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July 12, 2025
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カテゴリ: 文化

武士が見た ペリー来航

横浜市歴史博物館主任学芸員  小林 紀子

体験・見聞を日記や手紙で

今から170年前の嘉永7(安政元、1854)年、日本に再来航したペリーが横浜に上陸し、幕府との交渉を経て日米和親条約が結ばれた。一方この時、幕府の大名たちに江戸湾の海防(海岸防備)を命じており、多数の藩士たちが沿岸各所に派遣された。横浜市域では、金沢(金沢区)周辺を地元に陣屋を置く武州金沢藩が警備したほか、神奈川宿(神奈川区)に明石藩、本牧(中区)に鳥取藩が横浜応接所の警衛を担った。

警衛に従事した武士たちの中には、自身の体験や見聞した情報を日記や手紙に記した者たちがいた。小倉藩医の桐原鳳卿もその一人である。桐原は嘉永7年2月6日に江戸藩邸を出発し、3月14日に帰着するまでの約1カ月間、横浜近くの大田村(西区・中区・南区)の陣所に滞在した。

「横浜日記」と題された桐原の私的な日記には、この間の小倉藩の動向、自身の仕事や生活。ペリー一行の様子などが綴られており、みずから描いた、あるいは写したとみられる図も掲載されている。

江戸湾警衛の実態鮮やかに

ペリーが横浜に初上陸した2月10日、桐原は小倉藩の一員として横浜応接所に赴き、上陸したペリーをはじめ艦隊員たちの容姿や服装などについて事細かく観察した。ペリー一行が応接所に入った後は、友人の裏が奉行所よりき・日高大夫とともに外国人の様子を見てった。

そこで桐原は、外国人の医師と名刺交換をした。医師は親しく手を握ってきて、振り払おうとしてもなかなか放してくれなかったという。応接所の外で、桐原以外にもこうした交流が生まれていたことは想像に難くない。

また2月27日の日記には、外国人が神奈川、保土ヶ谷宿などを徘徊しているという噂に対し、海上生活が長いので、そぞろ歩きたくなるのだろうと、彼らの心中に思いを馳せるような記述も見られる。

桐原がたびたび外出しているのも興味深い。日記には、来訪した知人と天神山(西区)から異国船を眺めたり、近隣の村や史跡を訪れたりした記事が見られる。

中でも野毛(中区)には記事にあるだけでも3度訪れている。野毛には湯屋や料理や、酒屋、茶亭などがあったようで、桐原は入浴や飲食を楽しんだ。

もちろん藩医としての職務もこなした。日記からは大田村滞在1週間頃から日増しに多忙になったことが読み取れ、薬が不足し、2度も神奈川宿まで買い足しに赴いている。

しかしながら3月に入り、ペリー一行が横浜を去り、江戸へ戻れるという噂が立つと、病気のものも順調に快方に向かったという。慣れない土地での長期滞在によるストレスが、藩士たちの病気の一因となっていたことも想像できる。

このように「横浜日記」からは、警衛の最前線の現場の実態が鮮やかに浮かび上がってくる。こうした同時代の記録は他にもいくつか知られているが、いまだ各地に眠っている資料もあるだろう。今後さらに事例が積み重ねられていけば、ケリー来航というよく知られた歴史が、より豊かに彩られていくことだろう。

(こばやし・のりこ)

【文化】公明新聞 2024.9.20






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Last updated  July 12, 2025 05:50:10 AM コメントを書く
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