2026.09.07
XML
カテゴリ: AI小説



今日も寒いよ。
天気悪いとこんな感じなのか。
ストーブつけようか迷ってる。

今日は何の日

白露
CMソングの日
クリーナーの日
絶滅危惧種の日
97の日

タフグミの日
ポメラニアン ありがとうの日
生パスタの日
Doleバナ活の日
鏡花忌
英治忌
歯ヂカラ探究月間

タイトル『冷めた膳』

奈良県と三重県の境にある旧・葛守村には、地図から消えたあとも、一軒だけ灯りの点く家があるという。
村が廃止されたのは十二年前。
最後の住民だった老女が麓の施設へ移り、送電も止められた。それなのに毎年九月七日の夕方になると、山腹の小さな祠に提灯が灯る。
そして翌朝、祠の前に空の椀が置かれている。

決まりは三つ。
膳を運ぶのは女であること。
山道で名を呼ばれても振り返らないこと。
そして祠の前で、必ずこう言うこと。
「冷めておりますので、お口には合いますまい」

ただ、村の古い記録には、客膳を怠った年について一行だけ残されていた。
――その秋、村から四十三人がいなくなった。

久世透が葛守村を訪れたのは、九月七日の昼過ぎだった。
苔に埋もれた石段を上ると、杉林の中に黒ずんだ祠が見えた。軒には朽ちた絵馬と紙垂が垂れ下がり、その奥の木立には、角のある鬼面が掛けられている。
面は祠ではなく、村のほうを向いていた。
「魔除けなら、向きが逆だ」
久世は写真を撮った。
通常、鬼や疫病を防ぐ面は、外から村へ入るものを睨むように置かれる。だが、この面は山から村を監視しているようだった。
祠の中には、最近置かれたらしい青竹の箸が一本。そして壁に、無数の縦線が刻まれていた。
五本ずつ束ねられた線を数える。
百八十三。

そのとき、下の道から草履の音が聞こえた。
現れたのは、古びた着物を着た若い女だった。
三十歳ほどに見える。長い髪は雨に濡れ、顔は青白い。両手で木の膳を抱え、その上には炊き込み飯と汁物、山菜、そして一束のススキが載っていた。
「観光の人ですか」
女が尋ねた。
「民俗学をやっています。久世といいます」
「そうですか。なら、日が暮れる前に帰ってください」
「客膳を運ぶんですね」
女の足が止まった。
「誰に聞きました?」
「村の記録です。ただ、もう住民はいないはずですが」
女は答えず、祠へ歩きだした。
久世も後を追った。
「なぜ“冷めている”と言わなければならないんです?」
「温かいと言うと、客が家までついてくるからです」
「では、冷めていれば?」
「ここで食べて、お帰りになります」
「何が?」
女はしばらく黙っていた。
やがて、山道の奥を見ながら言った。
「昔、この山に鬼がいたそうです」

飢饉の年だった。
山から下りてきた鬼は、村人の家を一軒ずつ訪ね、食べ物を求めた。村人たちは戸を閉ざしたが、一人の娘だけが冷えた粥を差し出した。
鬼は粥を食べると、娘に尋ねた。
――これは、おまえの分ではないのか。
娘は答えた。
――村には、私より空腹な者がおります。

翌朝、鬼も娘も消えていた。
その年、葛守村では餓死者が一人も出なかった。
以来、村では毎年、女が一人で膳を運んだ。
「よくある供犠譚ですね」
久世が言うと、女は寂しそうに笑った。
「あなたたちは、すぐそう言います。娘が鬼に食われた話だと」
「違うんですか?」
「違います」
女は祠の前に膳を置いた。
そして深く頭を下げた。
「冷めておりますので、お口には合いますまい」
杉林の奥で、ぱきりと枝が折れた。
木立に掛けられていた鬼面が揺れた。
風はなかった。
「戻りましょう」
女は祠に背を向けた。
二人で石段を下り始める。

しばらくすると、背後から声がした。
「トオル」
久世は足を止めた。
それは、八年前に亡くなった母の声だった。
幼いころ、熱を出した自分を呼ぶときの、少し掠れた声。
「振り返らないで」
女が囁いた。
再び声がした。
「透、ごはんよ」
久世の首が動きかけた瞬間、女が強く手を握った。
驚くほど冷たい手だった。
二人は振り返らず、石段を下りきった。
麓まで来たところで、久世は尋ねた。
「あなたは、最後の住民の親族ですか」
「いいえ」
「では、なぜ儀式を?」
「誰かが続けなければなりませんから」
「名前を教えてください」
女は少し考えた。
「葛守ミネです」
久世は手帳を開いた。
昼間、旧村役場で住民台帳を撮影していた。その中に「葛守」という姓があったはずだ。
記憶をたどり、写真を拡大する。
葛守ミネ。
生年月日は昭和九年。
そして備考欄には、こう記されていた。

〈昭和二十八年九月七日 山中にて失踪〉

久世が顔を上げると、女はもういなかった。
ただ、濡れた石の上に、小さな草履の跡が二つ残っていた。

翌朝、久世は祠へ戻った。
膳は空になっていた。
箸は使われていない。
汁椀の底には黒い泥が溜まり、炊き込み飯だけが一粒も残っていなかった。
祠の壁を見ると、昨日まで百八十三本だった縦線が、一本増えていた。
久世はようやく気づいた。
あれは儀式を行った回数ではない。
娘が救った人数でもない。
山へ連れていかれた者の数だ。
だが、それなら妙だった。
昨夜、振り返った者はいない。
久世は撮影した住民台帳をもう一度開いた。
葛守ミネの名前の下に、見覚えのない一行が増えていた。

〈令和八年九月七日 帰村〉

その横には、さらに小さな文字があった。

〈同行者 久世透〉

背後で、石を踏む音がした。
振り返ると、鬼面をつけた者が立っていた。
その手には、昨夜の空の膳がある。
「食事は、どうでしたか」
久世が尋ねた。
鬼はゆっくり面を外した。
現れたのは、葛守ミネの顔だった。
ただし昨日とは違い、八十を越えた老女の顔だった。
「冷めておりました」
老女は答えた。
「だから、家まで迎えに来たのです」
久世が麓を見下ろすと、廃屋だったはずの家々すべてに、灯りがともっていた。
戸口には村人たちが立っている。
子供も、老人も、赤ん坊を抱いた母親もいる。
全員、昭和二十八年に消えた四十三人だった。
老女は久世へ膳を差し出した。
椀の中には、湯気を立てる炊き込み飯が盛られていた。
「葛守村では、温かい食事を出された客は、もう客ではありません」
「では、何になるんです」
老女は笑った。
「村人です」
久世は背後の祠を見た。
壁の線は百八十四本。
しかし、そのうち最も新しい一本だけが、内側から刻まれていた。

おわり







お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2026.09.07 18:51:56
コメントを書く


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

コメント新着

☆りん @ Re[1]:地図係は、だいたい合ってる(04/07) 蝶野正洋さんへ ガセですね。 もうすぐ5…
蝶野正洋@ Re:地図係は、だいたい合ってる(04/07) 配信で言われてた「君のお腹の痛い夜は僕…
ひつじさん@ Re:「白犬ポチの時給900円」(02/15) ひつじさんについては、 0896240183 をど…
楽ちん快適@ Re:『ガンバレ!菌』(02/11) 楽ちん快適の知りたいことは、0896244450…
アイヌモシリ@ Re:「投票日の奇跡」(02/08) アイヌモシリについては、 0896240183 を…

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: