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進化する太陽の観測と研究
宇宙物理学者 柴田一成さん
宇宙天気予報などに活用 地球にも大きな影響
「太陽やばい ! 」
今月の 11 日から 12 日にかけて、通常は北極や南極、そして付近でしか見られないオーロラが日本でも観測されました。北海道や青森、さらい緯度の低い京都や兵庫などでも見えたようですね、これは「太陽フレア」によるものでした。
太陽の表面に「黒点」と呼ぶ黒い斑点が見えることがあります。周りよりも温度が低いために黒く見えるのですが、黒点は強い磁場を持っていて、この付近のエネルギーが急激に解放されることによって大規模な爆発現象が起こる。これが「太陽フレア」です。
フレアの多くは黒点の出現後に発生します。黒点がたくさんあらわれるとフレアもたくさん起こることが分かっていますが、太陽活動の周期はおよそ 11 年。黒点もほぼ 11 年周期で増えたり減ったりしていて、今は極大期(ピーク)に近づいていると考えられます。
フレアの規模は生じるエックス線の強さによって小→大の順に A ・ B ・ C ・ M ・ X の 5 段階が続いて起こったものですから、私は X (旧ツイッター、@ cosmic_jet )でつぶやきました。「ちょっと今の太陽やばい!」
磁気風によって
太陽はエックス線や放射能粒子、プラズマ(電気を帯びた粒子)を常に放出していますが、フレアが発生すると大量のプラズマが宇宙空間に噴出されます。これをコロナ質量放出( CME =コロナ・マス・エジェクション)と言い、地球の方向に噴出されると 2 ~ 3 日後には地球にぶつかって磁気圏を激しく乱し、磁気嵐を起こすのです。
これによって磁気が変動して、たとえば、電線に強い電流が流れて電気製品が損傷。大規模停電が起きる可能性も考えられます。実際、数年に一度の大フレアが起きた 1989 年 3 月にはアメリカ・ニュージャージー州の変電所で変圧器が焼け焦げ、 2003 年 10 月には飛行機と通信の一部に障害が出るなどの影響があります太。
今回は 03 年以来、 21 年ぶりの大磁気嵐でしたが幸い放射線粒子とエックス線の強度は強くなく、日本でも大きな被害はほとんど報告されませんでした。
プラズマ噴出はフレアを伴わない場合もあります。 1994 年 4 月、私はこのケースでプラズマ噴出が起こった可能性があることを予測。国内外の友人にメールで知らせたところ、アメリカ・シカゴの電力会社が磁気嵐の対策を事前に講じて数億円の損害を回避することができた、ということがありました。
宇宙の爆発現象を解明したいと始めた研究が社会に役立つことを実感した、貴重な体験でした。
他分野との交流
黒点の極大期は 2025 年と予測されていますが、実際の数は予想よりも多くなっています。ひょっとすると今がピークかもしれません。ただ、国定の数が少なくなっても大フレアが起きることも分かっています。直近の 10 年で最大のフレアが起きたのは 2017 年。太陽活動の周期は約 11 年周期から、 28 年の前後どこかで、今回を超える大フレアが起こる可能性も考えられるのです。
人類で最初にフレアを捉えたのはキャリントンというイギリスの科学者です。 1859 年、黒点のスケッチ中に一部が光ったといいます。フレアが可視光で見えることは滅多にありませんから、よほど大きかったのでしょう。ハワイやキューバ、和歌山でもオーロラが見えたようです。
この時と同程度のフレアが起きた場合、国レベルの被害は 100 兆円から数百兆円に及ぶといわれています。太陽の観測・研究は「宇宙天気予報」に活用されていますが、日本では被害に備える具体的検討は十分ではありません。政治・経済はじめ社会のリーダーが理解を深め、人員や予算を拡充する必要がある。
とともに、私たち理学の研究者も、テクノロジー分野の高額研究者との交流を活発にし、これからの対処に当たっていきたいと考えています。
◇
柴田さんは、京都大学大学院付属花山天文台で土・日曜日に実施されている昼の公開のうち、土曜日のみに講演を行っている。詳細は、 Web サイト( https//kwasean.kyoto-u.ac.jp/open )を確認。午前 10 時から午後 3 時半まで自由見学も可。
しばた・かずなり 1954 年、大阪府生まれ。宇宙物理学者、理学博士。専門は太陽宇宙プラズマ物理学。愛知教育大学、国立天文台を経て、 99 年から京都大学大学院理学研究科付属花山天文台長。 17 年から 19 年、日本天文学会会長を務める。著書に『太陽の科学』『太陽 大異変』『とんでもなくおもしろい宇宙』など。
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