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みなさん、こんばんは。日本にも伝統として伝わっている料理がありますよね。どんな民族にもあるはずです。ユダヤ人にも。今日はユダヤ人の伝統的料理を紹介します。シュトルーデルを焼きながらStrudel Storiesジョアンロックリン(著者),こだまともこ(訳者),井江栄(その他) 偕成社 練り粉を薄くのばして、甘く煮たリンゴやクルミを包みこんで、くるくる畳んでオーブンへ。一家に昔から伝わる伝統のお菓子、シュトルーデルを焼く時には決まりがある。「シュトルーデルを焼く時は、今までにシュトルーデルを焼いた人達がした話を全部もう一回しなければならない」なぜなら、話ぬきのシュトルーデルなんてただの小麦粉のかたまりだから。 というわけで、100年以上、7代にわたるあるユダヤ人家族が作り続けてきたシュトルーデルをめぐる話がかくて始まる。ロシアのオデッサにいたサラの弟エリの臨死体験。迫害を逃れ、夢と自由を求めてアメリカにやってきた世代、サラの娘バーティの時代。第二次大戦直後の1948年、野球が少年達の憧れの的だった頃、イスラエルからやってきたウィリーの親戚レオンのシュトルーデル嫌いの理由。それはそのまま、ユダヤ人が辿ってきた100年の歴史と重なる。 髪を刈られ、姓名を剥ぎ取られ、財産を奪われながら、料理という文化を深く静かに守り続けた彼等の涙と汗と思い出が、これからもシュトルーデルに幾重にもくるまれてゆく。 平易な文章でこれらの話を子供にもわかりやすく解きあかした物語。【中古】 シュトルーデルを焼きながら /ジョアンロックリン(著者),こだまともこ(訳者),井江栄(その他) 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
June 9, 2018
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みなさん、こんばんは。うみを出し切るとか言いながら歯切れが悪いですね、財務省調査。大変な事をやったのに原因を探らないの?さて、今日もアレックス・シアラー作品を紹介します。魔法があるならThe Greatest Store in the Worldアレックス・シアラーPHP研究所「いいですか?お父さん、お母さんの言う事を、ようく聞いて、いい子にしてるんですよ。」子供の頃に、何度となく聞かされたフレーズだ。しかし、本篇のヒロイン、オリビア(リビー)ならば、即座にこう言う。「それ、間違ってる。」なにせ、彼女はスーツケースを持って「閉店間際のデパートに行こう」なんて言い出したお母さんの言う事を聞いたために、取調室で一人顛末を語る羽目になるのだから。取調室ですよ、もちろん警察の。ほら、穏やかじゃ、ありませんでしょう? 理想の家が見つかるまでの間、デパートに住む事を勝手に決めてしまった母。堅実的でないが、妙な所で度胸が座っている母の言葉を無邪気に信じる妹、アンジェリーン。事情がうすうすわかっているリビーは痛し痒し。3人の性格設定は、赤川次郎さんの「三姉妹探偵団」シリーズのヒロイン達とよく似ている。そういえば、「三姉妹探偵団」でもお父さんのいない時に事件が起こり、次女・夕里子が「自分がしっかりしなければ」とやや損な役回りを引き受けていた。冒険を楽しみながらも、ぽわんとした所のある二人の分まであたふたしたリビーは、さぞや鬱屈がたまっていたのだろう。喜々としていきさつを語ってくれる。警官の笑いをこらえた顔、ソーシャルワーカーの苦虫をかみつぶしたような顔が見えるようだ。 話のおおかたは、舞台となったデパート、スコットレーズの描写だ。ドアマンがいて、ディスプレイが豪華で、各階の品物が豊富で…と読んでいくと、モデルとして浮かび上がるのが、イギリスはロンドンのハロッズ。歩道が広くて、品物豊富で、確かに「ここになら一日くらい住めそうだなぁ。」と思ったもの。 しかし、ここで「3人はいつまでも幸せに暮らしました」で物語が終ってしまうといくらなんでも御都合主義。そこはさすがシットコムの脚本家。デパートに来る客、デパートの従業員、デパートの清掃員、そしてとんでもないお客まで、彼女達を襲うトラブルを、ありがちな範囲でちゃんと登場させている。時に暢気、時に大胆な彼女達が、どうやってトラブルを回避するか?身近な場所で繰り広げられる思いがけない冒険譚に、わくわくしながらページを繰った。長篇テレビ映画に翻案され、英国BBCで1999年のクリスマス・イブに放映されたそうだから、そのうち日本でも放送されるかもしれない。尚、一つだけ苦言を呈させて頂くと、邦題は、原題そのまま(世界一のデパート)の方があっている。(愛蔵版)魔法があるなら [ アレックス・シアラー ]楽天ブックス
June 6, 2018
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みなさん、こんばんは。風邪は少し治りましたが電車の中でマスクもしないで咳をしている人を見ると苛つきます。さて今日と明日はアレックス・シアラーの作品を紹介します。ボーイズドリーム 世界記録をつくろうWilmot and Chipsアレックス・シアラーPHP研究所NHK教育テレビで毎週水曜日6時25分から放送されている、 「ボーイ・ミーツ・ワールド」を知っていますか? 典型的なアメリカン・ボーイのコーリー・マシューズと その家族・友人に起こる出来事が描かれる25分弱のシットコムです。 コーリーには両親、妹、そして兄エリックがいます。二人ともいわ ゆる優等生タイプではありませんが、エリックはコーリーよりも お調子者キャラに設定されています。成績もよくないし、自分が 思うほど女性にももてません。やや漫画チックな3枚目キャラです。 ドラマのマシューズ兄弟と、この物語のタナー家のテリーとウィルモット 兄弟とは、とてもよく似ています。 腕力、知力はかなわない。「今に何とかしてやるぞ」と自分なりに頑張 るけれど、なぜか兄が一枚上手。「お兄さんの言う事は正しいんだ!」と 無条件に信じ込んでしまいます。お人よしのところがある弟は、いつも 兄にいい所をかっさらわれてしまう。時にはとんでもない事を思いついて、 自分も窮地に立たされる事があるけれど、なぜか憎めません。二人の弟は、 彼等が実はきょうだい思いのいい兄さんである事を知っているのです。 同性で年が近いきょうだいを持った人ならば、ウィルモットと同じ思い をした事があるのでは? アレックス・シアラーはイギリスのシットコムの脚本を書いています。 そのせいでしょうか。似ているのは兄弟の設定だけではありません。あんまり お兄ちゃんのおいたの度が過ぎると、がつん!と食らわせるパパ。息子が一心 不乱に庭の廻りを走っているのに、我関せずのママ。「人を退屈死させる記録」 保持者の隣人・ロンソンさん、新聞社の電話係兼デスク兼書類整理棚の パッドリーさん、五十年ポテトを揚げ続けてきたウィルキンズさん等隣人達の 一風変わったキャラクター設定も、シットコムでよく見るキャラクターです。 「ボーイ…」のドラマはアメリカ、この小説はイギリスですが、ほとんど違いはありません。 最近この2国が仲いいのは、同じタイプのシットコムを見ていて、考え方が似てきたのでしょうか。 「大好きなフライドポテトを五分間で何本食べられるか、《フライドポテト世界記録》 に挑戦して有名になろう!」というウィルモットの思いつきに、兄、心配する友人、 隣人達が次々と乗っていく過程も実にスムーズ。ストーリー運び同様、物語から 読み取れるメッセージは、見事にストレートです。時々ウィルモットの独白を挟み、 なおかつ初めての人にも読みやすい語り口で、子供達は難しい事を考えず、 すらすらと読む事ができると思います。メッセージもちゃんと受け取れるでしょう。 しかし、大人のためのファンタジーとして読むと、いくらか子供っぽ過ぎるきらいが あり、物足りません。大人としての自分が、現実世界にどっぷりと染まってしまったからかもしれません。素直に感動できない自分が寂しくなります。 さて、その現実的な大人からアドバイスでもしましょうか。 「そうだねぇ、ウィルモット。珍妙な格闘技の名前を作り出す世界記録に挑戦してみてはどう?」 いえいえ。やっぱり、教えてもらっては意味がありません。やはり青い鳥は自分で見つけるべき。 ひたむきさを忘れないで、がんばれ、がんばれ、ウィルモット。 【中古】 ボーイズ・ドリーム 世界記録をつくろう /アレックス・シアラー(著者),鈴木彩織(訳者) 【中古】afb
June 5, 2018
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みなさん、こんばんは。今日と明日はおばさん特集にしたいと思います。みなさんにも親戚のおばさんはいますよね。でも、こんな怖いおばさんはいないのでは?世にもおそろしいフクロウおばさん Auful Auntieデイヴィッド・ウォリアムズ 小学館12歳のステラは、代々続く名家の一人娘。ある日目覚めるとお屋敷は静まりかえっていて、世界一いじわるなおばさんと二人きりだった。なんと両親が交通事故で亡くなってしまったらしい。にもかかわらず、ステラは、身動きできないくらい包帯でぐるぐる巻きにされていたのだ。いったい何が起きたの? とんでもないことに、おばさんがステラの遺産を狙っていたのだ。世界一意地悪なおばさんは、世界一大きなフクロウを飼っていて、あの手この手で、ステラをせめてくる。追い詰められるステラを助けてくれたのは、煙突から突然現れたススという少年だった。ステラは血を分けた姪で、他に肉親がいないというのに、叔母には全く愛情が全く感じられない。ただ一羽愛情を注ぐのはフクロウ。このフクロウがとんでもないパワーを持っていて、何と、屋敷から逃げ出そうとしたフローラを爪でひっつかむ事ができる。12歳をだぞ。どれだけ大きいんだ。ワシか君は。 学校や外界との接触は叔母が全部担当しているから助けは求められず、あろうことか事故でステラを救出した美談の人になっているため、生身の人間の助けは一切期待できないシチュエーション。「ハラハラドキドキの二人の攻防戦の結末はいかに?!」などと煽っているが、少なくとも叔母さんは本気でステラを殺そうとしていて、こういう軽いノリでは片付けられない。それを敢えて軽く見せているのは、頻繁に登場するステラやおばさんの叫び声と、デフォルメしたおばさんをはじめとするユーモラスな平澤 朋子さんのイラスト。叫び声はわざわざ太字で表示されるが、原文もそうだったのか。平澤 朋子イラスト。三辺律子訳。【楽天ブックスならいつでも送料無料】世にもおそろしいフクロウおばさん (児童単行本) [ デイヴィッド・ウォリアムズ ]楽天ブックス
April 15, 2018
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みなさん、こんばんは。アメコミヒーロー、スパイダーマンを知っていますか?今日ご紹介する本は、原題は全然スパイダーマンと関係がないのですが、なぜこんな邦題になったのでしょうね。さよなら、スパイダーマンMy Sister Lives on the Mantelpieceアナベル・ピッチャー偕成社原題は「My Sister Lives on the Mantelpiece」=私の姉は、暖炉の上に住んでいる。この通りの文言が、第一文に登場する。ぼくの姉さんのローズは、暖炉の上においてある壺の中にいる。 こう書いたからと言ってファンタジーではない。テロに巻き込まれて亡くなった双子の姉ローズの骨壺が、暖炉の上に置かれているのだ。そしてぼく(ジェイミー)とローズの父ならば、先に挙げた文章を「暖炉の上で生きている」と訳すだろう。「生きている」「住んでいる」いずれにせよ、肉体はなくても存在感はあるという意味だ。 だがそう書いたとしても、ジェイミーは、ローズの事を常に意識しているわけではない。学校に出す作文に「姉が二人いる」と書いたのも、そう思いこみたいわけではなく、テロの事を話して皆からあれこれ言われるのが厭なのだ。 他の家族はローズの不在を強く意識している。中でも抜け出せない重症が父で、かたわれの双子のジャスに、ローズの服を着せてしまうダメっぷりだ。母親が出ていったのは、飲んだくれになった夫を見ていたくなかった事もあるだろうが、ローズの不在を思い知らされる人達と一緒にいるのが厭だったというのもあるだろう。母親の切り替えがかなり早いと感じたが、年齢設定が結構若いのかもしれない。 不在を感じられないのに‘いる’ふりをしている息子と、どんなに‘いる’つもりになっても不在に打ちのめされている父親の関係は、同じクラスにいるイスラム系の少女スーニャによって一気に緊張関係に陥る。実際、テロ後のイスラム教徒は彼女のような体験をしたのではないだろうか。自分は何の責任もないのに、ジェイミーの父親のように「勝手に国に来て金を稼いで」とイスラム教徒=泥棒扱いされる。ヘタレと呼ばれているジェイミーにだって、間違っていることはわかるのに。 そう、大人達はいつも正しいとは限らない。時として、子どもたちの方がずっと先に答えを見つけ出している事が、この世の中には、実はたくさんある。 私達大人も、ずうっとスパイダーマンスーツを着ている必要などないのだ。汚れたら取り替えて、素の自分に戻ればいい。 ブラウンフォード・ボウズ賞受賞作。【楽天ブックスならいつでも送料無料】さよなら、スパイダーマン [ アナベル・ピッチャー ]楽天ブックス
January 18, 2018
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みなさん、こんばんは。今日は冷えますね。大学受験も始まっているのに雪が心配です。皆さんの所ではいかがですか?Everything, Everythingわたしと世界のあいだに ニコラ・ヨーン静山社マデリンの病気は、重度複合免疫不全症という有名な難病だ。免疫を作るためのT細胞が体内に生成されないため、あらゆる物に対してアレルギー反応を示し、発作を起こす。軽度のウィルス感染でも死に至る。だから17年間、マデリンは家を離れたことがない。顔を合わせるのは、ママと看護師のカーラだけ。 ある日、引っ越しのトラックが隣にやってきた。マデリンは窓から外をのぞいて彼を見た。背が高くて、しなやかで、全身黒ずくめの彼を。名前はオリー。 てっきり闘病中で未来には死が待ち構えている少女と、見るからに健康的な若者の悲恋なのかと思っていた。だから「私は未来を予測した。きっとオリーと愛しあうことになる。そして、その恋愛はきっと不幸な結末を迎える。」などとどこかに諦念を持ちながらオリーと接するマデリンの恋は、きっと涙なしに読めない展開になるであろう、と。「愛する人と触れ合うのはどんな気持ちなのだろう」と思っても、実行に移せば命がけだ。それは、自分を愛して生かそうとしてくれている母親に対する裏切りになる。親と恋人との板挟みで苦しむマデリンが、それでも恋愛という未知の世界に踏み出そうとする姿は初々しくも凛々しい。恋のパワーは無敵だ。「星の王子さま」がモチーフとして登場するが、実際に会えない二人の心を結ぶのは今ふうのチャット。 確かに後半、途中で「え、これやって大丈夫なの?」と本当に病気なのか疑わしい所があったので、「もしかしたら…」と勘のいい人なら気づいたかもしれない。これが処女作とは思えないラブストーリーからミステリへの鮮やかな変換が為されている。作品中のイラストは著者の夫君が担当。Everything、Everything わたしと世界のあいだに [ ニコラ・ユン ]価格:1760円(税込、送料無料) (2020/10/14時点)楽天で購入
January 12, 2018
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みなさん、クリスマスはいかがでしたか?一夜明けると鶏は鶏でも鶏のから揚げが店に並んでいてびっくり。さて、こちらは恋をした事で変わっていく女の子の物語です。アリブランディを探して (STAMP BOOKS)Looking for Alibrandiメリーナ・マーケッタ岩波書店 表紙の少女はガリ勉のイメージである眼鏡を脱ぎ棄てている。目は見えないが、口をきっと引き結び、何事かを決意したような様子だ。 その少女―ジョセフィン・アリブランディは、オーストラリアの私立校に奨学金を貰って通っている。イタリア系移民のシングルマザーの家庭にしては、恵まれた暮らしだ。優等生タイプのジョセフィンは、「未婚之母親が生んだ子」「色つき(移民系だから)」などのレッテルから解放されたいと切に願っている。そこへ、一度も会ったことのなかった父親が現れて…。 カソリックは離婚を認めておらず、中絶も認めない。だからイタリアのマンマはいつでも子沢山だ。未婚女性の妊娠も認めないので、ジョセフィンは周囲からの視線を感じている。必要以上に優等生であろうとしたのも、同じ優等生タイプのジョンと親しくしたのも、周囲の反応を意識してのことかもしれない。 ところが会った事もない弁護士の父親が登場して、喜ぶどころか「今さら娘なんて言われても」みたいな最悪の出会いをするわ、地元の公立校に通うチョイ悪タイプのジェイコブになぜか胸がときめくわ、今までの「アリブランディ」レーベルががらがらと崩れ落ちていく事態に。原題の意味は「本当の自分」を見つめ直すことだ。彼女の自己実現には、未婚の母を選んだ娘に厳しい祖母の過去話も貢献する。 イタリア系は結構アバウトで明るいイメージがあったけれど、今回登場する移民社会は結構閉塞感があって噂話を随分と気にする日本みたいな印象だった。ジョセフィンの一人称語りなので、ちょっと怒りっぽく、反抗して見せてもどこかに優等生っぽさが残ってしまうややこしいヒロインの心理描写が細かく描かれていた。【楽天ブックスならいつでも送料無料】アリブランディを探して (STAMP BOOKS) [ メリーナ・マーケッタ ]楽天ブックス
December 26, 2017
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今一番熱い街、NY。そこにはいろいろな人がいます。きっと年末もにぎやかでしょうね。そんなNYに住む人達が主人公の短編集を紹介します。ニューヨーク145番通り Y.A.Books145th Street:Short Storiesウォルター・ディーン・マイヤーズ(著者),金原瑞人(訳者),宮坂宏美(訳者) ニューヨーク145番通りといって、ぴんと来る人と、こない人に分けるとしたら、私は後者だ。おそらく私は観光バスで、こう言われて一瞬通り過ぎたくらいだろう。「ほら、あのへんがハーレムですよ。」と。だからハーレムと聞いて私が思い浮かべるのは、大半が映画などによるイメージでしかない。 ハーレムに住んでいる人達の物語を文書で今回初めて読んだ。そこに住む彼等の行動や考え方が、とりわけ他の人達と異なる部分があるようには思わない。「ビッグ・ジョーの葬式」では、他人の葬式に感動したビッグ・ジョーが自分の葬式をやってもらおうと考える。語り手の僕は、面白がるが、常識人のビッグ・ジョーの恋人や、その娘は大反対。あの手この手で止めさせようとする娘の作戦と、本当の葬式だと思っている大人達との行動のギャップが面白い。しかし、嘘の死がセンターラインにあるこの作品には、本当の死がすぐ側にある事を示すように、近所で人が撃たれたと、本当に何気なく描かれている。 「キティとマックのラブストーリー」で、カップルの間に亀裂を生じるのも、とばっちりにしてはひどすぎる「ハーレムの極悪犬」の原因となったのも、弾丸だった。やはり、銃や警官が登場する度合いが、他より多い。しかしだからといって人々が皆、ことさら死に怯え、絶望して暮らしているわけではない。 少女の愚直としか言い様のない愛情表現が、頑な男の心を溶かす「キティとマックのラブストーリー」、とぼけたおばあちゃんと白人警官一家の交情を描いた「あるクリスマスの物語」、暴力に対して暴力で立ち向かう事を良しとしない少年「モンキーマン」には、未来への希望がのぞいている。ある短篇の主役が、他の短篇の傍役として顔を出すので、一人の人間のいろんな面がのぞけるのも楽しい。金原瑞人・宮坂宏美訳。他「ボクサー」「アンジェラの目」「あるクリスマスの物語」「三部からなる物語」「ストリート・パーティ-145番通りの場合」収録。【中古】 ニューヨーク145番通り Y.A.Books/ウォルター・ディーン・マイヤーズ(著者),金原瑞人(訳者),宮坂宏美(訳者) 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
December 16, 2017
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みなさん、こんばんは。毎日食べている料理と天気に関係があると言われたら、あなたは信じますか?お皿監視人 あるいはお天気を本当にきめているのはだれかDie Tellerwachter oder Wer das Wetter wirklich machtハンス・ツィッパート三修社ドイツでは「お皿に食べ物を残すと雨」「お皿をカラにすれば晴れ」と言われている。シツジツゴーケンのドイツ人があやふやな言い伝えに頼るとは珍しい。まあ、「ご飯は残さず食べないと大きくなれませんよ」の類か? このお皿とお天気をつなげた言い回しを逆手に取って、お皿監視ビジネスを手がける「お天気マフィア」がいた。彼らはお皿を監視して、思うがままに天候をコントロールしようとする。別に世界の平和を守るような善意の目的があるわけではなく、特定企業の利益のために世界の天気を思うがままにしようと企んでいるのだ。この計画の危険性を見抜いた4人の子どもたちが、お天気マフィアに立ち向かう。日頃から探偵団を組織している4人が、お皿監視人たちを大混乱に陥れるためにとった戦術とは…!? 探偵団の名前がウオノメ•タカノメ探偵団(鵜の目鷹の目が元ネタなんだろうなぁ)だったり、本名が似ても似つかない女の子がマリ―・クレールと名乗ったり、くすくす笑わせるネタが仕込まれてる。一方で、自分達が食べないご飯を飢えているバングラデシュの子供達に送るが、バングラデシュにとっては有難迷惑、という場面もあり。自分が着なくなったぼろぼろの古着を寄付していい人になった気分でいる人達にとっては耳が痛いかも。ジャーナリストが作者なので笑わせて終わり、の絵本ではない。【楽天ブックスならいつでも送料無料】お皿監視人 あるいはお天気を本当にきめているのはだれか [ ハンス・ツィッパート ]楽天ブックス
December 10, 2017
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みなさん、台風が心配ですね。台風というと強い風。この物語の主人公なら、強い風でも平気なのでしょうか…。風にのってきたメアリー・ポピンズMary Poppins岩波少年文庫パメラ・リンドン・トラヴァース 空にぺたんと張りつけると、とたんに瞬き出すパンの袋についていた星。笑い始めると、ふわふわと浮き上がる体。飛び込んで遊べる絵の中の景色。『メアリー・ポピンズ』シリーズは、イギリス・ロンドンに住むバンクス姉弟はおろか、世界中の読者をエブリディ・マジックの世界に連れて行ってくれる素晴らしいファンタジーです。でも、書かれている全てが、本当にファンタジーー空想や夢ーなのでしょうか? 私達は、人間の大人達と意志を通じあうために、言葉を覚えます。読んだり書いたりできるその言葉を覚えれば覚えるほど、利口になったと言われます。ならば、それらの言葉を操れない幼児時代には、何も持っていなかったのでしょうか?『ジョンとバーバラの物語』が、その問いに答えてくれます。 『ジョンとバーバラの物語』は、主要登場人物である、ジェインとマイケルの双子の弟と妹・ジョンとバーバラが主人公の、いわばサイド・ストーリーです。二人は、ムクドリと話をし、驚く事に、大人達の言葉もちゃんと理解しています。私たちが見て、いかにも赤ん坊らしい仕草だと頬を緩める『足の指先を舐める行為』『靴下を両方脱ぐ行為』は、赤ん坊らしい仕草を喜ぶ大人へのサービスだというのですから、おそれいったものです。それどころか、彼等は風や木、日の光の言葉すらわかるのです。バイリンガルどころではありません。二人は、メアリーやムクドリから「大人達も、昔は全部の言葉がわかっていた。あなた達も忘れてしまう。」と言われて、猛烈に反発し、「自分達は、絶対忘れたりしない。」と強く言い切ります。ここで終わっていれば、微笑ましい或る一日のスケッチで終わったであろう物語には、後日談がついています。二人が最初の誕生日を迎えた日に、ムクドリがやって来て、いつものように話しかけます。しかしその時には、双子はもうムクドリと話す事ができなくなっていました。子供から大人になるという事は、何も無い状態から、知識や経験を得て、どんどん豊かになってゆく事のように思われています。しかし、実は大人になる過程で、もともと持っていた二つの世界と二つの言葉のうち、一つを失っていたとしたら? 私達には、ほんの小さい頃の記憶がないのですから、あり得ないとは言いきれません。赤ん坊の頃から「何かを得れば何かを失う」という法則の中で生きていたかと思うと、無性に寂しくなり、ムクドリやメアリーが羨ましくてなりません。けれど、彼等もその特権をただ喜んでいるだけではなさそうです。忘れた事さえ忘れる双子に対して、記憶も持ち続けるムクドリやメアリー達は出会いの喜びも、別れる辛さも全部覚えています。「わかってたのさ。いつも、いってきかせてやってたんだから。でも、ほんとにはしなかったけど。」しょげるムクドリに、メアリーはいかにも彼女らしい一発をお見舞いします。幼い頃には『きついなぁ。』と思っていたこの箇所ですが、再読するとこれは実は、彼女なりの激励のように思えてきました。シリーズを通して、いつも自分から去っていくメアリーは、実は別れを告げられる寂しさを味わうのが、何よりも苦手なのかもしれません。ムクドリの心がよくわかっているから、例え耳に優しくても、言っている側の満足にしかならないおざなりの言葉を、かけなかったのでしょう。再読は、かつて自分も持っていたかもしれないもう一つの世界と言葉へのノスタルジアを呼び起こし、「自分はいつでも一番! 」と胸を張り、他人に対する配慮なぞしそうにないメアリー・ポピンズの意外な優しさを発見する、楽しい旅になりました。かつて子供だった大人の皆さんも、もう一度メアリー・ポピンズに会ってみませんか?風にのってきたメアリー・ポピンズ 岩波少年文庫 / パメラ・リンドン・トラヴァース 【全集・双書】ローチケHMV 1号店
October 30, 2017
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今日は朝から雨で、とても晴れないだろうと思ったら午後になったら晴れ間が見えてきましたね。でも今週は全体的に雨だとか。貴重な洗濯日和ですね。さて、こちらはものものしいタイトルのついたYAです。どんな話だと思いますか?サイモンvs人類平等化計画 (STAMP BOOKS)ベッキー・アルバータリSimon vs. the Homo Sapiens Agenda サイモンはネットで知り合った「ブルー」に夢中で、自分がゲイだということもブルーにだけは打ち明けられる。ところが同級生のマーティンに秘密がばれ、クラスのアイドル、アビーとの仲を取り持つように脅迫されるが…。 サイモンが「言いたければ言えばいい 卑怯者!」と堂々と言えるようなら、この物語は初めで終わり。そうならなかったのは、未だカミングアウトしていないブルーを守るためと、自身も家族にさえカミングアウトする準備ができていなかったためだ。アビ―とマーティンをそれとなく一緒にいるよう仕向けるなど涙ぐましい努力をするが、いかんせん、こういう恋のキューピッドに慣れていないのでわざとらしすぎて当のアビ―に不審がられる。一方幼馴染みのリサ、アビ―、ニックを巡る三角関係にも巻きこまれてしまい、自分の恋さえどうにもならないサイモン、さぁどうする! ここまで書いてきてわかる通り、サイモンはおよそヒーロータイプのオトコノコではない。それどころか、秘密にしているはずの身の上をばらすような情報を無意識にメールに書いてしまったり、そもそも脅迫されるようなネットの使い方をするなど、抜けている所が多いドジッこだ。ところがそんな彼の素直な感想にはっとする事がある。異性愛者がやらないカミングアウトを、なぜ同性愛者だけがしなければならないのか?そもそものデフォルト(初期設定)って本当に正しい? メールしていくうちに、段々際どい内容が増えていき、見えない相手に対して友達から恋人へと感情がどんどん盛り上がっていく様は、異性愛と全く同じで、愛している人に触れたい、キスしたい、とあれこれ想像するサイモンが乙女できゅんきゅんする。 2016年ウィリアム・C・モリス賞受賞、2015年全米図書賞ロングリスト、2016年ラムダ賞YA部門最終候補、2016年カーネギー賞ノミネート。グレッグ・バーランティ監督による映画化作品が2018年3月アメリカ公開予定。YA小説の翻訳に定評のある三辺さんの翻訳。【楽天ブックスならいつでも送料無料】サイモンvs人類平等化計画 (STAMP BOOKS) [ ベッキー・アルバータリ ]楽天ブックス
October 18, 2017
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みなさん、こんばんは。民進党が事実上解体とは、びっくりしました。小池さんは首相になるのでしょうか。解散総選挙ですね。さて昨日に引き続きジェニー・ヴァレンタイン作品の紹介です。迷子のアリたち (Super! YA)The Ant Colonyジェニー・ヴァレンタイン小学館今回の語り手は二人、家出してきた17歳のサムと、しょっちゅう仕事と恋人を取りかえる母親にふりまわされる10歳のボヘミアだ。二人は偶然同じアパートで暮らすことになるが、最初誰ともコミュニケーションを取ろうとしないサムにボヘミアはつきまとい、なりゆきでサムも風変わりなアパートの他の住人達と関わることになる。 毎回表紙が作品のイメージをよく伝えている。彼女の作品はずっとスカイエマさんが担当している。今作も、うつむいて前を歩くサムと、そんな少年の事を後ろから見守っているボヘミアという、二人の関係性を的確に描写している。但し、この関係が変わっていくのが本作のみどころだ。 親も子を選べないし、子も親を選べない。アパートのおせっかいな住人が心配してくれなければ、食事も買う金も持たされないボヘミアは、それでも母親を愛そうとするし、人を信じようとする。「それは彼女が幼いから」という理由では到底彼女の優しさは説明できないほど、過酷な状況を生きてきた事は、彼女自身の語りで明かされる。自分さえも信じられないサムとは真逆で、だからこそ彼がボヘミアのために何かしようと考える契機にもなった。ボヘミアもサムのために思い切った行動に出るが、これは事情を知らない彼女だから出来たことだ。 ただ、せっかく彼女の活躍で迎える大団円について、時系列が前後している。感動を盛り上げるためなのかもしれないが、逆効果だ。ボヘミアと母の関係がどうなっていくのか、サムのこれからがどうなっていくのか、という辺りはぼかしてあるだけに、ラストはもう少しすっきりしたオープンエンディングにして欲しかった。ブックトラスト・ティーンエイジ賞、カーネギー賞候補作品。【楽天ブックスならいつでも送料無料】迷子のアリたち (Super! YA) [ ジェニー・ヴァレンタイン ]楽天ブックス
September 29, 2017
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大義なき解散というのが一般人のイメージです。さっそく街頭演説している候補者達がいました。煩くなりそうです。さて、今日と明日紹介するのはジェニー・ヴァレンタイン 原作のYAです。ヴァイオレットがぼくに残してくれたもの (Super! YA)Finding Violet Parkジェニー・ヴァレンタイン 小学館タイトルは邦題と真逆だ。Finding Violet Park=ヴァイオレット・パークを見つける。つまり、彼女が自ら主人公ルーカスに何かを残してくれたのではなく、ルーカスの方が彼女を見つけた。主体性はルーカスにある。そしてストーリー的には、その方が正しい。ただまあ、彼女が呼びかけたという描写もあるので、お互いに選ばれたということかもしれない。 ちなみに二人には血縁関係はない。にもかかわらず、他人がどんな人なのか知ろうとしたのはなぜなのか。ルーカスにはもっと差し迫って見つけなければならない人=父がいた。 家族で唯一の男性であることを否応もなく意識することになったルーカスは、母親の言うようには失踪した父親を悪く思えず、むしろ理想化する。その反面、「人生はおふくろの計画どおりにいかなかったかもしれない。でも、それはぼくたちのせいじゃない。そもそも生まれてきたことがまちがいだった、というのなら話は別だけど。そこまでさかのぼるとなると、どんなにがんばっても、なにをしても、すべてまちがっていることになる。」 と、父との結婚を後悔する母に反発する。現実にいる人間は欠点も何も曝け出すので、明らかにハンデがある。今回のことで偶然失踪する前の父について知ったルーカスは、ある境地に辿りつく。「大人になるというのは、こういうことなんだ。いやなことにも正面から向き合って、この世の中に、自分が思っていたとおりの人間なんか一人もいないという現実―もっといえば、みんな自分が思っていたのとは似ても似つかない人間だという現実を受け入れていく。」 彼女の作品は、主人公の心理描写に力を入れたいという作者の意図により、主役自ら話す形式が多い。今回もルーカスは「骨壺と出会ってしまった」という奇妙な事件の始まりから顛末までを、時にほろ苦く、ユーモアを交えて語る。また、主人公の敵が家族に設定される事も多く、愛憎のはざまで揺れ動くティーンが乗り越えていくことで成長する姿を描きたいようだ。 2007年度ガーディアン賞受賞作。【楽天ブックスならいつでも送料無料】ヴァイオレットがぼくに残してくれたもの (Super! YA) [ ジェニー・ヴァレンタイン ]楽天ブックス
September 28, 2017
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みなさん、こんばんは。最近8月前半の雨は何?というくらい猛暑日が続きますね。さて、こちらは長い間音信不通だった実父と出会った少女の葛藤を描くYA小説です。炎に恋した少女 (SUPER! YA)Fire Colour One ジェニー・ ヴァレンタイン 表紙絵の少女は手を伸ばしていて、彼女を中心に小さな火炎があがっている。火を操りこちらに向かって投げるような、怪しい少女のように見えるが、少女は手を伸ばし、何かを求めているのだ。この物語はある復讐が終わった所から始まる。では、なぜ、誰によって、その復讐は為されたのか。物語はここで過去に遡る。 美しいけれど心が冷たい母ハナと、義理の父で落ち目の役者ローウェルとカリフォルニアで暮らすアイリスの唯一の楽しみは火を燃やすことと、親友のサーストンと語り合うことだった。しかし、ある日、大富豪で本当の父がイギリスに生きている事を知る。父アーネストが余命わずかと知って、金に困っているハナとローウェルはアイリスを連れて乗り込むが…。 有り余る財力を持っているといっても、アーネストは途中意識がもうろうとし、思うように体を動かすことが出来ない。アイリスは、彼が持っている絵画コレクションを狙っているハナとローウェルの都合のいいように扱われるのが嫌だが、一方で長い間自分を見捨てていた父親へのわだかまりも捨てきれない。ラストシーンが見えているので、彼女がどちらに加担したのかはあらかじめ読者にはわかっているものの、これだけねじれた家族関係が、二重三重の妨害でどのように回復できるのか、という点が読者を引っ張る。 今まで誰かを害する対象、自分の不満のはけ口でしかなかった炎が、初めて誰かのためになる。救いを求めて、でも得られなかった少女の想いが炎と共に昇華されていくラストは清爽であった。 ガーディアン賞受賞の英国人児童書作家ジェニー・ヴァレンタインの5年ぶりの新作。【楽天ブックスならいつでも送料無料】炎に恋した少女 (SUPER! YA) [ ジェニー・ ヴァレンタイン ]楽天ブックスランバンエクラドゥアルページュEDPSP100ml
August 26, 2017
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みなさん、こんばんは。猛暑が戻ってきましたね。今年間違いなくブレイクした俳優と言えば高橋一生さんだと思うのですが、彼はNHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』(毎週日曜 後8:00 総合ほか)で、壮絶な最期を遂げた小野政次を演じました。追悼アルバムまでできるのですからすごい。みんな高橋一生さんに感情移入してみたのでしょう。この後朝ドラに、海外ドラマの吹き替えにと大活躍です。さて、本日紹介するのは自分の出生に疑いを抱く少年の物語です。アンモナイトの谷 The Snake Stoneバーリー・ドハーティ 海外のTVドラマ「ビバリーヒルズ青春白書」には、一際陽気でいい加減なアメリカン・ボーイ、スティーヴがいた。しかし、そんな彼も、実の母親の存在を知らされ動揺する。 母親探しの旅に出る彼を見て、「なぜだろう?」と不思議に思った。今さら探して何になる?捨てられたという事実への傷口を開くことになるのに。有名な女優の母、離婚しているビジネスマンの父との暮らしは、物質的にも精神的にも平均以上に恵まれているように、端からは見えるのに。それだけでは、どうしてだめなのか? 本作の主人公ジェームズのモノローグに、その答えはあった。 「ぼくはどうしても知りたかったんだ。ぼくのお母さんが、 ぼくを欲しくて産んだのかどうかってことを。」 ああ、そうか。すぐ側にいれば母親に聞けたこと。聞かずとも、絶えず話していれば、自然に感じとれる事。私が自然に知っていた答えを、ずっとジェームズはもらえずにいた。今の生活に不自由があるかどうかではなく、そもそもの自分の生まれを確かめたい。そういう事だ。そうでもしないと、今自分の立っている『青春』という名の大地が、ただでさえ揺れているのに、一層揺れて、しようがないのだ。 ジェームズは、「サミーをおねがい」と書かれた紙片にある地名と、『蛇の石』(原題)と言われるアンモナイトの化石を手がかりに、見知らぬ人との出逢いが待つ未来に飛び込んでゆく。有望な飛び込み選手の彼は、腹を打つ事はないだろうが、義理の両親への嘘が、さぞや心をちくちく刺したことだろう。 心を痛め、揺れる大地に立っていたのは、ジェームズだけではなかった。アンモナイトの化石のもう一人の持ち主である少女・エリザベスも同じだった。二人が求めているのは、揺れる大地の上に立っても、しっかり立っていられるように、自分を結びつける太い縁。 もちろん、簡単に得られるものではないので、その過程で傷つく。けれど、傷つく事を怖れていては、得られないで終わるものもある。思わぬ縁が見つかって、より力強く、大地を踏みしめる。そんな事だってあり得るかもしれない。そして、何よりも苦労して得た答えだからこそ、本物だという実感が持てるというものだ。 スティーヴもジェームズも、最後に、同じ選択をする。その時二人はきっと、同じ晴れやかな笑顔を見せた事だろう。彼等は、本当の縁を見つけたのだから。【中古】アンモナイトの谷 / バーリー・ドハーティ
August 25, 2017
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みなさん、こんばんは。夏休みが終わって海外から戻って来ている人達もいるのでしょうか。甲子園もベスト4まで決まっていよいよ夏が終わりますね。でも今日は猛暑が戻ってきたような暑さでしたね。さて、こちらは夏に別れを告げるようなタイトルのYA小説です。バイバイ、サマータイム Daylight Savingエドワード・ホーガン岩波書店STAMPBOOKS 父親と共に、夏の間リゾートランドにやってきたダニエルは、両親の不仲が自分のせいだと思い込んでいた。なぜなら母親と浮気相手の決定的な瞬間を見てしまったのは自分で、父親に問い詰められて真実を答えざるを得なかったからだ。父親は別居中の母親への未練が捨てられず、酒に溺れて息子のフォローなど思いも寄らない。それどころか、リゾート地にやってきた若い女性と一夜を共にして、罰の悪いことに息子に見られてしまう。妻との別居が、酒の力を借りて、彼の「父親」「夫」の箍を外してしまったようだ。 そんな父親をふがいないと思いつつも「自分のせいでこうなったのでは?」と思えば、責めきれないダニエルは、リゾート地で17歳の美少女レキシーと出会う。ところが、彼女の姿は誰にでも見えるわけではなく、彼女の髪はいつも濡れている、そしてなぜか傷跡が会う度に増えていく…。 さて、彼女の正体は、ここまで書いた事で、皆さんが想像した通りだ。著者は最初から読者には隠すつもりはないようで、ここまで分かり易い手がかりは珍しい。では読者の主眼はどこへ向くかというと「彼女がどうすれば救われるのか」「なぜこのような事が起こったのか」という二点だ。 ちょっと太めで身体的にコンプレックスがあるダニエルが、とびきりの美少女レキシ―のために奔走する、ホラー要素のあるボーイミ―ツガール。未熟なダニエルの悩みをちょっと大人目線で解決してくれるレキシ―を見て、つくづく少女は少年よりも早く大人になってしまうと実感。【楽天ブックスならいつでも送料無料】バイバイ、サマータイム (STAMP BOOKS) [ エドワード・ホーガン ]楽天ブックス
August 21, 2017
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みなさん、こんばんは。昨日はひどい夕立が降ったのですがその後涼しくなりました。夏休みももうすぐ終わりですね。本日はドイツの少年少女達の物語を紹介します。飛び込み台の女王(STAMPBOOKS)Konigin des Sprungturmsマルティナ・ヴィルトナー岩波書店STAMPBOOKS ドイツのえりすぐりのスポーツ・エリート達が通う学校にスカウトされたナージャとカルラ。しかし、ナージャや他の選手たちにとって、カルラは常に完璧であり超越した存在だった。ところが冒頭近く、読者は、現在カルラが今は飛び込みをやっていない事を知らされる。天才肌だったはずの彼女がなぜ?本編はカルラその人ではなく、いつもロッカーを分けあって使っていたほど親しかった、親友にして傍観者・ナージャの語りで経緯を明かす。 普通であれば、能力がほぼ拮抗している二人の少女が同じ種目で競い合うのだから、もう少し熱血スポ根感があってもいいくらいだ。実際、ナージャの母親などは折に触れて「なぜカルラに勝とうと思わないのか」と娘の闘争心のなさを指摘している。また、同級生からも「カルラはあなたを利用している。あなたはカルラの下僕みたい」と言われる。しかし最初からナージャはカルラを「自分とは別次元の人」と考えていて、そもそも競争しようと思っていない。 その彼女が、自分が知り得た事実によってカルラを動揺させ、結果的には彼女を飛び込み台の女王から引きずり下ろす行為に出る。これが意図的か、或いは少女特有の無邪気さでなのかは、他ならぬナージャが語り手であるため明かされず、読者にわざとすっきりしない感情を抱かせるつくりになっている。 終盤でカルラが「‘自分にはもう背負えない重いもの’をナージャに渡した」と、自分が見た夢の事を話す。ナージャのカルラからの呪縛が解けた祝福すべき時なのか、或いはカルラにかけられた才能という呪いをナージャが新たに引き受けてしまった憂うべき時なのか、その判断は読者に委ねられている。あなたはどちらだと思いますか? 2014年度ドイツ児童文学賞受賞作。 【楽天ブックスならいつでも送料無料】飛び込み台の女王 (STAMP BOOKS) [ マルティナ・ヴィルトナー ]楽天ブックス
August 20, 2017
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みなさん、こんばんは。昨夜はいきなり雷雨になってびっくりしました。でもちょっと涼しくなりました。みなさんのところはいかがでしたか?今日も夏がテーマの小説を紹介します。夏の魔法: ペンダーウィックの四姉妹 (Sunnyside Books)The Penderwicksジーン・バーズオール小峰書店時折ラテン語を口ずさむ世間離れした植物学教授の父、12歳でしっかり者の長女ロザリンド、11歳で短気でクールな次女スカイ、10歳で作家志望の三女ジェーン、生き物大好きな4歳の四女バティ(エリザベス)達ペンダーウィック家の四姉妹、そして忘れちゃいけない不器用で愛すべきハウンド・ペンダーウィックは、毎年借りていた別荘が売りに出されて夏の滞在先を失い、途方にくれていた。ひと夏を過ごすために、お屋敷のコテージを借りるが、予想を上回る御屋敷だった。隣の家にはお堅そうなミセス・ティフトンとその息子で音楽家志望のジェフリーがいて…。 成長した彼女達が懐かしい思い出話をしている作家志望の姉妹がいたり、恋に恋する年頃の長女がいたり、隣に裕福だが寂しそうな少年がいたり、姉妹で「ムープス」という集会を開いていたりと「若草物語」との共通点が多いペンダーウィック姉妹シリーズ第一弾。他にも秘密の抜け道でジェフリ―と出会ったり(「秘密の花園」)と、そこここに既存作品へのオマージュが散見される。個性は見事にばらばらなのにいざという時には結束する姉妹と彼女達を暖かく見守る父の関係がいい。 子供の頃読むとミセス・ティフトンがいかにも悪役っぽく見えそうだが、もう少し年齢を重ねて読むと、彼女がどうして息子を祖父のように育てようとしたか、そのこだわりの理由や孤独感まで見えてくるのでは。 「10歳か11歳の頃には読みたい本を全部読みつくしていた」という、まるでジェーンのような作者ジーン・バーズオールが自ら書いたはじめての本。全米図書館賞児童文学部門受賞作。夏の魔法 [ ジーン・バーズオール ]無添加 レトルトカレー【選べる6食セット】【送料無料】にしきや 高級 カレー【 贅沢 高価 】 ギフトやイベントの景品としても大人気♪ 母の日 お中元 お歳暮 ラッピング 無料 珍しいカレー 人気 売れてる レトルト ケララフィッシュ
July 19, 2017
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みなさん、こんばんは。夏本番ですね。今日と明日はタイトルに夏がついたYA小説を紹介します。永遠の夏姉妹Summer Sistersジュディ・ブルーム(著者)瓜生知寿子(訳者) ABBAの「Dancing Queen」が聞こえていた12才の夏の日に、ヴィックスは魅力的な転校生ケイトリンから一緒に夏休みを過ごそうと誘われる。場所はケイトリンの別荘がある高級避暑地マーサズ・ヴィンヤード島。貧しい生活から逃れるように誘いに応じたヴィックスにとって、それは夢のようなひと夏だった。 真面目タイプとイケイケタイプ。全く違った境遇に育ち、性格も違うのに、まるで生まれてきた時からの友達のように思える人に会ってしまう。本書のダブルヒロイン、ケイトリンとヴィックスはまさにそんな出逢いをした。ところが、段々と大人になるにつれ、それぞれの考え方や生き方が微妙にずれていき、ぎくしゃくしていく。その様子がわかりやすい描写で、克明に描かれていく。 我が身を振り返っても、高校時代の友達とは疎遠になってしまい、きっと顔を見てもわからないし、今の友人ほど話も合わないだろうな、と想像がつく。だからこそ、時の流れの中で変わらぬ友情を保ち続けられるということがどんなに貴重なことかわかるのだ。12歳から30歳までの彼女達の成長を綴った、少しほろ苦い女の友情物語。 ブロンディの「Rapture」ホイットニー・ヒューストンの「Did'nt We Almost Have It All」などがオリジナルのタイトルに使われていて、その時代の洋楽を聴いていた人達には懐かしいだろう。【中古】 永遠の夏姉妹 /ジュディブルーム(著者),瓜生知寿子(訳者) 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
July 18, 2017
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みなさん、こんばんは。昨日は蒸し暑かったですね。今日もジョン・グリーンの小説を紹介します。ペーパータウンPaper Townジョン・グリーン岩波書店STAMPBOOKS ジョン・グリーン作品では、『さよならを待つふたりのために』(『きっと、星のせいじゃない』として映画化)しかり、『アラスカを追いかけて』しかり、少年はちょっぴり大人びた少女の後を追いかける。「たぶん、奇跡はだれにでも起きる。たとえばこれから先、僕が雷に打たれることはたぶんないし、ノーベル賞を取ることもないし、太平洋に浮かぶ小さな島国の支配者になることもないし、耳の末期ガンになったり、自然発火で体が燃えたりすることもきっとない。だけど、ありそうもないことを全部集めたら、だれにでもそのひとつくらい起きる気がする。」 という前振りの通り、クエンティンはどこにでもいる少年で、プラムという、卒業記念のダンスパーティーに誘う相手もいない。どちらかと言えば苛められっ子の部類に入る。一方、幼馴染みのマーゴはクラスのスター的存在だ。幼馴染みで仲良く成長して、そのまま恋に落ちてもおかしくないのに、クエンティンが言いそびれているうちに、マーゴには別の彼氏ができる。まあ、よくあるパターンだ。そのマーゴが浮気した恋人とその相手(実はマーゴの親友)を、わざわざクエンティンを誘って懲らしめた翌日に、誰にも何も言わず姿を消した。ケッサクな復讐で気が晴れたのではなかったのか?「男性は追わせてナンボ」とはいうものの、本篇のクエンティンの場合は少し深刻そうだ。 前半は高校生のすったもんだありのお気楽ライフ、後半はマーゴを必死で追うクエンティンのややシリアスな心理描写を交えた場面が描かれる。幼馴染みで濃い時間を過ごしてきたマーゴを考えることはすなわち、彼女といた自分を考えることに繋がる。これまでの自分を見つめる一方で、好きな女の子のために今までにない大胆な自分になるクエンティン。ああ、やっぱり恋は一番の成長剤だ。少しほろ苦いのは、良薬だからだろう。【楽天ブックスならいつでも送料無料】ペーパータウン [ ジョン・グリーン ]楽天ブックス
July 4, 2017
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みなさん、こんばんは。自民党大敗でしたね。首都圏でこんなに数が減るとは。さて、今日と明日はジョン・グリーンの小説を紹介します。アラスカを追いかけてLooking for Alaskaジョン・グリーン岩波書店STAMPBOOKS アラスカは国の名前ではない。大人になった時に「好きな名前をつけていいよ」と言われて、とある女の子が選んだ、れっきとした人の名だ。まあ、こんな名前を選んだことからして、その女の子はかなり変わっている。そしてジョン・グリーン作品の男の子達は、困ったことに、決まってそんな女の子の変わったところに惹かれてしまうのだ。 章タイトルはカウントダウン式になっている。二部構成の前半はbefore、後半はafter。あらかじめ「一体何が起こるのか」という不安を抱きながら、読者は、友達が一人もいない冴えない高校生マイルズ・ホールターのスクールライフを覗き見ることになる。 やせっぽちなのに‘太っちょ(Pudge)’と名付けられたリ、クラスメイトのとばっちり(それも間違い)で、簀巻きにされて夜の湖に放り出されたり、友達の影響で煙草を覚えたりと、マイルズはどんどん変わっていく。読書好きで、『迷宮の将軍』の中のシモン・ボリバル将軍の最後の言葉、「どうやったら、この迷宮から逃れられるんだ!」がお気に入りだというアラスカに惹かれていくが、彼女にはれっきとしたBFがいた。ついこの間まで真面目一方だったマイルズに略奪愛なんて無理な話。それでも自分にだけ秘密を打ち明けてくれたり、感謝祭に二人だけ残ったりして、気持ちはどんどん抑えられなくなっていく。 ここで終わるとほろ苦ラブストーリーなのに、グリーンは結構シビアなクライマックスを用意して、かつ再生だとか復活だとかというような、安易な決着をつけようとしない。迷宮から出たくても、出方も出口もわからないでもがき続ける、青春真っただ中の若者達をありのままに描くことが、本作の目的であったようだ。【楽天ブックスならいつでも送料無料】アラスカを追いかけて (STAMP BOOKS) [ ジョン・グリーン ] 楽天ブックス
July 3, 2017
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みなさん、こんばんは。自民党の豊田議員の映像見ましたか?酷いですよね。言葉の暴力です。病院に逃げ込んでますけどずるい。こちらの作品に出て来る母親も酷いのです。わたしはイザベルI for Isobelエイミー・ウィッティング岩波書店STAMPBOOKS 作者が原稿を持ち込んだ際編集者が「実の子供にこれほどつらく当たる母親がいるはずがない」と一度は刊行を取りやめたいわくつき。確かに親―とりわけ母親―は子供に優しく、それが当然と思われている。しかし著者自身も小説のヒロイン、イザベル・キャラハンと同じに、実の両親から毎年「今度の誕生日は、プレゼントはありませんよ!」と言われたそうだ。‘当然’はありえない。たとえ家族の間でも。 せめて嫌われる‘理由’があれば良かった。常に母親に反抗的な態度を取る。非行に走る。自分が嫌いな誰かと親しくしている。そうすれば、イザベルも「何をすれば/何をしなければ母親に好かれるか」がわかった。ところが母親は一切理由を言わず、時と場合を選ばず悪意をぶつけてくる。やがてイザベルを嫌ったまま、母親は彼女が9歳の時にこの世を去る。ここまでが作品の第一章。さあ、これでヒロインは解放された。今までのツケを取り戻すかのように、幸せな日々が始まるに違いない。 普通なら、そうだ。だが違った。 心の傷は、まだ塞がっていなかった。しかし彼女のこれまでを知らない人の前では、傷があるなんておくびにも出せない。傷を庇って、取り繕って、今ある傷も、ない振りをする。でも本当は痛くてたまらない。一方で、傷つかない方法だけは知っているので、似たような事態に遭遇しても、如才なく切り抜ける。しかしそのことで、彼女は周囲から違和感を抱かれる。なぜ彼女は傷つかないのか、あんな事をされているのに。‘普通’がわからないイザベルは、遠回りをしてやっと原点に辿りつく。 児童虐待やDV、家庭内暴力が様々な事件によって公になり、皮肉な事に「必ずしも親が子供を愛せるわけではない」「必ずしも親が正しいわけではない」という事が、現在では広く認知されている。日本でもドラマ化された萩尾望都さんの漫画『イグアナの娘』で母子の確執が描かれた。作者が書くことによって過去に向き合えたように、イザベルも‘書くこと’をきっかけに、迷路から抜け出る。誰もが容易く見つけられるわけではない。しかし必ず出口は見つかる。願わくば子供自身ではなく、周囲の大人が出口を見つけるよう助けられる、そういう社会になれば良い。 自分の気持ちをうまく表現できない思春期の読者よりも、思春期を乗り越えた読者の方が、本書を読んで「ああ、実はこういうことだったのか」と理解できるのではないか。【楽天ブックスならいつでも送料無料】わたしはイザベル [ エイミー・ウィッティング ]楽天ブックス
June 23, 2017
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みなさん、こんばんは。カラ梅雨状態ですね。アメリカの人気作家ジョン・グリーンともう一人の作家の共作になった本作を紹介します。主役より目立つ脇役がいるんですよ。ウィル・グレイソン、ウィル・グレイソン(STAMP BOOKS)Will Grayson,Will Graysonジョン・グリーン&ディヴィッド・レヴィサン「子どもの頃、父さんはいつも言った。「ウィル、友達は選べる。それから、自分の鼻に指を突っ込んでもいい。だけど、友だちの鼻に指を突っ込むんじゃないぞ」それは実に示唆に富んだ言葉のように思えた。」 こう言われていたにも関わらず、「僕は友だちを選べないし、友だちは自分の鼻に指を突っ込めない。だけど、僕は友だちの鼻に指を突っ込める―いいや、突っ込まなくてはいけなかった。」羽目に陥るのは、シカゴに住む高校二年生のウィル・グレイソン。「自分が死ぬか、僕以外を全員殺すか、いつも迷ってる。選択肢はふたつにひとつ。ほかのことは、ただの暇つぶし」 物騒な事を言うこちらも、高校二年生のウィル・グレイソン。住んでいるのはシカゴ郊外。 おや、別人格?と思うなかれ。二人は全く別々の人間で、最初のウィルはヘテロセクシャル、次のウィルはSNSで出会った男性に夢中、つまり同性愛者だ。 名前以外に共通点もなく、会う事もなかった二人が、なぜかポルノショップで出会う。そうかといって二人が恋に落ちることはないが、ここから生まれた出会いによって恋が生まれる。「実は物語の真の主役は彼なのではないか?」と思えるくらい強烈な個性の持ち主、タイニー・クーパーだ。 彼は一人目のウィル・グレイソンの友人だ。裕福な家の生まれで、高級車を乗り回し、しょっちゅう恋をしては別れている。学校で自分を主役に据えたミュージカルを立ちあげる彼は、社会の偏見からも自由であるかのように見えた。しかし、実はそうではないことが、二人目のウィルとの出会いで明らかになる。 恋した相手には自分を好きになって欲しい。でもどうやって相手の気持ちを確かめたらいいかわからない。恋の戸惑い、失敗、喜びは、ヘテロセクシャル、ホモセクシャルを問わず共通だ。けれど一方はおおっぴらにできて、もう一方は隠さなければならないような傾向にある。 日本よりはよほど多民族国家、多様な考えを持つ事に長けているように見えるアメリカにおいても、LGBTQを主人公にした小説が売れることは難しい。そんな中でYA小説として初めてNYT児童書部門ベストセラーリストに3週連続ランクインした本作は、文体の異なる二人の作家によって書かれた。一方の訳者は金原瑞人さん。 【楽天ブックスならいつでも送料無料】ウィル・グレイソン、ウィル・グレイソン [ ジョン・グリーン ]楽天ブックス
June 9, 2017
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みなさん、こんばんは。今日はちょっと蒸し暑いです。ジェームズ・ボンドを演じたロジャー・ムーアが亡くなりました。最近はあまり映画で見かけませんでしたが、一世を風靡したのは間違いありません。何せ今に至るまで007シリーズが続いたのですからね。こちらの怖い話はフィクションです。魂をはこぶ船―幽霊の13の話Zwoelfe Hat's geschlagenオットフリート・プロイスラー小峰書店 ええ、そりゃあ、もう、絶対に。本に何か降りかかっていたとしか思えません。でなければ、なぜ今さらプロイスラーを読むもんですか。 いえ、嫌いだったわけではありません。それどころか、子供の頃は大好きでした。『小さなおばけ』『大どろぼうホッツェンプロッツ』シリーズ、ちょっと長めの『クラバート』、全部読んでます。だから、大人になって今さら、と思ったわけです。ましてや、今回の作品は、彼が作ったわけではなく、ドイツ中から集めた昔話を語ってるだけでしょう?だったら、わざわざ読まなくても。 一度はそう思って、通り過ぎたんです。でも、二度目に通った時は、なぜか表紙が気になって。それが、ぜんっぜん、昔話っぽくない表紙で。真ん中にはスズキコージさんの絵が書いてあって、周りには現代の男の子と、花環しょった牛、そして見返し部分には、パパ・ヘミングウェイとは随分と感じの違う爺さまが、パイプふかしている写真がコラージュされてて。それで、パイプから出てる煙だけが、切り絵風。合間から、どこぞのコーヒーショップの壁紙みたいなドイツ語の文章が見えてるんです。何かちぐはぐだな。それがかえって気になって、とうとう手に取ることになってしまいました。 フランスでは、同じ泥棒でも『怪盗ルパン』や、時にはイギリスから出張してきた『紅はこべ』など、役者が揃っているのに、ドイツではプロイスラーの『ホッツェンプロッツ』くらいしか名が挙がりません。実際、インターネットで検索しても、出てきません。おしゃれでカッコイイフランスに対して、いかにも地味でどんくさいドイツ。「隣なのにどうして、こんなに違うんだろう。」って思いました。でも、「店に入ってもフランス語しかしゃべらない」彼の国よりは、お高く止まってないドイツの方が、親しみを感じる度合いは強かったのです。 幽霊話ばかりを集めた本書を読んで、ますますその思いは強くなりました。だって、幽霊を撃退して宝を手に入れる話なんて、一つも出てこない。むしろ、危ない所を辛くも逃げた話の方が多い。酔っ払って酒場でバイオリンを弾いていたら、幽霊が浮かれて踊り出し、止められなくなってしまったお調子者の学士やら、悪魔払いを行うために、勇んで出ていったのに、懺悔しないでおいた悪事を暴かれて、すごすごと去っていく神父が登場します。いや、本当に、どんくさい。途中「ナイトキャップをかえせ」という話では、「どんくさいなぁ。」では済まない事件が起こり、「うーん、これって笑っていいのか。」と悩みましたが、最終話「ちびすけ、こっちへおいで」の叫び声まで、何とか、辿り着きました。ああ、やれやれ。 単純に「面白かった」とも「恐かった」とも言えない、どんくささと恐さが互いを打ち消して、不思議な読後感を残す、一風変わった話ばかりを、無事読み終えた後で、こう思ったんです。「この物語集全部読んだら、またプロイスラー読んでみようかな。」って。話の筋は知ってるはずなのに、何だか、恋しくなっちゃって。で、思ったんです。これって何かの魔法だったのかなって。 ここに収められている話の数は、いわゆる魔女の1ダース=13話ですし、後書きによれば、プロイスラーの遠い祖先は、魔術師だったといいますし。そういう事なら、言葉に「あなたは、プロイスラ−の本を、また読みたくな〜る 読みたくな〜る」なんて呪文を隠しておいて、遠く離れた日本まで届ける事も可能なんじゃないかって、そう思ったんです。「またまたぁ。」なんて笑っているそこのあなた。今年、プロイスラーの本が、爆発的に売れたりすると、ひょっとすると、ひょっとするかも、ですよ。【楽天ブックスならいつでも送料無料】魂をはこぶ船 [ オットフリート・プロイスラー ]楽天ブックス
May 26, 2017
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みなさん、こんばんは。昨日はとても暑かったですね。少しは雨でも降ってほしいものですが…。さて今日紹介する本ではとんでもないものが空から降ってきますよ。空から兵隊がふってきたSpecks in the Skyベン・ライス(著者)清水由貴子(訳者) 現代の『星の王子さま』の呼び声高い『ボビーとティンガン』の著者の作品。空から兵隊がふってきた。このタイトルから第二次大戦の兵隊達と彼等を迎える人達との心暖まる交流、なんてものを想像していたんです。かてて加えて『星の王子さま』に「なごみ系」の匂いを嗅いだのです。 ところが、これがとんでもない間違い。まず、第二次大戦の頃の話ではなく、現在。変に思いません?何で現在に兵隊がふってくるもんですか。それも、交戦地帯でもない所に。ピンクのパラシュートで降りてくるんですよ。目立ってしょうがないって。 でも、前半はいいんですよ。それなりになごむんです。女所帯3人の所に男性15人が現れて、お世辞を言われてぽっ、なんて。けれど、後半はそんなに甘くない。クエンティン・タランティーノとジョージ・クルーニーが兄弟を演じた映画「フロム・ダスク・ティル・ドーン」を御存じですか?前半は犯罪もの、後半はヴァンパイアとのバトルというSFものと全くテイストが違うんです。この絵本もそれと同じ。がらっとカラーが変わるんです。あれよあれよと言う間に。それこそ、3人がぽかんと口を開けている間に。 不条理とも言える展開に、驚きの連続でした。けれど、不思議と後味が悪くないのは、多分達観しているお母さんの存在が大きいのですね。映画化の予定もあるこの作品、一体誰が監督するのやら、誰が出演するのやら興味津々です。フランソワ・オゾンあたりどうでしょう。【中古】 空から兵隊がふってきた /ベンライス(著者),清水由貴子(訳者) 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店1,000円OFFクーポン配布中◆送料無料▼ストウブ ピコココット ラウンド 22cm 日本正規品 【Staub】 【クッチーナ】
May 21, 2017
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みなさん、こんばんは。今日は東京は雨どころか雪だと言っていますが果たしてどうでしょうか。さて、こちらはぴりりと辛い、いや、苦い、生姜のお話です。生姜(センガン)雲寧橋本智保同世代の韓国人と話すと、その子供時代の違いに愕然とする。蛙を取ってびたーん!と道にうちつけ、ざりがにを取る餌にする。たにしやいなごを取って食料にする。「これはまるで私達の親の世代の話じゃないか。」短い間に日本と共同でワールドカップサッカーを開催し、夏冬のオリンピック会場にも選ばれた韓国の成長ぶりは目覚ましい。だが一方で韓国には血なまぐさい歴史があった。 大学入学を果たしたソニは、美容師の母親と暮らしていた。警察官だった父とは一緒に暮らしていないが、母の話しぶりから彼の事は尊敬していた。ところがある日、大学の友人達との会話から、父親が何をしてきたかを知る。 「美しくなければならない。美しいものがいつの時も勝利する。完璧な技術こそが真の美というもの。美しい技術。完全な屈服。完璧な勝利。」「相手の手の動きや目配せも絶対に見逃すな。すべてはただ一つの目的のために為される。」 冒頭、まるでアスリートの心得のような独白が続くが、そんなきれいなものではない。ここで言う「一つの目的」とは恐怖であり、「完璧な技術を駆使すれば、鉄パイプなどなくとも、ボールペンの芯一本で屈服させることができる。美しい技術とはどういうものか、俺が教えてやろう。」とあるように、彼が語っているのは理想的な拷問技術だ。本作は、反共軍事独裁政権時代に反政府活動弾圧機構の中枢にいた実在の男・李根安をモデルに書かれている。「俺でなくても、誰かがしなければならないことだった」「悪の自白を得るためには、悪の力を借りなければならない」「こちらが打たなければ、むしろやられてしまう」 いつかどこかで聞いた台詞が並ぶ。単なる本人の独白のみにすれば、一方的な自己弁護をただ読者が聞くことになってしまう。よってそれは避け、彼に娘がいたという設定にして、感情表現豊かな彼女を通じて、「現在の韓国」が「過去の韓国」を受け止め咀嚼してゆく過程を描く。それはすなわち一個人ではなく、韓国という国自身に求められている対応でもある。新生姜と老成生姜、それぞれの長所を生かして素晴らしい料理ができるように、老若男女全ての良い所を生かして、素晴らしい未来の韓国が出来あがってゆくことを期待する。 生姜(センガン)/千雲寧/橋本智保【2500円以上送料無料】オンライン書店boox
March 15, 2017
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みなさん、こんばんは。昨日は叔父の葬儀でした。一日仕事で疲れますが久々の親戚に会えたのはいいことでした。こちらはYA小説です。道 Roadルイス・サッカー 太っちょでいじめられっ子のスタンリーが、無実の罪で矯正キャンプに送られ、毎日灼熱の大地で穴を掘らされる物語『穴』。高校生になった彼が、エッセイ風に綴るのは、『キャンプ・グリーン・レイクで生き残るコツ』(原題)。 出久根育氏描く所の、スコップを持って穴を見ている、妙に冷めた目をした少年は、痩せている所を除けば、まさにスタンリー。『穴』の絵の、地面の色を白に変えてある。 少したくましくなった彼は、石田衣良氏の『IWGP』シリーズのマコトの少年版みたい。決して説教臭くなく、適度なユーモアを交えて読者に語りかけて来る。人を喰ったようなサバイバル・テストの回答に大爆笑。実際の所、蜘蛛はともかくとして、サソリや蛇がそうそう都会に出てくるとは思えないから、アドバイスの全部が全部役に立つわけじゃない。けれど、なかなかいい事を言っているので、「こんな本、キャンプ・グリーン・レイクに行かないから、関係ないや。」と一言のもとに捨てるのは、ちと勿体無い。サソリは降って来なくても、突然の不運は誰にでも降ってくる。上から読んでも下から読んでも山本山状態(Stanley Yelnats)の彼だって、その時になるまで、全く身構えができてなかった。そんな彼が、修羅場をくぐり抜けた経験をばねにして、タフでクールな名言を吐くようになるのだから、人間ってのは、捨てたもんじゃない。 「いま、きみの人生は、いばらの道にさしかかった。遠からず、きみは穴掘りマシンになる。全身に、かたい筋肉がついてくる。心にも、魂にもだ。そうでなければ生き残れない。 でも、きみのなかの奥深くに住む大切な《だれかさん》と-自分自身と-疎遠になってはいけないよ。いつも見つめあってこそ、ほんとうに、きみは生きのびられるんだ。」 甘くない現実を見据えて、道を見つけ、ちゃんと自分の言葉で語っているスタンリー。 彼に一体何があったのだろう?と思った人は、『穴』から始める事をお勧めする。そこでは、本書であまり語られない謎の人物「ゼロ」や、「ああ、古きよき時代だよなあ」と、10代らしからぬ言葉を言う、自信に満ちた、いかした笑顔のクールな「X線」ら、ユニークなネーミングの面々がうじゃうじゃいて、とびきりの物語を聞かせてくれるはず。【楽天ブックスならいつでも送料無料】道 [ ルイス・サッカー ]楽天ブックス水晶 ブレスレット 天然石 パワーストーン ブレスレット クラック水晶 高品質 アクセサリー 天然水晶 カットビーズ パーツ ロンデル 数珠 オシャレ かわいい ハンドメイド 手作り レディース プレゼント 誕生日 結婚式 二次会 02P03Dec16
February 22, 2017
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みなさん、こんばんは。ディック・ブルーナが亡くなりましたね。日本の童話作家では佐藤さとるさんも亡くなりました。何だかさびしくなります。うさこちゃんとうみ (1才からのうさこちゃんの絵本セット1) (子どもがはじめてであう絵本)ディック・ブルーナ現在ではミッフィーの呼び名の方が一般的だが、私達が子供の頃は「うさこちゃん」と呼んでいた。お父さんはふわふわさん、お母さんはふわおくさん。お父さんは働いていて、お母さんは主婦という典型的な家族構成を踏襲していて、ミッフィーが生まれる時には、キリストの如く、何と天使が誕生を告げにやって来る。 子供の頃は、起承転結がしっかりしていて、最後には必ずハッピーエンドになるストーリーの単純性と、イラストの分かり易さに惹かれた。決められた色しか使わないという作者ブルーナのこだわりに触れたのは、彼の特集が雑誌に登場するようになってからだ。世の中に多くの色が溢れているにも関わらず、敢えて限定して使うことで、それぞれの色の意味を際立たせたり、シンプルなイラストだけで登場人物の表情を描き分けたり、限定することで、幼い子供達に物語をわかりやすく伝えようという作者の意図が感じられた。ちなみに、うさこちゃんたちは殆ど正面を向いている。これは「キャラクターたちはいつも、本と向き合っているあなたのことを見ている」という、ブルーナの深い愛情がこもっている。 本作はミッフィー第一作ではなく、少し大きくなってからだ。おとうさんに車を引いてもらって海に行き、貝ひろい、水遊び、砂山作りと様々な冒険をする。そして遊び疲れた後、眠っているうさこちゃんの姿で終わる。 後年になり、家族との別れを扱った「ミッフィーのおばあちゃん」衝撃の展開の「うさこちゃんのきゃらめる」ハンディキャップドを扱った「うさこちゃんとたれみみくん」時代を越えて生き続けるため、変えるものと変えないものをしっかり見極めていたディック・ブルーナが2017年2月16日89歳で亡くなりました。謹んで御冥福をお祈り致します。うさこちゃんとうみ/ディック・ブルーナ/えいしいももこ【2500円以上送料無料】オンライン書店boox
February 19, 2017
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みなさん、こんにちは。今日は珍しく晴れていて暖かいですね。安部首相はアメリカの雇用創出より日本の失業者対策をちゃんとやって欲しいです。なんかすりより外交みたいでいやですね。対等ではない感じ。こちらはイギリスを舞台にした小説です。テムズ川は見ていた The December Roseレオン・ガーフィールド徳間書店某人気TVシリーズと似た邦題。えっ、テムズ川が語り部か?オープニング。カメラは、怯える女性を追ってゆく。カメラがテムズ川なのか。いや、どうやらそうではなさそうだ。だって彼女が人目を避けて、狭い路地へ入ってゆくのに、カメラはためらいもせずついてゆく。川ならば、橋を越えてはゆけない。そしてカメラの目の前で、あえなく女性は命を落とす。そう、カメラは、ある人間の目である。その人間が、誰なのか。大いに気になるところだが、我々の目は、一転、一気に高い家の煙突へ向けられる。そこにいたのが、主人公、煙突掃除の少年バーナクル。と、いってもこれは本名ではない。親も兄弟もない孤児の彼が持っていた、たった一つの取りえは、ひっついたら、離れない事。そこからフジツボ、「バーナクル(barnacle)」と綽名がついた。彼はたまたま仕事中に、上流階級の人々の「国家の敵・スパイの暗殺計画」を聞いてしまう。慌てて彼は、事もあろうに密談中の部屋にまっ逆さま。あわてて掴んだ銀のスプーンと金のロケットのために、追われるはめになろうとは、まだこの時の彼は、想像すらしていなかった。舞台はヴィクトリア朝のロンドン。ヴィクトリア朝を辞書で引くと「議会政治の発展、商工業の発達、広大な植民地支配など大英帝国最盛期にあたる」と書かれている。これだけ読めば、何と恵まれた時代かと思われるが、それだけでは、片手落ちだ。同時代活躍した作家チャールズ・ディケンズの物語「オリヴァー・ツイスト」では、孤児となったオリヴァーの悲惨な暮らしぶりが描かれる。「わが世の春」を謳歌していたのは、たったひとにぎりの人達に過ぎなかったということか。上流社会と下層階級、まったくの別世界を結んだのが煙突とは、非常にわかりやすい例えだ。さて、この二つの世界、普段はめったに交わらない。「オリヴァー・ツイスト」だってオリヴァーと富豪が知り合ったのは偶然だった。だから、権力も金も持っている人々の、唯一の弱味が、事もあろうに下層階級の、子供に奪われたというのは、非常にまずい。簡単には、捜せない。ただし、どちらの世界とも自由に行き来できる人種がいた。まあ、バーナクルは忙しく、よく動く。前半は煙突掃除として垂直方向に。追われて町を走る時や、はしけ乗りの親方に拾われてからは水平方向に。おまけに口も達者なので、見てて飽きない。そんな彼に焼きもちをやいて、つい揚げ足取りをしてしまう美貌の未亡人の娘。身分相応の振るまいを心がけるが、本当は優しい未亡人。彼女に首ったけの男前の親方。すぐ近くにある手がかりに、気づかない彼等。追手が迫り来る中、憎めないんだけど、もどかしい。どちらが先に真相にたどりつくか。バーナクルの無知ゆえの嘘のせいで、信頼が揺らぎ、まさに事態は一進一退。単純明快に善と悪の区別がつく人々の中に、一人、わかりにくい人がいる。バーナクルを追う警官は、自らの職務と良心の狭間で苦悩する「レ・ミゼラブル」のジャベール警部のようだ。基本的には、権力の近くにおり、「長い者には巻かれる」事も処世術だと割り切っている。けれど、心の奥底には、「本当の正義」を見抜く目を、ちゃんと開けていた。普通、こういうキャラクターは、児童ものにはなかなか出てこないのではないだろうか。彼を加えた事で、本書は単なる冒険ものより一歩深みを増した物語になっていると思う。【中古】 テムズ川は見ていた /レオン・ガーフィールド(著者),斉藤健一(訳者) 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
February 4, 2017
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みなさん、こんばんは。昨日は本当にあたたかかったですね。トランプ氏の大統領令はひどい!と思いました。日本だって今はひとごとだと思っているかもしれませんけど、結局は一人の人の好き嫌いで国の好ききらいが決められてしまうということでは。さて、こちらはちょっと不思議な感じのYA小説です。夜の鳥 Nattfugleneトールモー・ハウゲン(著者)山口卓文「階段は音をたてずに、そっとのぼるんだ。」(中略) ヌースン・ツースン、ぼくはつかまんないぞ。最初の踊り場までは、息を殺してのぼるんだ。そこまで来れば、シミの魔力はもうおよばない。」 随分と穏やかじゃない始まりだ。呪文っぽい文句が出てくるし、「魔力」ときて、次には同じアパートに「魔女のアンダセンおばさん」までいるという。ファンタジーなのか?と思わせる要素もあるが、おおかたは現実の出来事である。 パパとママと3人でアパートの3階に暮らしている小学生のヨアキムには、恐いものがいっぱいだ。先のシミ、魔女のおばさんの部屋から覗いているという片目、そして表札は出ているけれど、中には妖精が住んでいるという部屋。でも、これは皆、家の外の話。じゃあ、ドアを開けて自分の家の中に入れば、不安な空気は一掃されるかと思いきや、そうじゃない。家の中には片付いていない洗濯物、転がっている掃除機。それに思いっきりヨアキムが呼びかけたその相手、パパも部屋にいない。がらんとしている。遠くへ行くときは履いていかない木靴と、遠くへ出かけるときに着ていくウインドヤッケがなくなっていた。 何かおかしい。いや、ちぐはぐだ。 中学校へ教えに行って3日目に、 「まるでぼくと生徒の間にはガラスの壁があるようだ。」と言い、不登校の状態が続くパパ。自らの力の限界を悟りながらも、一家を明るくしようと必死なママ。どちらかと言えばいじめられっ子で、夜の鳥に怯えるヨアキム。最初から危うさを抱えたこの一家を中心に、物語は、近所の人達・ヨアキムの友達のエピソードを交えて進む。 リフレイン・体言止め・倒置を使い、まるで詩の一節のような文章が続く。「近くか、遠くか、パパはどこへ行ったかわかりゃしない。 そう考えるのは、つめたくて、さびしいことだった。 秋の風と、闇と、窓ガラスをたたく雨のように。 ひとりぼっちで、さびしく。 パパはウインドヤッケを着て、木靴をはいて、いま、そんな姿でどこかに立っているにちがいない。」 ヨアキムが最初抱えている孤独な心情が、想像上の父のそれにシフトしていく、「うまいなぁ」と思わせる描写が随所に登場する。そんな文章が少しずつ積み重なり、登場人物達の向かう方向が、見えてくる。だが、普通なら、先が明かされてゆく事で見出せる希望の光が、ここにはない。ちらちらと気配を感じる夜の鳥がその大きな翼で覆うからだ。唯一の柱だったママの偽りの笑みも、励ましの言葉も力を失ってゆく。彼等は一体どうなるのか。ガラスの心を持った人達の行く末は、続編「ヨアキム」で明らかになる。 1975年ノルウェー児童文学賞、1979年ドイツ・ユーゲンバッハ賞受賞。1982年旺文社より刊行され、1991年に福武文庫に再録、今度が3度目の刊行となる。訳山口卓文。 酒井駒子絵。【中古】 夜の鳥 /トールモー・ハウゲン(著者),山口卓文(訳者) 【中古】afb
January 31, 2017
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みなさん、こんばんは。今年もいよいよ終わりですね。うちは8時を過ぎると「火の用心」が回ってきます。大晦日でも御苦労さまです。今年もいろいろありましたが、無事に過ごせました。それが何よりも代え難いプレゼントです。でも子供達にとっては、こちらのプレゼントの方が嬉しいのでしょうね。思いがけない贈り物 Das unerwartete Geschenk作エヴァ・ヘラー絵ミヒャエル・ゾーヴァ絵を見ただけで、誰だかすぐわかる。「ちいさなちいさな王様」のインパクトは、私にとってそれほど強かった。続いて表紙惚れして読んだのが本書。 クリスマスイブの夜。サンタクロースが仕事を終えて帰ってくる所から物語は始まります。ところが、一つ手元に残った人形が。 クリスマスに人形をもらわなかった子供をパソコンで調べたサンタは、そりを使わずタクシーでリストアップされた子供達の家をまわるのです。いや、タクシーにパソコンですか。いかにも現代風ですな。レイモンド・ブリッグズの「さむがりやのサンタ」とは昔日の感があります。サンタさんといえば、下腹部がちょっと(?)出てます。「ちいさなちいさな王様」もやっぱり下腹部が出てました。太めのキャラを書くのに適しているのでしょうね、ゾーヴァさんの画法は。 前作「ちいさなちいさな王様」を読んだ時、想像した。表紙を見て、「お、何か可愛い絵だ。ボリュームもそんなにないから、すぐに読めるかな?子供に読んでやろうか。」と中身を見ずに手に取り、いざ読んであげようと中身を開いていくうちに、「あ、内容は結構深いかも。子供にわかるかな。どれどれ。」と、読んであげる以前に自分が夢中になって読んでしまった大人がどれくらいいるだろう?今回もそれは健在。人を喰ったようなミスター・ラブやミセス・ハッピーの設定や言動に、子供は一度、大人は二度笑えるだろう。ミヒャエル・ゾーヴァの絵で子供達&大人達を惹き付け、次に内容で大人達を惹き付ける二段方式。絵に絶対の自信がないと通らない企画だ。では、皆さまよいお年をお迎え下さい。【楽天ブックスならいつでも送料無料】思いがけない贈り物 [ エヴァ・ヘラー ]楽天ブックス
December 31, 2016
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みなさん、こんばんは。明日は仕事納めです。電車が随分と空いてきました。昨夜はまた地震があり落ち着きません。大きな地震がないといいのですが。こちらは有名な作家から有名なダンサーに預けられた犬の物語です。ヌレエフの犬 あるいは憧れの力 Nurejews Hund Oderエルケハイデンライヒ(著者),三浦美紀子(訳者),ミヒャエルゾーヴァ(絵) 世界的に有名なバレエ・ダンサー、ルドルフ・ヌレエフは、ニューヨークの作家トルーマン・カポーティのパーティで、ぶかっこうでパッとしない毛色の太った犬と出会った。カポーティから半ば押しつけられた格好で、この犬と暮らす事になったヌレエフは、彼をオブモーロフ(怠惰)と名付ける。やがてヌレエフが死に、オブモーロフは、ヌレエフと同じ亡命ロシア人であるピロシュコヴァに引き取られる。 『エーリカあるいは生きることの隠れた意味』に続くハイデンライヒとゾーヴァのコンビ作。まるっとしたフォルムの人達 と、同じくまるっとした犬・オブモーロフが過ごした日々を、虚実取り混ぜて描く。後半部分を読んでいて、思い出したのは『ごんぎつね』。いろいろな悼み方があるけれど、西洋はやっぱり派手で綺麗だな、と。見ていただけの犬にインスピレーションを与えるなんて、さすが天才ヌレエフ。尚、オブモーロフについて知りたい人には、ニキータ・ミハルコフの『オブモーロフの生涯より』という映画がある。【中古】 ヌレエフの犬 あるいは憧れの力 /エルケハイデンライヒ(著者),三浦美紀子(訳者),ミヒャエルゾーヴァ(その他) 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
December 29, 2016
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みなさん、こんばんは。雪は午後には雨に変わりましたが、寒かったですね!今日は歴史上の人物を暑かったYA小説を紹介します。カニグスバーグ作品集 4 誇り高き王妃/ジョコンダ夫人の肖像 A Proud Taste for Scarlet and Minibar/The Second Mrs.Giacondaカニグスバーグ(著者),小島希里(訳者),松永ふみ子(訳者) 岩波書店本邦初訳ということで、全集中一番期待してたのが「誇り高き王妃」。それと同時に、少なからぬ危惧も抱いていた。「世間の常識を一歩外したキャラやストーリーは、あくまで架空だったから描けたのでは? 今度は動かせない歴史的事実が山程ある人がヒロインなのだから、いくらカニグズバーグだって限界ってものがあるだろう。」と。 そのヒロインとは、フランス王ルイ7世の妃、後にはイングランド王ヘンリー2世の妃、そしてイングランドの獅子心王リチャードの母。二国の王妃となった史上稀なる有名人、エレアノール・ド・アキテーヌ。さあどうする?と興味津々でページを開いたが、いきなりこの話は天国から始まっていた。えっ、天国? おや、そこならば、さすがに事実関係の突っ込みは入らない。 何てったって誰も知らない所。この場面設定はカニグズバーグの勝ちかも。そう思った瞬間から「3分に1度」のお笑いタイムが始まった。ゴドーならぬある人物を待ちながら、彼女の生前を知る人達が登場して、一生を語る。しんみりしたシーンになるかと思いきや、「天国で弁護士を見つけるのは銀行の頭取を見つけるのと同じくらい難しい。」など、彼女の鋭い突っ込みが入ってくる。井戸端会議感覚で、英仏の歴史が学べてしまう。まあ、なんとお得。原文で読むともっと面白いかもしれないが、訳文も作品の軽やかさを損なっていない。入っていきやすい文体が、性別でも身分の上でも制約が多かった中世ヨーロッパに生きたエレアノールとの距離を、ぐぐっと近づけてくれた。ちなみに、この本を読んでもっと彼女の事を知りたくなった方は映画「冬のライオン」か桐生操氏「王妃アリエノール・ダキテーヌ リチャード獅子王の母」をどうぞ。前者ではキャスリーン・ヘプバーンが王妃を演じている。また彼女の息子、リチャード獅子心王もかなりの有名人で、ケビン・コスナー主演の「ロビン・フッド」ではショーン・コネリーがリチャード獅子心王を演じていた。「ジョコンダ夫人の肖像」自ら輝ける人。「あの人は輝いている」と見極め、語る人。そしてその声を聞き、輝ける人を見る人。本作のメインキャラクターは、この3つ。輝ける人はレオナルド=ダ=ヴィンチ、見極めるのはベアトリーチェ=デステ、輝ける人を見る人はサライ。母も、夫すらも、姉イザベッラを一番と見ていた事実を長く受け入れてきたベアトリーチェは、当然の如く、自らを価値なきものと見なしていた。「今ある自分の美点-良いものを見分ける目-を伸ばしなさい」と言ってくれるレオナルドに出会うまで。自分もクリエイターではない事に引け目を感じていた私は、ベアトリーチェに大変感情移入できた。だからレオナルドの言葉は、私に語りかけているようで、本当に嬉しかった。芸術にしろ文学にしろ、前述の3タイプの人達がそろって初めて成り立つという事実に、大変励まされた作品。 本作では権高で嫌な悪役に描かれているイザベッラ=デステ。塩野七生氏著書「ルネサンスの女たち」によれば、彼女にも「目の上のたんこぶ」的存在の女性がいた。弟嫁で絶世の美女、当時の法王の娘で権力者の妹、ルクレツィア=ボルジア。彼女は彼女で、心休まらなかった日々があったのだと知ると、レオナルドに袖にされる彼女が、少し可哀想に思えた。 「誇り高き王妃」のヒロイン・エレアノールを、ぽんぽん弾けるポップコーン-本当はフランスなのでクレープシュゼットだろうが、イメージにあわないので-とすれば、ベアトリーチェはティラミスかクレームブリュレ。正反対のキャラクターのヒロイン達の生きざまを、どうぞ味わってお読み下さい。【中古】 カニグスバーグ作品集 4 誇り高き王妃/ジョコンダ夫人の肖像 /カニグスバーグ(著者),小島希里(訳者),松永ふみ子(訳者) 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
November 25, 2016
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みなさん、こんばんは。阿蘇山が噴火したとか。最近九州では地震も多く心配ですね。さて、こちらは冴えない男の子が主人公のYA小説です。ぼくが空を飛んだ日 Feather Boysニッキー・シンガー 角川書店 本国での解説文を読んでみる。「『ノーバートと羽根のコート』は…」あれれ、本作の主人公の名前はロバートなんだけど、本国版のタイトルに、「ノーバート」が採用されちゃってるわけ?やれやれ、読んだ後でも、本当の名前じゃなく、ノーバートとして記憶されてしまうかも?いや、それは、ない、多分。 ミステリー王国イギリスで生まれた本書は、こんなに謎を持っている。1.彼がノーバートと呼ばれるようになったのはなぜか?2.ロバートはなぜ葡萄に拒絶反応を示すのか?3.老人養護ホームとの交流プロジェクトで、老人と生徒が一人ずつペアを組むことになった。ペアになった子を一旦キャンセルしてまで、ロバートを指名したエディス。その理由は?4.エディスが歌を異常に嫌がる理由は?5.エディスがロバートに呟いた3つの謎めいた単語の意味は? ロバートが使う比喩に「ナルニア国の街灯」とか「アーサー王」が出てくるので、彼は文学、それもファンタジーや冒険ものが好きなのだな、というのがわかってくる。初対面のエディスが、そこまで見抜いて口にしたわけではない言葉に、彼は見事に引っ掛かる。3つの言葉は、ロバートにとって、鼻先にぶら下げられたニンジン…と言ってしまうと失礼かもしれないが、曰くつきの家に入るという恐怖を、たやすく乗り越える力を十分に持っていた。やれやれ。ヴェラ・ロサコフ夫人から、「地獄へきて!」と、すれ違いざまにかけられたポアロの時代から、イギリスの男性は謎めいた言葉を残す女性に弱いらしい。働くわけではない。この家に入って後、ロバートをいじめるナイカー、ロバートの憧れのケイト達との関係が変化を見せ始め、今までのひょろひょろして、腕力もないノーバートがどんどん変わってゆくのだ。自分に自信を持ち、行動力のある少年ロバートに。ほぅら、もう彼をノーバートと呼ぶ人はいない。 偉いなぁ、と思うのは、エディスの元夫がロバートに対して「子供に言ってもわからない」とか「子供はそんな事知らなくていい」という態度を取らず、内容を理解できるか否かに関わらず、自分達の複雑な事情を正直に話す所。子供に対しても、ちゃんと個人対個人として向き合う大人という前提があったから、子供だけでなく、大人も救ってしまうこの物語にすごく説得力がある。エディスの話だけでも十分に一つの大人ものの物語になるけれど、そこにフェザーボーイ(原題)ロバートの物語も加わり、贅沢にも、二冊分の話を読んだ気分になった。ぼくが空を飛んだ日 [ ニッキー・シンガー ]価格:1620円(税込、送料無料) (2016/8/21時点)
October 9, 2016
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みなさん、こんばんは。ジェームズ・ギャグニーという俳優を知っていますか?この作品には、まさにギャグニーみたいな少年が出てきます。リヴァプールの空Wish Me Luckジェイムズ・ヘネガン 「あちゃー。女性に何という事を!」 映画「民衆の敵」で、ジェームズ・キャグニーは、愛人の顔にグレープフルーツを押しつける。 あくまでも役の上での事。とはいえ、「キャーカッコイイ!」とは思えなかった。 しかし、映画「汚れた顔の天使」で キャグニーを見たリヴァプールの少年ジェイミーは、「何てカッコイイ!」と夢中になる。 ファンになるのも頷ける。この映画のキャグニーは、確かにカッコイイ。 ベビーフェイスで、小柄。あったん怒り出すと、小さな体のどこに、そんなエネルギーが潜んでいたんだろう、と周りが驚く暴れっぷりを見せる。外見と中身がてんでアンバランス。不良少年達の憧れの的である暗黒街のボス、ロッキー。 それが彼。 そんな彼が好きだったジェイミーだから、 北アイルランドからやって来た少年トムが気になったのかもしれない。そう思わせるほどジェイミー描くところのトムは、キャグニーとの 共通点が多い。 ジェイミー達の前に現れたトムは、何だか妙だった。 目の回りのあざ、ぼさぼさの髪。大きいサイズの靴と大人用の上着。 その格好を恥じる風もなく、何だか偉そうにしている。 「いつも誠実に」の紋章入りブレザーを着るジェイミー達は、かちんとくる。 かくてトムは、喧嘩を売られてしまう。受けて立てば、相手を打ち負かすまで止まらない。仲裁に入った少年には憎まれ口をきく。「何だか偉そう」な素振りは、実は弱味を見せまいとするトムの精一杯の虚勢だろう。少年達の知らない、当時のアイルランド事情に思いを馳せる。 その当時、アイルランドは政治的混乱と貧困に悩まされた。中でもプロテスタントの多い北アイルランドは、異端児的存在。彼等の故郷での暮らしぶり、家庭の雰囲気は、推して知るべし。 たかだか13才で、何でこんなに肩が凝る生き方をしてるんだ。やせ我慢していないで、助けを求めればいいのに。 悩みを打ち明ければ、楽になれるかもしれないのに。トムが虚勢を張れば張るほど、見ているこちらの方が、何だか痛々しい。 後に疎開するジェイミーと共に乗ることになった船の中でも、トムは相変わらずだ。血の気が多く、熱いベルファスト・キスを気に喰わない奴にお見舞いし、同室のジェイミーに小言を言われても馬耳東風。やがて、船が魚雷の攻撃を受ける、物語のクライマックスが訪れる。凍えるような寒さ。助けがいつ来るかわからない不安。そして起こる、ある事件。 その時だ。虚勢の殻がはがれ落ちた。真に勇気ある行動を取るトムが、そこにいた。 その時、ジェイミーの頭をよぎったのは、きっと「汚れた顔の天使」のこんなシーンだ。 ロッキーは、親友の牧師から、 「少年達の未来のために、処刑に対して臆病に振舞ってくれないか」と頼まれる。 「死が恐くもないのに、なぜそんなふりをしなければならないのか。」と 拒絶するが、最終的に真に勇気ある行動を取る。 映画で牧師は、ロッキーに伝えられない想いを抱え込み、皆に伝わらない『本当の彼』を思い、悲しみに暮れる。一方、ジェイミーはどうしたか。数十年後、この本を書いたのである。 シーラEエゴフ児童文学賞受賞作。第二次大戦中、大型定期客船シティ・オブ・ベナレス号が雷撃を受けて沈没した実話を元に描かれた。著者はこの事故の生存者である。 【今だけポイント6倍!】リヴァプールの空/ジェイムズ・ヘネガン/佐々木信雄【2500円以上送料無料】オンライン書店boox
September 28, 2016
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みなさん、こんばんは。連休最後の日は雨でした。パラリンピック終了しましたね。これから本格的な秋ですね。さて、こちらはまだ夏のような雰囲気の作品です。海のはてまで連れてってSEA LEGSアレックス・シアラー 表紙には船室の窓が二つ描かれている。その向こうには白い雲、青い空。まさに絵に描いたような大海原が広がっているのを見れば、こう言いたくなる。「やっぱり海っていいなぁ。」でも、その海が寂しさの元である人がいる。5分違いで生まれた双子の兄弟、「ぼく」とクライヴがそうだった。 母親を小さい頃に亡くし、父親が豪華客船モナリザ号のシニア・スチュワードをしているため、航海中二人は祖父母の家に預けられていた。ある夏、「これを最後の仕事にして、陸で暮らす」と父親が宣言。「父と一緒に船に乗れるチャンスがなくなった」としょんぼりするぼくだったが、クライヴの「とにかく行っちゃえばいいんだよ。」という一言で、ある考えが浮かぶ。豪華客船にこっそり乗り込んでしまおうというのだ。いわゆる、密航である。もちろんその前にはいろんな障害がある。さぞや周到な計画を立てているのかと耳をすますと、こんな会話が聞こえてくる。「かばん六つとトランクひとつ持って、どうやって船に忍びこむんだ?」「さりげなく」「タラップをこっそりのぼっていけばいいよ」(略)「かばん六つとトランクを持って、どうやってタラップをこっそり上がるんだ?」(略)「橋があれば橋をわたるように、タラップがあればタラップをのぼるだけだよ。」…おいおい、大丈夫か?思わず、こう声をかけたくなるほど穴だらけの計画で、「こんなの、うまくいくのか?」と首をおおいにひねるのだが、彼等は臨機応変能力があるようで、「好かない学友が両親と船に乗っていた」「トイレはどうするか」「食事はどうするか」などの彼等にとってはとっても切実な問題を、一つ一つクリアしてゆく。 前述のように、二人の会話は思わず吹き出してしまうものばかり。これだけ漫才の才能があれば、そっちで船に雇ってもらう事を考えた方が、船に乗りたい夢を叶える早道であるのは確か。でも、本人達は至って真面目なつもりなのだから、そんな事を言われたらきっと怒り出す。それに、まだまだ恋愛現役の父親は、もう少し彼等にこのままでいて欲しいはず。何たって彼等は、朝に知らない女の人が、父親のシャツを着ていても、「疲れて帰れなくなった女の人を、優しい父さんが泊めてあげた。」と考え、「シャツを人にあげてばかりだと、父さんの自分の分がなくなっちゃうんじゃないかと心配」してくれるのだから。大人になって知恵がついたら、こうはいかない。そんな二人が知恵のついた大人相手に繰り広げるひと夏の冒険譚は、遂に名前がわからなかった「ぼく」による登場人物紹介から最後まで、大いに笑える事間違いなし。【中古】 海のはてまで連れてって /アレックス・シアラー(著者),金原瑞人(訳者) 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
September 20, 2016
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みなさん、こんばんは。また台風が来ているようですね。今日は雨が降りませんでしたが蒸し暑かったです。パラリンピックでもメダルラッシュですね。素晴らしい。さて、今日は1960年代のアメリカが舞台の小説を紹介します。ペーパーボーイ Paper Boyヴィンス・ヴォーター岩波書店1959年、メンフィス。ヴィクターは夏休みのあいだ、祖母の家に行く友達ラットの代わりに新聞配達をすることになった。すぐどもるせいで人と話すのは緊張する。でもその夏は、思いもよらない個性的な人たちとの出会いと、そして事件が待っていた。 配達する度にヴィクターにちぎれた紙幣と一つずつ言葉を贈るスピロさんからは、自分で考えることの大切さを。いつも悲しそうな顔をしている綺麗な人妻ワーシントンさんからは、複雑な人間性を。家で働くメイドのマームから「近づくんじゃない」と言われているRTからは、底知れぬ人の悪意と恐怖を。いつもヴィクターを「リトル・マン」と呼んでくれる、強くて優しいマームからは、無償の愛を。ヴィクターは彼等から、書物からだけでは得られないことを教わる。吃音がネックになって人とのコミュニケーションがうまく取れない事にコンプレックスを抱いていたヴィクターが、彼等との出会いを通じて、大切な人を守るために大胆な行動を取ったり、知ってしまった秘密とどう向き合うかなど、シリアスな問題と対峙していく、ひと夏の成長物語。 エアメールのように海外から作品が届けられるという意味で「STAMP BOOKS」と名付けられている岩波書店のYAシリーズ。吃音だった著者の自伝的要素が含まれているフィクション。ちょうど公民権運動の渦中にあった1960年代のメンフィスが舞台。訳者の持ち込みで日本での出版が実現した本書は、続編執筆中。ペーパーボーイ [ ヴィンス・ヴォーター ]楽天ブックス
September 14, 2016
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みなさん、こんばんは。広島カープ優勝しましたね。8月20日にマジックが点灯してからあっという間だったとか。カープファンにとっては今年の夏は暑かったのでは。さて、この物語にも忘れられない夏が登場します。マイがいた夏Maj Darlinマッツ・ヴォール「愛してるわ、ビリー・ボーイ!」映画『君といた夏』では、あの夏こう呼びかけた従姉妹を思い出し、ビリーは行き詰まった野球人生に向き合う決意をする。また別の映画『おもいでの夏』で少年ハーミーは、人妻ドロシーと過ごした15才の夏を、こう回想する。「ドロシーといた夏を僕は忘れない」どうやら夏は、少年達にとって忘れられない思い出をくれる季節であるようだ。 世界で最も期間として短く、かつ昼の時間帯が最も長い夏を過ごすスウェーデンの少年、ハリーとハッセにも、そんな「忘れられない夏」がやってきた。長い髪の女の子、マイが転校してきたのだ。親友とは不思議なものだ。生活環境や体格が多少違ってたって、気にならない。相手を守るためなら、「絶対嘘なんてつかない」って言ってたそばから嘘を言える。到底かなわない相手にだって、勇気を持って立ち向かえる。ハッセとハリーもそんな親友どうしだった。でも、やがて彼等は知る。大好きな食べ物とは違って、どうしても半分こに出来ないものがある事を。それは、大好きなマイの愛。そして、たとえ相手が親友でも、諦めきれないものもある事を知る。それは、「親友よりも自分を愛して欲しい」と願う気持ち。 物語の語り手となるハリーは、いい所を見せようと思って、ある人を窮地に陥れる。ハッセが彫ったであろう愛の木に書かれた彼とマイの名前を消す。マイが親切にした子に、辛く当たる。これらの行動で判断するなら、ハリーはおよそ模範的な少年ではない。しかし、彼だけが特別ではない。恋愛というのは、「相手を好きになれば浮き浮きして、毎日が楽しい」なんていい面ばかりのものじゃない。見ないようにしている自分の真正面に、「お前はこういう嫌な奴なんだ。」とよりによって一番見たくないと思っている自分を、むきだしに突きつけてくるような所がある。恋しなければ感じなかった、身を切られるような痛みを経験する事もある。「北欧であろうと、日本であろうと、少年達が思春期に向き合う思いに、そうそう違いがあるわけでないのだな」という事が、著者の丁寧な心理描写でよくわかる。 初恋を知り、初めて明らかになった自分、そして親友の一面から逃げず向き合ってゆく事で、少年達は大人になってゆく。真綿にくるまれ、傷一つないままで、大人になった人なんていない。自らも傷を負い、他人の痛みをも思い遣る事ができた夏は、永遠の季節として、マイと共にいつまでも彼等の心に残り続けるだろう。マイがいた夏 [ マッツ・ヴォ-ル ]楽天ブックス
September 11, 2016
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みなさん、こんばんは。一年の半分以上が終わりましたね。今日も暑かった。とうとう梅雨明けです。さて、こちらはYA小説です。二つ、三ついいわすれたことTWO OR THREE THINGSジョイス・キャロル・オーツ 母親が女優で、自身も人気子役だった天才子役のカトリーナ・トラウマーが謎の死を遂げた。自分の名前を嫌い、自らティンクと名乗っていたカトリーナは、先生だろうと母親だろうと物怖じしない態度でクラスメイトのメリッサやナディアを魅了した。ティンクの死から立ち直れない二人に、ある出来事が起きて…。 メリッサは「ミス・パーフェクト」と呼ばれる容姿端麗、成績優秀の女子高生で、早々とブラウン大学入学が決まっている。「ティンクに起こったような事は自分には起こらない」と思ってきたが、両親の様子がおかしい。気持ちをぶつける先がみつからないメリッサは、ある行動に走る。 ぽっちゃりしてクラスメイトからいじめを受けているナディアは、優しいケスラー先生に夢中になる。ある日自分の気持ちを伝えるために、家にあった絵画を継母の鞄に入れて先生の車に置いてくる。ところが父親と継母が盗難だと大騒ぎして、先生を窮地に陥れる。 ティーンだった頃は、「親だって自分達と同じ年で同じ経験をしたことだってあるはずなのに、どうして気持ちをわかってくれないのだろう」と思っていたが、いざ親の年齢になると子供だった頃の気持ちをきれいさっぱり忘れている。そして、何が言いたいのかよくわからないティーンにどう接していいのかわからなくて、ついきつくあたってしまうことも。それなのに、御年70を越えているジョイス・キャロル・オーツが、こうもティーンの心情をリアルに描けるとは驚きだ。 親兄弟やクラスメイト、周り全てにいい顔をしようと頑張ったあげく、誰の事も責められなくなって自分に矛先が向かうメリッサや、悪気はなかったにせよ空気が読めずに大切な人を窮地においやってしまうナディアのような悩みを抱えたティーンは、きっとアメリカにも日本にもいる。理性と常識ある大人が教え導いていくのが理想だが、最近は大人も当てにならず、かくて「二つ、三ついいわすれたこと」がどんどんたまって澱みになる。遠慮のない物言いで大人達をたじろがせ、一方友達には「やっちゃいなよ!」と力強い言葉をくれる、ティンクのような同世代からの言葉の方が、メリッサやナディアには沁みるのだ。但し、彼女が実在の存在であるかどうかはあえて曖昧なままにされている。もしかしたら、救いを求める少女達が作り出した理想像、もしくは自分の中にいた勇気なのかもしれない。【楽天ブックスならいつでも送料無料】二つ、三ついいわすれたこと [ ジョイス・キャロル・オーツ ]楽天ブックス
July 30, 2016
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みなさん、こんばんは。お子さんがもうすぐ夏休みという方もいらっしゃいますね。読書感想文に頭を悩ませているのではないでしょうか。もしこの本を読んだら、笑ってしまって書けないかも?聊斎志異 岩波少年文庫/蒲松齢中国人ってもしかして酒飲み?と思ったのは、中国旅行で三国志の蜀の宰相として諸葛亮孔明から任命された蒋婉の逸話を聞いたから。 ある者達が、盗掘のために蒋婉の墓に入った。ところが、彼等がせっせせっせと宝物を探し出していると、死んでいるはずの蒋婉がむくり、と起き出した。あわてたのは泥棒達。すると蒋婉の第一声や、いかに?「酒でも飲まんか?」…第一声がそれ?いやぁ、のけぞりましたね。泥棒を一喝して説教でもするかってキャラですもん。そういえば李白も酒好きだったし、もともと酒は中国から日本に来たっていうし。酒を飲んで晴らしたい憂さのある時代だったのか、そんなわけで、この短編集にも酒ネタがいっぱい。「義理固い亡者」「菊の姉弟」「飲み仲間」「酒の精」おっと、短編集の紹介をまずしましょう。 立間祥介編訳。中国、清時代。科挙に通らず生涯塾の教師として生きた蒲松齢(ほしょうれい)が書いた怪奇幻想小説集「聊斎志異」全12巻、494篇より31篇を収録。聊斎と名付けられた書斎の主、蒲松齢が世にも不思議(異)な物語を書き記した(志=誌)ことから名付けられた。 「道士と梨の木」は「陰陽師」の「瓜仙人」のモトネタですね。岡野さんの仙人の方がちょっとイヤらしめです。興味のある方は比較してみましょう。「コオロギと少年」では気の弱い役人志望の男が、村の世話役として金の調達を命じられる。ところが人に強く言えないものだから自分で立て替え、コオロギも手に入らず死のうかとまで思いつめる。このあたりは、弱き者、汝の名は民衆なりで今も昔も変わらんなぁとため息。だめですねぇ、大人はこういう所に目がいって。 実はこの短編集に興味を持ったのは、南 伸坊さんの「李白の月」「仙人の壷」という2つのエッセイを読んだから。やたらエンディングが何じゃ?と思われるものが多かったんです。この短編集にも「宿屋の怪」「耳の中の小人」「犬神」「古戦場の化け物」などがあります。 著者のプロフィールはこんな風です。 彼は試験に落ち続け、とうとう息子が試験を受ける年令になってしまいます。見兼ねた妻が「官吏にならなくてもいいじゃありませんか」と言い、とうとう塾の先生に。でも、たまってたんです。どこにも出せず、何に変えようもない鬱屈が。それが、ここに出てくる妖怪なり、世の中何でも理由のつくものばかりではないってエンディングになって現れたんでしょう。さて、みなさんはどう思いますか?【中古】 聊斎志異 岩波少年文庫/蒲松齢【著】,立間祥介【編訳】 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
July 19, 2016
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みなさん、こんばんは。今東京庭園美術館でメディチ家の秘宝展をやっていますね。こちらの物語にもメディチ家が出てきます。いっときイタリアを支配した名家ですね。メディチ家の紋章(上下)The Medic Sealテリーザ・ブレスリン/作 金原瑞人/訳 秋川久美子/訳盗賊の頭領サンディーノに追われるジプシーの少年マッテオは、溺れかけていたところを、レオナルド・ダ・ヴィンチに助けられ、のちに工房の一員として迎え入れられる。少年は、この巨匠が仕事のときにはいつもかたわらにいることになった。その仕事は、壁画の制作から、飛行実験、死体解剖にまでおよぶものだった。悪名高き征服者、チェーザレ・ボルジアに雇われていたダ・ヴィンチとその一行には、絶えず殺人と陰謀、復讐がついてまわる。それは、マッテオが握っているあるもの―ボルジア家とメディチ家が、なんとしてでも手に入れたい秘密のためでもあった…。 16世紀のイタリアはフィレンツェ共和国を支配する富裕なメディチ家、宗教の中心ローマ教皇、傭兵隊長を召し抱える公国領主達が勢力争いを繰り広げており、未だ統一国家ではなかった。メディチ家の金印を持っていたマッテオが殺し屋に追われるシーンから物語は始まる。 何せこの時代、後の有名人には事欠かない。チェーザレ・ボルジアはほぼ従来のイメージ通りでエネルギッシュかつ残酷なキャラだが、彼の妹で絶世の美女ルクレツィア・ボルジアに関しては若干異なる。「稀代の悪女」という噂はあるものの、最後の嫁ぎ先フェラーラにやってきたフランス遠征軍最高司令官ガストン・ド・フォアを手玉に取ろうとするなど、単なる父や兄の操り人形ではなかったことが窺える。最もマッテオと関わりが深いのは天才レオナルド・ダ・ヴィンチで、自らも庶子であるダ・ヴィンチは、身寄りのないマッテオを常に気遣っており、彼の名作『モナ・リサ』の制作過程も作中に登場する。 自分が言っている通りの孤児なのか、それとも何かの事故で記憶喪失になっているのか。金印を盗ませた者の目的は?あまりドロドロした大人の世界の権謀術策に踏み込まず、様々な謎を秘めた少年マッテオが、当代の有名人達と出会いながら恋や戦乱を通じて人生を選び取るYA冒険小説。【日時指定不可】【銀行振込不可】【2500円以上購入で送料無料】【新品】【本】メディチ家の紋章 上 テリーザ・ブレスリン/作 金原瑞人/訳 秋川久美子/訳【楽天ブックスならいつでも送料無料】メディチ家の紋章<下> [ テリーザ・ブレスリン ]楽天ブックス
June 27, 2016
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みなさん、こんばんは。また熊本で地震がありましたね。落ち着きません。こちらはアメリカのYA小説です。星をまく人The Same Stuff as Starsキャサリン・パターソン6万年に一度のランデブーでもない限り、空なんて珍しくもない。星がどう動こうと、そんなの知らない。だって、あたしには、もっと見なきゃならないものがある。11才のエンジェル=モーガンは、せっぱつまっていた。父レニーが泥棒で服役中の間、母と弟バーニーとの暮らしはきつきつだ。自分だって今度やっと、12才になるばかり。バーニーはまだ7才。頼りになる大人は母だけ。だからバーニーがぐずると、エンジェルは必死だ。母が怒り出して、「自分はなんて不幸なんだろう。」って、愚痴をこぼす。そんなお決まりの情景が見えているから。でも、こんなにエンジェルが気を使っていたのに、母は、ずっと疎遠だったレニーの祖母の元に、エンジェルとバーニーを預けると、自分だけ出ていってしまう。「どこへ行く」とも「いつ帰る」とも言わずに。現実という壁が、目の前に突きつけられた。エンジェルは、ますます空を見る余裕なんてなくなった。バーニーは不安がるし、大祖母も戸惑っている。けど、そんな顔を向けられたって、こっちだって泣きたい。誰かに聞きたい。「あたしの人生は、これから一体どうなるの?」そんなエンジェルの前に、ガレージに住む不思議な男が現れる。どうやら大祖母と訳ありらしい彼は、こう言う。『人間は星と同じもの(=原題The Same Stuff as Stars)でできているんだよ。』エンジェルの前に、きら、と光が見える。つられて頭が、もちあがる。パターソンは、孤軍奮闘する少女・エンジェルの心の動きにだけ、焦点を当てているわけではない。弟バーニーの駄々っ子ぶりは、親に構われる事の少ない彼の「自分を見て。ちゃんと見てくれてる?」って寂しさの裏返し。大祖母だって、最初から慈愛に満ちた眼差しで、「はい、そうですか。」と、二人を迎え入れるような、いわゆる「できた人」じゃない。今まで碌にコミュニケーションも取った事のない曾孫が現れたって、何を話せばいいのやら戸惑い、唯一の大人といったって、年を取っているから、すいすい動けるわけじゃないし、これからの生活プランに修正を迫られて、渋い顔になるのも当然だ。三者三様の、大なり小なりのモヤモヤ、心に出来たささくれも、パターソンはちゃんと書いている。でも、彼等は結局そこから逃げない。誰一人「できた人」とは言えないこの三人が、もがきながらも家族を形成してゆく。その過程が読む人の心をうち、勇気を与える。限られた環境に横穴をあけるきっかけが、本である事が嬉しい。エンジェルは、「星を知ろう」(実在の本)という一冊の本を通じて、自分の世界を広げていく。でも彼女は、本や星の世界に、決して現実逃避をするわけではない。むしろその逆だ。天の中で絶対に動かない北極星の存在を知り、彼女は地面に足を踏ん張って生きていこうとするのだから。ある程度大きくなった子供には、怖れをなして注意できない。けれど、幼くて助けが要るような子供に対しては、理不尽な虐待や放置が行われる。児童に対する態度が二元化しつつある日本で、エンジェルの母親のようなケースは、もう珍しくなくなった。心も体も袋小路に追い詰められ、下ばかり見ているような子供達が、本書のように、第三者或いは本を糧として、逆境をはね返し、前を向いて歩く力を得てくれればいいのだが。昨今の新聞記事を読んでいると、なおさらにこの思いは強い。星をまく人ぐるぐる王国 楽天市場店50x70cm「ブラック」 ポスターを格上げする!nest の木製フレーム(前面:アクリル板)…価格:10,152円(税込、送料込)
June 13, 2016
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みなさん、こんばんは。トランプ氏が指名確実のようですね。過激な発言が目立ちますがアメリカはどうなっていくのでしょうか。さて、こちらはアメリカの少年が主人公のYAです。風をつむぐ少年Whirligigポールフライシュマン(著者)片岡しのぶ(訳者) ブレントは、アトランタからシカゴに越してきたばかりの16才。7年間に4度も転校した彼の最大の関心事は、新しい学校にうまく馴染む事と、かっこいい奴として級友達から注目される事。ところがある夜酔って車を運転し、見ず知らずの18才の少女リーを死なせてしまう。リーの顔をした風で動く人形を作り、アメリカの四隅に立てて欲しい。遺族からそう求められたブレントは生まれて初めての独り旅に出る。 病的なまでに気を配り、周りに合わせよう、合わせようとするブレントを、神経質すぎると思う人はいるかもしれない。けれど、全然気の使い過ぎではない。転校を数回経験した私には、ラジオを聞いたり、服装を点検する彼の気持ちがよくわかる。ずっとその土地にいて、知っている人ばかりの中で暮らしてきた人と違って、誰も味方はいない。距離感をはかり、勢力地図を見通す。親という大人の助けを借りれば逆効果。だからその後の行動は確かに許されるものではなかったけれど、地元の子供達にいたぶられた挙句、自棄になってしまう心理も、むべなるかなと思う。 事故後に被害者の家族と加害者の家族を、裁判所ではない所で会わせてしまうのには、驚いた。もちろん客観的な立場の人間として、調停役が同席するが、いつも今回のような穏やかな決着に落ち着くとも限らないのに、随分と思いきった事をするものだ。 彼等の前で、リーの母親が「事故の時家族が何をしていたか」を延々と話し始める。 もちろんブレントはいたたまれない。泣き出して「ごめんなさい。」と言うしかない。 そしてフィリピン出身の母親はこう言う。 「私は仕返しという事が好きではない。仕返しがどんなものか、祖国でいやというほど見てきた。」 尚も続ける。 「どんな事も理由があって起こるのだと信じている。宇宙にとってこれは必要な事だった。私にはわからないけど。」 そうしてブレントに、冒頭に掲げた依頼をする。 素晴らしい人だ。一国の大統領ですらできない「憎しみを愛に変える」事を、すらっとやってしまった。もちろん「背負うものが違う」とか、「これはフィクションだから」とか、反論はあるだろうが、加害者に向けて、そして何よりも自分に向けて、 「どんな事も理由があって起こるのだから、今回の死も必要な事だった。」という言葉を口にできる母親は、本当に凄い。全9章のうち、2、4,6,8の四つの章は、ブレントの作った風で動く人形(Whirligig=原題)を見た人々について描かれている。けれど、ブレント自身はその人々とは一切関わりがないし、ブレントの訪れた地点を逆から辿っているので、出逢う事で双方が変わっていく通常のロードムービーとはひと味違っている。1章を除いて皆白人種ではない所も、いかにも人種のるつぼであるアメリカらしい。ブレントが人形を作った意志も動機も知らないままに、それぞれの土地の人々は人形を見る。深刻な局面の人も、半信半疑な遊び半分の子供もいる。そして、風が吹いて人形がまわるように、人形を見た彼等も、人生に風を起こす。 調停役のミス・ギルの言葉 「人間の行為はさまざまな結果をもたらします。そのすべてを知る力は、人間にはありません。行為の結果は目に見えないところまで及びます。未来にまで、だれも行けない遠くにまで、それは旅をするのです。」 を具現化するエピソードである。 『種をまく人』『マインズ・アイ』と物理的・精神的に動く事が、別の何かに影響を及ぼしてゆく姿を描き続けるフライシュマンの作品。【中古】 風をつむぐ少年 /ポールフライシュマン(著者),片岡しのぶ(訳者) 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店オリジナルプリントストラップ3cm【プレゼント オリジナル ストラップ お守り 写真】価格:324円(税込、送料別)
May 10, 2016
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みなさん、こんばんは。あと一日でゴールデンウィーク突入ですね。でも間の日には出勤しますよ。さて、こちらは以前紹介したファンタジーの続編です。三部作なのであと一作ですね。ハーフ・ワイルド 上下Half Wildサリー・グリーン 上下巻を横に並べてみると、上巻の少女は下を向いて眠っているようだ。そして下巻の少年は運命のナイフを握ったネイサン・バーン。そのナイフの先が血で穢れているということは、彼は誰かを刺したのだ。誰を?もしや予言されていたあの人? 善なる白の魔使いと悪なる黒い魔使いのイギリス内での不和を描いたシリーズ第一作ハーフ・バッド―ネイサン・バーンと悪の血脈に対して、今回はネイサンは白の魔法使いに対抗する同盟を作ろうとするヴァン達の計画に加わり、世界中を飛び回る。少年版『プリズン・ブレイク』と称された閉塞的な雰囲気が漂う前作から一挙に、闘う敵も活動する場所もスケールアップしている。 ロミオとジュリエットのようなアナリーゼとの恋愛も描かれるが、一方で親友と思っていたガブリエルとの熱いキスシーンも登場。「いやいやいや、この小説ってBLに振りきれるの?」と大いに困惑。いや、ネイサンはワイルドだし、ガブリエルは黙っていても女性が寄ってくる美形だから、絡んでも絵的には美しいんですけどね。ある能力を持ったことに悩むネイサンに対して「君がどんな姿であっても僕は君を認める」と熱烈な思いをぶつけるガブリエルと、ネイサンが兄を殺したと聞いて動揺するアナリーゼ。冷静に考えればありのままの自分を受け入れてくれる相手との関係の方が安全なのだが、そう割り切れないのが恋愛の面倒なところ。この三角関係の決着は、どうやら最終作でつきそうだ。 更にネイサンには、大きな試練が訪れる。自分が倒すと予言された父の過去を知ってしまった彼は、彼を悪だと断じられなくなり懊悩する。善悪の狭間で揺れるネイサンが、自身で納得して父との関係を決めたのならば良かったのだが、予測もしない時に第三者によって二人の関係は断ち切られる。さあこのダメージは大きい。第三作でネイサンは喪失を乗り越えられるのか。恋と魔使い達の未来を両肩に背負うには、その背中はまだ頼りないことこの上ないのだけれど。【楽天ブックスならいつでも送料無料】ハーフ・ワイルド 上 [ サリー・グリーン ]【楽天ブックスならいつでも送料無料】ハーフ・ワイルド 下 [ サリー・グリーン ]楽天ブックス
April 28, 2016
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みなさん、こんにちは。すっかり風邪をひいてしまいました。とほほ。さて、こちらはノアの方舟を別の人の視点から見た物語です。世界はおわらないNot the End of the World主婦の友社ジェラルディン・マコックラン(著者),金原瑞人(訳者),段木ちひろ(訳者) 『神に従う無垢な人』ノアは方舟を完成させると、自分の妻と息子とその妻達と、清いつがい七つがいずつ、清くない動物七つがいずつを乗せた。洪水は40日40夜続き、地上に生きていたすべてのものを滅ぼしつくした。 『旧約聖書 創世記』に登場する「ノアの方舟」である。だが、ここには、書かれていない事がある。息子の名前は出てくるが、妻の名、息子達の妻の名は登場しない。また、動物を舟に乗せたのであれば、当然必要であるはずの水や食料をどうしたかも、排泄物の処理についての記載もない。では、書かれていなかったからといって、食料の確保や排泄物の処理が為されなかったのか?妻達に名前はなかったのか?そんな事は、有り得ない。ならば他にも、伝えられている事以外に、何かがあったのではないか? 著者は、ノアの一家に、聖書に登場しなかった娘・ティムナを登場させる。彼女は当初「父さんがいれば、怖いものは何もない」とノアに従っていたが、大洪水に遭遇して、父への信頼が揺らぎ始める。「人を愛せ」と教えた神が、生まれたばかりの赤子でなく、獣を方舟に乗せたのは何故なのか。その教えに唯々諾々と従う父や兄達は、果たして無垢たり得るのだろうか?万能の父に矛盾を感じ始めた矢先に、闖入者が登場し、彼女の心と方舟の運命共同体の運命をも、大いに揺さぶる事になる。「百年後、人々があたしたちの物語を語るときに名前が出るのは息子たちだけで、あたしは登場しないだろう」と、自嘲気味に語る彼女が、主たる語り手を務めるが、ノアの妻アマ、長男の妻バセマト、次男の妻サライ、三男の妻ツィラ、名もなき存在として切り捨てられた者、全てが声をあげる。そこから見えてくるのは、選別社会に適応した選ばれし者ノアと彼に従う息子達には、決して見えない、方舟のむこうがわの世界だ。 現代の日本もまた、「勝ち組」「負け組」という選別社会の様相が強くなっている。そして、「選ばれないのは何故か」を問う事よりも、「選ばれない者が悪いのだ」と切り捨てる風潮が強い。競争社会・選別社会の方舟の向こう側に追いやられた人達は、洪水ならぬストレスに苦しみ、命ならぬ平常心を失ってゆく。だが決して、世界も価値観も一つではない。そんな単純なものでは有り得ない。人間が人間である限り、世界が世界である限り。世界から見放されたように感じている現代人に、本作の或る登場人物から、この言葉を贈る。こういったことは起こるものだ。しかし世界の終わりではない。(中略)洪水が永遠に続くことはない 地理的にも続かないし、何年にもわたって続くこともない。大人にも、子供にも、強く訴えるメッセージを持つ、稗史風創世記。【中古】 世界はおわらない /ジェラルディン・マコックラン(著者),金原瑞人(訳者),段木ちひろ(訳者) 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
April 8, 2016
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みなさん、チョコ渡しましたか?私は昨日渡してきました。こちらもチョコ絡みの書籍です。チョコレート・アンダーグラウンドBootlegアレックス・シアラー舞台はイギリス。選挙で大勝利を収めた健全健康党はチョコレート禁止法を発令し、国中で甘いものが処分されていく。チョコレートに目がないハントリーとスマッジャーは、行きつけの店のバビおばさんと共に、チョコレートを密造し、"地下チョコバー"を始めることにしたのだが…。 本書は装丁から凝っていて、嬉しくなってしまう。まず文字がチョコレート色、表紙、目次、登場人物紹介のページもこれまたチョコレート色。最後に出てくる人物への謝辞と消息も、いかにも本物っぽく、ユーモアを交えて綴られている。 表紙の下2/3の所はチョコレートの包装紙みたいな薄い筋が入っている。右頬に絆創膏を貼り、煙草みたいにチョコを銜えたやんちゃそうな少年が描かれており、絵の左脇に小さく書かれている文字は「we love freedom」。ジョディ・フォスターが娼婦を演じ、銃弾の代わりにパイを投げあった子供達だけのミュージカル映画『ダウンタウン物語』に出てきた少年みたい。冷静にして慎重派のハントリーと、思い込んだら一直線のスマッジャーは、全然別のタイプながら、協力し合えば百人力。周りの大人達も巻き込んで、ぐいぐいと物語を引っ張ってゆく。 隠れバー、密造、密告などの様子は、まるで禁酒法時代のアメリカに逆戻りしたような雰囲気だが、唯一チョコレート探知機という近未来を想起させる装置が出て来る。 禁止されたのがチョコレート。そこだけを取り上げれば、「あ−面白かった」と笑ってポイ。虫歯だらけの子供でもいれば、「こんな法律でもあれば。」などと嘆く親だっているかもしれない。でも禁じられたのが、別のものだったら?例えばチョコレートを食べる「権利」や「自由」だったら?以下の台詞の「チョコレート」の部分を、試しに「自由」に置き換えてみます。「少なくともおれたちは自由の味を知ってる。それはすごいことだ。今のチビたちは、ホントならこれから初めて自由にありつこうって年なのに、もらえないんだからな。」「そのかわり、なにを味わえないかもしらないわけだろ」「そう、でもおれたちは知ってるんだ。だから、おれたちのほうがかわいそうなんだろうな。これからずっとほしくてたまんないだろう。(中略)がまんしきれなくて、おかしくなっちゃうかも」どうです、結構シリアスに響いてきませんか?「どうして大半の人に支持されていないのに、選挙に勝って国を動かす事ができるの?」ハントリーの質問に、母親はこう答えます。「アパシーね。無気力とか怠慢の意味よ。つまり多くの人が、投票所に行って投票する手間をかけなかったの。だれもが『ほかのみんなも、あの党に反対にちがいないから、自分がわざわざ行くことないさ』って思ったのね。ただ、ほかのみんなも同じことを考えてた。」「世の中には、わかっているつもりの人たちがたくさんいるの。そういう人たちは、他人にああしろこうしろ、ああするなこうするなと指図するのがなによりも好きなのね。かたくなな考え方の人が、いったん正しいと思いこむと、もうまっしぐらだから」チョコレ−トを大好きな子供達がいる、イギリスから遥か離れた東洋の国で、聞いた話だとは、思いませんか? 突拍子もない設定で、「これは架空の話なんですよ」とはっきりわからせる。更にシットコム次込みのユーモアをスパイスに、大いに読者を笑わせる。しかし、その笑いの中に、大事なメッセージをさりげなく挟み込んでいるために、見た目は甘くても、中に入れた後にはどっしりと満足感。まるで、とってもおいしいチョコレートを、お腹一杯食べた後のように、ね。【楽天ブックスならいつでも送料無料】チョコレート・アンダーグラウンド [ アレックス・シアラー ]楽天ブックス
February 13, 2016
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みなさん、こんばんは。バレンタインが近づいてきましたね。こんな本はいかがですか?映画にもなりました。チョコレート工場の秘密 Charlie and the Chocolate Factory児童図書館・文学の部屋ロアルドダール【著】,田村隆一【訳】 チャーリー・バケットは、ウィリー・ワンカが経営するチョコレート工場の前を通るのが大好きな少年。でも家が貧乏で、贅沢品のチョコレートはなかなか買えない。そんな時、チョコレートの中に金色の券が入っている5人の子供を、工場に招待するというワンカ氏の声明が発表される。チャーリーは、見事金色の券を手に入れるのだが…。 ジョニー・デップ主演、ティム・バートン監督により映画化された作品の原作。主人公のチャーリーこそ、健気で素直な良い子のストライク・ゾーンだが、招待された4人の子供達は、いずれ劣らぬ変人揃い。ブクブク太ったオ−ガスタス・グループ、欲しいものは何でも大金持ちの両親が手に入れてくれたベルーカ・サルト、ガムを三ヶ月も噛み続けているバイオレット・ボールガード、TV中毒のマイク・テービー(TV?)。いじめられっ子監督バートンが、「さあ、どう料理しようか?」と手ぐすねひいて待ってそうなキャラばかり。何せ、ベッドから起き上がれないほど弱っているチャーリーの祖父母まで、金券が当る毎に、辛辣なコメントをするほどだもの。壊れっぷりは、想像めされ。 さていくら皮肉屋ダールといえど、素直な主人公に、そう酷い真似はしません。代わりに血祭り、いえチョコ祭り(嬉しいかも)にあげられるのは…おわかりですよね? でもいいんですよぉ、彼等は。何せ自分の好きな事に思いっきり耽溺できるし、退場する時にはウンパ・ルンパ族が、歌で送ってくれるんですから。まるで花道を退場するヅカスターのよう(違う?)。そして、本当にとっておきの、とっておきは、やっぱりこうでなくっちゃね、「素直で良い子が報われる」。最新式キャンディ、チョコレートの川、味の変わるチューインガム、登場するお菓子の描写が、本当においしそうで、甘ったるい匂いなんぞなくても、食べたくてたまらなくなる。こらこら、駆け出して行かないよーに、そこの坊や。 小説表紙のワンカ氏は、前に映画化された時に演じたジーン・ワイルダーに似ている。【中古】 チョコレート工場の秘密 児童図書館・文学の部屋/ロアルドダール【著】,田村隆一【訳】 【中古】afbブックオフオンライン楽天市場店
February 10, 2016
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何だか今日はTV局の思惑にまんまとのせられて下町ロケット関連の番組をずーっと見てしまいました。やっぱり見入ってしまいますね。こちらは心が暖かくなる作品です。赤い手袋の奇跡 サラの歌The Red Grove seriesカレン・キングズベリークリスマスに起こる小さな奇跡を取り上げた『赤い手袋の奇跡』シリーズ第3弾。不治の病を抱えた少女とホームレスが出逢う第一作、父親を欲しがる少年とその母と妻を失った男が出逢う第二作というふうに、異性が出逢っていた前作に比べ、本作では、世代が異なる同性同士が出逢う。老人ホームで余生を過ごすサラは、クリスマスがめぐってくるたびに、特別な儀式をすることにしていた。しかし、今年は自らの体験をどうしても伝えたい人がサラの前に現れた。その女性とは、介護士のベス。結婚した頃のときめきも愛も消え失せてしまったと考えた彼女は、クリスマスを前に家を出ていくと宣言する。そんな彼女の事情など知らぬままに、その瞳を見ただけで、サラは今こそ自分の物語が必要だと感じる。年経りた女性が若い世代に自らの体験を話して再生に導くストーリーは、キャシー・ベイツ&ジェシカ・タンディ共演の映画『フライド・グリーン・トマト』を彷彿とさせる。 苦しみや喜びに満ちた一人一人の物語はそれぞれ違うが、心の中に響く言葉は、なぜか同じ。そのことこそが、奇跡であるような気がする。「信じる心を取り戻すのに、遅すぎることはない。正しい道にたどり着くのに、遅すぎることはない。愛を取り戻すのに、遅すぎることはない。もう一度やり直すのに、遅すぎることはない。」クリスマスで家族に読むのに、ふさわしい本。 出版社 集英社 著者・翻訳者 カレン・キングズベリー (著) 初版発行日 2008-10-24【中古】赤い手袋の奇跡 サラの歌 (The red gloves series)KSCスイーツ 詰め合わせ マカロンやロールケーキなどスイーツ 詰め合わせ ギフトにスイーツ 詰め合わせ スイーツ福袋 人気スイーツを詰め合わせ 大人気ロールケーキ&クッキー&マカロン お味見セット【冷凍配送】(北海道・沖縄別途送料800円) 【送料無料】価格:2,600円(税込、送料込)
December 21, 2015
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みなさん、こんばんは。翻訳家の金原瑞人さんが、『BOOKMARK』という小冊子を創刊しました。その第一号では「最強の17冊」が選ばれ、それぞれ訳者が推薦文を書いていました。この本もその中にとりあげられたのです。ビリー・ジョーの大地Out of the Dust カレン・ヘスごつんごつん!ぱしぱし! ああ、わかったから!そんなにものを投げないでよ!思わずそう言いたくなるような文章。改行が多く、言葉もぶっきらぼうで、同じ著者の「イルカの歌」とは大違い。でも、絶えず土嵐の舞うオクラホマの農場で育つ14才の少女ビリー・ジョーとその家族は、そんな風に、ぶっきらぼうに話していたのかもしれない。どんなに掃除しても床には砂や小石が入り込む。食べ物に入ることだってある。そんな中で暮らせば、気持ちもささくれだってゆくのかもしれない。 そんなビリー・ジョーのオアシスはピアノ。そして、お母さんにもまた、ピアノは特別なもののようだ。おそらく彼女はここから遠いどこか-食事の時にちゃんとナプキンにフォークを包んで出す所-から嫁ぐ時、ピアノを持ってきた。今の暮らしの中で、ピアノを弾く時、遠い故郷と昔-過去-を思い出していたのではないだろうか。映画「ピアノ・レッスン」のヒロイン、エイダのように。 ビリー・ジョーにとっては、ピアノは現実であり、未来に続くパスポート。クラブでソロを弾いてくれないかと頼まれ、評判になり、金ももらえる。「このまま順調にいけば、私も行けるかもしれない。みんなが行くカリフォルニアへ。」ビリー・ジョーは、翼を得て、今にも大地を飛び立ちそうだ。 大恐慌時代。映画「怒りの葡萄」で描かれたように、農業にとっても受難の時代だ。土嵐で小麦の収穫に失敗しかあさんは転換を進めるが、とうさんは頑として応じない。とうさんもまた、小麦という未来にこだわる。3人の中で唯一現実を抱えていたのが、妊娠していたかあさん。他の二人を、踏ん張って支えていたかあさんは、大地のような存在だ。 だからなのだ。支えを失った二人が、後半迷走してしまうのは。父は酒に逃げ、ビリー・ジョーはピアノに向かう事をためらう。ごつんごつん!ぱしぱし! 飛べなくなった二人に、土嵐はもろに吹きつける。土嵐から逃げるか、自ら大地となって踏ん張るか。さて、どうしたと思いますか? ヒントを一つ。手に怪我をして、ピアノから遠ざかるビリー・ジョーにはこんなアドバイスをもらいます。「使えば使うだけ、治りも早いんだよ。」今度もし、あなたの人生に、土嵐が吹いて来た時、この言葉をつぶやいて見てくださいね。なお、この作品は、翻訳者金原瑞人さん発行のBOOKMARK創刊号で「最強の17冊」に選ばれました。ビリー・ジョーの大地ぐるぐる王国DS 楽天市場店
November 21, 2015
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みなさん、こんばんは。パリのテロ事件の余波は続きますね。さて、こちらはナチスドイツ時代の少年が主人公のYA小説です。YA小説といっても軽い内容ではありません。縞模様のパジャマの少年The Boy in the Striped Pyjamasジョン・ボイン/作 千葉茂樹/訳なぜ、このタイトルなのだろう?と思った。「ふたりの少年」でも「戦場の子供たち」でもなく。そもそも、主人公であるドイツ人の少年ブルーノは、縞模様のパジャマ-もちろんパジャマなどではないが-を着て暮らしていないのに。だが、読み終えて、やはりこの作品には、このタイトルでなければならないのだと思った。 みなまで語ることは控えよう。なにしろ、この作品は、肝心なところの描写がことごとく省かれている。例えば、ユダヤ人の少年シェムエルが、食事をこっそり食べているのをドイツ人の少年兵に見つけられた時。ユダヤ人の元医師が、食堂でワインをうっかりこぼしてしまった時。読者の想像力に委ねるためだろうか、それとも、第二次戦下で、そのようなことが起こった時に、ユダヤ人がどういった扱いを受けるのか、戦後生まれの我々でさえ想像がつくからだろうか。 だが、物語では、たった一度だけ、想像がつかないアクシデントが起こる。ブルーノにさえ、想像もできなかった。だが、やはり、そのアクシデントの後に何が起こったかは描かれない。そしてたった一度のアクシデントが我々に伝えるのは、ここに描かれた出来事は、決して他人事ではないということだ。物語の結びの言葉も、それを反映していると思われる。 さて、この作品はマーク=ハーマン監督によって映画化されたそうだ。この作品が多くの人の目に触れる機会があることを願ってやまない。【中古】DVD▼縞模様のパジャマの少年▽レンタル落ち
November 17, 2015
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