桜の森の満開の下

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はんびゃーぐ @ Re[1]:ママ(11/18) ともさん >この物語はおもしろいです。 …
とも@ Re:ママ(11/18) この物語はおもしろいです。
はんびゃーぐ @ Re:はじめまして(06/29) saku5319さん > 可愛い、お話。私も転…
saku5319 @ はじめまして  可愛い、お話。私も転校した事あります…

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2006.07.23
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緊急時のおたすけツール。1台3役の携帯手動発電機!レスQ隊 シルバー

街全体が、停電した。厚い雲に月が覆われた夜で、街は一瞬で深い闇に包まれた。
 街はその機能を失い、途方に暮れたように静まり返った。街の人々はなすすべを失い、人質に取られたようにおとなしくなった。
 街の人々は、普段当たり前のように使っている電気のありがたさを思った。ある人はシャワーを浴びている最中に停電になり、慌てて浴室から出ようとして石鹸で滑って頭を痛打し、ロウソクの明かりを頼りに後頭部を氷で冷やしながら光の大切さを思ったし、ある人はデスクトップの前で、その日の深夜が締め切りの原稿と格闘している最中に停電になり、真っ黒になったディスプレイに絶望し、言い訳を許さない編集者の顔を思い浮かべて更に絶望し、開き直って封印していたウイスキーを懐中電灯で探して飲みながら電気の偉大さを思った。
 まるで早送りのように流れていく電車の外の風景を眺めながら、私はふと、思う。私は、あるいは我々は、日常の忙しさにかまけて、何か大切なものを見過ごしてはいないだろうか。あるいはそれに気づいているのに、まるでこの国の白痴化が目的のように氾濫する陳腐なバラエティー番組に笑ってごまかされるように、知らない振りをしているのではいか。
 結論の出ないまま、今夜もいつもの駅に電車が停まる。私はホームに降り、疲れ果てた人々に交じって改札に向かって歩く。家に帰っても、笑えるくらい膨大な仕事が待っている。極限まで体を酷使して、何のために働くのか。地位か? 金か? プライドか? 女か? 馬鹿馬鹿しくて、私はすれ違う見ず知らずの男を殴りたくなる。だが、見当違いの怒りは、すぐに深い溜息に取って代わる。次の瞬間、私の住む街の光が消える。突然放り込まれた闇の中で、私は永遠に何が失われたのかに気づかない。





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Last updated  2006.07.23 17:49:35
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