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June 12, 2025
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カテゴリ: 社会

原爆開発支えた町の光と影

映画「リッチランド」のルスティック監督に聞く

リッチランド  米・ワシントン州の都市で、現在の人口は約 6 万人。 1960 年代、核燃料生産拠点となったハンフォードサイトに従事する労働者とその家族が住む町として発展。 87 年、差異とは閉鎖し、いま住民の多くはサイトの浄化の仕事に従事する。かつての施設群は「国立歴史公園」に指定されている。

感情の底に流れる愛国心

〈平和で美しい米国の典型的な郊外の町・リッチランドだが、冒頭に登場する地元高校フットボールのトレードマーク、「きのこ雲」「 B29 爆撃機」の異様さに目を奪われる〉

——リッチランドを訪れたのは 2015 年。監督の目に街はどう映りましたか。また、なぜドキュメンタリーを撮ろうと思ったのでしょうか。

最初の印象は衝撃的なものでした。町に入ると、レストランの壁や学校の校舎、至る所に原爆のシンボルである〝きのこ雲〟が描かれていました。また、そのシンボルがとても日常化されていることに驚かされました。さらに町について調べるなか、この町を知ることは国内に横たわる問題を考えるケーススタディーになるのではないかと思うようになっていました。

国内には、暴力的な歴史、奴隷制度や先住民の虐殺、排除等の歴史がありますが、こうした歴史と人々はどう折り合いをつけ、クラスの家——それはとても大きな問題なのです。

——町の歴史に対し、人びとは自覚的ですが、受け止め方や表現には差がありますね。

プルトニウムを製造してきた街に暮らすことへの感情はさまざまです。それを誇りとして語る人もいれば、その兵器が多くの犠牲者を出したことから、考えることを避ける人もいます。さらに原爆が投下された日本に思いを向ける人もいましたが、私はそうした感情の底流にある「愛国心」について考える必要があると思いました。愛国心は人々の世界観に強烈な影響力を及ぼすものだからです。

リッチランドの住民の多くは核施設で仕事を得、一種の郊外型アメリカンドリームを生きた人々です。彼らが豊かな暮らしを実現してきたことと町の歴史は切り離せません。そして、その町の歴史とは、第 2 次大戦を勝利に導いた愛国心と深く結びついた物語なのです。

しかし、問題は、その物語に取りつかれ、異なる考えを受け入れられなくなることです。愛国主義が増徴し人びとの世界観に大Kな影響を及ぼす現在だからこそ、愛国心の持つ危険性についても問い直す必要があると私は思います。

核がもたらした無限と生きる

〈本作では、詩の朗読や合唱隊のコーラスの映像が織り込まれる。そこには「滅ぼしの風」や「その気の果実はプルトニウム」といった歌詞も現れる〉

——詩の朗読やコーラスの映像を加えようと考えたのはなぜでしょうか。

それらはアートであり、アートは未解決で複雑なものを含み込み、言葉の向こうにあるものを表現できるからです。さらに、それは出演者にパフォーマンスの場を与えます。そこから出演者とのコラボレーションが生まれます。アートを織り込むことは、そうした効果もありました。

また、私が重要視したのは、そこには共同体から生まれたものを組み込むことでした。朗読される市は地元で生まれ育った詩人のもので、合唱隊のメンバーの多くはハンフォードに関係があるか、サイトで働く人々です。相することで、共同体の抱えるさまざまな思いを伝えることができたのではないかと思っています。

——原爆は孤立した出来事ではなく、いまも引き続いている状態と語られていますね。

米国における核兵器の歴史を振り返ってみると、第 2 次大戦後も膨大な数の核兵器が製造されました。核実験も国内だけで 900 回以上実施され、放射性物質が広大な地域を汚染しました。その結果、本作紹介したようにワナパム族等の先住民は住む土地を奪われ、いまも帰還できていません。

原爆は一つの出来事ではなく、社会の基本構造を変えたと私は考えています。ハンフォードサイトの除染プロジェクトは今後 10 万年以上も続くことになるでしょう。これもまた核の開発がもたらした「無限」と共に生きざるを得ない状態ではないかと私は思うのです。

異なる意見を聞く寛容さを

——リッチランド高校の卒業生が他者に対し批判的にならず自由に語り合う場面は印象的です。

撮影当初から若い人たちの声を加えることが大切だと思っていましたが、彼らがとてもオープンな姿勢で話し合う姿に感動しました。町の歴史に一定の距離をとり、複雑な問題をきちんととらえる能力が彼らにはあると感じました。

これまで多くの国で上映してきましたが、私には人の行動を変えたいという思いはありません。一方、観ていただければわかりますが、このドキュメンタリーには、自分とは異なる意見を持つ人が必ず登場します。そうした異なる意見の人の主張にもじっくりと耳を傾けられる寛容さを、観る人には持っていただければと思っています。

Irene Lusztig フェミニスト映画作家。英国生まれ、ボストン育ちの米国人 1 世。「リッチランド」以前にも 3 作の長編を製作。カルフォルニア大学サンタクルース校で、永がおよびデジタルメディア学教授として映画製作を教える。

【社会・文化】聖教新聞 2024.8.6






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Last updated  June 12, 2025 06:10:41 AMコメント(0) | コメントを書く
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