24階のミミック

24階のミミック

2002.07.07
XML
カテゴリ: カテゴリ未分類
 そんなことでなんとかなるとは思わない。それでも、痛みの薄いところを探して、包み込むように痛くないと思い込んで、まずは痛みの発信基地、こめかみに追いつめていく。頭痛は脈うつようにひどくなるから、一瞬痛みが薄くなったときの感覚を覚えていて、同じ状態を広げていく。

 さっきまで心配そうになんか言っていたダーリンも、私のただならぬ気配に声をかけるのをやめてくれた。いたわりの言葉はありがたいけれど、ここまで余裕がない痛みになると、精神集中するのに邪魔になるだけ、と気がついたのだろう。
 端から見たら、まったくあやしい光景だ。いきなり黙り込んで、座禅のポーズになってじっとしている妻。でも、その静寂はありがたく、おかげで痛みを追うことに集中できた。

 人間には、痛みを我慢する仕組みがあるという。それは来るべき陣痛のことを読んでいて知ったのだけど、あまりに痛みがひどくなると脳の中に、脳内モルヒネという一種の麻薬成分が出て、痛みを感じにくくする、というものだ。
 まー、私の頭痛は割とヒドイほうだとは思うが、それでも噂に聞く陣痛の痛みにくらべたら、「ヘ」でもない痛みだろう。
 それほどの痛みにならないと脳内モルヒネはでないのかもしれない。しかし、人間にはそういう機能が間違いなくあって、今妊娠している私は半年後には間違いなく、そいつの御世話になるはずだ。そんなら、ちょっと早く使ってみたって罰はあたらないはず。出てこい、脳内麻薬! 痛みを和らげてくれぃ!

 そうココロの中で叫んだ。必死の祈りっていうか、そうやって頑張っていると、不思議と痛みの感覚が浅く、長くなってくるような気がする。いや、気がするんじゃない、きっとそうなんだ! とここでさらに意思を強くする。これは効いてる、絶対効いてる!
 追いつめてみせるーーーー!!!


 ところが、この痛み発信基地だけはなかなかしぶとく、消えてくれない。しかし、痛みそのものはだいぶ和らいだし、我慢できない程度ではない。2時間も座っていて、だいぶ疲れてきたし夜も遅いのであとは眠りに任せて痛みを都合よく消し去ろう、と思った。

 しかーーーーーし。
 そうは問屋が卸さなかった。もともと、薬で抑えていたのではなく、気持ち一つで抑えていた痛みだ。眠ったら、精神力が弱まるじゃん(笑)。それから1時間後、再び激しい痛みで目が覚める。いったん追いつめた痛みは勢いを盛り返し、起きたときには左前頭葉全体が割れるように痛かった。

 そこで、もう一度(>_<)。もう一度、座禅を組んで、泣きそうな痛みをこらえながら必死で闘った。さっきやったように、痛くない痛くないを唱えながら痛みを分断し、追いつめる。
今度は、1時間くらいでこめかみまで追いつめられた。今度は、徹底的にやってやる。根っこまで消し去ってやる!! 時刻は朝の4時を回っていた。
 こめかみの痛みをやっつけ、左頸椎の緊張のみが残る。これがなかなかしぶとくて全然消えてくれない。もう、だめなんじゃないかと思いつつも、ここまでやって、これを残してはまた明日痛くなる! そう思って粘った。

 そして、朝5時。あたりはすっかり明るい。鳥の声がする。
 眠くなってきた……。
 え? 眠くなる???
 そう、眠くなる、ということは痛みが消えたということ。痛みを我慢するのはすごいストレスがかかる。よって、長く痛みを我慢すると、人は眠くなるのだ。

 あーーーー……。やった。ついについに、生まれて初めて、ひどい頭痛を頭痛薬なしで倒した。


 これをして、母が強いと考えるか、人間ってすごいって考えるか。まだ、私には母たる自覚はないと思う。むしろ、こんなことやっちゃう人間ってすごいと思う。
 改めて、人間の精神力に感服する。
 それをやった自分がエライか? これは、謙遜なしであまりエライと思わない。なぜなら、もう二度とやりたくない。妊娠してなかったら速効薬飲んだる。今でもそう思っているから。
 まあ、人間、追いつめられると信じられないことをやる、ということなんだろうな。
 自分的には、すごいことだと思っている。こんなことができるなら、陣痛の痛みもなんとか和らげることができるかも。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2002.07.10 13:18:12


【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! -- / --
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X

© Rakuten Group, Inc.
X

Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: