2026.09.11
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カテゴリ: AI小説



今日は朝から出かけて、回転寿司を食べて帰ってきた。
帰りは高速が途中から通行止めになって余計に疲れた。
もう眠い。

今日は何の日

二百二十日
警察相談の日
公衆電話の日
愛国者の日
たんぱく質の日

めんの日
ダブルソフトの日
おかあちゃん同盟の日
歯ヂカラ探究月間

タイトル『返事を埋める村』

久世透がその集落へ着いたとき、雨は降っていなかった。
ただ、山全体が濡れていた。
杉の幹も、苔むした石垣も、黒い瓦も、谷底から湧き上がる霧に舐められ、さっきまで水の中に沈んでいたような光を帯びている。
集落の名は、応戸村――オウドムラ。
住民は十五人。来春には最後の三世帯も町へ移り、地図から消える予定だという。
久世がここへ来たのは、村に残る奇妙な風習を調べるためだった。
村外れに、黄色く錆びた公衆電話ボックスがある。

そして、誰かと話す。
通話が終わると、村人たちは電話ボックスの脇に小さな穴を掘り、藁で作った人形を埋める。
その行事を、村では「返事埋め」と呼んでいた。
なぜそんなことをするのか。
村人に尋ねても、皆、同じことしか言わなかった。

意味は誰も知らなかった。

*

翌朝、久世が電話ボックスへ向かうと、すでに老婆が待っていた。
名を志乃という。紺の野良着を着て、藁人形を帯に差している。
傍らには駐在所の若い巡査がいた。久世を見つけると、困った顔で頭を下げた。
「先生からも言ってくださいよ。危ないから、もうやめろって。去年なんか、電話の最中に倒れたんです」
「電話は鳴るんですか」
久世が尋ねると、志乃は山を見たまま答えた。
「鳴りゃせんよ。こっちから掛けるんだ」
「どこへ?」
「向こうへ」
老婆はボックスへ入り、受話器を持ち上げた。
回線の切れた電話なのだから、何も聞こえないはずだった。
しかし受話器から、かすかな音が漏れた。
ザーッ、ザーッ。
遠い波のような雑音。
その奥で、誰かが歩いている。濡れた草を踏む、ゆっくりした足音だ。
志乃が言った。
「もしもし。志乃です。今年も皆、息災です」
しばらく耳を澄まし、うなずく。
「はい。源蔵は去年、そちらへ。……ええ、迷わず着いたなら何よりです」
巡査の顔から血の気が引いた。
源蔵というのは、前年に亡くなった村人だった。
「新しく来た人もおります。物書きの先生で、久世透さんと申します」
久世は思わずボックスを見た。
雑音が止んだ。
次の瞬間、受話器の奥から、はっきりと女の声がした。

――久世さん。

自分の名を呼ばれた。

――迎えは、いつがよろしいですか。

志乃は黙っていた。
返事をしない。
代わりに帯から藁人形を抜くと、その口元へ受話器を押し当てた。
人形の腹がわずかに膨らんだ。
まるで息を吸い込んだようだった。
受話器の向こうで、女がもう一度尋ねる。

――迎えは、いつがよろしいですか。

すると藁人形の口から、久世自身の声が出た。
「今夜でお願いします」
久世は反射的に人形を奪った。
「今のは何です」
志乃は急いで受話器を戻し、久世の手から人形を取り返した。
「だから、返事を残しちゃならんのです。山に埋めて、土に忘れてもらわにゃ」
「誰からの電話なんです」
「電話じゃない」
志乃は霧の向こうを見た。
「これは、山の耳だ」

*

応戸村には古くから「応声さま」という山神の伝承があった。
人の声を真似る神で、遭難した者の名を家族の声で呼ぶという。
呼ばれた者が返事をすると、応声さまはその声を覚える。
声を覚えられた者は、いずれ山へ連れていかれる。
昔は山中に「耳穴」と呼ばれる洞窟があり、そこへ藁人形を埋めて返事を身代わりにした。しかし昭和の終わり、林道工事で洞窟が塞がれた。
同じ頃、村に公衆電話が設置された。
最初の霧の朝、誰も掛けていない電話が鳴った。
村人が受話器を取ると、土の下から行方不明者たちの声が聞こえたという。
以来、耳穴の代わりに電話ボックスが使われるようになった。
「では回線が切れても続けていたのは――」
「線なんぞ、最初から山には要らんかったんでしょうな」
その日の夕方、志乃は藁人形を電話ボックスの裏へ埋めた。
これで終わったはずだった。

*

深夜、久世は呼び声で目を覚ました。
「透」
亡くなった母の声だった。
民宿の外から聞こえる。
「透、迎えに来たよ」
久世は返事をせず、窓の隙間から外を見た。
霧の中に、母が立っていた。
記憶にある最後の姿より若い。笑っている。だが口の動きと声が、ほんのわずかにずれていた。
「透」
母の背後に、何十人もの人影が現れた。
村の墓に刻まれていた名の者たちだろう。皆、顔の代わりに暗い穴を開けている。
その中に、一人だけ制服姿の男がいた。
昼間の若い巡査だった。
久世は息をのんだ。
隣の部屋へ駆け込み、巡査を起こそうとした。
布団は空だった。
枕元に警察手帳だけが残されている。
開いてみると、顔写真が剥がれ落ちた。
名前の欄も白紙になっていた。
外では母の声が繰り返している。
「迎えは今夜でいいんでしょう?」
久世はそこで気づいた。
藁人形に返事をさせても、山は騙されてなどいない。
むしろ逆だった。
藁人形に声を吸わせて埋めることで、山はその人間の声を手に入れるのだ。
「返事埋め」とは身代わりの儀式ではない。
山が次に呼ぶ声を、村人が献上する儀式だった。
では、なぜ村人たちはそんなことを続けてきたのか。

翌朝、久世が問い詰めると、志乃はあっさり答えた。
「山に声を渡さにゃ、山が下りてくるからです」
「誰か一人を差し出して、村全体を守ってきた?」
「いいや」
志乃は首を振った。
「村を守ったことなんぞ、一度もない」
彼女は公衆電話の中に貼られた、色褪せた住宅地図を指した。
地図には、今は存在しない家々がびっしり描かれていた。商店、分校、診療所、映画館。応戸村にはかつて千人近い住民がいたらしい。
「応声さまは、人を攫う神様じゃない。人が出ていくたび、その人の声を村に残してくださる神様なんです」
志乃は受話器を取った。
雑音の向こうから、子供の笑い声、鍬を振る音、祭囃子、夕飯を呼ぶ母親の声が聞こえた。
滅びた村の日常が、山の中で今も続いている。
「村が消えても、声さえ残れば、いつか誰かがここを見つける」
老婆は久世を見て笑った。
「先生のように」

そのとき、若い巡査が自転車でやって来た。
「久世さん、捜しましたよ。昨日からどこにいたんです?」
久世は言葉を失った。
「昨夜、一緒に民宿に泊まったでしょう」
「何を言ってるんです。私、昨日は休みでしたよ」
巡査は怪訝そうに警察手帳を見せた。
そこには昨夜拾った手帳と同じ顔写真、同じ名前があった。
久世が志乃を振り返ると、老婆はもういなかった。
村人に尋ねても、志乃という老婆など知らないという。
電話ボックスの予定表には、古い新聞の切り抜きが挟まっていた。

《昭和六十三年、土砂崩れにより応戸村の志乃婆さん行方不明》

写真の老婆は、先ほどまで話していた志乃だった。

その日、久世は村を離れた。
原稿を書き上げたのは一週間後である。
題名を『返事を埋める村』とした。
だが出版社へ送る直前、取材音声を確認していて奇妙なことに気づいた。
録音されているのは、久世の質問だけだった。
志乃の声も、巡査の声も入っていない。
代わりに、質問の合間ごとに土を掘る音がする。
最後には、久世自身の声が、受話器の向こうからこう尋ねていた。

――次に村を見つけてくださるのは、どなたですか。

パソコンの画面には、久世が書いた覚えのない一文が加わっていた。
この話を最後まで読んだ方は、もう応戸村を見つけています。
そして山の公衆電話が、二十年ぶりに鳴った。

おわり







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最終更新日  2026.09.11 18:59:36
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