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生命のヘビのヒミツ
帝京大学教授 濵田 陽
悠久の昔から世界の「生きた尺度」
小学生の時に与えられた文房具には定規が入っていた。いろんな線を引き、座標を描き、そうしたものが基準であると思うようになった。何か、直線で、固く、動じないものがこの世界を理解する根底になると。
けれども、里山へ、森へ足を踏み出せば、定規の代わりに折れた枝をひろって、っ子の世界には様々な形が満ちあふれていると感じることができる。そして、その背後に、動く者の気配を覚える。
その代表が、ヘビだろう。ハリー・ポッターを知るわたしたちは、筆箱に定規の代わりにヘビが入っていたら、と想像することも自由だ。サン=テグジュペリも『星の王子さま』の冒頭で、大人にはまるで帽子にしか見えない、像を丸のみした大蛇の絵を描いている。
古から人は、この世界の、いろいろなところに、動き、自在に姿を変える何かがあると感じてきた。
世界最古のヘビの化石が出土し、縄文土器にヘビの生命力が象られ、芦原中津国との呼ばれた日本列島には、水田稲作が伝わる前、いたるところにヘビが棲んでいた。
這う、食むなどの御言説のある蛇は、四つ足に足歩行、車輪では分け入ることができない茂みや水中にまで環境適応し、生態系のバロメーターにもなっている。
この太古の地主から、先人たちは、地貰いなどの民族習慣により、地を受け継いだという感覚をもっていた。
日本各地の神話・物語に登場
ヘビといえば、恐ろしい、と思考がストップしてしまう近代的偏見から、今年こそ自由になってはどうだろう。脱皮や独から古代人はヘビの生命力を感じてきたのだ、というような、ありふれた解説の向こう側へ分け入ってみよう。
ヘビの化身である大物主の神は、大国主の、農耕による国造りをサポートしたという。列島の環境を知り尽くしている存在として理にかなった神話だ。
ある夜、オオモノヌシは、妻になったモモドヒメの櫛箱に隠れていて、本来の美しい姿を見せるも、驚いて声を上げた姫に誇りを傷つけられ、三輪山に還った。姫は落胆し、腰を落としたが、そこに突き立っていた箸に刺さって亡くなってしまった。葬られたのが邪馬台国の卑弥呼の墓とも推定される、日本最古の巨大前方後円墳、箸墓古墳だ。美しい三輪山は、とぐろを巻いた邪神そのものの姿だとも伝えられてきた。
豊かなユーカラ(叙事詩)をもつアイヌやヘビをマームン(神のもの)と呼ぶ琉球、そして、ヤマタノオロチの龍邪様(セグロウミヘビ)の出雲の列島各地の神話・物語には、わたしたちが、生死を超えて生成し続けるものとして、この世界を見ようとするヒントが秘められている。
直線から、曲線へ、円、楕円、山のような三角錐にもなるヘビは、定規のない悠久の昔から、生きとし生けるものの新参者である人が、この世界を理解しようとするときの、「生きた尺度」となってきたのだ。
(はまだ・よう)
1968
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