桜の森の満開の下

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とも@ Re:ママ(11/18) この物語はおもしろいです。
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saku5319 @ はじめまして  可愛い、お話。私も転校した事あります…

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2006.08.07
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【犬の置物・顔デカ】ラブラドール・レトリバー


 その犬との出会いは十年ほど前にさかのぼる。当時私はまだ子供で、ある日、川に入って遊んでいると、いつの間にか急流に流されていた。おぼれている私のTシャツの襟を、ふいに何か強い力が引っ張った。強い力は、そのまま私の体を川岸まで運んだ。
 ゲボゲボ水を吐き出しながら、私は強い力の正体を見た。それは見事な毛並みの一匹の犬だった。犬はしばらく黙って私の様子を見ていたが、やがて一言、大丈夫そうだな、そう言い置くと去ろうとした。私は子供心に、カッコ良過ぎだと思った。去っていく犬に向かって、必死に言葉を探した。
「ねぇ犬さん、またいつか犬さんに会えるかな?」
 犬は振り返らずに、おまえが大人になったらな、と言った。
「大人っていつ? 何年後? どうやったらなれるの?」
 犬はやはり振り返らず、こう言った。
「見返りを求めることなく、誰かのために自分を犠牲に出来たときだ」
 犬は大きく尻尾を振ると、それがサヨナラの合図かのように去っていった。
 あれから十年、私は今、大人になった。結局彼女は死んでしまったが、愛する彼女の看病に、私は大学生活のほとんどを費やしていた。 
 子供の頃おぼれた川のほとりで、私はひたすら犬を待った。
 だが、犬は現れない。もう大人になったはずなのにな、と私は思い、タバコに火をつける。
 初夏の光を受けた川面がキラキラと輝き、子供の頃に見た光景と全然変わっておらず、私は一瞬、ここだけ十年前から時間が止まっているのではないかと、バカなことを思った。





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Last updated  2006.08.08 00:53:50
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