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2012.01.02
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カテゴリ: 小説
11-3.うつくしいもの

 「蛇卵は家内の好物でね、儂はこれだよ」蝮酒にした一升瓶が窓際に並んでいる。まだ。蝮が動いているのもある。「飲むかい?」「嬉しいイネ、久しぶり」八兵衛喜ぶ、弱井君にんまり。
 蛇十さんは、蛇の十兵衛という、葛谷の人はけが、怪我、火傷、腹痛、頭痛、兎に角、具合が悪くなると、蛇十の所へ来る、葛谷の医者も兼ねている。蝮男と呼ばれていて、夫婦で毎日蝮を食している。蛇十が山から帰ってくると、潤い肌のウロコさんは「ご飯にしますか、お風呂にしますか、それともあれしますか?」 よ、意味ありげ。
 「あれだ!」と蛇十喚いて、即合体なのだそうだ、朝に一発、昼に一発、夜に一発、屁の話じゃないんですよ。だから、子供も19人産んだ。出来すぎたので、断種して、合体を続けている。
 年齢不詳だ、高齢でも肌はてかてか、精力絶倫が体じゅうに溢れている。蝮の食べ過ぎに注意 蛇十の目は小さく蛇の目の緑色になっているし、ウロコさんの背中には蝮のようなの鱗が生えているという。

 無我は三日間、みつこさんと蛇十の家で過ごした、みつこさんを覗く勇気はなかったが、襖越しに会話はした。
 「私はお化け、私は顏をなくした女」
「見かけだけが、すべてじゃないよ」
 「すべてじゃなくても、女の最重要なことでしょ」

 「もともと、文通だったのだから、顏はなくてもいい また、文通しましょう」 無我の精一杯の励まし。

 蝮の串焼きをつまみに蛇十と蝮酒を毎日飲んだ、生臭いような、草の臭いがする褐色の液体を飲んで三日目無我は大量の夢精をした。みつこさん、気配を感じて、悶え悶えた。
 「私がここにいます、無我さん」
醜いから、セックスも下手ですか、醜いと燃えませんか、醜いと頭も悪く見えますか、犯罪者は醜いひとが多いって本当ですか、罪が重くなるって本当ですか、幼児虐待は可愛くない子供が多いって本当ですか。
 子供だって、デブ、チビ、出っ歯、ダサい、汚い、罵るのは、美がいいって知っているからじゃないですか、赤ん坊が美人を目で追うというのも聞いたことがある。誰でも美しいものに魅かれ、美しいものを楽しみ、美しいものを無視なんかできないんだ。 きれいな花には蝶が群がる、孔雀の羽根に雌が群がる。ああ、わたしは顏を無くして心が病みはじめた。醜いと悪になるんでしょうか、誰も私を助けないでしょうか、私は醜いあひるの子。

 わたしのみづからのなかでもいい、わたしの外の世界でもいい
 どこかに「ほんとうに美しいものはないのか」
 それが敵であってもかまわない
 及びがたくてもいい、ただ在るということが分かりさえすれば
 ああ 久しくも これを追ふにつかれたこころ
本当にうつくしいものは物体なんかじゃない

 うつくしいもの、それはいったいなんなんだろう
美は厄介なもの、美がなけりゃ苦しみもない

 八木重吉の詩が重たく無我の心を覆う。

作:朽木一空

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最終更新日  2012.01.02 11:19:29
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