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各地に伝わる多様なかたち 暮らしの中から生まれる
国立民族学博物館 教授 笹原 亮二
特別展 『 ——芸能と祭りの世界 』
今回の特別展では、国立民俗博物館(民博)の収蔵資料と全国各地の博物館や資料館、社寺、祭りや芸能の保存会などから借用した七百点近い仮面を展示している。それらの仮面は、神楽、風流踊、浄瑠璃芝居などの芸能。神輿の渡御などの神社の祭り、修正会や練り供養などの寺院の法会、豊年祭などの地域の行事といったさまざまな機会に用いられてきた。用いる際も、人目を避けてつけたり、人がつけずにまつったりとさまざまである。
今回展示された仮面は、作りや表情がさまざまで一つとして同じものかもしれない。手本を正確に写すようになって形式が固定した能面を除けば、各地の仮面はある程度共通の傾向が認められるものの、鬼の角があったりなかったり、天狗の鼻が高かったり大きかったり、獅子頭がかさだかだったり扁平だったり、仮面ごとの差異は明らかである。鹿児島のボゼやメンドンのように、ほかに類のない地域独特の形状の仮面も少なくない。こうした仮面の多様性をどう考えればいいのであろうか。
そこで注目したいのだが、民俗学の大先達の、柳田国男の「言語芸術」の考え方である。柳田の言語芸術は、作家が創作した詩歌や小説などの文学作品というよりも、各地で暮らす一般の人びとの創意工夫で生まれ、語り伝えられてきたことわざ、なぞ、昔話をさす。この場合の「芸術」は、能力に秀でた一部の芸術家の創作の成果ではなく、各地の人々が生活上の必要から日々行う事物の命名や新語の作成も含む、ことばを巡る日常的な創作の成果を意味している。
しかも、そうした言葉の創作は、誰かが発するだけでは不十分で、周囲の人々が適切な言葉で支持し、使われ、次世代に伝えられて成立する、作り手と聞き手の共同作業の成果となる。人びとの生活上の必要は地域により異なるので、それを反映して、地域ごとに異なる多様なことばが生じることになる。
全国各地の仮面も同様に考えることができるのではないだろうか。仮面は各地の人びとのさまざまな異なる芸能や祭りを行う際の必要性により創作され、人々に支持され、使用され伝えられてきた。それらの必要性は一様ではなく、地域によってさまざまである。その結果、仮面にも地域ごとに異なる多様性が生じるに至ったというわけである。
柳田の「言語芸術」は、言葉という文化の在りようを地域の人々自身の主体的な創造性にゆだね、将来のよりよい姿の実現を期待する、民主的、文献的な発想であった。それを仮面に当てはめると、今回展示した地方プロレスのレスラーの仮面も違和感がなくなる。近年各地では、大阪プロレスの「えべっさん」をはじめ、地方ならではの仮面で人気を博するレスラーも現れた。そんな彼らに、民主的、文献的で多様性に富む現代の仮面という文化の一端を見るのはうがちすぎであろうか。
(ささはら・りょうじ)
【文化】公明新聞 2024.5.15
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