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従軍経験に苦しむ人々の証言
作家 村上 政彦
アレクシエーヴィッチ
『戦争は女の顔をしていない』
本を手にして想像の旅に出よう。用意するのは一枚の世界地図。そして今日は、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチの『戦争は女の顔をしていない』です。
アレクシエーヴィッチが、世界で広く知られるようになったのは、 2015 年のノーベル文学賞を受けてからでしょう。本作は、その作家の最初の作品です。
彼女はウクライナで生まれ、白ロシアとも呼ばれたベラルーシで育ちました。第 2 次世界大戦では、両方の国土がソ連とドイツの戦場となり、多くの人々が亡くなった。作家の家族も、ソフト、父の二人の兄弟が戦死、パルチザン活動に加わった祖母は病死。もともと戦争への関心を持ったアレクシエーヴィッチは、一冊の本を手にします。そこには、彼女が町やカフェ、家庭、トロリー―バスの中で聞いた人々の声が詰まっていました。「探していたものを見つけた」と思ったそうです。
アレクシエーヴィッチは考えます。これまで戦争は、全て男性が、男性の言葉で書いてきた。しかし彼女が女性たちから聞いた戦争は「それなりの色、においがあり、光があり、気持ちが入っていた。(中略)そこでは人間たちだけが苦しんでいるのではなく、土も、小鳥たちも、木々も苦しんでいる。地上に生きているもののすべてが、言葉もなく苦しんでいる、だからなお恐ろしい……」。
そして、作家は決意する。「その戦争の物語を書きたい。女たちのものがたりを」と。本作の主人公はすべて女性たちです。彼女は 500 人以上の女性を取材し、それは数百本のテープと膨大なタイプ原稿に姿を変えました。看護師、狙撃兵、機関銃射手、高射砲隊長、工兵、料理係、洗濯係、自動車整備工、郵便配達員、理容師、パン焼き係、書記(カメラマン)、土木係、運送係など、女性兵が就いた任務が網羅されている。
戦場の惨劇は、至る所で語られます。看護師が捕虜になった。翌日、その村を解放した時、仲間は見つかった。
「杭に突き刺してありました……(中略)十九だったのに。/背嚢の中には家からの手紙と緑色のおもちゃの鳥が入っていました……」
それでも女性たちは語る。「思い出すのは恐ろしいことだけど、思い出さないってことほど恐ろしいことはないからね」。戦場の現実を語る言葉は「私の息を詰まらせるものと同じに、痙攣で息が詰まってくるような、そういう言葉……(中略)詩人が必要……ダンテのような……」。
女性兵は 10 代半ばから 30 歳。彼女たちは、敵の機銃掃射の際、顔が傷つかないよう手で覆った。また、きれいな花を銃剣に飾った。祖国のために戦った彼女たちは戦後、男女の双方から差別を受けます。
男性たちの物語に抗う女性たちの証言——今こそ読まれるべき一冊です。
[参考文献]
『戦争は女の顔をしていない』 三浦みどり訳 岩波現代文庫
【ぶら~り文学の旅㊷海外編】聖教新聞 2024.1.31
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