うたのおけいこ 短歌の領分

うたのおけいこ 短歌の領分

July 27, 2006
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カテゴリ: アフィリエイト
これまでに Oops!Music Community に投稿したJ-POPレビューのうち、Salyuに関するものを、バックアップとして再録します。



癒された。

きわだって特別なアレンジがほどこされているわけではない。美しいメロディが、恬淡とした典雅な伴奏に乗って伸びやかに歌われる。

たゆたいながら、まどろみながら、ゆったりとした光芒と清々しい香りをほのかに発しつつ、たおやかに連綿と紡ぎ出されてくる優しさに、僕たちはじわじわと、ひたひたと、馥郁と、包み込まれるように魅了されてしまう。

なんと言おうか、例えが適切かどうか分からないが、あの烈しかったベートーヴェンの魂が、聴覚をほとんど失いながら晩年に到達した、静謐な弦楽四重奏曲群の境地のようだ。白鳥の歌とは、こういうことを言うのだろうか。

2006.7.16付けの読売新聞によると、あの有名な「浜辺の歌」は、作曲者の成田為三氏(1893-1945)が、ラブレターの中で同窓の女性に捧げた恋歌だったという。贈られた矢田部正子さん(1900-1989、旧姓・倉辻)は、「私には決まった人がいます。」と返信し、成田氏はあえなくフラれ、撃沈した。

矢田部正子さんは、この事実を夫で声楽家の矢田部剄吉氏に最後まで話さなかったが、夫の死後、養子で声楽家の鈴木義弘さん(70)に明かし、このほど鈴木さんがコンサートで公にしたという。

なるほどな、と思う。
小林武史の創り出す音楽にも、いわば常に、そこはかとなくこんな風なニュアンスがつきまとっていて、恋しい、ゆかしい、という感情が、聴くものの心にも湧き上がってくる。

小林武史とミスターチルドレン・桜井和寿のユニットBank Bandに、現代のセイレーン、エーデルワイス Salyu がフィーチャリングされたコラボレーションで、またひとつのささやかな神話が降誕した。

「to U」という表記には、もちろん意味があるだろう。「U」は、“you”であると同時に、おそらく“universe”であろう。“utopia”も少し入っているかも知れない。小林氏とほぼ同世代の僕には、ジョン・レノンの手になるビートルズの傑作「Across the Universe」が思い起こされる。これは当時彼らがヒンドゥーイズムとともに一歩足を踏み入れていたチベット仏教の世界を詩的に謳い上げたたもので、ビートルズ自体の白鳥の歌になった。多少なりとも神秘性とライトな宗教的境地を感じさせる小林氏の指向性とも合致する。

さらに今回の作品のエンディングの音を聴いて、あ、これは“YES”かな?とも思った。小林氏の、サウンドによる暗喩であろうか。インテリジェントなブリティッシュロックバンドだったYESは、プログレッシヴの名でロックを小難しくした張本人でもあるが、すでに'70年代前半の時点で、歴史的名盤「こわれもの Fragile」(アルバム名)や、「全体保持 Total mass retain」(アルバム「危機 Close to the edge」の中の曲名)など、人間と地球環境の濃密な相互連関と脆弱性、そしてそれを保持しぬく意志を示し、歌詞としても、サウンドの表現でも、ポピュラー音楽がエコロジカルな視座による主張を打ち出す嚆矢となった。
――こういうのを、マセガキなティーンエイジャーとして聴いて育った僕らは、筋金入りの環境保護指向者といえる。

当時のそうした言説と、現在いわれる“LOHAS”ムーブメントとの関係は、ウェゲナーの「大陸移動説」と現代の「プレート・テクトロニクス理論」の関係のようなものだ。理論的に精緻にはなったが、本質的に同じものである。

TBS系全国ネット(JNN)の看板番組「NEWS23」のテーマソングという、超一級だがやや色付きのタイアップを得て、小林武史と桜井和寿による歌詞、特に桜井のパートは、わずかに肩の力が入りすぎた生硬な表現が散見される憾みもある。

しかし、とりわけ Salyu が歌うファースト・パートは、小林氏十八番(おはこ)の優しく語りかけるような文体と、普遍的なLOHASな感覚と、「もののあはれ」をまといつつ、相変わらず分かったような分からないようなケムにまかれる感じが、イメージ喚起力に盈ち、いつもながら見事である。
たとえば、モネの睡蓮の絵みたいな、イメージのニルバーナ(涅槃郷)である。
7分を超える大作だが、詩的内的ドラマの展開に、一瞬たりとも退屈しない。

焦り、頑張り、悩み苦しみ、傷ついた人に、「もっと人を好きに、もっと今が好きになれるから、あわてなくても、頑張らなくてもいいよ」と呼びかける、穏やかなメッセージを運ぶ抒情的な名編。

遠くにいるあなたに/今言えるのはそれだけ。



Salyuの大ファンなので、ホメすぎてます(笑)。


2006年7月16日





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Last updated  July 30, 2006 02:16:04 PM
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くまんパパ @ 体に気を付けて、のんびり行きたいですね やすじ2004さん、いつもありがとうござい…
やすじ2004 @ Re:松任谷由実  ハロー、マイ・フレンド(08/16) お元気ですか 今日も湿度が高い一日でした…
くまんパパ @ 男と女の契り 七詩さん、いつもありがとうございます。 …
くまんパパ @ 新仮名づかいの悲劇ですかね、旧仮名に変更します(^^) 七詩さん、いつもありがとうございます(^^…
くまんパパ @ 短歌では、ありですね(^^) 七詩さん、そうですね、同感です。 私も…
七詩 @ Re:ニヒルなれども面白し(06/08) くまんパパさんへ あの「世の中にたえて…
くまんパパ @ ニヒルなれども面白し 七詩さん、いつもありがとうございます(^^…

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