うたのおけいこ短歌の領分

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2008.09.11

「短歌人」１１月号決定稿

(3)

カテゴリ：うたのおけいこ

くまんパパ　「短歌人」１１月号　決定稿

夕間暮群青色ラピスラズリの街並を閑しづけく統すべよ高光る月

弓なりの道を曲がつてゆくときはヴィジョンよそこに待つててくれる？

人の生よを重ね合せて見てしまふ夏のをはりの線香花火

限りある時間の中で存在はきらめきはじむ死を畏怖しつつ　＊１

わが歌になつてゐるからどれもみなこれでいいのだバカボンなのだ

「わたしたちスリム美人になりました」といふチラシで紙飛行機折る

「里の秋」中国語版艶やかにエロス漂ふ胡弓の響き　＊２

哭なきながら収容さるる土佐礼子泣きながら見し夏は畢をはんぬ

「マラソンはそんじよそこらの駆けつことわけが違ふのよ」感溢れて

三千キロカロリーを消費する猛練習に耐へての無念　＊３

生きてあればかくなることもあり得べし負けるな礼子好きだよ礼子

土佐礼子ますますファンになりにけり優しき女悔しき女

土佐礼子抱きしめたしと思ほえど夫つまとふ人に我譲るなり　＊４

アキレスのたをやかなりし筋きんたはみ発条ばねのごとくに弾けつつ夏

この人のために詠まむと思ひをる同時代人五、六人あり

【自註】
マルティン・ハイデガー「存在と時間」。西洋形而上哲学の到達地点であり、最高峰。むろん、きわめて難解晦渋だが、読書百遍、意おのずから通ずともいう。じっくり読み込んでみれば、論理の展開がすごくカッコ良くて、スタイリッシュで、面白い。頭がいいというのはこういうことかと感嘆、納得させられる。

そのハイデガーの主著から、僕なりに読み取った骨子の骨子を、一行の歌にしてみた。・・・土台、無茶な話だけどね～

メチャクチャ尊敬している「短歌人」総帥（読売新聞歌壇選者）の小池光先生が、最近ハイデガーにハマっておられるらしい。僕にとっても愛読書なので、ちょっとうれしい。

＊２　テレサ・テン・ヴァージョン。

＊３　一流マラソン選手は、基礎代謝量を含めると毎日３０００～３５００ｋｃａｌの熱量を消費するという。ゾッとするような数字である。ちなみに、１時間のジョギングや水泳の消費熱量は、せいぜい３００～４００ｋｃａｌ程度。

＊４　「思ほえ（ど）」：自発の意味の古語動詞「思ほゆ」（ヤ行下２段活用）の連用形。／「夫（つま）」：「偶（つま）、配偶」の意味。男女ともに用いられる。「稲妻」の「妻」も、語源はこれ。

・・・いつもど～もガンガン肩に力が入りすぎるというか、結果として表現が堅苦しくなるのを、我ながら常々苦々しく思っている。
・・・よく言えばベートーヴェンみたいな（？）

今回は、全身全霊で力こぶから力を抜くことに集中した。出来れば、好きなＪ・Ｓバッハみたいな（？）軽やかで清澄な感じが出せればいいなと思ったりしてね。

その結果、僕の作品としては、ある程度リラックスした感じを出せたのではないかと思っている。

・・・でも、まだ堅いかな？

【おまけの１首】
「あなたとは違ふんです」と言はしめし田舎新聞記者の功名

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