を撲滅し、自由憲政秩序を守るため非常戒厳を宣布する」と宣言、朴安洙陸軍参謀総長を戒厳司令官に任命した。その戒厳司令官は国会、地方議会、政党の活動、そして政治的結社、集会、デモなど一切の政治活動を禁じ、すべてのメディアと出版は戒厳司令部によって統制されると発表している。 しかし、この戒厳令宣言に反対する人びとが抗議活動を開始、宣言から数時間後に議会は議員300人のうち190名が出席して戒厳令を撤回させる動議を全会一致で可決した。その際、体当たりで議場へ入ろうとした兵士を阻止した人もいたという。 その議決を受けて議会の禹元植議長は戒厳令宣言の無効を宣言、与党「国民の力」の韓東勲代表も「戒厳令に基づき軍と警察が公権力を行使することは違法」と発言している。禹議長が撤退を要請した後、軍と警察のメンバーが議会の敷地から立ち去る様子が見られた。 こうした経過をたどり、大統領に選ばれた李在明が中国やロシアとの関係修復を目指しているのだが、そうした中、ロシアと朝鮮との関係が急速に強まっている。 今年6月26日にロシア軍のバレリー・ゲラシモフ参謀総長はクルスクでの戦闘に朝鮮軍の部隊が参加したことを認め、「戦闘において高い専門性、堅忍不抜、勇気、英雄主義を発揮した」と称賛している。朝鮮軍は昨年12月に発効したモスクワと平壌間の包括的戦略パートナーシップ協定に基づき、派遣された。その規模を西側は約1万2000人だと主張していた。実際、1万から1万3000人程度が派遣されたと見られ、帰国後にその経験を軍全体に伝えることになるだろう。逆に、日本やアメリカの政府が自衛官に実戦を経験させようと考えても不思議ではない。 ウクライナ軍は2024年8月にクルスクへ軍事侵攻したが、当初からこれは「自爆攻撃」だとも言われていた。予想通りウクライナ軍は壊滅的な打撃を受け、死傷者は7万6000人以上に達したと推測されている。 ウクライナ軍もこうした展開を予想していたが、キエフ政権はロシア政府との交渉材料にしようと目論み、強行して多くの犠牲者を出すことになったようだ。クルスク原子力発電所を制圧し、ロシア政府との交渉材料にしよとしたと考える人もいる。 しかし、ウラジミル・プーチン露大統領は4月26日、クルスクからウクライナの侵攻軍を一掃したと発表した。朝鮮軍の参加が戦況に影響を及ぼしたとは考えられないが、意味は小さくない。朝鮮軍の将兵が実戦を経験できたということだ。ちなみに、兵器の近代化を進めている中国軍の弱点は将兵に実戦の経験がないことだとも言われている。 アメリカ主導で西側諸国は東アジアで中国やロシアに対する軍事的な圧力を強めてきた。日本のミサイル発射施設の建設もその一環で、朝鮮軍のウクライナへの派兵はそれに対抗する準備のひとつだろう。 そのウクライナの状況を見れば、アメリカに操られて戦争に突入すると自国を破滅させることになることがわかる。アメリカやイギリスの支配層にとって「同盟国」は敵である中国やロシアを疲弊させ、破壊するための道具にすぎない。李在明大統領はこうした流れにブレーキをかけて経済発展に繋げようとしているのだろう。**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.07

7月2日に開示された「2016年ロシア選挙介入に関するインテリジェンス・コミュニティ評価(ICA)のトレードクラフト・レビュー」は、2016年の大統領選挙でロシアがドナルド・トランプを当選させるために介入したとする情報機関の調査に疑問を投げかけている。この評価は任期満了まで6週間に迫ったバラク・オバマ大統領が命じたもので、極端に短縮されたスケジュールで作成された。通常のプロセスに従わず、怪しげな「証拠」に基づいて結論を導き出したのだ。 今回の検証では、CIA長官を務めていたジョン・ブレナン、FBI長官を務めていたジェームズ・コミーFBI長官、国家情報長官だったジェームズ・クラッパーによって報告書が改竄されたとされている。この3人とバラク・オバマ大統領はドナルド・トランプを追い詰めるため、この改竄文書を利用した。反トランプ工作はブレナンを中心に展開されたと言われている。 この4名を含む勢力は遅くとも2015年の段階で彼らはヒラリー・クリントンを次期大統領に内定したと噂されていた。その年の6月にオーストリアで開催されたビルダーバーグ・グループの会合にヒラリー・クリントンの旧友、ジム・メッシナが参加していたことも根拠のひとつとされていた。 ヒラリーは兵器企業のロッキード・マーチンを主要スポンサーとしていることで知られ、巨大金融資本とも関係が深く、投機家のジョージ・ソロスから政策面の指示を受けていたことを示す電子メールが公開されている。 しかし、2016年2月にヘンリー・キッシンジャーがロシアを訪問、ウラジミル・プーチン露大統領と会談したところから風向きが変わる。3月16日にはウィキリークスがヒラリーの電子メールを公表、その中にはバーニー・サンダースが同党の大統領候補になることを妨害するよう民主党の幹部に求めるものがあり、サンダースの支持者を怒らせることになった。民主党幹部たちが2015年5月26日の時点でヒラリー・クリントンを候補者にすると決めていたことを示唆する電子メールもあった。そして登場してくるのがドナルド・トランプで、大統領に就任する。 それに対し、ヒラリー陣営はトランプが大統領として不適格であるとするキャンペーンを開始する。それが「ロシアゲート」スキャンダル。そうしたスキャンダルを仕掛けたグループにはオバマ大統領、敗北したヒラリー、そして国務省に巣食っていたのビクトリア・ヌーランドのようなネオコン、ジョン・マケイン上院議員とリンジー・グラハム上院議員、そして軍需産業人脈なども含まれていた。 ロシアゲートの開幕を告げたのはアダム・シッフ下院議員。2017年3月に下院情報委員会で、前年の大統領選挙にロシアが介入したとする声明を出し、その年の5月にロバート・マラーが特別検察官に任命されたのだ。シッフの主張はイギリス人のクリストファー・スティールが作成した報告書だ。 スティールはイギリスの対外情報機関MI6の「元オフィサー」だが、情報機関に「元」ということはない。彼はソ連が消滅する直前の1990年から93年までMI6のオフィサーとしてモスクワで活動していたが、スティールは長期にわたるFBIの情報提供者だったとも言われている。そのスティールを雇ったのはフュージョンGPSなる会社。そのフュージョンを雇ったマーク・エリアスなる人物はヒラリー・クリントン陣営や民主党全国委員会の顧問弁護士だ。 フュージョンを創設したひとりであるグレン・シンプソンによると、同社は2016年秋にネリー・オーなる人物にドナルド・トランプの調査と分析を依頼している。その夫であるブルース・オーは司法省の幹部で、このオーとシンプソンは2016年11月に会っていた。その直後にブルースは司法省のポストを失い、フュージョンはスティールに調査を依頼することになる。**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.06

ロシア軍は7月4日、キエフに対する大規模な攻撃を始めた。一晩に数百機のドローンとミサイルが投入されたと伝えられている。ウクライナのSBU(ウクライナ保安庁)は西側の情報機関から支援を受けてロシアに対するテロ攻撃を展開、それに対する報復という意味もあるだろうが、以前からロシア軍は6月から大攻勢に出るとも言われていた。 SBUが実行したテロ攻撃には、昨年12月17日に実行されたロシア軍の放射線・化学・生物防衛部隊を率いていたイゴール・キリロフ中将の暗殺、4月25日に実行されたロシア軍参謀本部のヤロスラフ・モスカリク作戦部副部長をIED(即席爆発装置)の暗殺、6月1日に実行されたオレニャ(ムルマンスク)、ベラヤ(イルクーツク)、イバノボ(イバノボ)、ディアギレフ(リャザン)、ウクラインカ(アムール)にある戦略核基地に対するドローンによる攻撃などが含まれる。いずれもアメリカやイギリスの情報機関、つまりCIAやMI6が支援した可能性が高い。 1991年12月にソ連が消滅した後、ロシアでは経済力も軍事力も弱体化し、ライバルではなくなったと西側の支配層は認識していた。2014年2月にアメリカのバラク・オバマ政権はビクトル・ヤヌコビッチ政権を倒した。 ネオ・ナチを利用したクーデターだが、ヤヌコビッチの支持基盤だった東部や南部の住民はクーデター体制を拒否、軍や治安機関の約7割が離脱したと言われている。つまりクーデターの直後、新体制は脆弱だった。そこで欧米諸国はクーデター体制の戦力を増強する時間が必要になる。その時間稼ぎのために使われたのが2014年のミンスク1と15年のミンスク2だ。アンゲラ・メルケル元独首相やフランソワ・オランド元仏大統領は後にその事実を認めている。 しかし、西側の支配層はこの段階でもウクライナを制圧し、ロシアを屈服させることは容易だと信じていた。ミンスク合意でロシアを足止めさせている間にクーデター体制の戦力を増強、東部のドンバス(ドネツクとルガンスク)に対する大規模な構成を仕掛けようとしている。その直前にロシア軍はウクライナに対する攻撃を始めたのだ。 ロシア外務省によると、ロシア軍が回収した機密文書の中に含まれていたウクライナ国家親衛隊のニコライ・バラン司令官が署名した2022年1月22日付の秘密命令には、ドンバスにおける合同作戦に向けた部隊の準備内容が詳述されている。 ロシア国防省のイゴール・コナシェンコフ少将によると、「この文書は、国家親衛隊第4作戦旅団大隊戦術集団の組織と人員構成、包括的支援の組織、そしてウクライナ第80独立空挺旅団への再配置を承認するもの」で、この部隊は2016年からアメリカとイギリスの教官によって訓練を受けていたという。実際、2022年に入るとウクライナ軍はドンバスに対する砲撃を強めていた。 この段階で米英をはじめとする西側の支配層は計算間違いを犯しているのだが、その間違いを修正できないまま現在に至っている。西側のいわゆる「リベラル派」も「ウクライナ軍」はロシア軍に勝てると叫び続けてきた。戦況に関する情報を調べてしていればそうした展開になっていないことがわかるはず。つまり、調べていなかった。 イギリスのベン・ウォレス元国防大臣でさえ、2023年10月1日にテレグラフ紙に寄稿した記事の中で、その当時、ウクライナ兵の平均年齢はすでに40歳を超えていると指摘、もっと多くの若者を前線へ送り出せと要求していた。それだけ死傷者数が多いということをイギリスの元国防大臣も認めているのだ。 戦場において発射された砲弾の数は死傷者数に反比例すると言われているが、その数は6対1から10対1でロシア軍が上回る。つまりロシア軍の死傷者数はウクライナ軍の6対1から10対1だということだ。ロシア軍は自軍の兵士の死傷者をできるだけ少なくする作戦を立てていることから、実際は1割程度だと見る人が少なくない。 そして現在、ウクライナは軍事的な手段でロシアと戦うことを諦めたようで、ロシア領内に潜入している情報機関の工作員による爆弾テロやドローンの攻撃に切り替えている。そうした工作の拠点として注目されているのがアゼルバイジャンだ。ジョージア、モルドバ、ルーマニアなどでは米英の情報機関が「国外からの投票」というシステムを使い、選挙に介入している疑いが濃厚だ。 そうした中、注目されているのがウクライナのオデッサ。戦略的に重要な場所だったこともあり、西側の支援を受けたクーデター体制政権は反クーデター派の住民を虐殺している。 2014年4月12日にジョン・ブレナンCIA長官がキエフを極秘訪問、22日には副大統領のジョー・バイデンもキエフを訪れ、その訪問に会わせるようにしてクーデター政権は黒海に面した港湾都市オデッサでの工作を話し合っている。そして5月2日、オデッサでクーデターに反対していた住民が虐殺されたのだ。 虐殺は5月2日午前8時に「サッカー・ファン」を乗せた列車が到着したところから始まる。赤いテープを腕に巻いた一団がその「ファン」を広場へ誘導するのだが、そこではネオ・ナチのクーデターに対する抗議活動が行われていた。広場にいた反クーデター派の住民は労働組合会館の中へ誘導されている。危険なので避難するようにと言われたようだが、実際は殺戮の現場を隠すことが目的だったと推測する人もいる。 その後、外から建物の中へ火炎瓶が投げ込まれて火事になる様子は撮影され、インターネット上に流れた。建物へ向かって銃撃する人物も撮られているが、その中にはパルビーから防弾チョッキを受け取った人物も含まれている。 建物の中は火の海になる。焼き殺された人は少なくないが、地下室で殴り殺されたり射殺された人もいた。その際、屋上へ出るためのドアはロックされていたとする情報もある。会館の中で48名が殺され、約200名が負傷したと伝えられたが、現地の人の話では多くの人びとが地下室で惨殺され、犠牲者の数は120名から130名に達するという。 虐殺の詳しい調査をキエフのクーデター政権が拒否しているので、事件の詳細は今でも明確でない。ネオ・ナチ体制がオデッサでの虐殺を調査するはずはなく、犯罪者を処罰するためにもオデッサの制圧は必要だというわけだ。ロシア軍はこのオデッサを制圧するかもしれないが、そうなるとクーデター政権は黒海へ出られなくなり、モルドバやルーマニアへの影響も小さくないだろう。 オデッサにフランス軍が入ったという話も伝えられているが、これが正しいなら、フランス兵の戦死者が増えることになる。 ちなみに、昨年1月16日にロシア軍は西側の情報機関や軍関係者が使っていた旧ハリコフ・パレス・ホテルを破壊したが、その際、200人近くの外国人傭兵が滞在していたという。その攻撃で死傷した戦闘員の大半はフランス人傭兵で、そのうち約60名が死亡、20人以上が医療施設に搬送されたという。**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.05

ウクライナでの敗北が決定的になっているアメリカ/NATOだが、対ロシア戦争を進めるため、必死にジョージア、モルドバ、ルーマニアを押さえ込もうと画策、コーカサスではアゼルバイジャンを配下に置いている。ただ、中東ではシリアに親イスラエル(アル・カイダ)体制を樹立したものの、イランの体制転覆には失敗した。ジョージアやルーマニアの選挙を操作するため、西側の支配層は国外からの投票システムを利用している。 NATOは1年以上前からルーマニア南東部にヨーロッパ最大の軍事基地の建設を開始、黒海沿岸におけるNATOの拠点である第57空軍基地を拡張している。拡張工事は2030年までに完了する予定だとされ、その敷地には最大1万人のNATO軍兵士とその家族を収容でき、学校、幼稚園、病院などの支援施設も備えられるという。 アゼルバイジャンはすでにNATOやイスラエルの攻撃拠点で、6月1日に実行されたウクライナのSBUによるロシアの戦略核基地に対する攻撃、あるいは6月13日からイスラエルが始めたイランに対する攻撃でも使われたと言われ、イラン北部でイスラエル軍の燃料タンクが発見されたとの報道もあった。またイスラエルにとってアゼルバイジャンは兵站や情報収集の拠点でもある。 イスラエルとアゼルバイジャンの関係は経済面でも強い。イスラエルの石油輸入の半分以上はアゼルバイジャンから来ているのだ。その一方でアゼルバイジャンはイスラエルからドローン、監視機器、情報支援を入手している。 ウクライナとイラン、いずれもドローンやミサイルをターゲット国へ持ち込み、発射している。手口が似ているのだ。そうした兵器を持ち込み、工作をサポートするネットワーク、衛星などからの情報など、いずれの攻撃ともCIAやMI6のような組織の支援がなければ不可能。作戦本部はアメリカかイギリスにあるのだろう。両国にとってアゼルバイジャンは最前線の基地だ。 そうした中、ロシアでアゼルバイジャン系犯罪組織の摘発が強化されている。ソ連消滅後、ボリス・エリツィン時代のロシアでは国民の資産が不正な手段で国外の強大な私的権力に奪われ、その手先として活動していた一部のロシア人も巨万の富を築き、「オリガルヒ」と呼ばれるようになったのだが、そのオリガルヒは犯罪組織を後ろ盾にしていた。 イスラエル軍の情報機関AMANの局長を務めた後に参謀総長に就任し、1999年7月から2001年5月まで首相を務めたエフード・バラクによると、ウイリアム・ケイシー元CIA長官の友人であるブルース・ラッパポートはロバート・マクスウェルを介し、ロシア暗黒街におけるボスの中のボスと言われたセミオン・モギレビッチと結びついていた。CIAは工作の手先として、犯罪組織やカルトをしばしば使う。(Whitney Webb, “One Nation Under Blackmail Vol. 1,” Trine Day, 2022) アゼルバイジャン系の犯罪組織もアゼルバイジャン系の実業家と結びつき、その背後に西側の情報機関が存在している可能性がある。ロシアの内務省やFSB(連邦保安局)が犯罪組織を国家安全保障上の問題だと認識しても不思議ではない。この推測が正しいなら、アゼルバイジャン政府がロシア政府が行っている摘発に反発しても不思議ではない。 アゼルバイジャンはトルコとも関係が深く、間にあるアルメニアも反ロシア勢力に組み込まれようとしている。このルートを使い、中央アジアの資源をヨーロッパへ運ぶという計画もあるのだろう。ロシアと敵対する道を選び、苦境に陥ったEUとしては、この計画を実現させられれば苦境から脱することができると考えているだろうが、中央アジアを思い通りにできるかどうかという大きな問題がある。 ソ連が1991年12月に消滅した後、ジョージ・H・W・ブッシュ政権はアゼルバイジャンのバクー(B)、ジョージアのトビリシ(T)、トルコのジェイハン(C)を結ぶBTCパイプラインを計画したが、構想は似ている。BTCパイプラインをの発案したのはロンドンに本社がある巨大石油企業のBPだった。**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.04
イスラエル軍は6月13日にイランを攻撃した。アメリカ軍と連携していた可能性は高い。攻撃の口実として、IAEA(国際原子力機関)の報告書が利用されたことは否定できない。報告書の作成を主導したのは同機関のラファエル・グロッシ事務局長だ。 報告書の中にIAEAへ「申告されていない核物質を用いて秘密裏に核活動を行っていた」とする記述があり、それを根拠にして、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツは理事会に対し、イランが核不拡散義務に違反していると宣言するよう働きかけた。6月12日、ドナルド・トランプ米大統領がイランに突きつけた60日間の猶予期間が終わる日に行われた採決では賛成19カ国、反対3カ国、棄権11カ国、無投票2カ国で可決された。 決議の翌日に攻撃、数百人の民間人のほか、少なからぬ軍の幹部、そして核科学者9名が殺されている。科学者の名前をはじめとする極秘の個人情報がIAEAからイスラエルへ伝えられていた疑いがある。 グロッシ事務局長は6月17日、CNNのクリスチャン・アマンプール記者に対し、イランが核兵器開発に向け、組織的に取り組んでいたことを示す証拠はないと語っている。核兵器を開発している証拠はないことを承知の上でグロッシは核兵器の開発を匂わせる報告書を出したわけで、責任を問われるのは当然である。 イランの核開発を監視するIAEAのシステムで中核を担っているのはパランティア・テクノロジーズ。その報告書は同社のAI(人工知能)によって作成されたという。 パランティアは2003年、CIAのベンチャー・キャピタル部門であるIn-Q-Telからの資金で創設された。この年にジョージ・W・ブッシュ政権はアメリカ主導軍にイラクを先制攻撃させたが、そのイラク、そしてアフガニスタンにおける軍事作戦にパランティアは加わっている。また同社はイスラエルの情報機関とも関係が深く、共同創設者のひとりで現在会長を務めているピーター・ティールはドナルド・トランプ大統領を支持、J・D・バンス副大統領は彼の弟子的な存在だ。 IAEAの内部にアメリカやイギリスの情報機関員が潜入していると以前から疑われていたが、そうしたことを裏付ける機密文書が出てきた。インターネットメディアのグレイゾーンが入手した文書によると、潜入していたのはイギリスの対外情報機関MI6のニコラス・ラングマン。 この情報機関員は1997年8月31日にダイアナ妃がパリで交通事故で死亡する数週間前、パリに入り、ダイアナ妃の死はイギリスの情報機関によるものだという世論の憶測を逸らすための情報作戦を行ったとされ、2005年にはアテネでパキスタン人28人を拉致・拷問した罪でギリシャ当局から告発されている。 そして2006年から08年にかけて彼はイギリス外務省のイラン局長を務め、イラン政府の核開発計画に対する「理解を深める」ためのチームを率いていたとされている。 2010年から西側はイランに対して厳しい「制裁措置」を開始、イスラエルはイランの核科学者に対する強力な秘密作戦を強化するが、この時期、ラングマンはイギリス外務省の核拡散防止センターに勤務していた。 この年の6月に国連安全保障理事会は決議1929を採択し、イラン革命防衛隊の資産を凍結し、海外の金融機関によるテヘランへの事務所開設を禁止。その1か月後、バラク・オバマ政権は包括的イラン制裁説明責任投資撤退法案を採択、2012年3月にEUはイランの銀行をSWIFT国際銀行ネットワークから排除することを全会一致で決定した。オバマ政権は2015年7月に包括的共同行動計画(JCPOA)を締結、その条項に基づき、イランは制裁解除と引き換えに核研究活動を制限することに同意している。 イスラエルがイランを攻撃する直前、イランの当局者はイスラエルの機密文書を押収したと発表、その中にはイスラエル占領下のプロジェクトと核施設に関する数千点の文書が含まれ、イラン側によると、グロッシ事務局長とイスラエルとの連携を示す情報が存在することも判明したという。**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.03

イランの北西部、カスピ海に面したアゼルバイジャンとロシアとの関係が緊迫化している。ロシアとアゼルバイジャンの関係は戦略的パートナーシップ協定に基づいて友好的な関係が築かれそうに見えた。2022年2月にロシアがウクライナを攻撃した直後、アゼルバイジャンの反政府派はロシアを非難したものの、両国の関係は悪化せず、2024年8月にはウラジミル・プーチン露大統領がバクーを訪問している。 しかし、アゼルバイジャンはイスラエルとアメリカの情報機関、つまりモサドとCIAがイランに対する秘密工作の拠点に利用している国で、6月13日にイスラエル軍はイランを攻撃したが、その際、同軍はアゼルバイジャンの領空からミサイルとドローンを発射している。 アゼルバイジャンを含む中央アジアの地下には石油があり、アメリカをはじめとする西側諸国に狙われてきたのだが、1991年12月にソ連が消滅すると、具体的な動きが現れた。その象徴的なプロジェクトがカスピ海周辺の石油を輸送するためのパイプライン建設計画。ジョージ・H・W・ブッシュ政権はアゼルバイジャンのバクー(B)、ジョージアのトビリシ(T)、トルコのジェイハン(C)を結ぶBTCパイプラインを計画したのだ。その発案者はBPだった。BPはイランの再植民地化も狙っている。 しかし、このパイプライン計画には問題があった。すでにチェチェンのグロズヌイを経由するパイプラインが存在していたのだ。この競争相手を機能できなくするためにチェチェンを戦乱で破壊する計画が持ち上がり、その工作を指揮することになったのがブッシュと親しいCIAのグラハム・フラーだ。ズビグネフ・ブレジンスキーが始めたアフガニスタンにおける秘密工作でジハード傭兵の仕組みを作り上げた人物だ。その下で活動したリチャード・シコードはベトナム戦争やイラン・コントラ作戦でCIAの秘密工作に参加している。ちなみに、1992年9月から93年11月までアゼルバイジャン駐在のアメリカ大使を務めた人物は、クーデターの仕掛け人とも言われるリチャード・マイルズだ。 シコードはアゼルバイジャンでメガ石油を設立、またアル・カイダ系戦闘員数百名をアフガニスタンからアゼルバイジャンへ移動させるためアゼルバイジャンで航空会社を設立した。1993年までにメガ石油は2000名の戦闘員を雇い、カフカスでの工作に使ったとされている。 アゼルバイジャンでの活動は単なる石油ビジネスではなく、ロシアを念頭においた戦略の一環でもあった。アメリカ人ジャーナリストのジェフリー・シルバーマンによると、そうしたジハード傭兵はチェチェンの反ソ連/ロシアのムジャヒディンやアゼルバイジャン軍に合流している。(F. William Engdahl, “Manifest Destiny,” mine.Books, 2018) BTCパイプラインが通過するジョージアでは2002年5月から05年8月にかけて「バラ革命」と名付けられたクーデターがあり、アメリカの傀儡であるミヘイル・サーカシビリが大統領に就任した。2002年5月から05年8月にかけてジョージア駐在アメリカ大使を務めた人物はリチャード・マイルズにほかならない。 アメリカ国防総省系のシンクタンク「RANDコーポレーション」が2019年に出した報告書「ロシアの拡大」には、ロシアを抑え込む手段として、ウクライナへの強力な武器供給、シリア反政府勢力(アル・カイダ系武装勢力)への支援再開、ベラルーシにおける政権交代(クーデター)の促進、アルメニアとアゼルバイジャン間の緊張関係の活用、中央アジアへの働きかけ強化、そしてトランスニストリア(モルドバ内のロシア占領地域)の孤立化を挙げている。 ウクライナに対する軍事支援は2014年のクーデターから続けてきたことであり、シリアではバシャール・アル・アサド政権を倒すことに成功、アル・カイダ系武装勢力の体制になった。ベラルーシでのクーデターは失敗したが、アルメニアとアゼルバイジャンの対立は深刻化、トランスニストリアは孤立している。アゼルバイジャンの状況はアメリカ国防総省の思惑通りだと言える。ウクライナやジョージアでアメリカが仕掛けたクーデターはアゼルバイジャンの現状とも関係している。**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.02

ガザで住民虐殺を続けるイスラエルが新たな対イラン戦争の準備を始めていることは間違いなく、遠くない将来、新たな戦闘が始まる可能性が高い。それを見据えてイスラエルは「停戦」を望み、イランはそれを受け入れた。この展開を見て、ウクライナのケースを思い出す人は少なくないだろう。 アメリカのバラク・オバマ政権は2013年11月から14年2月にかけてキエフでクーデターを実行、ビクトル・ヤヌコビッチ政権を倒したものの、ヤヌコビッチの支持基盤だったウクライナの東部や南部では住民の大半がクーデター体制を拒否し、軍や治安機関ではメンバーの約7割が離脱、一部は東部の反クーデター軍へ合流したことからクーデター体制の戦力を強化しなければならなくなった。そこでドイツやフランスが仲介する形で停戦交渉が始まり、2014年には「ミンスク1」、15年には「ミンスク2」が締結されたのだ。 同じように、イスラエルは停戦を望み、イランは同意した。今回の攻撃はイスラエル軍単独ではなく、アメリカ軍、少なくともアメリカ中央軍のマイケル・E・クリラ司令官が関与している可能性が高い。この軍人は熱烈な親イスラエル派で、アメリカとイスラエルだけでなく、アラブ首長国連邦、バーレーン、ヨルダンなどを巻き込んで連合体を作ろうとしてきたことでも知られている。 6月13日にイスラエル軍はイランをミサイルとドローンで攻撃したのだが、その際、イランの防空システムを麻痺させ、ドローンやミサイルを発射したと言われている。この攻撃で軍の幹部や核科学者らが殺害されたが、その攻撃に使われてドローンやミサイルはイラン国内から発射されている。その攻撃にはアメリカの軍や情報機関が協力していただろう。 この先制第一撃でイラン軍の指揮系統が麻痺、降伏するとアメリカ軍やイスラエル軍は考えたのかもしれないが、防空システムは8時間から10時間ほどで回復、死んだとされた軍の幹部の一部は生きていることが後に判明している。ドローンやミサイルはイラン国内で組み立てたようだが、その材料を持ち込ませてしまった治安当局の責任は問われるだろう。 しかし、防空システムの能力が不十分であることは否めない。ロシア製のS-400防空システムがなかったことも大きいのだが、これはロシアが売却しなかったのではなく、イランが購入を断ったということが今回判明。シリアで有効性が証明されている短距離用防空システムのパーンツィリS1やECM(電子対抗手段)も配備されていなかったのだろう。今後、イスラエルやアメリカからの新たな攻撃に備え、こうした防空システムをロシアから入手するかもしれない。 そのイラン以上に大きな痛手を被ったのがイスラエル。ネゲブ砂漠にあり、F-15戦闘機とF-35戦闘機の大半が配備されているネバティム空軍基地をはじめとする軍事基地、あるいはイスラエル軍のアマン情報本部が破壊され、同時にモサドの本部にも命中。軍事研究の中枢であるワイツマン科学研究所も壊滅的な被害を受けた。 イスラエルでは、イランによる攻撃を受けた建造物や市街の状況を発信することが禁じられ、西側の有力メディアはそうした規制に従い、宣伝機関としての役割を果たしている。曲がりなりにも停戦が実現したことから、そうしたメディアは「アメリカとイスラエルが勝った」というイメージを広げようとしているが、撮影機能が搭載されたスマートフォンが社会に広まっている現在、路上やバルコニーから攻撃や被害の様子を撮影、発信する人を取り締まることは至難の業だ。イスラエルのあるニュースキャスターは白々しい嘘を発信したくないと考えたのか、「イスラエル国防軍の基地や私たちがまだ報道していない戦略拠点に多くのミサイルが命中した」と伝えている。 イランの攻撃はテル・アビブのほかハイファに対しても実行され、イスラエル内務省の国内軍事調整を担当する支部が入ったビルに命中しているが、イスラエル最大級の石油精製所が攻撃され、閉鎖された。そのほか空港、港、発電所、軍事生産の拠点などが狙われた。ドナルド・トランプ米大統領が言うように、イスラエルは甚大な被害を受けたのだ。 イスラエルのベン・グリオン国際空港は閉鎖され、コンテナ船を扱えるふたつの港、ハイファとアシュドッドのうちハイファ港は閉鎖状態。アシュドッド港への寄港ができなくなると、イスラエルの物流は麻痺、生活必需品の深刻な不足に直面する。 停戦の時点でイスラエルに残されたミサイルは10日分程度だったと言われていたが、それだけでなく、経済を支えるインフラの破壊も深刻な状況である。 現在、中国のBRI(一帯一路)とロシアを中心とするユーラシア経済連合を連結させる動きがあり、それに対抗するためにアメリカをはじめとする西側諸国はIMEC(インド・中東・欧州経済回廊)プロジェクトを進めている。 IMECはインド、UAE(アラブ首長国連邦)、サウジアラビア、イスラエルを結び、さらにギリシャからEUへ伸びるルートで、インドのナレンドラ・モディ首相やイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相はこのプロジェクトに賭けていた。ハイファはIMECで重要な位置にあり、イランによるその港への攻撃は戦略上大きな意味を持つ。 イスラエルだけでなくアメリカも追い詰められている。この状況を打開するため、新たな戦争は大規模なものになるかもしれない。そのためには「第3のパール・ハーバー」が必要だろう。アゼルバイジャンがきな臭くなってきた。**********************************************【Sakurai’s Substack】
2025.07.01
全31件 (31件中 1-31件目)
1