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日が暮れ、桜の花びらだけが、月に照らされた闇が拡がる。酔いが回ってきた。足を縺れさせ、墓石に小便を垂れる。 酒を飲み、乱れて、朽ち落ち葉のように醜く、汚く散ってゆく、酒を飲まずにすめば幸せ者である。桜のように優雅に舞うことはできない、誰も振り向きもせず、踏んづけてゆく毀れ花、朦朧とした頭の中で呑死でもいいのかと、、、。
井月は、『無能の人』(つげ義春)の中で知った俳人である。とぼとぼ、ぐつぐつ、ひょろひゅろ、伊那谷を流浪徘徊した俳人井月、出自没却一切語らず、襤褸纏い、酒に溺れ、糞尿に塗れ、野垂死にした男。
-寝て起きて又のむ酒や花心- 井月
-秋経るや 葉に捨てられて梅もどき- 井月-降るとまで人には見せて花曇り- 井月
-落ち栗の座を定めるや窪溜り‐ 井月
-今は世に拾う人なき落栗のくちはてよとや雨のふるらん- 井月-何処やらに鶴(たず)の声聞くかすみかな- 井月
机の上に置かれた一冊の文庫本、友人の丸谷が読みかけの本だった。ちらっと眼を通すつもりが泥沼に引き込まれるように、ずぶずぶと暗い穴の中に引き込まれてしまった。 『海も暮れきる』吉村昭、という本だった。そこで。放哉熱に罹ってしまった。悪酒癖によって身を持ち崩し、すべてを捨て、暗いほうへ暗いほうへと降りて行き、自分に対する嗜虐的呟きを句に詠み、咳込みのたうちまわった小豆島での晩年は心に刺さった。
-咳をしても一人- 放哉-何がたのしみで生きてゐるのかと問はれて居る-放哉
-いれものがない両手でうける- 放哉
-こんなよい月を一人で見て寝る- 放哉- 一人の道が暮れて来た- 放哉
-入れものが無い両手で受ける- 放哉
捨てきれずに、だらだらと寿命を費やしているだけの男の句
-咲きそびれ 桜蕾に 月の声- 退月
-残桜の 花びらが舞う 酔人に- 退月
-闇桜 徘徊助くる 月明り- 退月
-ぼちぼち(墓地墓地)と、洒落てみる花 帰ろかな- 退月
退月とは男の俳号である
作:朽木一空
松ぼっくりと彼岸花 2026.09.29
紅葉の一枝 2026.09.26
しみじみ偲ぶ昭和かな ~ みそ一文字~ 2026.09.19