《櫻井ジャーナル》

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2011.05.10
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カテゴリ: カテゴリ未分類
 浜岡原発の全炉を中部電力は停止することを決めたという。菅直人総理大臣の要請に基づくものだ。アメリカの思惑はともかく、マグニチュード8クラスの地震が近い将来に起こると予想されている地域に建つ原発を止めるということは、とりあえず1歩前進だと言えるだろう。

 ところが、こうした決定に対し、地元である御前崎市の石原茂雄市長は「地元には事前に説明が欲しかった」と国の対応に不満を述べ、「浜岡原発の運転再開について国が責任を取るという踏み込んだ発言をしてほしかった」と語ったという。

 また、福島第一原発を破壊した東日本地震 の影響で停止している東北電力の女川原発では再開を目指した動きが出ている。女川町の安住宣孝町長は「国が(東北電力の)防災対策を評価した上で、安全が確認されれば、基本的にはぜひ再開してもらいたい」と述べ、石巻市の亀山紘市長は記者会見で「想定外の地震、津波が来ても対応できるような方針が前提」とした上で「再開する方向で考えていくことが必要ではないか」と発言した という。

 しかし、原発が構造的に大きなリスクを抱えていることは福島での事故でも再確認されている。事故が起これば国どころか、地球の生態系に破滅的なダメージを与えかねないわけで、「安全が確認されれば」という前提は成り立たず、「再開する方向で考えていく」ことはできない。

 御前崎市長、女川町長、石巻市長は「全国原子力発電所所在市町村協議会(全原協)」のメンバーであり、原発を受け入れる代償として多額のカネを受け取ってきた。御前崎市長は海江田万里経産相が「交付金は従来通りだ」と約束したと明らかにしている。「この期に及んで・・・」という感は否めないが、同市長は、事故の惨状よりも交付金の方に関心があるのだろう。

 全原協の姿勢は、福島第一原発の事故に関係なく一貫している。4月4日に同協会の河瀬一治会長(敦賀市長)、井戸川克隆副会長(双葉町長)、山口冶太郎副会長(美浜町長)らは、政府や与党の幹部に対して「緊急要望書」を手渡し、原子力政策については「ぶれないでほしい」と要求したという。

 どのような安全策を講じようと、機械は必ず故障し、人はミスを犯す。原発の場合、故障やミスは社会の破壊どころか、人類、いや地上の生物の生存を脅かすことになりかねない。にもかかわらず、核兵器妄想や原発利権に取り憑かれた人々は「最善の安全策」すら講じようとしなかった。

 日本経団連の米倉弘昌会長の欲ボケも止まるところを知らない。浜岡原発の全炉停止を「政治的パフォーマンス」だと非難したというのだ。この人物、 3月16日には福島第1原発は「千年に1度の津波に耐えている」と主張、「素晴らしい」と絶賛し、「原子力行政が曲がり角に来ているとは思っていない」と発言

 米倉会長も属している原子力利権集団はリスクを承知でカネ儲けに熱中してきたわけであり、その責任を免れることはできない。東京電力だけでなく、カネ儲けシステムを構成してきた巨大企業、原子力政策を推進してきた歴代政府、官僚、その手先として「安全神話」を作り上げた学者や報道機関にも責任はある。

 学者は勿論、報道機関も「騙された」という言い訳はできない。例えば、朝日新聞では原発推進の科学部と批判的だった社会部が激しく対立していたことは有名であり、結局は批判論を朝日新聞は封印した。勿論、原発のリスクを承知でのことだ。

 1970年代から原発の危険性は指摘されていた。すでに多くの人が語っているように、例えば、原子力発電の基本システムについては 高木仁三郎 氏、原子炉の構造問題では田中三彦氏、地震の問題に関しては 石橋克彦 教授などが危険性を指摘している。勿論、この3氏以外にも多くの人たちが原発の危うさを様々な立場から訴えてきた。

 福島第一原発の事故でも原子力政策が「ぶれない」ならば、さらに破滅的な事態が待っている。アジア侵略からアメリカとの戦争を経て日本は焦土と化したが、それでも人間は住むことができた。それに対し、原発の場合、運が悪ければ日本列島全域が放射能汚染され、人が住めなくなる。いや、日本人が死滅することになりかねない。

 こうした出来事を見ていると、ロマン・ポランスキーが監督したいくつかの映画を思い出す。「ローズマリーの赤ちゃん」(1968年)、「マクベス」(1971年)、「ナインス・ゲート」(1999年)だ。権力や資産をつかむため、悪魔に取り込まれていく人間。いわばファウスト伝説。現代はファウストの時代なのかもしれない。





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最終更新日  2011.05.10 21:39:39


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