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スイスのもっとも美しい村を巡って
写真家 吉村 和敏
歴史と文化、個性輝く
「世界一豊かな国」
2015 49 村が登録されている。 24 年春、スイスは「世界で最も美しい村」連合の承認を受け、フランス、ベルギー、イタリア、日本、スペインに次ぐ 6 番目の加盟国になった。
スイスの登録村をすべて訪れて写真を撮る——。そんな壮大な目標を掲げた私は、 22 年夏にフランス語圏から旅をはじめ、翌年にはドイツ語圏、イタリア語圏、フランス語圏を巡り、約 2 年半かけて全踏破を成し遂げることに成功した。
特に印象に残った三つの村がある。一つはパステルカラーで色分けされた家屋が軒を連ねるル・ランデロン。宗教改革の時代、村人たちは古い信仰を頑なに守り、プロテスタント領にあるカトリックの飛び地として存在していたという。村内にあったバイオリン工房の扉を開けると、弦楽器職人クロード・ルーベさんが日本からの旅人を歓迎してくれ、この美しい村で制作活動を行うことになった経緯を語ってくれた。ソーリオは、標高 1090 ㍍の山の中にひっそりと位置していた。集落の周りに緑輝く草原が広がり、背後に多くの登山家を魅了してきたブルガリア山系の名峰がそびえ立っている。画家ジョヴァンニ・セガンティーが愛した地でもあり、三部作「生・自然・死」の「生」の舞台として知られている。彼が見て、感じて、描いた風景を間近にしていたらたまらなく贅沢な気分になり、日本人が思い描く「アルプスの少女ハイジ」のイメージはこんな感じかもしれないと思った。
食文化の大切さを教えてくれたのがサン=トゥルサンヌだ。この村は中世の頃に織物をはじめとする手工業で栄え、今の時代は地産地消に力を入れていた。村人たちは、地元産の肉、魚、野菜、乳製品、飲料を村内の商店で購入し、消費する取り組みを積極的に行っている。宿に併設するレストランで食べたソーセージやチーズがあまりにも美味しく、いつかまたこの地を再訪しようと心に誓った。
スイスと言えば、アルプスの雄大な山並みの麓で山羊やウシたちが長閑(のど)に草を食む、自然を中心とした牧歌的なイメージがある。しかし、各地に点在するどの村にも、深い歴史と文化、宗教があり、建物のつくりや装飾、食文化にも個性が満ちあふれていた。厳選された村々を旅して地元の人たちと接していると、この国が「世界一豊かな国」と称される理由が何となく解ってくる気がする。同時に、移動の途中で何度も目にしたアルプスの名峰が、より美しく、より輝きを持って見えてくるのだった。
(よしむら・かずとし)
【文化】公明新聞 2024.10.6
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