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このミステリがすごい2011年版 日本編 第7位本格ミステリ大賞【このミステリーがすごい より】龍を祀る神社の宮司が次々と殺される-----「刀城言耶」シリーズ第五弾幻想小説家が全国各地をほうろううする際に、地元の伝説と密接に絡み合った奇怪な事件に出会う刀城言耶シリーズ第五弾。龍神伝説が残る四つの村にはそれぞれ龍を祀った神社がある。その神社が行う雨乞いの儀式の最中に、儀式を司る神男と呼ばれる宮司が衆人環視の不目の中で殺される。それをきっかけに、他の神社の宮司たちも不可解な状況のなか次々と殺されていくのだった。土俗的な風習とホラー的な味をミックスした舞台で起きる殺人事件を、本格ミステリーの文法に則ってきわめて論理的かつ精緻に解明していくのがこのシリーズの特長である。本格ミステリ作家倶楽部主催の第十回本格ミステリに大賞輝く力作である。【感想】TOP10発表前に読んでいたのが三津田さんの本書です。過去ランキング入りした 『首無(くびなし)の如き祟るもの 』 と『山魔(やまんま)の如き嗤うもの』に、劣らない面白さでした。三津田さんは新刊が出たら、必ず読む作家さんとなってます。ネタバレ注意↓読後、感想書評を読んでいたら、男だと思っていた人物のひとりがが実は女だった、というのがありました。エピローグで水庭家にきた嫁が、実は、○○子ではなく、その名の一部の通り、○○だという説です。○○なら、全編、性別が入れ替わっていたことになります。◆ 実は女性説これは確かに考えられる事で、母の左霧が、三人目に生まれた娘に自分の憑き物筋の血が、色濃く現われていることに気付き、用心の為に男の子として世間には思わせていたのかもしれないということです。表紙が、神男と刈女が合体したものですから、象徴しているとも見えなくもないんですよね。◆ やっぱり男性説でも、こんなことがありました。刀城言耶が村に来た時に、○○と一度一緒に風呂に入ってます。刀城言耶がいくら怪奇譚オタクで世事に疎いとはいえ、さすがにわかるでしょうよ。身体の一部を隠したとしても、11歳なら小学5~6年生ですから、もう気付けるんじゃないかな?だいたい、本人が実は自分が女だという自覚があれば、一緒の風呂は拒否すると思います。だから嫁は、やっぱり○○子自身だと思います。名前の付け方を見ると、離れ離れになってる弟を思っているんだろうと思われますね。ただ疑問だったのは、○○子だとしたら、彼女は一度殺そうと狙った相手の家に嫁入ったということになります。そんなのってあり? 相手とは、舅の水庭流虎のことです。心情的にお互いわだかまりができると思いますが。。それでも良く考えると、”この嫁は、明るく働き者で舅にもよく尽くした”とあるので、以前に刺したことを心から悔い、水庭家に尽くす生活を決心したのではないかな、っと思うのです。それには、あの、クールそうな水庭家の跡取りのリュウ魔が、○○子の心を動かす説得とくどきをしたんじゃないかな~っと思うのです。言耶と偲を車で送った後、彼女たちの行方を追った先はどこだったのか?山の洞穴とか?鉄砲水で村が壊滅しても、助かるような場所ですよね。ふたりの恋愛的場面が無いのですが、勝手に想像して楽しんでます。三津田信三作品 著作第一弾 『厭魅の如き憑くもの』 第二弾 『凶鳥(まがとり)の如き忌むもの』 第三弾 『首無(くびなし)の如き祟るもの 』 第四弾 『山魔(やまんま)の如き嗤うもの』 短編集 『密室(ひめむろ)の如き籠るもの』第五弾 『水魑(みずち)の如き沈むもの 』シリーズ以外『忌館』『凶宅』
2010年02月27日
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内容 ]廃部寸前の弱小吹奏楽部に所属する穂村チカと上条ハルタ。吹奏楽部の甲子園「普門館」を目指して日々練習を重ねる二人に、難事件が? 話題作『退出ゲーム』待望の続編!【感想】学園ミステリ。ハルタとチカの吹奏楽部に、仲間がどんどん増えていきます。シリーズ一作目『退出ゲーム』では、オーボエとサックスが加わった。本作でもクラリネットと打楽器奏者が加わるような。奏者がゲットできる時は、謎が解決する時。。必ずそうともかぎりませんけど。吹奏楽部の活動が本格化したことで、世界観が広がっている。目標に向けて取り組む姿勢は朗らかで、今後が気になるところです。初野晴著作 感想『水の時計』『退出ゲーム』『初恋ソムリエ』
2010年02月20日
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このミステリーがすごい 2010年版国内編 第3位【感想】内容紹介文を読んだ時から、早く読みたくて待ち遠しかった本でした。待ちきれず、綾辻さんのこれまでの作品を読んでみようと『暗黒館』にチャレンジしたのですが、、。そちらよりも、断然本作の方が面白かったですね。『暗黒館』は最後まで読むと決めたから、辛抱して読みきった。本作は次が知りたいという思いでどんどん読めた。同じ作者さんの本でも、随分と印象が違うものですね。『Another』というのは、綾辻さんの愛する映画トマス・トライオン原作・ロバート・マリガン監督作『悪を呼ぶ少年』(原題”The Other”1972)とアレハンドロ・アメナーバル監督『アザーズ』(原題"The Others"2001)にインスパイアされてつけられたタイトルだそう。アメナーバル監督の作品では、『アザーズ』が一番度肝を抜かれましたね。マリ監督の作品は未見。Part1は、「What Why」。一体このクラスでは何が起こっていて、それは何故なのか?です。主人公の恒一が、話しかけたり見えたりしている少女を、クラスの皆は見えていないのか?まるでそこにいないかのように感じるのです。一体どうして、なぜ、なんなの?という気持ちでした。Part2は、「Who How」。このクラスは、春になると机と椅子が1セット足らなくなる。何故ならいつのまにか生徒が一人増えている。でもそれが誰なのか、だれも気付かないらしい。 「誰が復活した死者なのか?」というのが、かなり怖いです。26年前から起こっている出来事なのに、それらの起きるシステムが誰もわからない。何故なら、事件を知っている筈の人間の記憶が、毎年卒業のころにリセットされ、紛れ込んでいた人物が消えると同時に記憶も薄れてしまうのです。ホラー色が強いですが、この、不思議な現象を解明していく経緯に、本格ミステリーがある。とにかく クラスの呪いが怖いですね。。自分がこんなクラスに当たってしまったら、と思うというのが想像しやすくて、誰でもゾゾ~とくるのでは?綾辻さんの本、これを機会に苦手意識が払拭されました。【このミステリーがすごい より】学園ホラー+本格ミステリー 綾辻行人の新たな代表作登場ジュブナイルを除くと五年ぶりとなる綾辻行人待望の長編は、かつての「囁き」シリーズや『最後の記憶』を髣髴させる学園ホラーとなった。ホラーであると同時に、本格ミステリーのテイストが濃いのも作者らしい特徴だ。東京を離れ、祖父母と叔母が住む夜見山市に越してきた榊原恒一だったが、急病のため五月の連休明けにようやく転校先の夜見山北中学に通い始めた。だが彼のクラス、三年三組には奇妙な緊張が漂っていることを感じ取る。恒一は病院で出会った美少女・見崎鳴(メイ)とクラスで再会する。恒一はメイに惹かれていくが、クラスメイトだけでなく教師までもが彼女を非在の者として接していることを知る。はたしてこのクラスにはどのような秘密が隠されているのか。クラスの異様な行動と、あいつぐクラス関係者の死。そして過去の因縁が、四つの疑問視(What Why Who How)に象徴される謎に引っ張られる形で明らかになっていく。長さを感じさせない物語の推進力と強烈な読後感は、新たな代表作という作者の自負にふさわしい。
2010年02月18日
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このミステリーがすごい 2010年版国内編 第2位「ジョーカー・ゲーム」シリーズ第二弾【感想】前作『ジョーカー・ゲーム』にすっかり魅了されました。ネタばれ注意↓本作ラスト、アメリカ在任のD機関メンバーが、日本の”真珠湾攻撃”を知ります。情報がうまく伝わらなかった経緯があって、意外性とともに。このメンバーは、地域の有力者の娘婿となり子供ももうけています。でも、戦争勃発と同時に、逮捕され、幕引きとなりました。太平洋戦争への突入で、スパイ活動は休止。日本人というだけでつかまる国で、活動は不可能ですね。”真珠湾攻撃”と聞くと、日本のきな臭い時代をリアルに感じます。当時の日本人の大変さを思うと、いつも気分がどんよりとなります。「当地では、周囲に溶け込み空気のような存在になり、疑われない為には、必要であれば土地の女性と家庭を築き、任務が終われば忽然と姿を消すようにする。」というD機関でのモットーのひとつを、踏襲しています。D機関メンバー達は、皆、頭脳明晰、優秀でカッコいい。けど、そんな生き方をあえて選ぶ人間。傲岸不遜。馴致不能。屈折して成長してるよね。平凡な人生をぬるま湯のようと形容してる。陸軍のことも、馬鹿にしてるっぽいし。ダークな人たちだなあ。もしさらなる続編が出るのなら、舞台は第二次大戦、どんな暗躍を描けるのか。スパイ活動は休止せざるを得ない時代ならではの、う~ん、と唸らせてくれそうなエピソード、柳さんなら、書いちゃいそうですね。「魔王」結城中佐の、ニヤリと笑った顔を感じます。【このミステリーがすごい より】ふたつの秘密諜報機関D機関と対抗する風機関どちらがスペアか?吉川英治新人文学賞・日本推理作家協会賞のダブル受賞に輝いた『ジョーカー・ゲーム』待望の続編である。結城中佐率いる陸軍秘密諜報機関D機関。「死ぬな殺すな」という軍と正反対のモットーを掲げ、「地方人」と別称される一般大学出身者をメンバーにするなど異彩を放つ組織である。その鬼っこ的存在に対抗する風機関が設立された。彼らは陸軍大学や陸軍士官学校出のエリートで固められ、自らの死も相手の死も厭わない。新英的な元外交官の機密漏洩案件をめぐって二つの組織が競い合わせられるのが表題作だ。もっと以外は鏡像のようにそっくりな両者の暗闘と、エリート軍人のおごりを逆手にとった結城中佐の周到な計略が凝縮された好短編だ。共産党シンパの軍医が戦場で行う意外な機密連絡法を暴く「蠅の王」、結城中佐の過去の一旦が明かされる「柩」など、収録された五編はいずれも異なった趣向と意外性に満ちていて、好評だった前作と比べても全く遜色のない出来栄えだ。惜しくも二位だが、納得の二位ともいえよう。柳宏司 著作『黄金の灰』 『贋作「坊っちゃん」殺人事件』 『饗宴(シュンポシオン) ソクラテス最後の事件』 『はじまりの島』 『新世界』 『吾輩はシャーロック・ホームズである』 『トーキョー・プリズン』 『シートン(探偵)動物記』 『百万のマルコ』 『番遠くの景色』『漱石先生の事件簿 猫の巻』『ジョーカー・ゲーム』 『虎と月 』『ダブル・ジョーカー』
2010年02月17日
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このミステリーがすごい 2005年版 国内編 第7位【感想】土日は、ミニバスニューイヤーカップで長い週末でした。西部ブロックの準決勝では、惜しくも 0勝2敗。残念ながら決勝リーグには進めなかった。あ~残念!気持ちを切り替えて、明日はいよいよ公立高校前期試験。合格祈願、健闘を祈ります。なんとか第一志望の希望が叶いますように。綾辻さんの『Another』が2010年度の「このミス」三位にランクインしているので、これまで、ほとんど興味が無かったのですが、読んでみようと思いました。デビュー作の『十角館の殺人』が、ちょっと自分に合わなくて。『十角館』のような、孤島で見知らぬ者が集められた中で、各人個々の部屋を持ち、そこで密室殺人が起きるという形式は、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』がなんといっても代表的です。でも、その『十角館』というデビュー作が、当時は下火だった本格ミステリに再び人気に火をつけるきっかけになったと評価が高いんですよね。リアルタイムの時代に読んでいれば、きっと私も熱狂できたのかな?一方、本書『暗黒館の殺人』は、ファンの間で賛否が分かれているようです。がっかりだ的感想がとっても多いのにびっくり。これは、前作から、10数年。刊行するまで、だいぶ長く待たされたせいもあるような。そして、ホラーチックが嫌だとか、話が長すぎるとか、驚くネタが多すぎるとか、まあ、イロイロあげれば切りが無いようですね。人気作家さんの辛いところですね。自分が最近読んだ密室モノでは、『インシテミル』米澤穂積さんがツボに来ました。《読後》いや~、長かった。文庫版で4巻。一冊ずつも厚いですね。誰の、記憶や心のつぶやきなのか、よくわからない記述が多々あり、わかりにくいです。途中からはポイントを押さえつつの飛ばし読みになっちゃいました。良かったところは、まず、人物相関が、横溝正史作品のようにゴチャゴチャしてるところ。複雑な大人数の人間関係は好き。次に、ホラー色が強く、京極夏彦の『陰摩羅鬼の瑕』を彷彿しました。舞台となる屋敷が、見取り図つきというところが、本格ミステリという感じ。日本の吸血鬼話か?とか、人魚の肉がどうのこうの、というのもありましたが、人魚の肉の不老不死のはなしなら、高橋留美子の『人魚の森』シリーズの方が面白い。【館シリーズ】 『十角館の殺人』 『水車館の殺人』 『迷路館の殺人』『人形館の殺人』 『時計館の殺人』 『黒猫館の殺人』 『暗黒館の殺人』 『びっくり館の殺人』 楽天ブックス 綾辻行人
2010年02月04日
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第141回直木賞受賞作このミステリーがすごい 2009年版 国内編 第11位【このミステリーがすごい より】北村薫の歴史ミステリー三部作完結昭和11年2月、大雪の朝、運命の響きがとどろく・・・。昭和初年の上流階級を描いた、「ベッキーさん」シリーズの完結編。めでたくも本書でついに作者は直木賞を受賞した。女子学習院に通う花村英子。彼女の運転手として雇われたのが、ベッキーさんこと別宮みつ子。五・一五事件が起きた昭和七年から昭和十一年二月二十六日の四年間が『街の灯』『玻璃の天』そして本書『鷺と雪』の三作で描かれる。テロが横行し軍部の暴走が始まろうとしていたキナクサイ時代を背景に、純真無垢な上流階級の娘と、時代の犠牲者であるベッキーさんは、謎を追って帝都東京を駆け巡る。山村慕鳥の詩、帝都を騒がす仏法僧の鳴き声・・・。シリーズ全九話にちりばめられた伏線が大雪のあの朝へ収束されていくのだ。【感想】昭和11年2月26日って、なんの日だっけ?読み終わって解りまして。。 二・ニ六事件だったのですね。シリーズ三部作、残念ながら刊行順には読めていません。最終巻、直木賞受賞作の本書から読むことになりました。このシリーズは、世俗から離れたお嬢さま視点で、五・一五事件から二・二六事件までの四年間を描いたもの。日本が激動の時代を迎えていくまでの、時代の空気を読め!というのがテーマみたいです。北野さんが、読め!なんて上からの物言いはされないでしょうけど。三部作のなかでも、一作目「街の灯り」は、それまでの作品と比べられるなどして評価はいまひとつの声もあったようです。三作目にして直木賞を受賞されたわけですから、シリーズを通して読まないと、テーマが伝わらないのは確かのようですね。昭和史をもっと知ろうよ、というような。それにしても、、この日付が二・二六事件の日のことだとすぐにピンとこない自分の近代オンチに、ちょっと凹みました。一番の、オチどころを逃してしまいました~。その辺り、わかっている人が読めば、ラストはすごい衝撃ですよね。こうなるのか!と。。「昭和維新」を掲げ、断行した青年将校たちのひとりが、作中登場の若月という青年なんですよね。それにしても、ほんの2回言葉を交わしただけで、お嬢様が本のやりとりをした人。一度も軍服姿を見ないで終わってしまったというのが象徴的ですね。あの青年は軍人だから本来の姿は軍服なのでしょうが、芯の部分は詩を愛する心の穏やかな人柄のようです。でも、時代はそれを《文弱》と呼ぶ。そして、あの大雪の朝の電話。あっさり読み終わってしまって、味わいどころを逃してしまったのが、残念。◆二・二六事件(ににろくじけん)、1936年2月26日から2月29日にかけて、日本の陸軍皇道派の影響を受けた青年将校らが1483名の兵を率い、「昭和維新断行・尊皇討奸」を掲げて起こしたクーデター未遂事件。事件後しばらくは「不祥事件」「帝都不祥事件」とも呼ばれていた。北村薫さん 感想『空飛ぶ馬』 『夜の蝉』 『スキップ』 『リセット』
2010年02月02日
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第30回吉川英治文学新人賞・第62回日本推理作家協会賞受賞このミステリーがすごい 2009年版 国内編 第2位【感想】今日の関東は夜に雪が降る予報ですね。かなり冷え込みそうですね。。柳さんも、初めて読む作家さんです。昨年の『ジョーカー・ゲーム』に続き、今年は続編『ダブル・ジョーカー』がまたもランクイン。どちらも惜しくも第2位。第一位でも全然おかしくないですよ。眼からウロコ、秀逸、単なる軍隊モノとは違ったなあ。血生いシーンは無く、言ってみればスパイのなんたるか、、みたいな。それでも、伊坂幸太郎の『ゴールデンスランバー』(2009)と東野圭吾の『新参者』(2010)には叶わなかったのね。文句なしに面白かったですよ。ヒネリがあるというか、小気味良くて。短編集だけど、ひとつにまとまりがある。、ひとつひとつの話がまたレベル高いと感じました。一話目で、「D機関」というスパイの養成学校について、日本陸軍との関係性や、当時の日本の軍人さま意識や軋轢などなど、簡略的確にバッチリ説明しちゃいます。D機関は、初めて日本に発足したスパイ養成所のようで、陸軍側からはおぼえが悪い。この一話目での視点主人公は、陸軍側のエリート軍人です。この佐久間中尉は、「D機関」がミスをおかし次第つぶす、というトップの差し金で出向してきた。養成所のスパイ学生達を「あいつらは化け物だ」と、最初は遠巻きに見ている。そのうち迎合して、スパイになるのかな?と予測して読んでたけど、そう単純ではなかった。生や死への考え方、「現人(あらひと)天皇」へ敬意、と、当時の日本人のベースにも触れたり。で、「自分はやっぱり軍人。でも、ただの捨て駒にはなりたくない。」 佐久間中尉は軍人として生きるんでしょうが、それまでのコチコチ意識とはちょっと違った風にいくんだろうな。それにしても、結城中佐という「D機関」のボスは、一体なにもの?とその後への期待が大きく膨らみました。【このミステリーがすごい より】スパイ養成学校D機関をめぐる極東策略ミステリー今年最大のダークホースが本書だろう。夏目漱石のパスティーユやソクラテス、ダーウィンといった歴史上の偉人を主人公にしたミステリーで異彩を放っていた作家が柳宏司だ。いわば玄人好みのする存在だったのが、堂々第二位のランクインはうれしい限りだ。本作は原爆開発を進めたロスアラモス研究所での殺人を描いた『新世界』、戦犯収容施設だった巣鴨プリズンで起きた密室殺人を扱った『トーキョープリズン』に続く作者の三つ目の柱となる、戦争状況をテーマにしたスパイ・ストーリーである。敵に捕らえられながら拷問にも口を割らず、あまつさえ敵の情報を取得して脱走した伝説のスパイ、結城中佐。諜報活動を卑劣な行為であると切り捨てようとする陸軍の風潮に抗い、結城は独力でスパイ養成学校D機関を創設する。憲兵隊から出向した佐久間中尉は「死ぬな殺すな」という、陸軍の教育とは正反対な結城の教えに戸惑いながら、憲兵隊があばけなかった親日派外国人がスパイである証拠を生徒たちが見事に発見し、同時に憲兵隊の無能さを暴き、その陰謀を潰させる現場に立ち会うのだ。そのほか、民間人としてロンドンに潜入してイギリスの諜報機関に捕らえられた卒業生の脱出行を描いた「ロビンソン」や、二重スパイの証拠固めの最中に起きた密室殺人を描いた『XX』など5編が収録されている。「D機関」は陸軍中野学校がモデルだが、あくまでもデフォルメしたものである、史実云々に言及するのは野暮であろう。どの短編もプロットに変化があり、しかも異様に密度が濃い。陸軍内の逆説的存在であるD機関のスパイ活動の裏表を、意外性のあるプロットにたくみに溶け込ませながら、結城中佐という怪物的な人物を間接的に浮かび上がらせていくのだ。作者の代表作と呼べるハイレベルな作品集である。柳宏司 著作『黄金の灰』 『贋作「坊っちゃん」殺人事件』 『饗宴(シュンポシオン) ソクラテス最後の事件』 『はじまりの島』 『新世界』 『吾輩はシャーロック・ホームズである』 『トーキョー・プリズン』 『シートン(探偵)動物記』 『百万のマルコ』 『番遠くの景色』『漱石先生の事件簿 猫の巻』『ジョーカー・ゲーム』 『虎と月 』『ダブル・ジョーカー』
2010年02月01日
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