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バスはふたたび動き始める。 隣の人はチョコレートを食べている。 何が起こったのかはわからないけれど、隣の人のおかげでもめごとからのがれられたようだ。ありがとうと言いたくても言葉がわからないが、とにかく言うことにした。「アリガトウ」「あら、しゃべれないのかと思ってたけど、声は出るのね」
2010年04月29日
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運転手が近づいてきたとき、僕は団子を食っていた。「ちょっとお客さん、お尋ねしますけど、どこへ行かれるのですか?」 車内での飲食はダメだと言ってるのだろうか、団子をどこにしまえばいいのだろう? 隣の乗客がポスターを指さして、運転手に向かってしゃべる。「この人は遠山記念館へ行くのよ」「ああ、遠山記念館ね。だったらこのバスだな」 隣の人はうなずく。運転手が僕を見る。団子の入った口をもぐもぐさせつつ僕もうなずく。運転手もうなずいて運転席にもどる。団子をしまう場所がわからない。
2010年04月28日
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「あんたのバス、停めちゃいけないところで誰か乗せたみたいだね」「え?」「本部からあんたに注意するよう連絡が入ったんだ」「すまない。通信装置の具合が悪くて本部からの通信が届かないんだ。その人、降りてもらおうか?」「こんなところで降ろすわけにはいかないよ、どこに行くつもりか本人に聞いてみたらどうだろう」 窓の外、コンクリートの膨大なひろがりの平面に、ちらほらバスたちが転がってゆく。
2010年04月25日
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輪になっている人たちの背後にはヘリコプター。 視線を感じて首を横に向けたら隣の乗客と視線が合った。人のよさそうな目だ。首を傾げながらポスターを指さしてみると話しかけてくる。「遠山記念館へ行きたいのね。もしかして場所がわからないの? そうね、いいわ、暇だから連れてってあげる」 何を言ってるのかわからないけど、顔を見るとほほえんでいるので僕もほほえみかえす。相手はうなずく。 バスは急停車する。窓の外、進行方向が逆のバスも停まっている。運転手たちが何か話し合っている。何か行き違いがあるらしい。
2010年04月23日
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まちがったバスに乗ってしまった? バスの発着場所も時刻表もきちんと調べたはずだけど。もしかしたら運転手が言ってたのは「これは臨時バスです」というようなことかもしれない。車内を見まわし、たぶん行き先だろう表示を運転席の近くに見つけたが、読めはしない。頭上のポスターを見る。文字は読めないが写真は見える。 数人が輪になって手のひらを上にして、輪の中心に向けて腕を伸ばしている。それぞれの手のひらには時計やら小石やら草やら蝶やらスプーンやら、雑多な物たちが乗っている。■ ところで、池田清彦さんの文庫本、「人はダマシ、ダマサレで生きる」(静山社文庫)で、おもしろいのを見つけました。『生命とは究極的にいえば、高分子の配置のことだ。 金魚を液体窒素の中にポンと入れると、瞬間的にフリーズする。一瞬にして金魚の中のすべての高分子が、そのままの状態で停止する。 生きた状態と同じところでバンと止まってしまえば、時間が止まったのと同じなのだ。この金魚をまた水の中に入れてやると動き出す。 高分子の配置が保たれている限り、生物は生き返る。』 高分子が停止すれば、生命の時間も停止する!
2010年04月22日
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シャワーを浴びながら、とつぜん、以前、奇妙なバス乗り場にいたことを思い出す。 直射日光。コンクリートの膨大な平面。半径5メートルほどの赤い円に立っている。ここは出発点だけれど、ここまで来るのには何日もかかった。ここにもういちど来ようとしたって、いくつもの偶然と思わぬ抜け道に助けられない限り、おそらく無理だろう。それに僕の意欲、数日前の、出発点へ向かおうとするあの意欲は、一度切りのようにも感じる。足裏が熱い。 飛行機の影がコンクリートの平面を流れてゆっくりこちらへ向かってくる。ちょうど目の前で飛行機の影を轢いてバスが停まる。ドアがひらき、乗りこむ。運転手から何やら話しかけられたが聞き取れない。運転手はもういちど大きな声ではっきりとくりかえすが、まったくわからない。 聞き取れないのではなかった。言葉がまるでわからないのだ。降りようかどうしようか迷っていると、ふいにドアは閉まった。運転手はそれ以上何も言わず出発する。バスのタイヤは広大なコンクリートの平面を転がってゆく。通路を歩いて後ろの座席にすわる。
2010年04月21日
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部屋の絵を抜け、階段を降り、タマゴを食べ、シャワーを浴び、(なんだか奇妙な受話器に見えなくもない)
2010年04月18日
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地下室には絵が並んでいる。火事で燃えないよう、地下に運ばれたのかもしれない。地下に絵を運んだ人は、ふねで逃げたのだろうか。火事が終わった海岸を探せば、燃え残ったふねが見つかるかもしれない。燃え残ったふねの底には、穴があいているのだろうか。ふだん絵をあまり見ないから、こんな機会でもなければあまり絵を見ない。
2010年04月14日
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地上は燃え、地下へ逃げる。 地下室には複製画が並んでいた。 複製全体ではなく、複製画の部分画。 でもまあ、どんな絵であれ、「じつはね、本来この絵はもっと大きな絵だったんだけど、半分ほどがどういうわけか切り取られてしまって、現存しているのは残りの半分なんだ」と言われたなら、もとの絵を知らないぼくは、そうかもしれない、と思う。
2010年04月11日
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受話器が燃える。火事は 電話から全体へ ひろがる。ふねも燃えたのだろうか?全体が燃えたら私も燃えるのだが火事は地上だけだった。地下へ逃げる。
2010年04月07日
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「妙でしょう?」「どうなってるの?」「なんと!」東京メトロでは、銀座線渋谷駅と半蔵門線渋谷駅という別の駅を、同じ駅と見なしている。東京メトロ半蔵門線渋谷駅と東急田園都市線渋谷駅は「共同使用駅」である。東京メトロでは「半蔵門線渋谷駅=銀座線渋谷駅」と見なす。よって、東京メトロ銀座線渋谷駅と東急田園都市線渋谷駅は「共同使用駅」ではないけれども、「共同使用駅」と見なす。よって、東京メトロ銀座線渋谷駅の初乗り運賃は120円。「どうです、おもしろいでしょう…ん?…もしもし…もしもし…どうしたんです?…どこにいるんです?…」「あああああ!受話器が火事ですよ!」
2010年04月05日
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「あなた、どこにいるの?」「自然数のどんな集合にも、かならず最も小さい数があります」「それがどうかしたの?」「じゃあ、これはどうでしょう」(数年前の記事を参考にしてますので、いまどうなってるかはわかりません)東京メトロの初乗り運賃は160円。東急田園都市線の初乗り運賃は120円。相互乗り入れを行なっているなどの理由で、改札口を相互に利用している駅を「共同使用駅」と呼ぶ。「共同使用駅」の初乗り運賃は安い方とする。「それで?」「ここからが問題です」東京メトロ銀座線渋谷駅は「共同使用駅」ではない。にもかかわらず、東京メトロ銀座線渋谷駅の初乗り運賃は120円。「妙でしょう?」「どういうこと?」
2010年04月04日
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「どこにいるの?」「6次元じゃ実感ないですかね」「そりゃそうよ」「じゃあ、自然数にしましょう」「1・2・3・4・5・6…のこと?」「0を含めることもあるらしいですけど」「ふーん」「自然数の特徴は何だと思います?」「なぞなぞなの?」「自然数とほかの数、たとえば整数とか分数とか小数とか無理数とか、とのちがいは?」「あなた、浮き輪じゃなくて舟にいたのね」「なんと、自然数だけ、最も小さい数があるんですよ!」「それがどうかしたの?」「でも、ぼくはいままで、知ってても気づきませんでしたよ!」
2010年04月04日
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「6次元、ってあなた、わけわかんないこと言わないでよ」「わかってるわけではないですけど、なんとなくでしたら説明できないわけでもありません」「じゃあ、6次元って何?」たとえば、3次元空間のなかで運動している点Pと点Qのある瞬間における位置をP(a,b,c) Q(d,e,f) とします。2個の点が3次元空間を動いているわけですが、計算の都合上、(どんな計算をする上でのどんな都合なのかはわかりませんけど…)「1個の点が6次元空間を動いている」と見なしたほうが便利なことがある…らしいのです。点R(a,b,c,d,e,f)が6次元空間のなかで動いている、と考えてみる。(点Rは、仮に「点」とみなしているだけで、じっさいの点ではありません)(6次元空間は、仮に「空間」と見なしているだけで、じっさいの空間ではありません)すなわち、点P(a,b,c) と 点Q(d,e,f) が3次元空間を動いていると考えるかわりに「点」R(a,b,c,d,e,f) が6次元「空間」のなかを動いていると考えるのです。「どうです?なんか、すごいと思いません?」「うーむ…」「なんとなく6次元の気配が伝わるかと…」「…まあいい。それで、どこにいるの?」
2010年04月03日
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「はい。電話なんでも相談室です」「なんだか苦しいんですけど」「あなた、いったいどこにいるの?」「それがですね、人が見あたらないのです」「受話器はあるんですけどね」「どこなの?」「それが、3次元じゃないみたいなんです」「どういうこと?」「たとえば6次元空間」「6次元、ってあなた、わけわかんないこと言わないでよ」
2010年04月01日
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「はい。電話なんでも相談室です」「なんだか苦しいんですけど」「原因は孤独でしょう」「そうなんですよ。人とかかわりたいのです」「とは言うものの、どうしていいのかわからない」「そうです、そうです。で、どうすればいいのでしょう?」「人のいるところへ出かけなさい」「それがですね、人が見あたらないのです」「いったいどこにいるの?」水に浮いている。上は空?はっきりしない。「浮き輪で水に浮いてるんですけど、人なんてどこにもいません。水しか見えません」「水だけ?」「電話はつながります」
2010年04月01日
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