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開湯800年を超える山陰の名湯、三朝温泉に憧れの日本旅館がある。昭和4年、世界的金融不安と長い不況の時代に日本建築の粋を極めた器を、と「旅館 大橋」は建てられた。以来、三徳川ほとりに建つそれは、ランドマークとして存在している。今や登録有形文化財の宿として名高く、しかも自然湧出の自家源泉ともなれば、これは、行かずばなるまい!!立ち寄り入浴じゃござんせんよ、1泊とはいえ、お泊まりざんす。開け放たれた引き戸の前で訪えば、三徳川を挟んだ山の緑がまぶしい。応対は丁寧ながら、慇懃に陥らず親密感にあふれている。部屋も館内も改装はなされているが、板張りの廊下、木の窓の桟、欄間と随所に、そのエッセンスは匂い立ち横に延びる構造と、ほの暗い廊下の曲がり目に、私は古き良き時代を夢想する。露天風呂とセットになった「ふくべの湯」、件の「自然湧出の自家源泉」の「岩窟の湯」と、この二つが、男女入替となる。河原から湧き出るお湯を、岩で囲い溜め、加温加水一切無しの湯。このお風呂に、入りに来たのだぁ!!岩を転がし、湧き出し口を囲っただけの野性的な湯船は3つ。中の湯、下の湯はラジウム泉、上の湯がトロン泉と泉質が異なる。トロン温泉の方が、肌をまったり包む感じだろうか。湯船の奥へと湧き出し口を足で探りに行けば、まるで、川遊びをしている気分。浴槽は大きくない上、眺望も臨めないが、昔風に天井は高々とし、見立ては、さながら三徳川河原であろうか。料理自慢の宿でもあるが、「八寸」は十種の異なる味が楽しめ、素材の味も良いけれど、その包丁の一工夫、その見事さ。味わい、こしらえ、盛りつけと、どの料理にも当たり前がない。今回、特別プランで予約したのだが、ツレは落ち着きをなくしてしまった(笑)料理だけで、1泊分の金額は潰える豪華さで、ワナじゃないかと言うのだ。本の一部です。他あんかけ茶碗蒸し、真丈のお清まし、海老のお刺身...たくさん...。天ぷらは、山菜、伊勢エビの梅肉巻。因伯牛の豆乳鍋。美味しかった.......。ソフト、ハード両面から申し分ない、珠の如き宿なのだが、たった一つ、ただ一つ、気になるのが、日帰り客の入浴時間。私だって、宿の立ち寄り入浴は、利用させて貰うのだから、夕食前までは、混んでいるのも止む無しと諦めた。だが、である。食後の時間帯でさえ、入れ替わり立ち替わりの忙しなさ。ようよう、湯船で手足を伸ばせた頃には、交替時間になっていた。しばし宿泊客の優越感に、浸っていたかった、というのはわがままだろうか。但し、客の引け時を狙って、何回も入浴したお陰であろう、あれだけ三徳山でしごいた体は、ついに筋肉痛をおこさなかった。温泉の効能たるや、恐るべし。さらに驚いたのが、翌朝のチッェクアウト時。風呂場でこそ多くの客とすれ違ったが、配膳時でさえ、声も物音も聞かなかった。所が、広い玄関の三和土に揃えられた客の靴たるや、びしりと列を成している。ほぼ満室にも関わらず、あの穏やかな静寂の佇まい、最も感嘆すべきは従業員諸氏の客さばきの見事さに、尽きるのかも知れない。勿論ワナは無く、お勘定は、予約通りの超お得プランでした。おいくらかは、ヒ・ミ・ツ(笑)。「三朝湯のゆたかなるかな こころさえ この新しく 湧くよ学ばん」与謝野鉄幹の歌碑より、拝借いたしました。
2007年06月29日

前回の須磨アルプスは、実は、この為にこそあった。鳥取県の山中にある、天台宗三徳山三佛寺で修行をしよう。いえ、修行はしませんが、国宝・奥の院「投入堂」にお参りしよう。本堂から投入堂までの道なき道は、元々は、役行者が開いた修験場。道なき道ったって、観光客が登るんでしょう?どっこい。行きたいのは山々だったが、冬期閉山(11月~3月、天候による)の上、雨風、霧の折には、突然、入山禁止になることも多いとか。行く時期はタイトに絞られるし、それってハードってことじゃない?準備体操の積もりでトレッキングくらいは、てんで、須磨アルプス。本堂背後の中腹に、小さく「文殊堂」が見える。目的「投入堂」は、遙か遠く、山陰に見えない。本堂お参り後、別途入山料(200円)を納め、入山時間、連絡先を記帳して、六根清浄のタスキを受け取る。修行ですからね、これは、身に着けてなくちゃいけない。靴底のチェックを一人一人受け、不適当なら500円のわら草履を購入する。意気揚々と朱塗りの橋を渡り、いざ出発!道なき道は、獣道。山の斜面を、垂直によじ登って行く。体力的にもシンドイが、真剣に道を見極めなければ、足も手も掛からない岩の斜面に、立ち往生してしまう。日曜日でもあり、登山下山、人の波はひっきりなしだが、当然、どちらかが足場の良い所で、待機しなくてはならない。その折にも、どこを足がかりにすればよいのか、他人の動きを注視する。尖った、あるいは滑る岩に立つ足元のすぐ脇は、木々に隠れているが、谷底だ。むき出しの根っこ、あるいは蔓を、ロープ代わりに足を引っかけ、また、かいくぐり、虎の爪を持つなら爪を立てたい、お猿の尾っぽが付いているなら、第5の手足にしたい。これは冗談抜きで、命がけじゃないんかい?!やっと、辿り着いた文殊堂で一休み・・・、こ、恐い………。三方が崖に突き出している上、手すりなんかもちろん、無い。しかも縁側は、わずかに外側に傾斜している。お堂に張り付きながら一周すると、恐怖で、かあっと汗腺が開く。風に吹き上げられ、そのまま遙かな谷底へ真っ逆さま、の恐怖だ。だあれ?奈落の底、なんてこと言うの。鐘楼堂等いくつかのお堂があるが、建材はどうやって運んだのだろう。自分の身一つでも危ういのに、この大きな鐘はどうやって運ぶんだ。疑問を増やしながら、ようよう国宝「投入堂」に辿り着く。役小角が、法力で投げ込んだと伝えられ、建築方法は未だ謎。立入禁止とはいえ、どうやってもよじ登ること不可能な崖の、わずかなくぼみに収まる、その小さな舞台造りのお堂は、緑陰が照り映え、自然に芽吹き、生え出でたかのようだ。思わず誰もがもらす感嘆の声を、木々は呑み込み、風の音をざわつかすのみ。自然だけがもたらしうる聖域の静けさが、ここにはある。で、タスキだが「記念にお持ち帰りィ」は、とんでも無い!!ちゃんとお返しし、帰着時間を記帳しなければ、捜索隊が出動するのだ。これで五感六感、性根も洗われ、私は清浄になった、はず。あとは汗と疲労を、湯に流すだけ、はい、三朝温泉へとまたもや続く。
2007年06月25日

鳥取ネタが尽きるとネタ無しになるので、ここは惜しんで( ̄・ ̄;)旅行に先立つ、ゴールデンウイーク頃!!の話です。なんだかんだと忙しかくて、体をあまり使ってないような気がする。関節に、どんよりと髄液が溜まったみたいだ。春だというのに、こんな事ではイケナイ、フィトンチッドを吸って、リンパの流れを良くしなくては!!春と秋、年二回ほど山歩きがしたくなります。といっても、お散歩コース。新緑も美しかろうと、神戸市の横尾山に登山?に出掛けました。六甲山系に連なる、山々の一つです。神戸の山は生活圏に間近く、住民さんは気軽に行き来されるようです。何せ、山中に貸し農園があるくらいに。野菜の手入れで、毎日、山に登るなんて、かなり嫌だ。けれど神戸に住めば、家に帰る、学校に行く、ご近所を訪ねる、この日常行為自体が、すでに登山ですね。この横尾山は、標高315mの割りには、崖をよじ登ったり、ゴロタ道を下ったり。「馬の背」と名付けられた地点では、なんと道幅60センチ程、両側は、切り立った崖です。しかも、海風が遮られることなく直接吹き上げて来るので、スリル満点!!さらに、花崗岩の砂礫で滑りやすい道は、標高以上にハードな登山を演出します。三角地点からの風景です。なかなか、深山幽谷の趣でしょう?海側に目をやれば、山の斜面に緑の濃いの薄いの、反対側に目をやれば、あらなんと、裾野一面、住宅街が広がっています。アップダウンを繰り返し、全く音がしない森のごとき場所を潜り抜ければ、後は下るだけ、と思いきや、これまた太陽のピラミッドの如き階段が、150m以上は延々と続いています。下りだからましやね、なんて笑ってられるのも最初だけ。どうして、これをすべり台にしない?!神戸市。直滑降長距離すべり台、名所になると思うんだけどな。さて、地盤、地形、想定外の階段と非常にサスペンスフルな横尾山ですが、実は、違う怖さもあります。「神の戸」の名に怖じず、神戸の山地には怪しい地名や、遺跡ともつかない怪しい物が、転がってたりします。何せ背骨をなす六甲山が、関西有数のミステリースポットですし・・・。で、ですねぇ、見通しの悪い森の道で、後ろから男の人が走って来るのですよ。天気予報も晴れだったのに、傘を1本持って、てか、こうもり傘しか持たず、しかも足元は、サンダル履き、てか、ツッカケで。この急峻な山道を、駆け足で、息も乱さず、薄笑いを浮かべて、何かに取り憑かれた様に彼は、総毛立つ私達を追い抜き、消え去りました。横尾山だけなら行程約2時間、こういうスリルも味わえる、近頃、須磨アルプスと呼ばれている所です。常に船が行き交い、「港町 神戸」の名に恥じません。写ってませんが、左側に1周年を迎えた神戸空港があります。一機たりとも、離着陸を見ませんでした。神戸人の友人に言わせると、大阪湾を関西国際空港まで埋立て、合併し「神戸国際空港」と称するのが、神戸市の野望だそうです。山が足りるかしら………。
2007年06月19日

ちょっと鳥取は、休憩。時候に、ネタ合わせしてみました。どこが……?6( ̄・ ̄;;)時を遡ること、5月の母の日です。日頃より両親には、孝養を尽くす健気な娘ですが、一年の罪障滅除、一段と、奉仕させていただきます。孝行娘は、母の日の13日には、とっとと旅行に行ってしまいましたが、一週間遅れで、追い付かれてしまいました。以前、母に、京都五条の「半兵衛麩」さんにて馳走しましたところ、大層、お気に召しましたので、街角で見つけて、気になっていたお店へと案内しました。生麩料理の「萬次郎」さん。塀越しに、新緑が滴るような緑陰を作る道筋に、あります。この辺りは、ねねの道、石塀小路、二年坂と女人の財布の紐もゆるゆるな、京都の中でも、ひときわ情緒タップリ、大好きな危険地帯。古い木造の瀟洒な元旅館を利用した店内は、広い土間を挟んで、右手にお座敷、左手にはテーブル席。全部で10卓程でしょうか。どちらからも京都らしいお庭を、眺めることが出来ます。テーブル席よりなんでも、かの「家庭画報」にも掲載されたとか。こちらの名物は、商標登録するまで開店できなかったという「麩麺」。小麦のグルテンを練って、作った麺だそうです…………???とにかく!お食事としては、それと生麩や湯葉のセット「麩麺点心」のみです。二段重ねのお重を開けると、どうです?目に優しく、美しいでしょう?モチロン、お味だって、口の中に滋味が染み渡るような美味しさでございました。よもぎ麩、あわ麩、黒ごま麩、それぞれ個性を活かして、炊いたんと田楽。壬生菜の和え物は、ごま油を効かせた意表をつく味でした。さて、肝心の麩麺、生麩のぶんにゃりとした食感をご想像したでしょう?違うんだな、滑らかだけどコシがあるんだなぁ、これが!!お味は宜しく、風情も満点。1800円です。一つ難点を上げれば、この日は肌寒かったせいもあって、暖かい物が一品、つけ出汁が温いか、赤出汁でもあれば、と思います。ただし、これからの季節には、打ってつけではありましょう。おっと、ご忠告申し上げれば、満腹しようなんて考えちゃ、いけません。京風こってりラーメンかマクドでも、お腹に入れて行かれると万全です。この日、京都文化博物館で「丸紅コレクション」の展示がありました。丸紅が、まだ呉服商の頃、研究の為に集めた古い着物が出色の見物です。淀の方が着ていたとされる小布から、再現した小袖。織りや染めはもちろん、糸を作ることから縫うことまで、当代の名人達が研究、吟味を重ねる様のビデオも大層、興味深く拝見しました。一方、絵画コレクションの方は、目玉こそあれ、輸入販売のビジネス絡みというそれらは、いかにも日本企業の在り様で、一貫性もなければ、情熱も感じられないと、私には思えます。私にとっての目玉とは、ボッティチェルリや小磯良平、梅原龍三郎等々ではなく、「日本の一流商社にも、自分の作品がある」と証言した天才贋作画家が、最も得意としたデフィの絵画があったことでしょうか。さて母の日は、この様に双方、嬉しいプランをたてるのはいとも簡単。問題は父の日、贅沢を言う人では、さらさらありません。外出ギライの趣味無し人間、好きな外食は居酒屋だけ…….。父の喜ぶことは、家族が喜ばない、どころか後に私が小言をくらうことも。何か、八方、喜ぶアイディアございませんか?お題は、父母恋し、子も愛しい、寂しがり屋の小林一茶から拝借いたしました。
2007年06月14日

夕食後、1000円の湯巡り手形を購入して、いざ探検。岩井温泉湯宿3軒、共同浴場の「湯かむり温泉」と、入ることが出来ます。しかも、期間は無期限。未使用分は、再訪時に利用出来るんです。リピーター作り、気が利いてますよね。しかも宿泊した「明石屋」の分は残りますから、当然、次回は別旅館に泊まって、それで完了となる仕組み(笑)花屋旅館のお風呂も、檜造りで、こぢんまりとしてシンプル。シャワーなしのカランも有りましたが、ここは、浴槽の底からふっふっと、熱いお湯が沸いています。もう一つの大浴場との仕切は引き戸で、全面開け放てる構造ですが、なぜ?庭園に面して露天もあるそちら側とは、男女入替制の様です。日時が悪かったのですね。公衆浴場「湯かむり温泉」は、地元の方も観光客も大勢訪れ、親しく活用されている温泉です。やはり温め、熱い目二つの浴槽があり、惜しげもなく溢れていました。ただ、夕食後の混む時間でしたので、シャンプー類の匂いにメゲてしまい、せっかく地元の方がお寛ぎの所、邪魔にならぬよう早々に退散いたしました。さて、岩井温泉となれば、必ず写真を使われる岩井屋、念願です。ここも、古民家風に山野草などあしらいながら、風情ある造りです。湯船はゆっくりしているけれど、カラン数は最も少なく3,4つ。奥の方が、ぐっと低くなっており、ちょっと小腰をかがめれば肩まで浸かれます。底から熱いお湯が、ふつふつと沸いているのを、足の裏に感じました。昔からある有名な「長寿の湯」とは、こちらも男女入替でまたも、運がありません。どちらの旅館も、湯口の傍らには、柄杓が置いてありました。おぉっ!これが「湯かむり」用かしら?!相客がいなかったので、やってみても良かったのですが、頭寒足熱、熱いお湯をかけて脳みそが、さらに茹で上がったらどうすんだ?!常識的に思いつくはずですが、飲泉用でした。奇習に思い馳せすぎ、飲まず終いでホント残念。所で、この「湯かむり」の効能効果って、何でしょう?!湯治客が浸かってるのに飽きて、暇つぶしで始めたんじゃないかと、私は、想像しているのですが・・・・。この岩井温泉3軒は、とても上手に「鄙び」を演出しているようです。それぞれに根強い固定客が付いているのも、良い材料でしょう。フロントに若い男性がおられたので、後継者もバッチリ確保?!実は岩井屋は、最初に行ったとき、団体が入っているから後で、と断られました。これは体よく、追っ払われたのかと勘ぐりましたが、再度行ったときには、ちゃんと顔を憶えてくれていて、謝ってくれました。こういう時、美人は得というものの、外国観光客が来たので、ゆっくり入浴を楽しめないのでは、という配慮からのようでした。名だたる温泉地でもないのに、一体、どちらのお国から、とは不思議でしたが、TDLやUSJ、東京、京都だけではない、大らかな風景と細やかな美しさを、日本人でも惚れ惚れするこの豊かさを、「ニッポンの底力」どんなもんでぇっ、自慢したっていいですよね?※ 補足情報(ってか、本文に情報、ないし)この手形は、岩井温泉宿泊者特典だそうです。ご安心あれ。立寄り湯でも750円(共同は300円)で、気持ちよく入浴できますので、大地の新鮮な恵みを、お肌で味わってみて下さい^-^んで、当然、まだまだ続きます!!
2007年06月08日

鳥取県岩美町にある岩井温泉は、以前より行きたい温泉地の一つでした。立ったまま入浴するほど深い湯船の底から、ぽこぽこ沸いてくる温泉。体にも効きそうだし、なんだか豊かそうでしょう?頭に温泉をかける(洗髪、ではない)とかいう、奇習「湯かむり」は、今更、誰もやっていないのは、いくら私でも承知しています。正しくお作法を習って、やってはみたいけど……。岩井温泉は、海辺から6,7km入ったくらい、海の町独特の平明さがあります。宿場町というより、古来、温泉で賑わった町だそうですが、温泉街らしきものもなく、良泉で聞こえた割りには、3軒の湯宿しかありません。いずれも小規模ながら、そのお湯と海の幸で根強い固定客を持っているようです。さて予約をとったのは、岩井温泉の代名詞「長寿の湯」の宿ではなく庭園露天風呂が自慢の「明石家」さん。昭和和風建築の古寂びた、趣のある建物です。大阪は難波の新歌舞伎座、ご存知ですか?アレです(超縮小版)。買い物類(初日で?!)も放り出して、そそくさと庭園露天風呂に走る私達。夜間に女性専用タイムはあるものの、混浴式です。どうせなら、庭園を眺められる時間に入りたいでしょう?あっついの、温めの岩風呂が二つ。温い方で手足を伸ばせば……、虫や葉っぱが、浮いてる、浮いてる。ま、それも野趣ってことで、気にしない。5時になったのでしょう。お寺の鐘が、のんびりと重たい音を響かせておりました。大浴場(といっても5人いれば、嫌な大きさ)は、新建材ながら土壁を模したり洗面ボウルが信楽焼きだったり、と古民家風。最近の流行りで、照明は薄暗いけど、柱や浴槽も檜造りで山小屋みたい。どうです、とぽとぽ、新鮮な温泉を注ぐ湯口の羊(なぜ羊?)は、茶色の陶器のはずなのに、びっしりと、白い湯の花の毛を生やしています。残念ながら、庭に大きく窓をとった浴室は男性専用、交替なしです。小さいながらも、泉水や多種の植え込みをもつ庭を、カラコロ歩けば「んきゃっ!失礼っ!!」てな事態は明白。ごめんなさい、あの日、貴男のヌードをデバガメったのは、私です。今回、初めて知ったのですが、岩井温泉は尾崎翠の生誕地です。昭和初期、体の芯がずれる様なシュールな世界を展開し、私の学生時代、文学少年少女を、魅せてやまない幻の作家でした。「花屋旅館」の旧館には、彼女の資料室があり、その規模と信奉の程はともあれ、木造の佇まいが彼女の世界を、彷彿とさせます。磨きこまれた廊下、手すり、階段、掃き清められたタイルモザイクの三和土。「ハロオ、センチナウタヨミ。羽織ヲヌイデ夏ノウタヲ支度シナサイ。」彼女が短歌との決別を暗示した、随筆「モクレン」からの一節です。起き抜けに入った朝風呂は、柔らかいお湯を独り占め。昨晩は気が付かなかった薄色の湯の花が、小さな窓から差し込む朝日にきらきらきらきらと、まるで雲母の様に、湯の中で燦めき舞っていました。 私のわがままにも、応えて誂えて下さったお夕食。海の味を活かした、力強い美味しいお膳です。お刺身の代わりに、海老の塩焼きや子持ち昆布?の和え物をご用意下さいました。業務用既製品など何一つなく直球がズドン、と入ってくる美味しさ。おご馳走様でした。地場産名物のラッキョウの天ぷらがついたのは、ご愛嬌。
2007年06月04日
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