イミドスのブログ
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<吉宗からの呼び出し>-----#343 この日、吉宗は朝起きて直ぐに側用人を呼び、午前の執務の中止を告げ、朝餉の後にお堂に籠った。 「龍一郎、多忙であろうに済まぬな」 お堂の中の吉宗の前に龍一郎が座っていた。 「何を申されます、何を置いても上様の願いが最優先で御座います」 「有難い言葉じゃ」 「して、此度は何用で御座いましょう」 「うむ、其方も存じておろうが、儂は倹約令を発布致した。その所為(せい)だけでは無かろうが、町場に活気が無い様に聞いておる、それが真であれば何か策はないものかと思うてな、知恵を貸してはくれまいか」 「上様は八卦見で御座いますか、私もその事を考えており、幾つか思い立ちまして御座います」 「おぉ、儂は八卦見では無いが案があるならば教えてくれ」 「はい、上様のご先祖・四代将軍・家綱公がお植えになられた墨堤の桜を増やし花見の名所になさっては如何で御座いましょう。 年に一度か二度、花火を打ち上げては如何で御座いましょう。 外国から珍奇な生き物を取り寄せ見世物にしては如何で御座いましょう。 江戸の名物は火事と喧嘩と申します、火事を防ぐ事は皆の行いを改めるしか御座いませぬが、延焼を防ぐ方法は御座います、一つは広場を幾つも作る事、これにより延焼が少なく出来ます。 一つに定火消しの様な組を増やす事で御座います、江戸に屋敷を持つ大名に火消しの組を持たせるので御座います、また、町人にも江戸の地域ごとに火消しの組を作らせるので御座います、如何で御座いましょう」 「うむ、墨堤と申したか、処は何処か」 「上流は隅田川と呼ばれております、大川の向こう、墨田村の辺りで御座います。 名刹としては長命寺と言う寺社が人の足を集めて御座います。 これも上様のご先祖・三代将軍・家光公が鷹狩りおりに腹痛を起こした際に、ここの井戸水で薬を飲み痛みが治まりましたので、この井戸水が長命水と呼ばれ、寺の名も常泉寺(じょうせんじ)から長命寺に変えたそうで御座います。 病気平癒や健康長寿にご利益があるとされて御座います。 それに隅田川の土手道は治水の為で御座いますが、まだまだ地が固まってはおりませぬ、桜を見に来た人々が歩き、地を固めることも願っては如何で御座いましょう」 「おぉ、それは、それは、我ご先祖様がなぁ、其方は合いも変わらず物知りじゃのぉ。良し、儂がご先祖様に負けぬ桜の名所にしてみせようぞ。花火と言うたが火災の元では無いか、如何致す」 「はぁ、大川に浮かべた船から打ち上げてはと思うております」 「うむ、儂は火災が安じられてならぬ、済まぬが花火は据え置きじゃ、火消しは直ぐにも大名に触書を出そうぞ。 手始めに十万石以上と致そう、まずは其方の父上に他藩の手本になって貰いたいものじゃのぉ」 「火消しともなれば五人、十人では役に立ちますまい。 十万石ともなれば上屋敷、中屋敷、下屋敷と御座いましょう。 前田家なれば蔵屋敷も御座いますれば屋敷毎に少なくとも二十人として八十人で御座います」 「そうじゃのぉ、其方の処が先陣を切って手本となれば他藩も真似るであろうでな」 「父上の立場も御座いますれば触書をお願い申します」 「解っておる、家臣の手前、儂からの触書が要るであろうでな、大名は触書で良いとしてじゃ、町屋は如何様にすれば良いかのぉ、知恵はあるか」 「はい、上様には正月の御年賀口上(おねんがこうじょう)と申しますか、御年始拝謁(おねんしはいえつ)で名はご存じでしょうが、三人の町年寄りに頭取を願うと言うのは如何でしょう、此れには忠相様のお力が御入用かと存じまする」 「町年寄りなぁ~、うむ、おぉ、一人確か奈良屋と言う者がおった様に思うがのぉ」 「はい、奈良屋の舘市右衛門殿、樽屋藤左衛門殿、喜多村彦右衛門殿で御座います、忠相殿によりお三方に願うのが宜しいかと存じまする」 「良し、決まりじゃ、忠相に伝える事に致そう、これで町火消しも解決じゃ、次は何であったかのぉ・・・おぉ、そうじゃ、外から珍奇な生き物を求める事であったな、其方にこれぞと言うものがあるかな」 「はい、唐を通じて天竺(てんじく)に住むと言う大きな生き物は如何でしょうか。 何でも高さが八尺五寸で御座いますそうな。 その生き物は「ぞう」と申し、ぞうの字は仏像のぞうの字の人偏が無いもので御座います。 なれど、字の成り立ちは逆で生き物の「ぞう」が先の様で御座います」 「何と、その様な生き物がこの世におるか、儂も見たいものじゃ」 「長崎奉行にお頼み下さい、雌雄の番い(つがい)が宜しいかと存じまする」 「おぉ、我が元で子を為すか」 「はい、目論見が上手く行きますれば」 「良し、早速、爺に言って手配して貰おう、これで少しは町人に活気がでれば良いがな」 「上様、もう一つ御座いました、上様が藩主のおりになされました、町人より願いの書状を受け取る仕組みをこの江戸でもなさっては如何でしょうか」 「おぉ、良う存じておるのぉ、忘れておった、訴えの箱を用意させようぞ。良い考えを幾つも済まぬな、其方の知恵とは言えぬが勘弁してくれ」 「その様な事はご懸念なさいますな、町人が暮らし易くなれば本望に御座いまする」 「お前と言う奴は・・・この席は、将軍の席は其方の方が似合いじゃのぉ、詮無い事じゃがな」 「お戯れを」 「戯れでは無い、儂は常々そう思うておる」 「父上への後押しはお任せ下さい、町屋の火消しの支度も前段階は出来ております」 「流石に其方の為す事に抜かりは無いのぉ、儂は十万石より上の諸大名へ触書を書く事、長崎奉行へ書状を出す事、町年寄りに書状を出す事、ふむ、他に何かあるかな」 「御座いませぬ、宜しくお願い申します」 「何を申す、願うのは儂の方じゃ、良しなに願う、今日の御堂の祈祷は多大なる実りあるものであった。 おぉ、忘れておった、飯も上手かったぞ、礼を申す、儂は其方が羨ましい、毎日暖かいものを食べ、毎日違う物を食べられてのぉ」 「そう申されされますな、これでなかなかに日々の生計(たつき)を手にするのは大変で御座います」 「そう申すな、これで将軍と言うものもなかなかに辛いものじゃ」 「お察し申し上げます、話が尽きませぬ、本日は此れにて失礼申します」 「行くか」 「はい、失礼申します」 龍一郎の姿がかき消えた。 「あ奴、ますます、人離れしおる、まるで天狗じゃ」 吉宗は独り言を漏らしながら御堂を出て直ぐに爺を呼び大名への触書を書く様に、長崎奉行への書状を出す様に、町年寄りにも書簡を出す様に命じ、出す前に確かめるとも念を押した。 <つづく>
2026.03.23
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