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November 14, 2025
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カテゴリ: 科学

脳活動の操作は慎重に審査を

科学文明論研究家  橳島 次郎

光遺伝学技術の臨床応用

今年 2 月、慶応大学病院で、「光遺伝学」という技術を使い、網膜色素変性症患者の失われた視覚機能の再生を目指す臨床試験(治験)が始められたとの発表があった。光遺伝学技術を応用した治療法として日本初の例で、そこで用いられる特殊なタンパク質を患者に試すのは世界初だという。

光遺伝学とは、光を当てると活性化するタンパク質をつくる遺伝子を脳神経細胞に挿入し、その神経の活動を光の照射によって働かせたりする技術で、もともとは特定の神経細胞がどういう働きをするかを調べる、脳科学研究の実験手法として開発されたものだ。

今回の慶応大学病院の治験は、光を感知する機能を失った患者の網膜の視細胞に、この治療のために特別に開発された光感受性タンパク質を作る遺伝子を注射し、そのタンパク質の働きで光を感じとる機能を再建しようとするものだ。視覚に関する神経回路を操作するものではない。

だが光遺伝学技術を使えば、脳の神経活動を操作することもできる。例えば 2020 年に日本の研究チームが、ニホンザルの手の運動に関わる大脳皮質の領野に関わる大脳皮質の領野に光で活性化するタンパク質を発現させる遺伝子を導入し、脳に光を当てて手を動かすことに成功したと発表している。この成果は運動の抑制にも応用できるので、パーキンソン病患者の手の震えを抑える治療技術の開発につながると期待できるという。さらに肥満症や過食症の治療にこの技術を応用する研究もある。 22 年に日本のチームが発表した論文では、マウスの食物摂取に関連する脳の中枢のニューロンを光遺伝子の手法で制御し、脂肪の過剰摂取塗装摂取カロリー量を抑制できたという。

パーキンソン病のような不随意運動を伴う神経疾患は、これまで薬物療法に加え、脳内に微小電極を埋め込み電気刺激し震えを抑える脳深部刺激療法( DBS )が行われてきた。海外では DBS を摂食障害(過食症や拒食症)の治療に使う例もある。光遺伝学技術は、これらの既存の電気刺激よりも標的とすべき神経細胞を的確に限局して光刺激し、より良い治療効果を望めるという。

だが連載第 22 回でみたように、こうした脳神経の刺激技術には倫理的問題が伴う。光照射のオン・オフで脳の活動に変化を与え身心を操作できるようになれば、自由意志が損なわれ人としての尊厳が失われることになりかねない。光遺伝学技術の臨床応用は、個々にその是非を慎重に審査する必要がある。

先端技術 は何をもたらすか‐ 40 ‐】聖教新聞 2025.4.1






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Last updated  November 14, 2025 06:04:34 AMコメント(0) | コメントを書く
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