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表面上は何事もない日常を演じているが、息子はあの日を忘れたくなかった。そして、母親はあの日を忘れることができなくなっていた。
ふとした隙間に蘇る唇の感触と背徳感が、彼女の心を苛む。だが、その苦しみが深まれば深まるほど、禁じられた「続き」への妄想は、抗いがたく膨れ上がっていった。
(いつまで、こんなおぞましい考えに囚われ続けなければならないの…?)
母親は自分を恥じ、この感情を消し去りたいと願った。
(私が考えすぎなだけ。あの子はもう、何も思っていないかもしれないのに…)
そんな時だった。夫が仕事で家を留守にしたのは。
母親の胸に、予感にも似た激しい危機感が込み上げる。しかし、彼女は自分に言い聞かせた。
「これで何事もなければ、私の独り相撲だったと笑えるはず。この呪縛から解き放たれるはずだ」と。
夜が更け、彼女は緊張に震えながら寝具に入った。当然、眠れるはずもない。
だが、扉に鍵をかけるような不自然な真似をすれば、あの日「起きていたこと」を悟られてしまう。彼女はただ、いつも通りの「母」を演じて横たわるしかなかった。
時計の針が進むにつれ、今夜は何もないという安堵が広がっていく。だが、それと同時に、心の奥底に沈めていた「もう一つの感情」が、音もなく鎌首をもたげた。
その時だった。
寝室の扉が、ゆっくりと、忍び込むような音を立てて開いた。
心臓が跳ね、全身が強張る。これから何が起きるのか、彼女には分かっていた。
今すぐ起き上がり、親として正しい道を諭すべきか。それとも…。
彼女は、決断をすることができなかった。
その迷いを見透かしたかのように、息子の口付けが降ってくる。
前回と同じように狸寝入りを貫こうとした彼女だったが、すぐに状況の異変に気づく。
唇への圧迫は明らかに強く、息子の呼気は荒々しく熱を帯びていた。
そして、危機感とともに、逃れようのない生々しい感覚が彼女を貫く。
息子の手が、越えてはならない一線を越えて彼女に触れた。
その恥辱に、本能が耐えきれず、母親は思わず身をよじってしまった。
不意に、二人の視線が暗闇の中でぶつかり合う。
もはや、言い訳も虚飾も通用しない。残された答えは二つに一つだった。
息子が出した答えは、「その先」へ進むことだった。
彼は戻りたくなかったのだ。そして、もう戻れないことを確信していた。
母親は、答えを出せなかった。
しかし、拒絶を示さないその沈黙は、限りなく合意に近い肯定だった。彼女が止めることを選ばない限り、息子は止まらない。
彼女は後悔することになるだろう。なぜあの時、彼を突き放さなかったのかと。
だが、心の深淵に隠されていた「女」としての情動が、それを許さなかった。
ただ一つ確かな事実は、更けてゆく長い夜の中、母子が禁断の過ちを互いの身体に深く刻み込んだということだけだった。