しあわせのかたち

しあわせのかたち

2006/06/14
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カテゴリ: カテゴリ未分類
 サッカーW杯への熱狂を見ながら、まったく別のことを考えていた。

       ※

 珍しく、読み終えたばかりの『ヘルメットをかぶった君に会いたい』(集英社刊/鴻上尚史著)を読み返している。いや面白いんだって。

 本の帯には「これは小説です!」(つまり「フィクションです」ということ)と大きく書かれているが、鴻上のエッセイに何度か出てきたエピソードが何度も登場する。どこまでがフィクションでどこまでがドキュメントかも、この作品を楽しむポイントだろう。

 主人公の「僕」はある日の深夜、60年代の歌謡曲を集めたCD集のTVCMを目にする。そこには資料映像として一瞬だが、主人公の母校である早稲田大学の校舎と、その入り口で学生運動への勧誘をする女性が映る。
 ヘルメットをかぶりながらアジビラを配る女性の、その微笑みに魅せられて、演出家である「僕」はさまざまなツテを辿ってその女性を探すというストーリーだ。

 作中には「60~70年代に日本の若者たちを覆った、学生運動とはなんだったのか」という考察が繰り返される。それは著者の鴻上や私自身も含めた「遅れてきた者たち」にとっては絶対に体感できない、共感することも難しいムーブメントだったのか。


 おそらくたぶん、当時学生運動に身を投じていった若者たちにとっては、「政治」とか「国家」とか「思想」とか、あるいはもっと大きく「時代」だとか「世界」だとか(あるいはもっと小さく「日本」とか「戦争」とか)、そういう今となっては抽象的でボンヤリとしか理解されないものが、もっとずっと具体的で身体的で、手を伸ばせば届くものだと思えていたんだろうな、と思う。

 喩えるならそれは、今、日本代表のユニフォームを来て、顔に日の丸をペイントした若者が「日本がんばれ!」とモニターに叫ぶとき、彼らにとって「サッカー」だとか「代表選手」だとかが、すごく身近に感じられるのと近いんじゃないか。


 これはそういう話なんじゃないかと思っている。

 もちろん当時「思想」や「国家」や「政治」に熱狂していた若者が、いま「サッカー」だとか「日本代表選手」だとかに熱狂するというのは、どちらが悪いだとかいいだとかいう話ではないだろう。いやどちらかというと、サッカーに熱狂しているほうが平和で温和でいい世の中なのかもしれない。
 ベトナム反戦運動に命を賭けるよりは、4年に一度のサッカーの祭典に踊り狂うほうがいいに決まっている。どんなにドップリ浸っていたって、サッカーなら引き返すこともできるし傷も浅いだろう。

 そういう確信がある上で思うのだけど。
 どうも若者たちが熱狂する対象というのが、どんどんどんどん具体的で身近で「わかりやすいもの」になっているのは気になる。
 いやもしかしたらこれは、「最近の若者はバカになってきている」という、そういう簡単な話なのかもしれない。

「思想」より「サッカー」のほうがわかりやすい。
「自分はいま感動している!」ということが、より身体的に、簡単にわかる。

『資本論』より『ゴーマニズム宣言』のほうが手軽に読めるし、ゴダールの撮った映画よりハリウッドのドタバタ劇のほうがわかりやすい。どれも「物語」という点では同じだ。同じだけども、資本論やゴダールはわかりにくく、一応深みがあるとされている。

 ああそうか。
 たぶんこれは、若者が変わった、という話ではないんだろう。


 近代が成熟しきった。
 そう言うと簡単なんだけども、悩み苦しむ人に処方箋を作るには難儀になっていると思うし、たぶんこの流れはもうこの先ずっと止まらないだろう。

 探しものは見つかっていない。
 いやまあ、バカでいいし、バカは楽しいんだけどね。





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Last updated  2006/06/14 10:59:04 PM


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