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June 11, 2025
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カテゴリ: 文化

関東最大規模の環状集落

デーノタメ遺跡 国指定史跡へ

埼玉・北本市教育委員会参事  磯野 治司

縄文中期~後期の環境や

食、栽培など文化を解明

今年六月二四日、国文化審議会は文部科学大臣に対し、デーノタメ遺跡を国指定遺跡にする旨の答申をした。これにより、この遺跡が国指定遺跡に向けて大きく前進したことになる。

デーノタメ遺跡は、埼玉県北本市に所在する縄文時代中期から後期のムラの跡で、江川という小河川の支流に位置する。面積は約 6 ㌶、遺跡の大半は深い杜に覆われている。

遺跡名の「デーノタメ」とは、かつて遺跡の北部で水を湛えていた溜池の名で、縄文時代には重要な水源だったであろう。

5000 年前に始まる縄文時代中期のムラは、長径が 210 ㍍、短径が 160 ㍍の環状集落で、「関東最大級」の規模を誇る。また、約 4000 年前に始まる後期のムラは、「デーノタメ」を囲むように弧状に連なり、その長さは弦長で 270 ㍍と大きい。また、集落が 1200 年以上も長期に継続していたことも注目される。

さらにこの遺跡の大きな特徴は、縄文人が利用していた水上空間が、台地化に存在していることである。こうした低地の遺跡では、当時の生活面が水漬けのまま埋もれているため、通常では失われてしまう有機質の遺物が残される。このため、縄文人が食料としたクルミ、トチノキなどの堅果類、クワ、ブドウ等のベリー類、そして鮮やかな赤漆を塗った土器が多量に出土したのである。まさに、「縄文タイムカプセル」と呼ぶにふさわしい。

この低地を対象とした 2008 年の第 4 次調査は、 170 平方㍍という大変狭い面積で、ポンプで水を汲み上げながらの調査である。調査を始めると、間もなく土器が敷き詰められたように出土し、砂敷の道の周囲には 6 基のクルミ塚が点在していた。クルミ塚はクルミの核(殻)が目立つのでそう呼ぶが、塚の土壌をサンプリングして洗い出すと、驚いたことに縄文人が利用していた有用植物の種実を多く含んでいた。

また、小さな溝の一画面には井桁状に組んだ木組遺構が設けられ、周囲には栃の木の皮が集中するトチ塚も形成されていた。縄文人が台地上から降りていて、水辺でトチの皮を剝いていた姿を想定させる。

現地調査を終えた後は、花粉・年代・種実・樹種・昆虫・土器圧痕・同立体・漆塗膜など、さまざまな分析を行った。このうち花粉分析では、縄文人がムラを営み始めると、低地ではクルミが、台地上ではクリが増加し、トチノキが遅れて増加するという傾向が明らかである。

また、土器圧痕ではダイズやアズキの圧痕が確認され、ダイズでは 12 ㍉㍍と大型しているものがあり、 5000 年前の関東でダイズを栽培管理していた可能性がある。これと関連して、昆虫ではヒメコガネが多産している状況も確認できた。ヒメコガネは英名を「 soybean beetle 」というダイズの害虫である。種楽の周囲に大豆畑が広がり、「縄文里山」といえる環境であったことがうかがえよう。

デーノタメ遺跡の歴史的な意義は、大規模集落と低地遺跡がセットで残っており、一つの遺跡で縄文時代中期から後期の環境繁華や、縄文人の植物資源利用などの実態を理解できることである。

現在、歴史の教科書では縄文時代を従来の「狩猟」「採集」に「栽培」を加えた社会と表現するようになった。デーノタメ遺跡の調査成果は、まさにこれを体現しているといえよう。今後はこの遺跡の特性を生かしてさまざまな調査を継続するとともに、国指定として地域の住民が誇り、愛される史跡となるよう、地域ぐるみで育てていくことが課題である。

(いその・はるじ)

【文化】公明新聞 2024.8.4






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Last updated  June 11, 2025 05:13:13 AMコメント(0) | コメントを書く
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