中国本土と香港を結ぶ高速鉄道が開通
遅くとも20世紀の初頭から高速鉄道はイギリスをはじめとする海洋国家に対抗する重要なファクターだと考えられてきた。1934年から43年にかけて南満州鉄道は大連駅から哈爾浜駅まで「超特急」と呼ばれた「アジア号」を走らせたが、それもそうした考え方に基づいている。
イギリスの戦略を知る上で重要な人物がいる。地理学者で地政学の父とも言われているハルフォード・マッキンダーだ。この学者は1904年、ロシアを支配するものが世界を支配するというハートランド理論を発表した。海洋国家であるイギリスは世界の覇者となるためにユーラシア大陸を支配する必要があり、その要はロシアだと分析、そのロシア周辺をハートランドと呼んだ。
そのハートランドを大陸周辺から締め上げるという戦略を彼は考え、西ヨーロッパ、パレスチナ、アラビア半島、インド、東南アジア諸国、朝鮮半島をつなぐ内部三日月帯を、その外側に日本を含む外部三日月地帯を想定した。その後、内部三日月帯の上にイギリスはイスラエルとサウジアラビアを作り上げている。日本は内部三日月帯の東端にあるが、マッキンダーは外部三日月地帯の一部と見なしている。
そのイギリスは中国(清)を侵略し、その富を奪うため、1840年に戦争を始める。1842年まで続いたアヘン戦争だ。1856年から60年にかけても同じ構図の戦争、アロー戦争(第2次アヘン戦争)を引き起こしている。
こうした戦争でイギリスは勝利、最初の戦争で広州、厦門、福州、寧波、上海の開港とイギリス人の居住、香港の割譲、賠償金やイギリス軍の遠征費用などの支払いなどを中国は認めさせられ、次の戦争でイギリスは賠償金を払わせたほか、天津の開港や九龍半島の割譲を認めさせた。香港はイギリスによるアヘン密輸と侵略戦争の象徴だ。
しかし、イギリス軍に中国を支配する力はなかった。アヘン戦争やアロー戦争は基本的に海戦で、イギリス軍が制圧できたのは沿岸の一部地域だけ。主要な港を押さえられたことから中国が交易の面で大きなダメージを受けたことは事実だが、中国を制圧できていない。内陸を支配するためにはそれなりの規模の地上部隊が必要だった。
そこで目をつけられたのが日本。イギリスを後ろ盾とする薩摩と長州が徳川体制を倒して明治体制をスタートさせ、琉球併合、台湾への派兵、江華島での軍事的な挑発、日清戦争、日露戦争と続く。そうした侵略を始めた明治政府を支えていたのがイギリスにほかならない。いわば、日本はアル・カイダ系武装集団やダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)とうタグをつけられたジハード傭兵と似たような役割をさせられたのだ。
こうしたイギリスの長期戦略はアメリカが引き継いだ。ジミー・カーター政権で国家安全保障補佐官を務め、ジハード傭兵の仕組みを作り上げたズビグネフ・ブレジンスキーは自身の戦略をマッキンダーの戦略に基づいて作り上げていた。
イギリスがターゲットにしたロシアではシベリア横断鉄道が建設されてきた。その路線と中国の鉄道網を連結させ、さらに朝鮮半島を南下させるという計画が以前からある。ロシアは鉄道と並行する形で天然ガスなどを運ぶパイプラインを建設しとうとしている。
ロシアのウラジオストックでウラジミル・プーチン政権は2015年からEEF(東方経済フォーラム)を毎年9月に開催している。今年(2018年)は9月11日から13日にかけて開かれ、そこで朝鮮は自国の鉄道と韓国に鉄道を結びつけることに前向きな姿勢を見せた。
韓国政府と朝鮮政府はアメリカ政府の反対を押し切って朝鮮南西部の開城に共同連絡事務所を9月14日に開設、文在寅韓国大統領と金正恩朝鮮労働党委員長は9月18日と19日に朝鮮の首都、平壌で会談し、年内に鉄道と道路を連結する工事の着工式を行うことで同意したという。
南と北を鉄道で連結するという話は韓国と朝鮮だけで進めた話ではないだろう。背後には中国とロシアが存在している。そのロシアのドミトリ・メドベージェフ首相は2011年夏にシベリアで金正日と会談、朝鮮がロシアに負っている債務の90%(約100億ドル)を帳消しにし、10億ドルの投資をすることで合意している。
ところが、金正日が2011年12月に急死してしまう。本ブログでは前にも書いたが、金正日は暗殺されたのではないかとする説が韓国で流れた。2011年12月17日に列車で移動中、車内で急性心筋梗塞を起こして死亡したと朝鮮の国営メディアは19日に伝えているが、韓国の情報機関であるNIS(国家情報院)の元世勲院長(2009年~13年)は暗殺されたという見方をしていたのだ。
2004年4月に金総書記は危うく龍川(リョンチョン)の大爆発に巻き込まれるところだったという噂もある。爆発の2週間前にインターネットのイスラエル系サイトで北京訪問の際の金正日暗殺が話題になり、総書記を乗せた列車が龍川を通過した数時間後に爆発が起こったと言われている。貨車から漏れた硝酸アンモニウムに引火したことが原因だとされているが、そのタイミングから暗殺未遂の疑いがあるとされたのだ。
アメリカや日本は中国が石油などを運ぶ「海のシルクロード」をコントロールするために東シナ海や南シナ海で軍事的な圧力を強めているが、大陸の内部で鉄道やパイプラインが整備されると、沿岸地域から締め上げるというイギリスが考えた戦略の効果が低下してしまう。