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孤独・孤立問題
〝声を上げやすい・掛けやすい社会〟とは
全国社会福祉協会会長
内閣官房 孤独・孤立対策担当室 政策参与
村木厚子 氏に聞く
先月、被告に死刑判決が言い渡された京都アニメーション放火殺人事件の裁判では、事件の背景として周囲からの孤独・孤立が影響した点が浮き彫りになり、社会的孤立への対応のあり方が問われている。 4 月に「孤独・孤立対策推進法」の施行を控える中、困りごとや悩み事を抱える人が声をあげることができ、周囲の人も声をかけやすい環境を構築して国は何が必要か。内閣官房孤独・孤立対策担当室で政策参与を務める、村木厚子・全国社会福祉協議会会長に聞いた。
むらき・あつこ 1955 年生まれ。 78 年に労働省(現・厚生労働省)入省。雇用均等・児童家庭局長や社会・援護局長などを経て、 2013 年7月から、厚労事務次官。退官後、内閣官房孤独・孤立対策担当室政策参与や津田塾大学客員教授などを務めるほか、 23 年 6 月から全国社会福祉協議会会長を兼務する。
相談相手の有無が影響
死別など環境の変化も
——孤独・孤立問題の現状をどう見ているか。
村木厚子・全国社会福祉協議会会長 私が厚生労働省に勤務していた数十年前から、孤独・孤立問題は社会全体に関わる重要な問題だと気付いている人はいた。 2013 年に「生活貧困者自立支援法」を制定する際、黒厩舎支援の関係者が困窮者に共通する課題を「複数の困難を抱えていること」と「社会的なつながりが切れていること」だと指摘した。
当時の政府内では、孤独・孤立対策の必要性を十分理解しているとは言えなかった。しかし、次第に社会的に問題が顕在化し、新型コロナウイルスの影響もあり 21 年に初めて担当相が置かれ、今年 4 月には「孤独・孤立対策推進法」が施行される。問題がようやく認知されてきたというのが率直な思いであり、対策を大きく進める契機にしなければならない。その際、政府が初めて行った孤独・孤立の実態把握に関する全国調査の結果は重要で、対策の参考にすべきだ。
——調査の結果で注目される点は。
村木 男女比や年代別、職業の有無別、既婚・未婚などで、孤独・孤立を感じるかどうか差が出ると思ったが、そうした差はあまり出なかった。一方、相談相手の有無で孤独感に大きな差が出た。
もう一つは、家族との死別や一人暮らしが始まるといった大きな環境変化が起きた時に孤独を感じるということが分かった。こうした環境変化は誰にでも起こりうることだ。従って、孤独感は誰にでも起こりうるものであり、その時に相談相手がいるかどうかがそれを和らげる大きな要素だと分かった。
地域でつながる人材必要
支援者が補い合う体制へ
——「孤独・孤立対策推進法」の意義は
村木 法律が推進力になることは間違いない。この間、孤独・孤立対策について官民の関係者で議論が行われてきた。誰もがアクセスしやすい相談窓口の設置などさまざまな試みが始まっている。
また、困っている人が相談できない理由も主に二つ指摘された。一つ目は、そもそも相談できる場所があると知らないこと。二つ目は、場所は知っていても「自分なんか相談してはいけない」「相談するのは負け、恥ずべきこと」といった思いが壁になっている状況だ。こうした人にアプローチしていく体制が課題になろう。
——具体的には。
村木 悩みを抱えている人に対して「相談できる人は勇気がある」「早めに相談することは良い行動だ」と地域で積極的に呼びかけることが大切だ。そうしたことを手助けしたいと考えている人は少なくない。政府は、孤独・孤立の問題について正しい知識を持ち、周りの人に関心を持ち、できる範囲で、困難を抱える人をサポートする「つながりサポーター(仮称)」の養成を 24 年から本格化させる予定だ。地域での人材の育成が求められている。
また、損段が必要という状況は当事者の状況がすでに、ハイリスクになっていることが多い。日常生活の中で人同士のつながりがあれば、「口」や「雑談」を通じてリスクが低い段階から気づくことができ、早く支援を開始することができる。そう言った環境づくりも重要だ。
——どういう体制を行政だけで整えるのは難しいのではないか。
村木 その通りだ。孤独・孤立の問題は複合的な要因によるものであり、当事者への支援を行政などが単独で行うことは難しい。推進法では地域の関係者が相互に連携・協働することを定めており、自治体や支援団体、地域住民、企業などが協力して取り組む「官民令閨プラットフォーム」の設置を促していくことになる。
ただ、「地域で取り組む」という表現は抽象的であり、社会的課題が山積する中で地域の負担が増えるとの懸念があるのも事実だ。重要なのは、支援者同士がつながり、それぞれができることを互いに補い合って実施し、知恵を出し合うことだ。社会的に子なっている人への支援の在り方として、プロが仕事としてかかわるメリットも大きいが、地域の豊かさの中で支える発想も大切にしたい。
「居場所」と「逃げ場」が重要
——困っている人が声をかけやすい社会の実現に必要なのは。
村木 「頼りあう文化」ともいうべき環境を醸成することはできないか。コミュニティーの研究を行う岡檀〈まゆみ〉さん(現・統計数理研究所特任准教授)が、日本で最も自殺率の低い地域(自殺気象地域)の一つである徳島県海部町(現在の海陽町の一部)を研究した際、たちの人が「『病』は市に出せ」という言葉を口にしていたことを紹介しているが、実に示唆に富む言葉だと思う。つまり、「困ったことがあったら早くカミングアウトして周囲の手助けを借りよ」という考え方だ。
もう一つは、社会の中に「居場所」が確保されていることだ。生きやすい社会の在り方を考えた時、目標に向かって取り組める場所と同時に、つらいときの「逃げ場」も確保されれば、自らの足場は確立されていくだろう。
ただ、これらは自治体などが政策で実現する多岐のものではない。今回の今日アニメ事件のような出来事や今春の法施行を契機に、一人一人が自分にできることは何かを問うことが出発点ではないか。
政府が対策強化 推進法、 4 月に施行
孤独・孤立を巡る問題は、独居世帯の増加や近隣・家族関係の希薄化、病気などが背景に挙げられ、近年はコロナ禍の影響によって深刻化・顕在化している。こうした中、政府は 21 年 2 月に担当相を新設するなど対策を進めてきた。
21 年と 22 年には孤独・孤立の実態把握に対する全国調査を実施。 22 年の調査では「孤独をどの程度感じるか」との問いに対して、「しばしばある・常にある」「時々ある」「たまにある」と回答した割合が全体の 4 割に達するなど、対策強化の必要性が明らかになった。
21 年 12 月には対策の重点計画を策定し、実態調査結果や有識者会議などの議論を踏まえ 22 年 12 月に改定。 23 年 5 月には、取り組みを法的に担保するための「孤立・対立推進法」が成立した。今年 4 月 1 日に施行される。
孤独・対立対策
推進法のポイント
○基本理念に社会のあらゆる分野で対策の推進を図ると明記
○当事者の意向に沿って孤独・孤立から脱却して生活を円滑に営むことを目標に支援
○首相がトップを務める対策本部を内閣府に設け、重点計画を作成
○官民の連携・協働を促進するプラットフォームを構築
○官民による「地域協議会」の設置を自治体に求める
○協議会は支援対象の情報共有が可能。正当な理由なく情報を漏らした場合、 1 年以下の禁固刑または 50 万絵に禍の罰金となる。
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