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2008.10.16
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カテゴリ: Essay
名優緒方拳がなくなって10日あまり。遺作となったTVドラマも好評だと聞く。亡くなるまでの経過を聞くと、この作品の完成と同時に力尽きてしまった感があるだけに、高視聴率という結果に結びついたのはよかった。

緒方拳は個人的に特に好きということはなかったが、素晴らしい役者さんだったことは確か。一番印象に残っているのは、『復讐するは我にあり』(今村昌平監督)の壮絶な演技。この映画も好きか嫌いかと言われれば、好きとは答えられないが、感銘を受けるにせよ、吐き気をもよおすにせよ、無関心ではいられない傑作であることに疑問の余地はない。

緒方拳の追悼番組が放映されているが、ただ1つ、彼の代表作であるにもかかわらず、日本で公開されていない映画がある。1985年制作の『 MISHIMA: A Life in Four Chapters 』(ポール・シュレイダー監督)がそれ。

緒方拳死去にともない、三島の遺族が意見を変え、日本公開が決まらないものかとチラと思ったが、当然そんな話にはならなかった。

コッポラ&ルーカスのプロデュース、カンヌ映画祭ではパルム・ドールにノミネートされ、最終的には芸術貢献賞を受賞している。

この作品で三島由紀夫を演じたのが緒方拳。他にも永島敏行、佐藤浩市、沢田研二、板東八十助などビッグネームがずらり。ところが、「例によって」三島の遺族の抗議によって日本公開が阻まれてしまった。

「例によって」というのは、三島の未亡人の平岡瑤子氏(彼女が亡くなったあとは子供たちがその意思を引き継いでいる)による数々の三島関連書籍の出版差し止め請求は有名だからだ。

映画『MISHIMA』に対する抗議とおそらくは同じ動機でなされたのが、三島作品の英訳を手がけたジョン・ネイスンの「三島由紀夫―ある評伝」の日本語版への抗議。ネイスンはこの中で三島は同性愛者であり、家庭生活では夫や父の役割を「演じているだけ」だったと書いた。すると瑤子夫人が出版社に猛抗議し、同書は回収された。再出版されたのは瑤子夫人の没後。



そのほかにも共通性があると思うのは、1998年に三島の遺児が三島の愛人だった福島次郎と文藝春秋社に対して起こした『三島由紀夫――剣と寒紅』出版差し止め請求。この作品は福島が三島との行為も含めて非常に赤裸々に2人の関係を綴ったもの。同時に平岡(三島)家の決して褒められたものではない内情もあからさまになってしまった。『剣と寒紅』に対して三島の遺児が起こした裁判は、表向き(?)は三島の書簡を福島が勝手に公開したことによる著作権侵害だが、実はそれよりも、三島の死後の彼の実母に対する遺族のぞんざいな扱いなど、表ざたにされたくない話が暴露されてしまったことが大きな動機ではないかと思う。『剣と寒紅』裁判は最終的には福島側が敗訴するのだが、すでに出版された書籍をあちこちの図書館が収蔵してしまったから、一般人でも読むことは可能。杉並区の図書館にもちゃんとある(えらいぞ!)。

そもそも三島由紀夫自身も生前は自作でプライバシー侵害で訴えられている。おまけにあのチョー人騒がせな死に方。そのくせ遺族の名誉意識、権利意識はほとんど選民思想に近い。三島由紀夫ほどの存在となれば、さまざまな研究がなされてしかるべきだし、そのためには、多少(いや相当)大きなお世話のお下劣な暴露話な話が含まれているとはいえ、福島次郎のような人の証言は貴重なのだ。

個人的には『剣と寒紅』は三島の子供っぽさや身勝手さや滑稽さや俗人ぶりを書くことで、福島次郎自身の志の低さと劣等感のあまりの強さが暴露されていると思うし、感想としては、



といったところ。簡単に言えば、三島が福島を書生にしたのは、自分のファンである田舎の文学青年のカラダが好みのガッシリ体形だったから。福島が三島と肉体関係をもったのは、三島のネームバリューで自分も大手出版社に紹介してもらいたいという打算があったから。三島は福島の文学に興味などなかったし、正真正銘の(?)ゲイである福島のほうは三島の貧弱なカラダにどうしても「燃え」なかった(それは三島がボディビルで肉体を改造したあとも同様で、要するにタイプじゃなかったのだ)。肉体的には生まれながらに「勝ってる」福島は、三島のカラダを徹頭徹尾バカにしている。もし、ほんの一瞬でも三島に対して本当の愛を感じたことがあったのなら、決して書かないだろうような表現を使って。

『剣と寒紅』についてはその程度の感想しかないのだが、それでも三島の遺族がこの本を世の中から消そうと画策したことには、憤りを感じる。そして、日本人が日本語で演じた映画『MISHIMA』を、日本人が観賞する機会を奪われたことにも同様の感情をもたざるをえない。『MISHIMA』が面白いとかつまらないとか言う前に、それを論じる機会さえなくなってしまったのだから。

実在の人物をモデルにした映画は、ほとんど家族には気に入らない。『サウンド・オブ・ミージック』でさえ、マリア未亡人は、映画に描かれた夫が実像と違いすぎると抗議した。だが、彼女は映画の権利をすでに売ってしまっていたので、どうにもできなかったのだ。現実とはかけ離れていたかもしれないが、映画としての『サウンド・オブ・ミージック』が大変な傑作で、時を超え、空間を超えて、今でも多くの人々に感動を勇気を与えているのは事実だし、それはマリア夫人の想像を超えた結果だった。作品というのはそういうものなのだ。残すべきか消すべきか、決めるのは本人でも、ましてやその家族でもない、世の人々なのだ。

自分たちのもっている権利を最大限振り回し、自分たちが気に入らない作品の流通を妨げる。それで三島の名誉を守っているつもりなのだろうか。逆だと思う。そんなことをすればするほど三島の価値は下がるばかり。本当に、最低の家族だ。














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最終更新日  2008.10.24 23:08:46


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