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帝塚山大学 現代生活部教授 稲熊 隆博
年齢を重ねると、とりわけ気に掛かるのが健康です。「健康のために野菜を摂取しなければ……」と多くの人は考えます。ここでは、野菜のとり方を含め、野菜の健康への寄与について述べたいと思います。
日本は男女の平均寿命が 80 歳を超え、 65 歳以上の人口が 25 %以上を占める、超高齢社会になっています。高齢者の元気が、社会の元気につながるといっても過言ではありません。ただし、統計上、男性は亡くなるまでの 9 年、女性では約 12 年、誰かの手助けを必要とします。
尊い人生を全うするために、生きて、生き抜くことが大切です。健康・長寿のために自ら努力していく必要があるでしょう。
「抗酸化力」が病気や老化を防ぐ
厚生労働省が策定した、国民の健康づくりの指標となる「健康日本 21 」では、野菜を 1 日 350 グラム以上(うち、緑黄色野菜を 120 グラム以上)摂取することを目標に掲げています。ただ、これまで達成したことがありません。では、なぜ野菜を取らないといけないのでしょうか。
ご存知のように、野菜はビタミンやミネラル、植物繊維など、健康・長寿に有益な成分を含んでいます。英語で野菜を「ベジタブル」といいますが、“ベジタ”には「人を元気にする」という意味があります。
また、日本人の摂取品目で、ビタミンやミネラル、食物繊維の供給源といえば、野菜です。私たちが健康であり続け、長生きを望むなら、野菜を“摂取した方がいい”のではなく、“摂取しなければならない”のです。
さらに最近の研究で、野菜の色が健康・長寿に寄与していることが分かってきました。
野菜の色とは、トマトの赤色(リコピン)やニンジンの橙色(β-カロテン)、赤ピーマン(カプサンチン)などのことです。
人は、 1 日 500 リットルの酸素を体内で消化しますが、そのうち 2 %程度が活性酸素に変わります。
活性酸素は、“いたずら酸素”と呼ばれ、内臓や遺伝子を傷つけることから、老化やさまざまな病気に関係しています。健康・長寿のためには、この活性酸素を消去することが重要です。
活性酸素を消去する力のことを「抗酸化力」といいますが、野菜の色には、その力が高いのです。
例えば、抗酸化力持つ代表的なビタミンとして、ビタミン E があります。同じ分量で比較をした場合、トマトのリコピンはビタミンの 100 倍以上、ニンジンのβ―カロテンや赤ピーマンのカプサンチンで 80 倍くらいの力があります。高齢者の方は、健康・長寿のために、「もっと野菜を」取っていただければと思います。
“野菜嫌い”の少年少女のために
野菜の取り方といえば、生野菜のサラダが主流です。みずみずしいシャキシャキとした食感は、それだけで元気にする気がします。
ただ、野菜から栄養素をどれだけ摂取できるか。この観点からすると、果たして生が最もいいのでしょうか。
野菜を含め植物の細胞壁は、セルロースでできています。だから、硬くて頑丈です。ところが、人間は、セルロースを分解する酵素を持っていませんし、最近は十分にかまなくなっています。
結局、生では野菜の細胞を壊しにくいのです。ということは、野菜から栄養素を取るには細胞を壊さなくてはなりません。それが調理です。
ちなみに、フランス人に野菜の食感を聞くと、“ドロドロ”という答えが返ってくるそうです。代表料理として、野菜をじっくり煮込んだデミグラスソースがあります。フランスでは野菜を調理して取っているのです。
例えば、ニンジンを調理する場合、抗酸化作用のあるある色の吸収が、すりつぶすだけで生より 3 培、ジュースでは 7 培になることが報告されています。栄養素の吸収について見ると、野菜は生よりも調理した方が良いようです。
年配の方だけでなく、未来を担う子どもたちにも知ってほしいことがあります。それは、今のうちから「もっと野菜を、きちんと野菜を」取ってほしいということです。
しかし野菜嫌いの子どもたちがいることも事実です。この現状を変えるために、私は野菜の研究をしてきました。私の研究の目的は、「野菜嫌いの子どもたちをなくす」「子どもたちに野菜をおいしく取ってもらう」ことです。
25 年前、子どもでもおいしく飲めるニンジンジュースを作りました。研究に 3 年もかかりましたが、商品として世に出すことができました。
これにはエピソードがあります。初めて作った試作品を哺乳瓶に入れて、まだ赤ん坊の息子に飲ませました。そうすると、ゴクゴクと飲んでいるではありませんか。絶対に子どもたちは、開発したニンジンジュースを飲んでくれると確信しました。
商品を開発するやいなや、驚くほどの勢いで売れました。その後、ピーマンのジュールやタマネギの加工など、いろいろな野菜の研究を続け、今に至っています。最近では奈良県特産の「大和野菜」を使ったサイダーを商品化しました。
食物の「価値」をさらに引き出す
日蓮大聖人のもとに御供養の白米が届いた際、その返礼のお手紙に大聖人は「白米は白米にはあらず・すなはち命なり」(御書 1597 頁)とつづられました。
あなたの心が込められた、この白米は単なる白米ではありません。あなたの一番大切な命そのものであると受け止めています、との意味です。
私たちの命を支えてくれるもの、それが野菜をはじめとする「食」です。食には尊い意義があります。そして、その「価値」をさらに引き出していくのが、私たち研究者の務めです。例えば、野菜の栄養素をより摂取できるように、取り方を見直すことも必要になります。また、それが野菜の新しいおいしさを見つけ出すことにつながるかもしれません。
全ての方が、野菜を上手に取りながら健康・長寿であってほしいというのが、私の願いです。そのための研究にますます力を注いでいく決意です。
【ポロフィル】いなくま・たかひろ 大手食品メーカーの研究所に勤務の後、現在の帝塚山大学現代生活学部教授に。一貫して野菜の研究に取り組んできた。農学博士。 65 歳。 1959 年(昭和 34 年)入会。奈良・富雄創価圏副圏長。奈良総県副学術部長。
【紙上セミナー「生活に生きる仏教」】聖教新聞 2017.8.29
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