2026.09.10
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カテゴリ: AI小説



今日はちょっと涼しい。
そして眠い。
昼寝しようかと思ったが、作業をしててできなかった。

今日は何の日

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サガミ満天そばの日
キャッシュレスの日
みどり女忌
金毘羅の縁日
歯ヂカラ探究月間

タイトル『猫絵馬の片草履』

民俗学者の久世透が宮守県の伏木村を訪れたのは、県史の片隅に奇妙な記述を見つけたからだった。

山中ニテ片履ヲ見ルモ、決シテ揃ヘルベカラズ。
猫、両足ヲ得レバ里ヘ下ル。

伏木村は二十年前に廃村になっている。
かつて村人は、誰かが山で行方不明になると、猫を描いた絵馬を「御影堂」という小さな社に奉納した。遭難者の無事を祈るものではない。
山から戻ってきた者が、本当に本人であるかを見分けるためだったという。
だが、肝心の見分け方はどの記録にも残っていなかった。
林道の終点から一時間ほど登ると、杉林の奥に苔むした社が現れた。
軒下には猫の絵馬が並んでいた。
どれも絵柄が妙だった。胴体は猫なのに、目だけが人間そっくりなのである。笑っている猫、泣いている猫、こちらを睨む猫。板の裏には名前ではなく、「よく右肩を揉む」「味噌汁を冷まして飲む」「眠るとき歯を鳴らす」といった細かな癖が記されていた。

「顔は山も真似できますから」
不意に背後で女の声がした。
藍染めの着物をまとい、眼鏡をかけた若い女が立っていた。手には白い団扇と、錆びた金具の小箱を提げている。
「でも癖までは、うまく真似できない」
女は篠宮梓と名乗った。
廃村になった後も、ときどき堂の手入れに来ているという。
「昔、この山には猫神がいたという話ですか」
久世が尋ねると、梓は少し考えた。
「猫神ではありません。村人は便宜上、猫と呼んでいただけです」
「では、何です」
「人を見て、人を覚えるものです」
梓はそれ以上答えず、社の奥へ入っていった。
久世も続こうとしたとき、泥の上に古い草履が落ちていることに気づいた。鼻緒にはまだ湿った赤土がついている。
片方しかない。
久世は何気なく拾い上げ、縁側の端へ置いた。
その瞬間、絵馬が一斉に揺れた。
風は吹いていなかった。

社の中には御神体の代わりに、大きな姿見が安置されていた。鏡面は黒く曇り、久世も梓も映らない。
ただ、二人の背後にある杉林だけが映っている。
「昔、山から帰ってきた人には、家の戸を開ける前に片方の履物を脱がせました」
梓が小箱を開いた。
中には、爪、乳歯、髪留め、欠けた煙管などが、紙に包まれて収められていた。
「家族は絵馬の裏を読み上げながら、帰還者の癖を確かめた。ひとつでも違えば、その人は家へ入れてもらえなかった」
「追い返したんですか」
「いいえ。履物を片方だけ返したんです」
「なぜ」
「山のものは、人間の姿を真似ても歩き方が少しおかしい。片方の履物では、それを隠せないからです」
鏡の中で、杉の陰から誰かが現れた。
白い顔の男だった。
久世と同じ背丈、同じ上着、同じ眼鏡をかけている。
男は鏡の向こうから久世を見ていた。やがて首を傾けた。久世が右へ傾けると、わずかに遅れて同じ方向へ傾ける。
鏡像ではない。
久世を見ながら、その動作を覚えているのだ。
「私は七年前、この山で弟を失いました」
梓は淡々と言った。
「三日後、弟は帰ってきました。でも姉の私を『母さん』と呼んだ。だから家には入れなかった」
「それが、あの中に?」
梓は答えなかった。
鏡の中の久世が、一歩近づいた。
その右足は裸足だった。
左足には、先ほど久世が拾ったものと同じ草履を履いていた。
久世は縁側へ走った。
置いたはずの草履が消えている。
「僕が拾ったからですか」
「山で片方の履物を見つけても、決してもう片方のそばへ置いてはいけない」
「そんなこと、記録には——」
「書けば、試す人が出るでしょう」
背後で、鏡が水面のように揺れた。
久世に似たものが片足をこちら側へ踏み出した。だが左右の草履が揃った途端、その歩き方は久世と見分けがつかなくなった。
梓は白い団扇を広げると、鏡の前へ投げた。
描かれていたのは猫だった。
いや、猫ではない。長い手足を折り畳み、猫の形に見せかけた黒い何かだった。
鏡の中の男が団扇へ飛びついた。
梓は久世の腕をつかみ、社の外へ走った。
二人は何度も転びながら山道を下った。背後から草履の音がついてきたが、梓は決して振り返らなかった。

林道に停めた久世の車へたどり着いたころには、夕闇が迫っていた。
「これで助かったんですか」
久世が尋ねた。
梓は息を整えながらうなずいた。
「両足を得たものは、最初に真似た人間を追います。ですが山を出る前に、もっとよく似た人を見つければ、そちらについていく」
「もっとよく似た人?」
梓は眼鏡を外した。
その下にあったのは、年若い女の目ではなかった。
絵馬に描かれていた、あの妙に人間じみた猫の目だった。
「山は顔しか真似できません。私たちは、癖を真似ます」
久世が車の鍵を取り出すより早く、梓は運転席へ乗り込んだ。
エンジンは一度でかかった。
久世の車には癖があり、始動するときだけアクセルを二度、浅く踏まなければならない。
梓はそれを知っていた。
車は久世を残し、林道を下っていった。
遠ざかるテールランプを見つめながら、久世はようやく絵馬の役目を理解した。
あれは山から帰った人間を見分けるためのものではない。
山のものに、人間の癖を教えるための教本だったのだ。

翌朝、麓の駐在所に保護された久世は、廃村の資料を見せてもらった。
伏木村最後の住民名簿に、篠宮梓という名はなかった。
ただし、廃村直前に撮影された集合写真の端に、彼女は写っていた。
その裏には、こう記されていた。

御影堂より下りてきた女。
人の履物を拾う癖あり。

久世は写真を伏せた。
そのとき、駐在所の外で車が止まった。
降りてきた女は久世と同じ眼鏡をかけ、久世と同じ仕草で右肩を揉んだ。
そして受付の警官に、こう名乗った。
「民俗学者の久世透です。山で、私によく似たものを見ませんでしたか」

おわり








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最終更新日  2026.09.10 18:51:43
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