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現代に生きる「養生訓」
内科医 奥田昌子さん
おくだ・まさこ 内科医。京都大学大学院医学部研究科修了。京都大学博士(医学)。愛知県出身。健康並びに人間ドック実施機関で、30万人近くの診察に当たる。現在は航空会社産業医を兼務。著書に『病気にならない体をつくる 超訳 養生訓 エッセンシャル版』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)ほか多数。
目的は幸せに生きること
——『養生訓』の魅力とは?
具体的な健康法に加え、「何のために健康になるのか」という〝養生哲学〟が示されているところが、最大の魅力だと思います。著者の貝原益軒は、寿命の長さや病気の有無だけではなく、幸せに生きることが養生の目的であると説いています。
当時の庶民でも読めるように、ひらがなを多く使って書かれていること、元気で長生きした著者の生き方に説得力があったこと、印刷技術が発展したことなどの理由から当時のベストセラーになりました。
——貝原益軒とはどのような人物ですか。
1630 年、福岡藩士の家に生まれ、医師・儒学者として藩に仕えました。最晩年まで健康で、83歳で亡くなる前年に「養生訓」を出版しました。小さい頃に体が弱かったことが、洋上の道を深めるきっかけになったと言われています。
あらゆる分野に精通した優秀な学者でしたが、「実行しなければ知っているとはいえない」という信念を持っていました。中国医書に基づき、さまざまな健康法を自分で試し、本当に良いものを選び出していきました。長い時間をかけて集めた知見が、彼のなかで整理されたのが 80 歳を過ぎた頃だったようです。『養生訓』は彼の人生の集大成です。
——時代背景を教えてください 。
当時は、江戸中期の元禄時代——産業が発展し、文化は成熟、都市部の生活は華やかでした。安い値段で脂が手に入るようになり、あんどんを使用して、夜遅くまで起きる習慣がついた時代でもあります。街には飲食店や屋台が多くあり、食生活も豊かだったようです。そのため、食べ過ぎが原因で病気になるケースも増えました。
また、武家社会だったため、規則や締め付けが厳しく、ストレスも多かったようです。現代に生きる私たちが抱える問題値、共通点が多いですよね。
生活習慣の改善が重要
——養生訓を読むと、予防医学の重要性を改めて感じます。
その通りです。養生訓では、「ほとんどの人は長生きできる体をもって生まれてくる。しかし、せっかく丈夫に生まれても、養生の方法を知らなかったばかりに、生きられるはずだった年齢間瀬生きられないことがある」と、生活習慣の重要性が、説かれています。
100 歳で元気な方々も、元々の体のつくりが違うのではなく、日々の努力と工夫によって長生きできているのだと教えてくれています。
——生活習慣の改善は、何から始めたらいいのでしょうか。
何か特別なことをする必要はありません。養生訓には、「節度ある食事と睡眠が養生の鍵となる」とあります。加えて、「老若男女を問わず、ダラダラせずに体を使うことだ。これが養生の秘訣である」と指摘しています。日常生活のなかで、自分のできることは人に頼まず自分でするなど、意識して体を動かすことが健康につながるのです。
「腹八分目」は一週間単位で OK
——『養生訓』といえば「腹八分目」が有名ですね。
はい。「少し残して八分か九分でやめるのがよい。腹いっぱい食べると、後で苦労することになる」と、満腹になることを戒めています。もし食べ過ぎてしまった場合は「一日単位、一週間単位で腹八分目にすれば」」挽回できる位というのも、うれしいポイントですな。
——他にも、食事の注意点はありますか。
「夕食は日がくれたら早く食べる方がよい。消化吸収を十分に済ませてから寝るためである」とあります。たしかに、就寝前に食べると睡眠の質が下がり、逆流性食道炎のリスクも高まります。深夜の飲食は満腹感が感じにくく、食べ過ぎにもつながります。
また、「飲酒後に酔いが残っていたら、餅、団子、麺類などの炭水化物、星がし、果物などの甘いもの、そして脂っこいものを飲んだり食べたりしてはならない」とも書かれています。
飲酒の直後に等が肝臓に運ばれると、アルコールの分解が遅れて悪酔いしやすくなります。また、油は胃に長くとどまるため、二日酔いの吐き気が強くなる場合があります。〝締めのラーメン〟には要注意です(笑)。
日本人にはやっぱり和食
——日本人と外国人の体質の違いについても言及されています。
「日本人は穀物中心の食生活を送ってきたため、肉をたくさん食べると病気になりやすい」と、外国人に比べて日本人の胃腸が弱い点を指摘しています。現代の研究では、胃腸の構造や機能に関する、遺伝子の差だと考えられています。
昨今、日本の食文化は西洋化し、肉をよく食べるようになりました。〝もう日本人の体質も変わったのでは……〟と思う人もいるかもしれません。しかし、基本的には遺伝子は 300 年程度では、ほとんど変わりません。本来、日本人の体に合うのは伝統的な和食なのです。
——特に胃腸が弱い人へのアドバイスはありますか。
「魚は生のままの方が消化しやすく胃にもたれない」。これは科学的に証明されています。塩漬けや焼き魚など身が固くなる魚料理は、胃腸に負担がかかります。火を通す場合は、身がふっくらする程度にしましょう。
さらに、根野菜などの硬くて筋の多い野菜は「薄く削り、煮て調理する」ことを勧めています。繊維を短くすることで、胃の働きを助けます。また、「野菜を干してから煮れば胃腸が弱っても食べられる。(中略)干すことで甘くなり、栄養成分が増す」とあります。これは水分が抜けて濃縮されることにもよりますが、シイタケはホストビタミン D が増加することが分かっています。
住環境や口腔ケアにも言及
——食生活以外にも、さまざまな健康の知恵が詰まっていますね。
「気が滅入るような暗い部屋は健康をむしばむ。逆に、明るすぎる部屋は落ち着かずに手中できない」「湿気はじわじわと深く体を傷つける」などと、住環境についても触れられています。
また「食後すぐに歯を磨けないときは、茶で口を何度かすすぐとよい」とは、近年、注目されている口腔ケアに通じます。
——生活の一つ一つ、丁寧に見直すことが大切ですね。
健康法というのは、何か特別なことではなく、普段の生活の中にあるということを教えてくれていると思います。たとえ病気を抱えていたとしても、一病息災という言葉があるように、病気をしたからこそ健康になれるという考えもあります。大事なことは、体の声に耳を傾けることです。だれもが、自分の中に〝健康になるための種〟が埋まっていることを知っていただければ、うれしく思います。
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