時空の流離人(さすらいびと) (風と雲の郷本館)

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July 17, 2010
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「片眼の猿」 (新潮社)。私がこれまで読んだ道尾作品は、 「背の眼」 「骸の爪」 「向日葵の咲かない夏」 などのホラーやホラー趣味満載のミステリーばかりだったので、だいぶ趣が違っていたのには少し驚いた。

○片眼の猿(道尾秀介:新潮社)



 この作品の主人公である三梨幸一郎は、盗聴を専門としている探偵だ。ある楽器メーカーの依頼で、そのメーカーのライバル社を調査している。同業者の冬絵をスカウトし、事件を調査していたが、調査の最中に発生した殺人事件を「聴いて」しまう。

 この作品の特徴を一言で表せば、読者を唸らせるようなひっかけトリックが、そこかしこに仕掛けられていることだろう。殺人事件の真相のみならず、三梨と冬絵の能力や容姿、三梨の探偵事務所が入っているおんぼろアパート・ローズ・フラットの住人たちの本当の姿、三梨がかって一緒に暮らしていた秋絵の死の謎などの多くの仕掛けが、最後の方ではどんどんと明らかになってくる。これだけ多くのトリックの伏線が作品中にちりばめられていたことに、読者は驚き、その意外性に、すっかり作品世界に引き込まれてしまうことだろう。これぞまさに道尾作品の真骨頂というところか。

 表題の「片眼の猿」とは、ヨーロッパに伝わる民話だそうだ。作中に紹介されている話を要約してみよう。999匹の猿の国があり、その国の猿はみな片眼だったが、1匹だけ両眼の猿が生まれてと言う。その猿は仲間にあざけられ、笑われたあげく、とうとう自分の片眼をつぶしたという。



 「眼の数なんて数えても意味がない。」

 「このアパートの連中は人をみて、ただ「人」だと感じる。それだけなのだ。」

 ミステリーとしての面白さだけでなく、人としてのありようも教えてくれる、そんな作品に仕上がっていると思う。

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Last updated  July 17, 2010 08:30:26 AM
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