四半世紀前、アメリカ軍を使って中東/北アフリカの支配構図を変えようと考えたのはアメリカのネオコン/シオニスト。ネオコンの中核グループに属している ポール・ウォルフォウィッツは1991年にイラク、イラン、シリアを5年以内に殲滅すると語った
とウェズリー・クラーク米陸軍大将は明らかにしている。当時、ウォルフォウィッツは国防次官だった。
2007年3月5日付けニューヨーカー誌に掲載されたシーモア・ハーシュの書いた記事
によると、アメリカ、イスラエル、サウジアラビアがシリア、イラン、そしてレバノンのヒズボラに対する秘密工作を開始したという。実行部隊としてサウジアラビアと緊密な関係にあるムスリム同胞団とワッハーブ派/サラフ主義者が想定されるのは当然だ。
2012年8月にアメリカ軍の情報機関DIAが作成した文書
は、反シリア政府軍の主力をサラフ主義者、ムスリム同胞団、そしてアル・カイダ系武装集団のAQIで、その反政府軍を西側、ペルシャ湾岸諸国、そしてトルコが支援しているとしている。AQIはシリアで活動するときはアル・ヌスラという名前を使っているとも説明、バラク・オバマ政権の「穏健派」を支援するという政策を進めれば、こうした集団の勢力を拡大させることになり、シリア東部にワッハーブ派/サラフ主義者の支配地を生み出すことになると警告していた。その警告をアメリカ政府は無視したのだ。この警告をした当時のDIA局長、マイケル・フリン中将は オバマ政権の決めた政策がISの勢力を拡大させた
としている。
アメリカなどNATO諸国、サウジアラビアなどペルシャ湾岸産油国、そしてイスラエルの政府はシリアのバシャール・アル・アサド政権を倒すため、ワッハーブ派/サラフ主義者を利用してきたのだが、ロシア軍はそうした勢力を本当に攻撃、状況を変えた。
ロシアはネオコンが始めた世界制覇プロジェクトの前に立ちはだかり、サウジアラビアやトルコの野望を打ち砕こうとしている。そのロシアを攻撃するため、サウジアラビアはアメリカと組んで原油相場を引き下げ、産油国ロシアを追い込もうとしたと言われているのだが、その相場下落で現在、サウジアラビアが窮地に陥っている。
支配体制が揺らぎ始めたのだが、そこでサウジアラビアのサルマン・ビン・アブドルアジズ・アル・サウド国王はトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領と会談、その数日後、1月2日にシーア派の指導的立場にあったニムル・バキル・アル・ニムル師をサウジアラビアは処刑してシーア派を挑発する。
ニムル師は自由選挙を求め、サウジアラビアにおけるシーア派の権利が尊重されないならば、東部地域を分離すべきだとも主張していた。東部地域にはシーア派が多く住んでいるのだが、そこは油田地帯でもある。シーア派に武装蜂起させ、そこを制圧して油田支配を確かなものにしようとしたとする見方もある。イランとサウジアラビアが戦争を始めればアメリカ/NATOも巻き込まれることになり、イスラエルやネオコンの願いが実現することにもなるが、そうなると世界は大混乱だろう。サウジアラビアやトルコの現支配層は切り捨てられる可能性がある。