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▶ネット右翼の台頭が示唆するもの
島薗 ここまで、国家と社会と宗教の関りを見てきて、読者の方にもこの問題の複雑さ、根の深さが伝わってきたと思います。戦前のように国家と宗教がダイレクトに結ばれないようにするには、どうすればよいのかという問いには、そうそう単純な答えはなさそうです。
中島さんが全勝でいわれたように、全体主義体制を招いてしまったり、社会が空洞化しないようにするために、宗教的な中間共同体の意義を見直しする必要性があることは私も同意します。
しかし、そういう議論をする場合はつねに、国家の宗教性というものをしつこいくらいに踏まえておく必要があります。日本における国家の宗教性の問題は、言うまでもなく、ここまで議論してきた国家神道の問題と関わります。戦前の国家神道のように、特定の宗教が(戦前では国家神道は宗教ではないと定義されたわけですが)、国家の権力と結びついて、交響的な空間を独占してしまう危険性のあるのではないか。
事実、戦前では、各地の神社が中間共同体として支えていました。しかし、宗教組織だけではない。その上に、学校や軍隊も国家神道を支えていました。別の言い方をすれば、国家神道が戦前の日本の公共空間を覆っていたともいえると思います。
私たちが、現在の自民党政権と日本会議や神道政治連盟のような団体との結びつきに懸念をもつのも、そういった戦前の経験があるからです。しかしそういった動きと呼応するかのように、ネット右翼と呼ばれるような排外主義的な人たちの存在感を強めています。
そこで、まず日本の足元で進んでいる具体的な宗教ナショナリズムの状況を整理しておきたいのです。たとえば、ネット右翼のような現象を中島さんはどのように捉えていますか。
中島 ネット右翼の参加者は誰なのかという問題に対しては、いくつか異なる見方が提出されています。有力なのは、不安型ナショナリズムとして分析する見方です。一九九〇年大以降、社会が流動化してきた中で、周囲とのコミュニケーションがうまくいかず、実存の底が抜けてしまった若者が、アイデンティティを獲得する場としてナショナリズムに依処するわけです。
しかし、その一方で、ネット右翼の中心層は、若者とは限らず、私よりもやや上の世代、四〇代ぐらいの男性が中心になっているという調査結果も出ています。しかも、彼らは社会からはじかれた低所得者なのかというと、必ずしもそうではないんですね。もちろん、そういう人もいるんですが、年収を見ると、およそ平均よりも少し高いくらいで、高年収の人も案外たくさんいる。学歴的にも、大学卒が多かったりする。
島薗 属性という点では、あまり共通性が見いだせないということですね。
中島 大括りの共通性を指摘できなくもないですが、やはりはっきりとした属性を示すことはできない。では、何が共通項なのかというと、彼らの言葉には「レジスタンス」や「本音」という言葉が頻出するんです。つまり、既得権に対する強烈な反発が彼らのなかには強くあります。
ネット右翼の代表的な存在とされる在特会について考える時に、在特会の正式名称に注目する必要があります。「在日特権を許さない市民の会」というんですね。みんなは「在日」にばかり注目しているのですが、本当に重要なのは「特権」と「市民」という部分です。
彼らは、特権というものに対して強烈に反発しています。彼らがデモを仕掛けているのは、在日コリアンに対してのみではないのです。実は部落解放同盟にもしかけたりしている。ですから、彼らは、ある集団の人々が特権を握り、自分たちはそこから除外されている「市民」だという認識を持っている。
そのいら立ちは、マス・メディアに対しても同じように激しく向けられています。自分たちの主張が大手メディアからは排除されている、だから『朝日新聞はけしからん』となるんですね。自分たちは常に「理プリ前途(代表)」されていないという認識が強くあり、一部の建前の世界の人間が特権を享受しているという思いが強くある。ネット右翼は、それに対する抵抗運動、レジスタンスだという感覚なのですね。
【愛国と信仰の構造「全体主義はよみがえるのか」】中島岳志・島薗進著/集英社新書
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