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精神科医 伊佐 文子
高齢化が進む中、脳血管障害や認知症など、神経内科領域の疾患が、よく見られるようになっていきました。私たちの日々の動作は全て、悩、脊髄、神経等がしっかりしていないと、普段のようにはできなくなります。患者さんから、こうした身体の不調やしびれなどの訴えを聞いて、神経学を踏まえた診察をして、疾患を特定するのが神経内科です。
神経疾患の中で生活習慣病といえば、の脳血管障害が第一に挙げられます。その危険因子となるのは、高血圧、糖尿病、脂質異常症、心疾患、肥満、多血症、喫煙、飲酒などです。
私は多数の脳血管障害の患者さんと接してきましたが、これらの危険因子を多く持てば持つほど、脳血管障害が起こりやすくなります。
よい生活習慣は、喫煙をしない、飲酒はほどほどにする、毎日朝食を食べる、適度の睡眠をとる、適度に労働をする、週 1 回以上の運動をする、栄養を考えた食事をとる、自覚的アウトレスを少なくする、塩分を控えめにする、規則的な生活を送る、趣味を持つなどです。
こうした生活習慣を心掛け、脳血管障害の危険因子を一つ一つ減らすことが予防になります。
心と体は密接に関係
病気全般に通ずることですが、一例として脳血管障害が起こった場合、人間は強いストレスを受けます。人間は、強いストレスを受けると、その反応で体内の血流が通常の 3 倍にも急増し、高血圧などの異変を起こすとされています。しかし、これでは悪循環となり、病状を悪化させかねません。心と体は、やはり密接に関係しているのです。
日蓮大聖人は、病気を患う女性門下に、どうして病が癒えず、寿命が延びないことがあろうかと強い思いをもって、御身を大切にし、心の中であれこれ嘆かないことですと励まされています(御書 975 頁)。
病状は病状として正確に知る必要があります。しかし、この仰せからも明らかなように、決して嘆いたり悲観したりせず、病気を前向きに捉えていくことも、病気と戦う上で大切なことです。
ここで、心と体の相互作用の悪循環を断ち切る人体のメカニズムとして、「リラックス反応」を挙げることができます。
心身には、ストレスがない状態の時、疲労を回復させるために休息をし、新たなエネルギーを取り入れる仕組みがあります。これが、リラックス反応です。
リラックス反応は、深呼吸などによって、一層、増大するといわれています。こうしたことも、病気への予防・対処の観点の一つでしょう。
今まで見てきたように、心の安定、健康は、肉体にも大きな影響を及ぼします。
また、脳梗塞や脳血管障害を患った場合の予防についての、心がどういう状態にあるかが、回復を左右します。例えば、リハビリテーションの際、病気を隠さずに“自分”を表に出して、人の中に入っていくことが回復を早める場合があるのです。
社会への参加が高める“満足度”
さらに、患者さんが、どういう“環境”にいるかも、広い意味での健康の大きな要素です。
以前、ある患者さんたちの生活満足度と睡眠の関係について、調査したことがあります。結果は、生活の不満度と、眠れないという“不眠度”が比例するというものでした。
また、同じ調査で、生活の満足度は、その社会参加の度合いと比例していました。
ということは、能動的な社会参加が、生活の質を向上させ、ひいては“健康でいられる寿命”を延ばす要因となる可能性があると考えられるのです。
現在、最も注目されている疾患に認知症があります。代表的な認知症としてアルツハイマー病がありますが、糖尿病を患っている場合、通常の 2 倍の確率で発症するとのデータがあります。アルツハイマー病の予防としては、生活習慣病の改善が大切です。
医学的には、脳の機能が部分的に失われているのがアルツハイマー病ですが、それが原因で家族が最も困る症状に、幻視・幻聴、妄想、徘徊があります。
例えば、自らのものを盗まれたと妄想する症状のある場合があります。実際は患者自身が、置いたこと自体を忘れていることによるのですが、一方的に叱るのではなく、相手に寄り添いながら一緒に探してみることも必要です。
一個の人格とて患者に向き合う
認知症も、相手の合わせた対応が求められます。誰かに愛されたい、誰かと一緒にいたいという欲求は、人間の基本的な精神的欲求だからです。
心身の関係の上からも、アルツハイマー病の患者さんが、よりよう老いを過ごせるように、その心が満たされることが重要です。家族、周囲から、患者が一個の人格として認められる必要があるいうことです。
現代医学は、ともすると、病気が重く、苦しんでいる状態のままでも、単に寿命を延ばそうとする傾向があります。もちろん、寿命を延ばすことが悪いということではありません。
これに対し、仏法は、人間の内側に秘められた「生命力」を涌現させるものであり、豊かな生命力で健康と長寿を実現することを目指します。
池田 SGI 会長は、「高齢化が進む現代にあっては、ただ寿命を延ばすということより、いかにして心身ともの、健康を回復し、有意義に生きていくかが、重要な課題」と指摘しています。
日蓮大聖人は「年は・わかうなり」(御書 1135 頁)と仰せになり、年齢を重ねても、ますますの生命力で人生を歩んでいけることを教えられています。
何歳になっても、自他共の幸福を願い、前向きに生きていこうとする人は、人生の年輪を重ねても、若々しく、はつらつと生きていくことができます。このことは、私の身内も含め、数多くの患者さんを診てきた実感の上からいえることです。
高齢者は、家族、周囲の支えも必要ですが、生き方次第で老いの人生をさらに有意義なものにできるのです。
いさ・ふみこ 神経内科専門医。医学博士。神戸大学医学部付属医院、東京都立神経病院、都立北療育医療センターに勤務した後、内科クリニックを開院。 1967 年(昭和 42 年)入会。婦人部副本部長。東京女性ドクター部長、北総区ドクター部長。
【紙上セミナー「生活に生きる仏教」】聖教新聞 2016.7.26
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