PR
Keyword Search
Freepage List
ネガティブ心理のもつポジティブパワーとして、悔しさの心理をあげることができる。
苦労の末に何かを成し遂げた人が、「あの時の悔しさをバネに頑張った」と言うことがあるが、悔しさというネガティブ感情がモチベーションの原動力になるのだ。
バスケットボールの天才的プレーヤーとして大活躍したマイケル・ジョーダンは、大学時代にレギュラーになれず悔しい思いをしたことを何度も噛みしめたという。
きつい練習に挫けそうになると、その悔しさのエピソードを思い出して自分を奮い立たせたそうだ。悔しさをバネにモチベーションを高めるということを、ごく自然にやっていたのである。
イチロー選手も、悔しさというネガティブ感情から目を背けずに、悔しさと向き合うことでモチベーションを上げてきた。
日米通算 4000 本安打という大記録を達成した瞬間、試合は一時中断され、一塁ベースを回ったイチローの周囲にチームメイトが駆け寄り、祝福の輪ができた。
「僕のためにゲームを止めて、時間を作ってくれる行為はとても想像できるわけがない。うれしすぎてやめてほしいと思った」(読売新聞 2013 年 8 月 23 日付朝刊)
このように喜びを表現したイチローだが、じつはそれまでいい思い出はほとんどないという。
「 4000 の安打を打つには、 8000 回以上は悔しい思いをしてきている。それと自分なりに向き合ってきた。誇れるとしたらそのことではないか」(同紙)と言って、失敗の記憶を大切にし、それと向き合うことでここまで来られたと種明かしをしている。
ただし、ネガティブ感情をバネに建設的な方向に頑張っていく人もいれば、ネガティブ感情に負けて開き直ったり人を恨んだりという非生産的な方向にいってしまう人もいる。ネガティブ感情をモチベーションにつなげるコツがあるのだ。
ポイントは「見返しの心理」と「中和の心理」だ。
マイケル・ジョーダンは、レギュラーになれなかったときの悔しさをエネルギー源として頑張ることができた。そこにあるのは、「なにくそ」「負けるものか」「絶対に這い上がってやる」といった「見返しの心理」である。
ここで注意しなければならないのは、見返しと仕返しの区別だ。「見返しの心理」は建設的な行動に向かわせるが、「仕返しの心理」は非生産的な行動にエネルギーを費やさせる。
たとえば、頑張っているのに上司から評価してもらえないというとき、
「こんなに頑張っているのに、全然認めてくれないなんて」
という気持ちが高じて、やがて「許せない」と恨みが募り、その上司の悪口を周囲に触れ回ったり、ネットに不満を書き込んだりするなら、そこにあるのは「仕返しの心理」である。そんなことにエネルギーを費やしても、ますますネガティブな感情が膨れあがるばかりで、何も良いことはない。
それに対して、「見返しの心理」によって動く人は、
「あの上司が無視できないように成果を出してやる」
というように、相手を恨むのではなく、自分を成長させるといった方向に自分自身を駆り立てることで状況を変えようとする。それによって上司がちゃんと評価してくれるようになるかどうかはわからないが、自分自身が力をつけていけるわけだから建設的な動きといえる。
一般に、「仕返しの心理」に陥りやすいのは、仕事そのものよりも人間関係が気になるタイプと言える。仕事で成果を出すことよりも、人からどう評価されるか、好意的にみられているかどうかが気になる。そのため、評価が思わしくないと自分の仕事ぶりを振り返るよりも、評価者を憎む。
一方、「見返しの心理」に駆り立てられるタイプは、待遇に対する不満や人間関係の葛藤も仕事面で成果を出したり力をつけたりすることで解決しようという思いが強い。ゆえに、評価者を恨むものではなく、自分自身の能力向上を目指す。
同じく「悔しさ」に端を発するネガティブな心理であっても、「見返しの心理」と「仕返しの心理」が決定的に異なる方向に人を駆り立てることがわかるだろう。
イチローのエピソードからわかるのは、ネガティブ心理を意識しないようにして心の中から排除するのではなく、ネガティブ心理を意識しつつ、ポジティブな経験によってそれを中和しようとすることが向上をもたらすということである。
野球では、首位打者でさえ 3 割台なのだから、嬉しい思いをするよりも悔しい思いをすることの方が圧倒的に多い。その悔しさから目を逸らすのではなく、その悔しさを絶えず意識しつつ、何とか悔しい思いを少しでもポジティブな方向に中和させようと技術向上に燃えたり打席で集中力を高めたりする。
そのようにネガティブ感情を中和しようという動きが、悔しさをバネにして成長することにつながっていく。
いずれにしても、ネガティブ感情は決して排除すべきものではないことがわかるはずだ。
【ネガティブ思考力】榎本博明著/幻冬舎
自分の「好き」「嫌い」を大切にする August 23, 2025
心を折っているのは、じつは自分だった? August 19, 2025
ずるい攻撃から身を守る May 9, 2025
Calendar
Comments