PR
Calendar
Category
Comments
Keyword Search

あの日を境に、世界は色を変えてしまった。
朝食を並べる手、何気ない挨拶、背後を通る気配。そのすべてに、あの一夜の生々しい記憶がつきまとった。
息子に抱きしめられるたび、彼女の心は悲鳴を上げた。自分が慈しみ育ててきた存在が、今は自分を「女」として貪欲に求めている。その倒錯した現実に、耐えがたい自己嫌悪と破滅の予感を感じずにはいられない。鏡を見るたび、罪を隠して微笑む自分の顔が、ひどく醜く、空っぽに見えた。
しかし、絶望と同じ深さで、彼女の心には毒のような甘さが広がっていた。誰にも言えない秘密を共有し、息子という若く純粋な狂信者に心酔される充足感。それは一人の女性として枯れかけていた彼女の奥底を、容赦なく昂ぶらせた。
触れられるたび、罪悪感で涙がこぼれそうになるのに、同時に体は熱を帯びていく。その矛盾が、彼女をさらに深い沼へと引きずり込んでいった。
もはや、以前のような親子に戻る道など、どこにも残っていない。
「いつか終わらせなければ」と理性が囁いても、息子の情熱的な瞳に見つめられると、言葉は喉の奥に消えてしまう。彼女は自嘲気味に悟った。自分もまた、この背徳的な檻の中に、自ら進んで閉じ込められようとしていることを。
母としての義務と、女としての業の狭間で、彼女は拒むふりをしながら、その熱に溶かされ続けた。
そして、ついに堕ちてしまった。
罪悪感に苛まれながらも、彼女は自分との戦いに敗北したのだ。息子は、抗う術を失った母親のすべてを奪い尽くした。
狂っていく二人。しかし、満たされた幸福は心に致命的な隙を作った。
「油断」という名の綻びに、彼らは気づかなかった。
愛し合う二人の部屋の扉が、突如として開け放たれた。
そこに立っていたのは、息子の父であり、彼女の夫。
彼は以前から二人を疑っていたのだ。出張を装い、罠を仕掛けた彼は、ついに最悪の真実へと辿り着いた。
父親は激怒し、息子は開き直った。母親は、ただ狼狽えるしかなかった。
悪夢のような混乱が、平穏だった家庭を一瞬で崩壊させた。父と息子の決裂は決定的となり、修復の余地などどこにもなかった。
怒号の中、父親は彼女に究極の選択を迫った。
「自分と息子、どちらを選ぶのか」と。
かつての彼女は、選択から逃げ続け、ズルズルと堕ちてきた。
だが、この期に及んで彼女の心に迷いはなかった。彼女は、はっきりとした決断を夫に告げた。
「息子を選ぶ」と。
それは女としての愛欲ゆえの選択ではなかった。
彼女にとっては、たとえ罪人になろうとも、息子は自分よりも大切な存在だったのだ。
その選択が何を意味するか、彼女は十分に理解していた。父も息子も、彼女が「母として」選んだという真意など理解しないだろう。夫は軽蔑の眼差しを向け、息子はこれで関係を謳歌できると確信するに違いない。
それでも、ここで息子を見捨てることなどできなかった。たとえ自らが永遠に傷つくことになっても、息子だけは守らねばならない。それが、彼女が最期に縋った「母親」としての誇りだった。
数週間後。
母親と息子は、かつての家を離れ、見知らぬ地で暮らし始めていた。
すべてを捨てた果てに、新しい生活が始まる。
そう、ここからが本当の始まりなのかもしれない。
逃げ場のない小さな部屋で、二人は静かに、深く、唇を重ね合わせた。