しあわせのかたち

しあわせのかたち

2006/05/26
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カテゴリ: カテゴリ未分類
 かつてウチの会社で働いていたバイト君の親御さんが、オレオレ詐欺に引っ掛かったそうだ。「貴方の息子さんが○○○(当社名)で働いている時に、120万円の負債を作った。今日中に振り込まないと訴えざるを得ない」という電話が掛かってきたそうだ。

 このご時世にそんな典型的な手段でまさか、と思うなかれ。
 そういう油断がオレオレ詐欺の蔓延を生む。

        ※

 政治思想や運動について、ものすごく抽象的なことを考えている。
 どれくらい抽象的かというと、「モダニズムの終わり」について思いをはせるくらいボンヤリとして実態のないものを想定している。

        ※

 山本義隆という人物をご存じだろうか。
 元東大全共闘議長であり、アカポスを持たない孤高の物理学者であり、教育者だ。


 1960年代後半に沸点を迎えた、全共闘運動の頂点にいた人物である。


 ある作品や思想的イデオロギーや宗教や、あるいはある人物そのものの価値評価というのは、それを見る人それぞれ見方によってずいぶん変わるだろう。
 私の場合は「その終わり方」というもののに、かなり影響を受ける。

 物語を紡ぎ始めるというのは、意外と簡単だ。
 試しに小説なりドキュメンタリーなり、自身の好きな方法で「物語」を書き出してみればわかる。原稿用紙にして1~2枚であれば、それなりのものは誰でも書けることに気づく。
 それすら無理だ、という場合には、自分の人生について書いてみればいい。感動した場面、辛かった場面、泣いた場面。人間関係から時代背景まで書き連ねれば、誰だって(重ねて書くが、400~800字くらいまでなら)それなりに面白いものができるだろう。

 しかし書き出したその「物語」を収束させ、読み手(それは書き出した自分自身も含まれる)に納得させるかたちで完結させるためには、相応の技術と経験と、知識と知恵が必要となる。

「全共闘」という、ある時代を代表するイデオロギー的事件は、いったいなんだったのだろうか。それはどんな物語だったんだろうか、と考える時、私はその終わり方について大きな感銘を受けた。

          ※

 1960年代中盤、京大基礎物理学研究所に国内留学していた山本は、母校の全共闘運動に参加すべく、研究生活を放り出して東京に舞い戻る。当時の京大物理研究所所長、湯川秀樹は山本の物理学における知性を惜しみ、涙を流して止めたそうだ。
 山本が全共闘運動に参加したことは、日本物理学会における大きな社会的・学問的損失である、と語る人もあるという(03年、物理学論文『磁力と重力の発見』でパピルス賞、毎日出版文化賞、大佛次郎賞受賞)。


 1969年1月、安田講堂陥落時点で逮捕状が出された山本は、同年9月の全国全共闘連合結成大会で警察当局に逮捕。その後、学生運動は度重なる組織分裂と対立、内ゲバにより急速にその勢いを失っていく。


 内田樹に拠れば、1974年の冬、全共闘運動が沸点を超えて飽和し、急速に冷め「シラケ」が覆い尽くした東大キャンパスにおいて、安田講堂事件を指揮した山本義隆は、たったひとりで全共闘の最後の立て看板を片づけていたという。

<以下引用開始>


冬の夕方、10畳敷きほどある巨大な立て看を銀杏並木の下ずるずるとひきずってゆく山本義隆の手助けをしようとする東大生は一人もいなかった。
目を向ける人さえいなかった。

法文一号館の階段に腰を下ろしていた私の目にそれは死に絶えた一族の遺骸を収めた「巨大な棺」を一人で引きずっている老人のように見えた。
東大全共闘はひとりの山本義隆を得たことで「棺を蓋われた」と私は思っている。

<内田樹の研究室  「政治を弔うということ」 より引用終了>






われわれの闘いは決して終わったのではなく、
われわれに代わって闘う同志の諸君が、
再び解放講堂から時計台放送を真に再開する日まで、
一時、この放送を中止します。


 この放送のわずか5年後の74年冬に、山本義隆はどんな気持ちで、たったひとりで立て看板を片づけていたのだろうか。それは思想の葬送の儀式として、まっとうなものだったのだろうか。
 陥落以降、現在までの37年間のあいだ、東大安田講堂から、学内解放を願った学生の声が響いたことはない。

 ただひとつわかるのは、全共闘という思想運動は、聡明で偉大な頭脳を持ったひとりの科学者が、その幕引きを背負ったということだ。


 いつか、現代の趨勢を握るモダニズムという思想が死んだ時、あるいは当世流行りのプチ・ナショナリズムが死を迎える時、たったひとりでその看板を片づける、思想の死を我が身一つで引き受ける「現代の山本義隆」を生み出すことができるのだろうか。


 そんなことを考えている。
 探しものは見つかっていない。
 こんなことに拘泥していると、いよいよモテなさそうだ。あわわどうしよう。





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Last updated  2006/05/26 06:15:21 PM


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